邂逅
冷気を孕んだ風がペチュニア・ダーズリーの頬を突き刺した。ハロウィンが終わると瞬く間に冬は駆けてくる。
もう少し厚いセーターを着ればよかったかしら。
少し身震いしながら、箒を握りしめると枯葉を掃いていく。
愛すべき息子のダドリーはまだ1歳。
眠っているうちに早く外の掃除をしませてしまわなければ。
あの子の泣き声と言ったら、きっとインド象だっておしりを丸めて逃げてしまうだろう。
コツコツ、と革靴の音が聞こえた。
顔を上げてみれば、喪服のような出で立ちの蝙蝠のような男がいた。
朝の平和なプリベット通りに現れた全身真っ黒の男は、どこか浮世離れした印象を抱かせた。
男はペチュニアの顔を見ると、ハッとして立ち止まった。
ペチュニアは近づいてきた彼の服装がなかなか質の良いものであること、革靴がピカピカに磨かれていることに気付いた。
それは彼女の判断基準の中で、少なくともまともな人間であるという合格ラインを超えた。
だからこそ、ペチュニア・ダーズリー夫人は奇妙な格好の男に不信感を抱きながらもそれを上手に隠して愛想笑いを浮かべた。
「バーノンの…うちの夫のお客様かしら。そうでしたら、夫は仕事に行ってしまいましたの。 日を改めてくださらない?」
男の瞳にみるみる涙が溜まったので、ペチュニアはぎょっとして後ずさった。
「ペチュニア…」
名を呼ばれ、ペチュニアの記憶は遥か昔に呼び戻された。
姉を魔法使いだと言った痩せっぽっちの少年。自分を傷つけた少年。2人を乗せて赤い汽車は遠くへ行ってしまった--。
「リリーが…リリーが死んでしまったんだ」
とうとう男は--セブルスは両手で顔を覆った。それに呼応するように、家の中からけたたましいダドリーの泣き声がした。
ダーズリー家はペチュニアの性格をそのまま表したかのように、埃一つなく本も家具も何もかもがきっちり整頓されていた。
おそらく裕福な男と結婚したのであろう。出されたお茶のティーカップひとつをとっても良い品質のものだった。
「どういうこと…なの」
ペチュニアは泣きわめく幼いダドリーをあやした。そして、眉間を抑えぐったりとソファーに身を沈めながら、それだけ言った。
「…ハロウィンの夜、本当にいきなりだった。 ヴォルデモートという闇の魔法使いに殺された」
「殺された…」
呆然とペチュニアはショッキングなその言葉を繰り返した。
「ヴォルデモートのことは知っているか?」
「あの子から…リリーから何度か聞いたことあるわ。 その…そっちの世界でトップクラスの犯罪者なのでしょう」
セブルスは重々しく頷いた。
「ジェームズがまず殺されたんだ…そしてリリーも。 幼いハリーを守って死んだ。 本当に不思議なことなんだが…死の呪文が--ああ、そういうものがあるのだが--それがハリーにだけは効かなかった。 ヴォルデモートは消滅した」
「消滅した? 死んだってこと?」
「分からない」
「それじゃあ…リリーの息子は…ハリーは生きているのね」
ハリーの名前が出ると、セブルスは佇まいを僅かに正した。
「実は今日そのことで話をしに来たんだ。 …ダンブルドアのことを知っているね?」
まだ受け止めきれぬ悲しみの中にいたペチュニアはその名前に、眉をひくりと動かした。彼女にとって最悪な記憶が掘り起こされる。
「あの学校の校長先生でしょう」
「すまない。 君を不快な気持ちにさせるつもりはなかった。 …ダンブルドアはハリーを君に預けようとした」
「私に?」
「ああ。 実はリリーは死ぬ直前にある魔法を残してね。 古い魔法なんだが…それがある限りハリーは成人するまで護られる。 そのためにリリーと血の繋がりがある君の元へ預けようとしていた」
「…勝手な話ね。 魔法使い様は私の気持ちなんてお構い無しってわけ?」
ペチュニアは怒りというより、どこか疲れたように言葉を吐き出した。
