魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第96話  海の支配者

レジスタリアの会議室はそうそうたる顔ぶれが揃っていた。

 

オレたち豊穣の森のメンバーやレジスタリアの奴らはもちろん、プリニシアの宰相、ロランの代表、ヤポーネからは月明が来てくれた。

そしてグランニア帝国の皇太子こと、アルノー将軍も交えて一堂に会していた。

もちろん有事の事態ということで、オレたちはここへ終結した。

『グランニア軍、8000の大軍にて進撃中』の報せが先日もたらされた。

 

 

戦況が芳しくないのか、明るい表情をしているものはおらず、ほぼ全員が渋面だった。

敵軍8000に対して、こちらはせいぜい1800程度。

前回と同様に厳しい戦いになる事が予想される。

プリニシアの宰相はしきりに額を掻き、アーデンも組んだ腕の上でせわしなく指先を動かしている。

クライスはというと……お前はその『お菓子の大聖堂』を片してこい、気が散るだろうが。

 

 

 

グランニア軍は前回のように速攻をかける動きではなく、粛々と街道沿いを進軍をしていた。

相手は魔法兵も十二分に連れているので、いつぞやのように幻術で撃退することは難しいとの事。

それにしても連中は『アルノーの弔い合戦』をうたっているが、どういう事なんだろう。

捕虜として預かっている事は正式に伝えていたのだが。

それらを聞いたアルノー本人は、少し寂しそうにするだけで何も言わなかった。

 

 

「魔王殿、今回は海軍も動いているはずだ。魔攻船が出撃したとの報告がある」

「なんだ、その魔攻船ってのは」

「魔力を大きな筒に込めて発射することの出来る大型船だ。こちらにまともな船が無い以上、海は制圧されてしまうだろう」

「海を取られるとなんかマズイのか?」

「今回の場合だと、レジスタリアが艦砲射撃を食らうだろう」

「カンポー射撃?」

 

 

おい、オレは元平民の素人なんだよ。

将軍でも武官でもないの。

あんま小難しい単語で話すなっての。

 

 

「魔王の旦那、艦砲射撃ってのは船からの攻撃でさぁ。レジスタリアの街が一方的に魔法で攻撃されるって話ですぜ」

「それは……。アシュリー、その攻撃を凌げるか?」

「前回みたいにロランならまだしも、レジスタリアだと森から離れちゃうんで……」

「さすがに無理、か」

 

 

レジスタリアはそもそも、豊穣の森を攻略するための拠点だった。

だから海への備えはしなかったらしい。

その課題を放置した結果がこの事態だ、我ながら大失態だな。

 

街に砲撃などさせるわけにはいかない。

せっかく復興が成功しかけているのに、再度の破壊など決して許される事ではない。

もしそうなれば、住民たちは生きる希望を捨ててしまうかもしれなかった。

 

 

「じゃあ海のほうは、オレが単騎で艦隊に突撃して……」

「ダメだぞ」

「ダメね」

「それだけはさせません」

 

 

なんだお前ら三人とも、息ピッタリじゃねぇか。

確かに前回ピンチになったけどさ。

今回はきっと大丈夫へーきへーき。

 

 

「海上の大艦隊相手に魔法攻撃なんて、無謀すぎますな。旦那には陸戦の方が戦力になりますって」

「そうかもしれんが、じゃあ誰が海軍の相手をするんだ?」

「フフフ、そういう事であれば妾に当てがあるぞ」

 

 

不敵な笑みを浮かべつつ発言したのは月明だ。

開いた扇の上から覗かせた瞳は、子供のような無邪気さを帯びている。

この申し出に少し気色ばんだのはアーデンだ。

軍歴が長いだけに、敵の強さが想像できるのだろう。

 

 

「要は船をこちらに近づけさせなければ良いのであろう? 造作もないことよ」

「いや、そりゃそうなんですがね。大型艦20隻、中小併せて100隻の大船団相手に戦える勢力なんて……」 

「雄壮なる人の子よ。この世の理に縛られすぎておるの。そんな事ではいつまで経っても嫁を見つけられぬぞ?」

「え、いや確かに募集中だけど。 今それは関係ないんじゃねえっすか!」

 

 

カラカラと愉しそうに笑う月明。

あんまりアーデンをからかわないでやって欲しい、これでも根は真面目なんだから。

 

 

「海の支配者は人ではない、神じゃ。ヤポーネがごとき小島がなぜ独立していられるか、此度はそれを教えたもうぞ」

「そんだけ自信があるなら、任せよう。状況次第ではオレが対処する。それでいいな?」

「妾は構わぬが、無用な心配じゃぞ魔王殿?」

 

 

そう言ってまたコロコロ笑う。

随分と上機嫌じゃないか、力の証明をできる事がそんなに嬉しいんだろうか。

 

 

海への対処が決まり、今度は陸だ。

前回のように各拠点に篭もる案は却下された。

都市や街が無事でも、少なくない家々や田畑が焼かれてしまう為のようだ。

自領に引き込むのではなく、どこかで撃退する必要があった。

 

 

グランニアとは連戦になるが、誰も文句を言おうとしない。

そして言葉にはしていないが、理解しているようだった。

 

この戦いが最後の大戦となる事を。


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