高垣楓の幼馴染   作:安怒龍

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三村かな子と話題

 

 二週間後、いつもの飲み。紅葉は一人でファミレスの四人席に座っていた。突然、楓から「今日はファミレスで良い?」と聞かれてしまい、仕方なく変更した次第である。

 とりあえずビールを3つ頼み、しばらく待機してると、楓が見覚えのあるアイドルを一人連れて来た。

 

「あら、また早いのね」

 

「………ど、どうも……」

 

「楓と……三村かな子さん?」

 

 連れて来たのは、三村かな子だった。色々と思う所のある紅葉だったが、二人を見比べた後に、とりあえず聞いてみた。

 

「楓、自虐ネタのつもりか?」

 

「貴方、本当に怒るわよ。ていうか、かな子ちゃんの前でセクハラ発言はやめなさい」

 

「………?」

 

 一人だけ理解してないかな子に誤魔化すように「よしよし」と楓は頭を撫でると、コホンと咳払いしてから説明した。

 

「かな子ちゃん、これが私の幼馴染の高山紅葉くん」

 

「おい、これって言うな」

 

「で、紅葉くん。彼女が三村かな子、先週私と温泉に行った子」

 

「……み、三村かな子、です……」

 

 かな子はペコリと頭を下げた。それを聞きながら、紅葉は楓を睨んで聞いた。

 

「つーか楓、この子未成年だろ。いや、俺もうビール三つ頼んじゃったんだけど」

 

「あら………かな子ちゃん、飲んじゃダメよ?」

 

「の、飲みませんよ!」

 

「冗談よ」

 

 楓とかな子は席に着いた。ビールは仕方ないので紅葉のお代わり用として置いて、店員にかな子のドリンクバーと三人の料理を注文した。

 飲み物と料理が運ばれて来て、かな子はコーラを取りに行って、ようやく乾杯の時がきた。楓がジョッキを持って音頭を取った。

 

「じゃ、今週もお疲れ様って事で」

 

「「乾杯!」」

 

「か、乾杯………!」

 

 かな子がタイミングを外したが、とにかく乾杯した。三人でグラスをぶつけると、一気に飲み始める。

 前回と同じように紅葉が一口で飲み干すと、かな子がビクッと震えた。

 

「ひ、一口………?」

 

「あー、気にしないでかな子。彼、そういう人なのよ」

 

(そういう人ってどういう人だよ……)

 

 紅葉はそう思いつつも、実際酒強いので黙っておいた。で、三人でそのまま黙々と料理を食べる。二人とも初対面ではないはずの楓が何も言わないから、会話が弾まないのだ。

 紅葉も紅葉で、静寂を気まずいと思わないタイプなので、一人で黙々と食べていた。つまり、気まずいと感じてるのは呼ばれたかな子一人。それを察した楓は、紅葉を見た。

 

(ちょっと)

 

 それに気付いた紅葉はアイコンタクトで返した。

 

(何?)

 

(あんた話し掛けなさいよ。何のために連れて来たと思ってるの?)

 

(ああ、俺の会話の練習のためだっけ?)

 

(そうよ。あなたから話しかけなきゃダメでしょう?)

 

(おk。思い切って切り出してみるわ)

 

 と、いうやり取りをアイコンタクトで済ませると、紅葉は話題を考えた後に、かな子に聞いた。

 

「あー……三村さん」

 

「はっ、はいっ」

 

「スリーサイズはングッ」

 

「?」

 

 直後、紅葉の口に楓の手が伸びて、口を塞がれた。

 

(………あんたね、いきなりスリーサイズなんて聞いてんじゃないわよ)

 

(や、下ネタはどんな時でも会話の盛り上がりに繋がる最強兵器だろ)

 

(それは同性の時だけよ。かな子ちゃんにもう少しこう……関係のあるような質問をしてあげなさい)

 

(三村さんだけにスリーサイズなんだよ)

 

(あんた今の最低よ。ていうか、3しか合ってないじゃない。他にも話題とかあるでしょう?例えば、どこの高校?とか)

 

(………分かったよ)

 

 そのやり取りを終えた後、紅葉はかな子に聞いた。

 

「三村さんは、どこの高校なの?」

 

「えっ?えーっと……○○高校です」

 

(提案した質問そのまんまなのね……)

 

 楓は半ば呆れたが、まぁ話のかけ方だけでもわかってくれたと思い、とりあえず目を瞑った。

 