「…私は反対した。 リリーから君が結婚してハリーと同い年の子がいると聞いていた。 私も子どもがいるから分かるが…この年の子どもは手がかかるだろう? まるで押し付けるみたいに感じた」
「お礼を言ってほしいの?」
ペチュニアは皮肉っぽく口の片端を吊り上げた。しかし、セブルスはそれをするりと躱して言葉を続けた。
「ハリーには後見人がいる。 ジェームズの親友だったやつだ。 ハリーはそいつの養子になるだろう。 しかし、そうすると『護りの魔法』の効果が切れてしまう」
セブルスは頭を下げた。
「だから、お願いだ。 どうか貴方の甥っ子を護るために毎年血を送ってくれないだろうか」
血という言葉に、ペチュニアは怯えたように両手で肩をかき抱いた。
「怖がらないでほしい。 本当に試験管に半分程の量で大丈夫なんだ。 どうか、頼む」
再びセブルスは深く頭を下げた。
どれくらい沈黙が続いただろう。ペチュニアの息子は腕の中ですやすやと寝息を立て始めた。
「帰ってちょうだい」
突然ペチュニアは冷たい声でそう言った。
「ペチュニア…頼む…」
「帰ってよ!」
彼女の頬には涙が伝い落ちていた。
「突然妹が死んだと言われて、わけのわからない奴に殺されたと言われて…! それで次は血をくださいですって? 私たちを下に見て…馬鹿にするのもいい加減にしてよ!」
ペチュニアは甲高い声でそう怒鳴った。
赤ん坊が再び火がついたように泣き出す。
「…すまない。 三日後にもう一度来る。 リリーのお墓は魔法使いの村にあってね…君をそこに案内して遺品を渡したい。 どうかもう一度考えてほしい」
セブルスは家を出ると、すぐに姿くらましをした。
約束通り、それから三日後の昼間にペチュニアとセブルスは待ち合わせた。
付き添い姿くらましをすれば一瞬なのだが、魔法に対して強い忌避があるペチュニアにそれを強いることは出来ずマグルの列車での旅となった。
「コーヒー飲むか?」
「結構よ」
列車も空いている時間帯だ。
2人しかいないコンパートメントに向かいあって座りながら、ペチュニアはにべもなく断った。
「そんなこと言わずに。 あと一時間はかかるぞ」
セブルスが苦笑して渡すと、渋々彼女はそれを受け取った。
暫く黙ったまま列車の窓を眺めていた。
立ち並ぶ都会のビルが無くなり、田園風景に差し掛かった頃、とうとうセブルスは口を開いた。
「すまなかったな」
ペチュニアはこちらへ視線を向けた。
「いや、こないだのことじゃない。 ずっと前。 私は君を傷つけてしまった」
彼女はゆっくりとコーヒーに口をつけると、静かに嘆息を漏らした。
「…もういいわ。 そんな昔の話思い出させないでちょうだい。 あんな学校に入れてくれって手紙出したなんて…私の中にある最悪の記憶の一つよ」
「あの頃私は…嫌な子どもだった。 人の気持ちを考えることが出来ず、自分の興味だけで君のプライバシーを覗いてしまった」
ペチュニアは頭のてっぺんから爪先まで、まじまじとセブルスを見つめた。
ペチュニアの知る彼は--12歳くらいの記憶で止まっているけど--小汚くて育ちの悪いマトモじゃない子どもだった。
「あなた、確かに雰囲気変わったわね」
「ホグワーツに入ってからな。 親とはすぐ縁を切った。 何となく気付いてたと思うが…父親が酷く暴力を振るう男でね。 親と会わなくなって、すぐに母が死んだ。 …今でもそれだけは後悔してる」
ペチュニアは何も言わず聞いていた。
彼女と同じ緑ではないのに、その思慮深い瞳にリリーの面影を感じた。
「私は君たちの家が羨ましかった。 温かく理想の家庭だった」
「そんなことないわよ」
ペチュニアは吐き捨てるように言ったので、セブルスは少し虚をつかれた。
「両親はリリーに首ったけ。 可愛くて優しくて魔法使いになったあの子は自慢だったんでしょうね。 私の寂しさは私だけにしか分からないわ」
