ビビリはホラー探索に向いてない   作:屍原

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デフォルト名の『八敷一男』が何気に気に入ってます。
そして八敷一男はビビリ主人公になる、ビビッて探索をするのだ!

※この話の序盤からネタバレ満載なので、自分でゲーム内容を知りたいという方には閲覧を推薦できません※
ですが「構わない、続けろ」とお考えのお方であれば、構わず閲覧して下さってくださいませ。
(この行動を取った場合は「ネタバレされたショック!!!」と仰られても自己責任とみなします。)



死印まじで怖かったです。

追伸:『ポケットナイフ』を『ペーパーナイフ』に修正しました。
まさかのナイフ違い、恥ずかしい…_(:3 」∠)_


いざ参らん!ビビリなりに序の口を突破する!

  どういう訳かは知らない、起因も分からない。真っ先に分かったが、それでも理解できない、頭が理解するのを拒絶してる。

 

  この異様な目線、慣れない自身の体の仕組み、妙にさっぱりとした髪や、普段自分が選ぶはずのないデザインをしたメガネ、そして己の顎にある薄い髭。頭の中が拒絶していようと、この身に起きた真実は変わりはしない、無情にも私へ残酷な事実を押し付けてくるのだ。

 

  慣れない体、見覚えのある容姿に、記憶に刻まれる土地の姿。そう、頭では分かってるんだ。しかしおかしなことに、この記憶に残る場所を、私自身は一度も訪れたことがないのだ。あまりにも変哲なのは、百も承知してる。だが、それでも、認めたくない。

 

 

 

  自分が『八敷一男』になってしまったことと、記憶を失いながらも、恐ろしい怪異と戦う未来のことを、認めたくなどなかった。

 

 

 

  九条館へ訪れる道中、私は『記憶通り』、のちに印人となるであろうホームレスのじいさんに飯を奢り、万が一自分が記憶を失ってしまったら、伝えた通りの時間でとある神社へ案内して欲しいと頼んだ。案の定これはデザート分の仕事だが、まあ飯を奢るくらい造作もない、本当の身分を考えればそれもそうかと考える。

 

  しかしもっとも重要視すべきところは、もはやそこではない。むしろ、シルシをつけられた『八敷一男』…いや、今は『俺』というべきか?そう、俺の身にシルシが刻まれたにも関わらず、以前の記憶を持っているという異例こそ、一番重大な問題だ。だがこれは『⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎(あの男)』としての記憶ではなく、八敷一男になる前の、前世ともいうべき記憶のことだ。私が今まで『記憶通り』と思っているのも、すべては前世でこの世界に関しての知識、出来事を一通り経験したことがあるからだ。

 

  言い方を変えれば、そうだな…『死印』という名のホラー探索ゲームをクリアし、すべての資料を読破した、となる。言われるまでもなく、この世界のことを示している。そんなイレギュラーの者が、主役に等しい『この男(八敷一男)』に成り代わり、物語にどのような影響を与えてしまうのか。未だ九条館の門前で佇んでいる俺には、さっぱりだった。

 

「…行くか」

  自分に言い聞かせるように、ボソッと呟きながら、扉の取り手に触れた。ひんやりとした金属感を手に、躊躇いを表すかのように、ゆっくりと内側に押す。当然というべきか、開かれた隙間から覗くホールは、真っ暗だ。やけに冷たい気配を漂う中へ入り、手際よく扉を閉じてやれば、あたりはすぐに暗闇に戻り、月光だけが頼りとなる明かりになった。

 

  想像以上に暗い、どうしようめちゃくちゃこわッ!てかなんでよりによって死印なんだよ!しかもなんで主人公?こっちはホラー苦手でまっ暗い場所も苦手なビビリマンなんだぞ!クッソ怖いんだよ!ああもう、暗い!

 

  心の中の本音の叫びとは裏腹に、自分の目はじっと、入り口近くのソファに腰を下ろしてる人形を見つめてる。月明かりに照らされ、生気を感じられない姿は、非常に不気味な雰囲気を醸し出していた。19世紀にて作られたであろうこの西洋人形は、なぜここに鎮座してるのか?そんな馬鹿げた質問の答えなど、もうとっくに知ってる。だけど彼女は気づいていないだろう、シルシをつけられた男に、別の者が成り代わってしまったなど。

 

  その一方で、彼女は感じ取ってるはずだ、自分の心の奥にある恐怖を。だが仕方ない、マジで怖いからな。真っ暗なでっかい館の中に、人かもわからない物体がソファに座ってるんだ、怖がらないはずないだろう。

 

  そして異形死すべし待ったなし、今すぐ成仏しろクソが!!!怖い!!!