「ふーん……そうなんだ。それどこにあんの?」

 

「一応、東京ですけど……」

 

「ふーん………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「スリーサイんぐっ」

 

 また楓に口を塞がれた。下ネタに逃げるな、的な内容で睨まれ、仕方なく話題を変えた。

 

「ゲームとか好き?」

 

「……ゲーム、ですか?」

 

「ゲーム」

 

(ゲーム、ねぇ……。まぁ、スリーサイズよりマシかしら)

 

 そう思って、とりあえずツッコミは入れないでおいた。

 

「ゲーム……あまりやらないので何とも………」

 

「興味あるゲームとかは?」

 

「興味……興味……いえ、特には」

 

「好みのジャンル」

 

「いえ、ですからそもそもゲームは……」

 

「楓、チェンジ」

 

「あんた失礼にも程があるわよ」

 

「だってさ、この子何も知らねーんだもん」

 

「分かってて連れて来てるのよ。会社の人がゲーマーだなんて限らないでしょう?」

 

「………いや、しかしなぁ」

 

「つべこべ言わずに何か聞きなさい」

 

 もはやアイコンタクトですらなくなっていたが、かな子は事情は深く描かないことにした。どうせはぐらかされるし。

 紅葉は酒を飲みながらそっぽを向いて考えた。

 

(………あれ、俺ゲーム取ったら何が残るんだ?)

 

(『あれ?俺ゲーム取ったら何が残るんだ?』って顔してるわね……)

 

 真面目に悩み始めたので、楓は仕方ないわね……と思い、2人に言った。

 

「かな子ちゃん、紅葉くんはね……」

 

「すみませーん、ハイボールお願いしまーす」

 

「……………」

 

 遮られた。いつの間にか、紅葉の手元のビールは空になっていた。

 

「………楓、なんか言った?」

 

「何でもないわよ」

 

「………何怒ってんの?」

 

「怒ってないわよ」

 

「えっ、いや怒っ」

 

「怒ってない」

 

 不機嫌そうにビールを飲み、熱燗を注文する楓を見ながら「まぁ良いか」と紅葉は呟いて話題を探した。すると、かな子の方から口を開いた。

 

「ふふっ、なんか高山さんって楓さんが仰っていた通りの人なんですね」

 

「そう?なんて言ってたの?」

 

「ゲームと仕事以外何も出来ない男って仰っていましたよ」

 

「ちょっ、かな子ちゃ」

 

「ハイボール、お待たせしましたー」

 

「あ、どーも」

 

 机の上にハイボールのグラスが置かれ、紅葉はそれをとって一気に半分ほど飲み干した。その様子を見ながら楓は、目を逸らしながらつまみ用に頼んだ唐揚げを口に運んだ。その後に続いて紅葉も唐揚げを口に運んだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 楓は逃げるように軟骨揚げを食べた。その後に、紅葉は軟骨揚げを食べた。

 

「……………」

 

「……………」

 

 楓は今度はポテトを摘もうとした。その前に、摘もうとしたポテトを紅葉は箸で摘み、口に入れた。楓は別のネギチヂミを狙ったが、それも阻まれてしまう。自分の取ろうとしたポテトをことごとく防いで食い荒らされ、楓は紅葉を睨んだ。

 

「もうっ!悪かったわよ!」

 

「お前、今日ぷそのレベリング手伝わせるから」

 

「ええ⁉︎紅葉くんのレベリング長いから嫌よ!」

 

「ちなみに全職レベルマだから」

 

「じゃあ何のレベリングなのよ⁉︎」

 

「俺のプレイヤースキルのレベル」

 

「終わりが見えないわよそれ!」

 

 なんてやってると、楓の隣からクスクスと笑い声が聞こえた。横を見ると、かな子が微笑んでいた。

 

「お二人は仲良いんですね」

 

「それはそうかもだけど、今のやりとりを見て良くそれ言えたわね」

 

「私、羨ましいです。そういうお友達、いませんから」

 

「そうなん?」

 

 紅葉に聞き返され、「はい」とかな子は頷いた。

 

「私、そういう……なんていうか、ガンガン本音で言い合えて、尚且つ罵り合いも楽しそうに見える友達はいないんです。だから、お二人が羨ましいです」

 

「そんな大した関係じゃないわよ?お友達同士だし、どちらかに恋人が出来たら会う頻度も減るだろうし、ね?」

 

「…………そーだな」

 