ペチュニアは目を細めてそう言った。
列車の窓を少し開けると、牧場の青くて冷たい空気が入り込んだ。
「今は…幸せか?」
セブルスが訊いた。
「そうね。 あなたは?」
「そうだな。 訳あって妻は不在だが、幸せなのだろうな」
「そう」
それが最後の会話だった。
ペチュニアはふいと再び窓に視線を向けた。
リリーと違うブロンドの髪が靡いた。やはり、彼女に似ていると思った。
ゴドリックの谷は、例のあの人が消えた祭りの余韻がまだ残っていた。奇抜な格好の人を見る度に、ペチュニアは冷たい目を向けた。
それでも村の外れにあるお墓だけは停滞した静けさに包まれていた。
「ここだ」
セブルスが歩みをとめた先にあったのは、真新しい白いお墓だった。墓碑には名前と共に『最後の敵なる死もまた亡ぼされん』と刻まれている。
リリー…あなた本当に死んだのね。
頭の中で反芻するとよりいっそう真実味が増した。
いつか元通りになれるなんて、どうして思ったのだろう。
また妹は遠くへ行ってしまった。今度はもう帰らない。
「君が持つべきだと思う」
セブルスは白いハンカチを差し出した。
百合の刺繍があるそれは、ペチュニアが昔プレゼントしたものだった。ずっと昔の事だ。
あんなに仲が険悪になっても、捨てないで持っていてくれたのだろうか。
涙が溢れて、冷たい墓石へと落ちていった。
「来たい時はまた言ってほしい。 いつでも案内する」
自分も悲しいはずなのに、セブルスは優しい声でそれだけ言った。
思わずキッと睨みつけた。
「昔に比べて随分まともになったと思ったら…やはり貴方変わってないわ。 あの子の…リリーの墓前に連れて行き遺品を渡して、恩を売れば…私がお願いを断れないとそう踏んでのことでしょう? 本当に性格が悪いわね」
セブルスは黙っている。
「もう二度とここには来ないわ。 あの子は死んだ。 もう私と魔法は何の関係もない」
「君はやはりリリーに似ているな。 頭が良くて、頑固で、どこか気高い」
「あの子と似ているなんて言われたの初めてよ。 実の親にすら言われたことないわ」
「いや似ている。 きっと君も、自分の守りたい者のためなら何だって懸けられるんだろう」
ペチュニアはもう一度リリーの墓を一瞥すると、すんと鼻を鳴らした。
そして、奪うように試験管と魔法の注射針を彼の手からもぎ取った。
「やっぱり私、あんたのこと大嫌いよ」
--あれから14年。
ペチュニアは毎年欠かさず、血の入った試験管を送ってくれた。
彼女はマグルの世界で幸せを見つけていたのだろうし、叶うことなら二度と会いたくなかった。
しかし、それは許されなかった。
ペチュニア・ダーズリー一家はヴォルデモートの復活により、引越しを余儀なくされた。彼女たちがハリーの血縁者であることは調べれば簡単に分かる。闇の勢力たちはハリーを捕える人質として、一家を狙うかもしれない。
そこで住まいを変え騎士団により護りを固めた上で、過ごしてもらうことになる。
グリモールド・プレイス12番地。ブラック家が誇る豪華絢爛な応接間に、ペチュニアは呼ばれることになった。
ハリーは自分の家だと言うのに、視線は落ち着きなく何度も扉と時計を行ったり来たりした。
リリーに妹がいたというのは--自分に血の繋がった叔母さんと従兄弟がいるのは知っていた。
あちらはマグルだから会えないのだとシリウスから教えられていたが、まさか叔母が毎年血を送ってくれたおかげで自分が今まで生きながらえていたとは知らなかった。
セブルスはペチュニアにハリーを会わせる予定はなかった。その緑の瞳はリリーの死から立ち直っている彼女に辛い記憶を与えてしまうから。
しかし、ハリーは夏休みに入ってからほぼ毎晩セドリックが死ぬ夢に魘された。そして、決まって最後は泣きながらリリーとジェームズを呼ぶのだ。