 

「人形、か…」

  ソファまで近寄り、わざわざしゃがんで下から目蓋を閉じた『彼女』を見つめる。不気味ではあるが、マニアだったらコレクションの一つに収めたいと思うほど、美しく見える。たとえそれが、怨念や呪いによって生み出された人形だとしても、きっとあいつらは喜んで殺されるだろう。

 

  そっとソファに置かれた彼女の右手を持ち、黒い手袋をはめたその手に、己の唇を近づけた。冷たい感触を感じ、チュッとわざとらしい音を立てて口付けを落としたあと、すぐさまホールをあとにした。

 

「…はは、我ながら恥ずかしい真似をしたな」

  自分に似合わない口調で独り言を零し、目的地である九条サヤの部屋までたどり着いた。予想通り、甘ったるくも、強烈な鉄の匂いが、容赦なく鼻を襲った。

 

  部屋の中央であろう場所に視線をよこすと、雷はタイミングよく鳴り響いた。閃光と共に轟音が響き、九条サヤであろう女性は、腹から出した花々に侵食され、無残な姿となった彼女の死体が露わになった。知っていたとはいえ、あまりにも衝撃な場面に、悲鳴を上げそうになった口を咄嗟に手で覆い、一歩後ずさった。

 

「…ッ!」

  こっわ!!!!はぁ!?うわっ、これマジグロッ!甘いのか臭いのかどっちかにしろよ!てかなんでわざわざこんな風にしたの死体!?きっもいわ!口が悪くなるのもあんたらのせいだからなマジ怖い!!!

 

  よろめいた足になんとか力を入れ、踏み止まったところ、暗かった辺りに明かりが戻り、床に倒れていた九条サヤもいつの間にか消え失せていた。だが、部屋の中に残った匂いと、鮮明な血痕が、さっきまでの光景は夢でも幻でもない、現実だったことを教えている。

 

「どうなってるんだ、ここは…!」

  驚きが混ざってるが、それでも冷静に聞こえる声が自分の口から出た。本当は怖くてならない、今すぐその場から逃げ出したいと思ってると知ってるのは、恐らく自分自身だけだろう。しかし俺はそこでは呆然と立ってるだけで精一杯で、逃げる気力などどこにも残っていない。ぼーっと、残された血痕を見つめる。いずれ俺も、ああなるのか?そう思うと、今まで感じなかった震えが、体に現れる。

 

  嫌な考えを振り払い、頭を横に振り、いつの間にか倒れていた自分を無理やり立たせる。一体いつ座り込んでいたんだ?

 

  きっと今の自分は血色が悪く、蒼白な顔になっているだろう。当たり前だ、死体を見慣れるなどありえない、ましてや医学でも科学方面での専門でない自分は、不慣れすぎる。

 

  ああ、シルシがなかったらすぐにでも逃げ出していたのに、なんでよりによって主人公なんだ。

 

「…ペーパーナイフ?持って行こう、役に立つかもしれない……」

  部屋を出るついでに重要アイテムであろう、九条サヤが持っていたであろうペーパーナイフを手に入れ、ふらふらとおぼつかない足取りでホールへと戻っていく。

 

  さて、そろそろ彼女とご対面と行きますか……正直しんどい、SAN値ヤバイ。早く終わってくれないかな、序の口も辿り着いてないけど早く終わって!!!

 

 

 

 

- おまけ

 

  館の扉は開かれ、見覚えのある人物が潜り抜けて、ホールへと入ってきた。間違いない、あのお方は、私を解放して下さった方、⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎。やっとお帰りになって下さった、嗚呼、この時を待ち望んでいた。貴方様の⚫︎⚫︎な蜜を味わい、今の今までここで待っていた。貴方様の記憶は⚫︎⚫︎、再びここへ舞い戻ってくるのを、ずっと待っていた。

 

  不安げに辺りを見回す⚫︎⚫︎様を観察し、頼りない足取りで数歩だけ歩く彼に姿は、とても面白く見えた。夜目が利くのか、⚫︎⚫︎様はこちらに視線を寄越し、ボソッとなにか呟いた。にんぎょう…?おや、本当に⚫︎⚫︎を無くしておられるのですね。それはなによりでございます、⚫︎⚫︎様。こうでもなければ、貴方様の⚫︎⚫︎を味わえない。

 

  気づけば、⚫︎⚫︎様はすでに私の目前まで辿り着き、なぜか片膝をついて私の右手を手に取った。一体何をしようとしてるのか伺ってると、⚫︎⚫︎様は私の手を彼自身の唇に持って行き、チュッという音がホールに満ちた。

 

「……あ」

  ハッとした⚫︎⚫︎様は慌てて立ち上がり、早足で階段を登っていき、九条サヤの部屋に向かった。

 

  予想外れした⚫︎⚫︎様の行動に、さすがの私も固まってしまった。なぜ、⚫︎⚫︎様は私にキスを?それよりも、あの方が私の手に触れた瞬間に、流れ込んできた温かいモノは、一体、なんだったのか。

 

  愛しい⚫︎⚫︎様の帰還と、温かいモノ……一体、どちらが喜ぶべきことなのでしょうか?いいえ、今はそんなことを考えてる場合じゃない。まずは、⚫︎⚫︎様の⚫︎⚫︎を考えなければ。

 

  ふふふ……おかえりなさいませ、⚫︎⚫︎様。

 




所々『⚫︎⚫︎』をつけてますが、展開を知ってる方にとってはバレバレですかね…
真下の登場楽しみwktk

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