 紅葉はハイボールを飲み干し、自分の料理を食べながらお代わりを注文した。その紅葉の顔色を見て「あれっ?」と楓は何か不具合を感じたが、かな子が口を挟んだために思考は途切れた。

 

「いえいえ、そんな事ないですよ。楓さんに聞きましたけど、小学生からの付き合いが今でも続いてるのはすごいと思いますよ」

 

「や、小学生の時はあんま絡みはなかったんだけどな」

 

「でもなんかアレですね。そこまで偶然が続くと運命みたいですよね」

 

 その言葉に、熱燗を飲もうとした楓の手がピタリと止まった。

 

「う、運命………?」

 

「はい。中学校から徐々にですけど、偶然同じクラス、同じ部活、同じ高校に上がってますよね?なーんか、こう……運命的なもの感じませんか?」

 

「なっ、何言ってるのよかな子ちゃん。ありえないわよ。紅葉もそう思うわよね?」

 

「いや、俺も前々から見えない何かが働いてるとは思ってたよ」

 

「………同じ事言ってるはずなのにニュアンスが随分違う気がするのが不思議ね……」

 

「まぁ、俺はそういうの信じない事にしてるけどね。そんなのがあるなら………俺が水ゾに九万も掛けるハメになったはずがない……!」

 

「ミスド………?」

 

「かな子ちゃん。水着ゾーイよ、ミ○タードーナツじゃないわ」

 

 冷静にツッコんでから、楓は紅葉に聞いた。

 

「ていうか貴方、結局去年九万もかけたの?」

 

「仕方ないだろ。水ゾがいないと何も始まらない世界になったんだから」

 

「そんな世界に私は住みたくないわね……」

 

 呆れるようにそう呟く楓の肩を、かな子は突いた。

 

「……なんの話ですか?」

 

「いいのよ、かな子ちゃんは気にしなくて」

 

「そうですか?………でも、アレですね。二人だけで通じる言葉があるのって、ますます運命に結ばれてるみたいで」

 

「ゲームの話よ、気にしないで?」

 

 楓は誤魔化すようにかな子の頭を撫でた。実は耳だけ真っ赤にしてるのは秘密だ。紅葉はそんなやり取りを聞きながら、店員を呼んだ。

 

「すみませーん、ハイボール一つ」

 

 天井を眺めて、しばらくぼんやりしてる間に、前の二人は女子トークに花を咲かせていた。

 

(この一人だけ余ってる感じを気まずいと思わないから、今危機感を感じてないんだろうなぁ……)

 

 そんな事を思いながら、自分の料理を食べ終えて口を拭いた。

 二人が会話してるので、紅葉はメガネを拭きながらボンヤリと天井を見た。すると、それに気付いた楓が声をかけた。

 

「……あ、ごめんなさい。いつの間にか私とかな子ちゃんばかりで話してたわね」

 

「気にしなくて良いよ」

 

「それはこっちの台詞。退屈してた癖に」

 

「は?」

 

「紅葉が天井見てるときは、大体退屈してる時か考え事してる時なのよ」

 

(こいつ、俺に詳し過ぎでしょ)

 

 若干、紅葉が引いてると、かな子がクスッと微笑んだ。

 

「楓さん、そういうのって普通付き合ってないと分かりませんよ?」

 

「そんな事ないわよ。普通に幼馴染でもこういうの分かるものよ?」

 

「そうだな。楓は照れるのを誤魔化す時『そんな事ないわよ』から入ってから言い訳を並べるしな。その時の耳の赤さと笑顔の度合いでどれくらい照れてるかが分かる」

 

「なっ………⁉︎」

 

「はい、この顔。照れが恥ずかしさに変わり、笑顔を浮かべる余裕すらなくなった時。照れ、の段階では照れてる時ほど笑顔が可愛くなる」

 

「かわっ……⁉︎」

 

「か、楓さんより5倍くらい詳しい………」

 

 紅葉の台詞を聞いて若干引いたものの、かな子にはかなり楽しそうに見えたので、思わずニヤついてしまった。

 で、チラリと紅葉に怒鳴る楓を見た。

 

(………やっぱり、この二人はくっ付くべきだよね……。ていうか、色々と相性良過ぎるもん。でも、楓さん素直になれてないみたいだし……やっぱり、私がお手伝いした方が良いかも……!)

 

 かな子は余計なお世話にもほどがある決心をした。

 

 


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