そんな息子が見ていられず、シリウスもこの夏で少し衰弱した。そんな彼から、リリーの妹にハリーを会わせてくれと頼まれてセブルスは断れなかった。ハリーにとって良い方向に向かうならと。
「ハリー、俺まで移るからそんなソワソワするなよ。 ほら、クッキーでも食べなさい」
シリウスは去年の一件からさらに過保護になり、やたらとハリーに食べ物を与えようとした。
ハリーが3枚目のクッキーに手を伸ばした時。
扉がノックされた。
セブルスと共に部屋に入ってきた女性は--残念ながらリリーに全く似てなかった。
ハリーは期待を裏切られて少し寂しくなった。それでも血が繋がった人と会うのは初めてなせいか不思議な感覚が体に広がるのを感じた。
「ペチュニア叔母さん…?」
目の前の女性はおよそ美人とは言い難い。首が長く痩せぎすな風貌はどこか馬を感じさせた。
灰色の瞳がハリーの瞳をじっと捉えた。
リリーを思い出しているんだろうと、ハリーは思った。
「…初めまして」
ペチュニアは記憶の中にいる
「会えて嬉しいな。 昨日パパに聞いたんだ。 僕のために毎年血を送ってくれてありがとう。 叔母さんのおかげで生きてこれたよ」
アーモンド型の緑色の瞳がキュッと細まる。ペチュニアは反射的に握手に応じたが、その手は不自然に震えた。
目の前の男の子は大切な妹を奪っていったあいつに瓜二つだけれど、この子にはリリーの血が流れていることをどうしようもなく気付かされた。
「これもさっき初めて聞いたんだけど…僕のせいで狙われるから引っ越さないとになったんでしょ? ごめんなさい」
毎年血を送るなんて本当は嫌で嫌でたまらなかった。忘れたいのにそれは嫌でもペチュニアに魔法界のことを思い返させたから。でも、自分の血のおかげでこの子はこの歳まで生きてこられたとお礼を言った。
目の前の男の子が自分の甥っ子だということを、ペチュニアは唐突に理解した。
私はリリーの息子を護ったのか…。
あの子の残した忘れ形見に、気付かないうちに感謝されるようなことをしていたのか。
「ダッダーちゃんも…息子と夫も護衛ありの条件で、学校も職場も今まで通り通えるの。 ただ引越すだけだから謝らなくていいわ」
嫌いなはずなのに、流れるように出たその言葉は自然で、棘のないものだった。
「セブルス、悪いけれどもう帰らせてもらうわ」
「え!? 来たばかりじゃないか! アンが今ご馳走を作っているんだ。 良かったらご飯も食べて行ってくれ! リリーとジェームスの積もる話でも…」
シリウスは慌てて立ち上がりそう止めたが、彼女は首を振った。
「夫と息子が家で待ってますから。 引越しの準備もありますし」
セブルスはすぐに頷くと、入ってきたばかりの扉を再び開けた。
「わかった。 今日も無理を言って来てもらったようなものだからな。悪いが、シリウス。 このまま彼女を駅まで送るよ」
「待って! 僕が送る!」
ハリーがそう言うと、セブルスとペチュニアは驚いた顔をした。
しかし、セブルスが彼女に了承を伺うかのように視線を向けると、ペチュニアは構わないと頷いた。
素っ気ない会釈をしてとっとと扉をくぐった彼女を、慌ててハリーは追いかけた。
「なんだよ。 リリーの妹っていうからどんな美人な女性かと思ったら、全然似てないし陰気だな。 …いやハリーに血送ってくれたことは感謝してるけどさ」
シリウスがこっそりセブルスにだけ聞こえるよう耳打ちした。
館の外に出ると、もう夕方だというのにジリジリと強烈な日差しが降り注いでいた。
2人は連れ立って歩いた。
ペチュニアは未だこの甥っ子との距離感が掴みきれないのか、チラチラと顔を伺い見てきた。
「従兄弟ってどんな人なの?」
ハリーは好奇心を抑えきれずそう訊いた。
「ダッダーちゃんは…可愛いくて優しくて皆からの人気者よ。 今はボクシングを習っているの」
『ダッダーちゃん』とやらが本当にその賞賛通りの息子なのかハリーはちょっと怪しいと思ったが、自分と同じくらい愛されて大切に育ったんだろうなと感じた。
「へえ…いつか会ってみたいな。 これもさっき聞いた話だけど、セブルスおじさんが止めなければ僕は叔母さんの家で育てられてたんだって。 そしたら、きっとダッダー?とも兄弟で…叔母さんがママだったのかな」
ママという言葉が慣れないのか、ハリーは耳を赤らめてくすぐったそうに口にした。
ペチュニアは胸のあたりがきゅっと締まるのを感じた。
目の前の甥っ子が自身に母性を求めてるのは痛いくらい分かったが、あの時この子を家族に迎えていたら愛せていたか自信がなかった。
「これ、貴方にあげる」
返答の代わりに、ペチュニアは百合の刺繍が入ったハンカチを押し付けるよう渡した。
「えっと…?」
「元は私がプレゼントしたんだけど、あの子が遺したものよ」
ハリーは慌ててそのハンカチを押し戻した。
「そんな大切なもの受け取れないよ!」
「もう大切じゃないわ。 あまり仲の良い姉妹じゃなかったの。 だから貴方が持っていなさい」
ハリーは嘘だと悟った。
大切じゃないならこんなに綺麗にアイロンがかけられているわけないから。
「帰っていいわよ、ここでタクシーを拾うわ」
駅まで続く大通りに出ると、ペチュニアはそう切り出した。
「え! どうして? 駅まで送るよ」
「いいの。 こっちの方が近いから。 …親が心配するわよ、早く帰りなさい」
タイミングよくタクシーがペチュニアの前へと停まった。
何となく自分があまり好かれていないことには気付いていた。それでも自分にとって、たった一人の叔母なのに。
浮かない顔で俯くハリーの額を、手が触れた。
ペチュニアは彼の額にかかった髪の毛を優しくかきあげた。見上げると、その顔はやはりハリーに対して複雑な感情を抱いていることが読み取れた。
「…元気でね」
しかし、掛けられた声は優しいものだった。
ペチュニアはそのまま一度も振り返らずタクシーへと乗り込んでいった。
タクシーが目で追えないくらい小さくなると、ハリーは自分が涙目になっていることに気付いた。慌てて拳で目を擦る。
最近すっかり涙もろくなってしまった。一人でいると、心の隅へ押しやっていた記憶が蘇ってしまう。
セドリックの死、ドラコとの決別、あの人の復活、ジニーからの拒絶…。
ハリー頭を振ると、道を引き返した。
早く家へ帰ろう。きっと今頃アンの料理が出来上がって…シリウスとセブルスも自分の帰りを待っているだろう。
すると、突然背筋にぞくりとしたものが走った。
思わず振り返りながら、ポケットの中の杖に触れた。
何だ今の悪寒は…?
先程まで茹だるような暑さだった気温が急激に冷えていく。みるみるうちに空は黒いものへと変わっていった。
ハリーは家を目指して走り出した。嫌な予感がした。
すぐに後ろから何かが追いかけていることに気付いた。それはまるでハリーを弄ぶように、一定の距離感でジワジワと追いかけてきた。
ハリーはとうとう振り返り、杖を抜くとそれと対峙した。
黒い闇の中から、気味の悪い幽霊のようなものが滑るように近付いてきた。
それを目にした瞬間、ハリーは全身の血の気が引いていくのが分かった。
それが何なのかは知っていた。去年、憂いの篩で目にしたことがある。
「吸魂鬼……!!」
恐ろしい掠れ声を上げながら、吸魂鬼はハリーへ襲いかかった。
不死鳥の騎士団編開幕です。
初めて賢者の石読んだ時は小学生だったなあ。ペチュニアのこと嫌なおばさんとしか思わなかったけど、この歳になって最終巻まで読んだ今はちょっと彼女の苦悩分かったり。
あ、シリウス局長のおかげで吸魂鬼がホグワーツに行ってないので何気にハリーは初めましてです。守護霊の呪文も当然使えません。つまり大ピンチです。