魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第60話  良い事ある日

オレ達は鎧の神の先導のもと、高原エリアに向かっていた。

街からそれほど遠くなく、散策気分で楽しめるという、お手軽な場所にあるらしい。

そこにいる花の神と会うことになっている。

シルヴィアは期待満面だが、正直なところオレは不安だ。

口には出さないがみんなも同じだろう。

 

 

しばらく歩くと、見渡す限り遮るもののない大平原になっていて、至るところに花が咲き乱れている。

そこに紛れるようにして、花の束を持って居る女が居た。

金色に輝くウェーブがかった髪に、清楚な薄緑のロングドレスを着ている。

口元は歌っているような、ささやいるかのように動き、花の束に話しかけているように見えた。

 

 

「おぅい、花の神よ。客人を連れてきたぞー!」

「今日はいいことある、ない、ある、ない、・・・ある・・・ない!あらーぁ、ないんですかー。」

「おぅい、花の神!聞いておるか、客じゃ。」

「ひぅっ!」

 

 

花の神が驚いて、持っていた花の束を盛大にばら蒔いた。

辺りに花びらが散ってしまい、それは甘い薫りを振り撒きながら空を舞った。

 

 

「あらー、占い用のお花でしたのにー。」

「むぅ、すまん。何度呼んでも反応せんかったからのう。」

「あーそうでしたかー、すみませんー。お客様ですかー。」

 

 

軽い足取りで花の神が近づいてくる。

敵意を一切感じさせない、周りを安心させるような笑顔で。

何というか、フワリフワリなんて擬音が聞こえてきそうだ。

 

 

「お客様がたー、ヤポーネにようこそー。美しいこの島を是非、楽しんでぇぇえぇーーーーー・・・。」

「は、花の神ぃ!?」

 

 

おい、挨拶途中に消えたぞ?!

まさか瞬間移動じゃないよな?

どうやら地面の穴に落ちたようだが、かなり深そうだ。

鎧の神が慌てながら引き上げた。

 

 

「よいしょっと、すみませんー。助かりましたー。」

「突然こんな穴に落ちるとは、ツイてないのう。」

「あー、さっき占いで【今日は良いことない】って出ちゃったからですねー。」

「ん? 良いこと【ない】なのに悪いことが起きるのか?」

「そうですけどー、どこか変ですかー?」

 

 

物凄く不思議そうな顔された。

あれ、オレはそんな変なこと言ったか?

 

 

「お姉ちゃん、花のカミサマなの?」

「そうですよー、可愛いお嬢ちゃんー。ここの花を守ってる神なんですよー。」

「わぁあ、すごいすごい!ねぇねぇ、お花みてきてもいい?」

「うふふー、どうぞどうぞー。花たちも喜ぶから見ていってくださいねー。」

 

 

たしかに一面色とりどりの花が咲き乱れている。

野放図な感じはなく、ある程度ルールでもあるのか規則性が感じられる。

細かくブロック分けしたようにグループが作られており、それぞれの場所で違う種類が植わっているようだ。

そして南側に向かって、背の低いものは前、高いものは後ろというように配置されている。

見映え以外にも理由がありそうだが、何のためなんだろうな。

 

 

「へぇー、ここの管理は随分と細やかなんですねー。種類の相性やら生育期間やらで配置が計算されつくしてますよ。」

「あらー、それに気づくなんてー。もしかして翼のお姉さんも管理者なんですかー?」

「あ、私は森の方なんですよ。ほんとキッツイんですよねー。」

「あー、森ねぇー。森だと生物の種類が多くてー、外敵もたくさんだから、ここみたいにはちょっとー。」

「そうですそうです!もう木々から虫に魔獣にニンゲン!ほんっとに煩雑でー。」

 

 

おい、職業あるあるは後にしろ。

大平原で多数派を難民にすんな。

お前ら以外にその話題、誰が理解できんだよ。

 

 

「お姉ちゃーん、このお花はなんて名前なのー?」

「あ、それはですねぇー、スィートリーフぅぅぅぅーーーーーー・・・・・・」

「お姉ちゃん?!」

 

 

シルヴィアに歩み寄ろうとした花の神がまた消えた!

マジで落ちすぎだろ。

何回穴にダイブする気だ?

 

 

「アイタタ、やっぱり今日は【良いことない日】なんですねー。」

「お前は毎日のように穴に落ちてんのか?」

「そんなことないですよー、【良いことある日】は落ちない事だってあるんですよー?」

 

 

え、なにそれ。

大体毎日落ちてるってことならないか。

占いがどうこうって話じゃなくて、唯のドジだろ。

 

 

「お姉ちゃん、大丈夫?どろんこになっちゃったね。」

「大丈夫ですー、もう慣れっこなんですよー。」

 

 

いや、慣れんな学べ。

落ちなくて済むような努力をしろよ。

 

 

「ねぇお姉ちゃん、お花ちょっとだけ持ってかえってもいい?」

「いいですよ、両手に持てる量ならー。みなさんも良かったらどうぞー?」

 

 

それを聞いた女性陣はちょっと賑やかになった。

エレナだけは今一つピンと来てない顔をしているが。

シルヴィアとミレイアはキャアキャアはしゃいでいる。

オレとグレンは・・・まぁここで待ってますか。

 

 

「あらぁー、お二人はお花いらないですー?」

「まぁオレ達は別に。特別好きな訳じゃないからな。」

「自分達用じゃなくても良いんですよぅー、【意中の人】へのプレゼントにも最適ですからー。」

 

 

おいやめろ!

お気軽に我が家の地雷を踏むな。

それを聞いた三人娘が超高速で振り向いた。

お前らせめて体ごと振り向けよ、顔だけ向けんなおっかねぇ。

 

 

「アルフー?そのお花私にくれますよね?よねよね?今ならオサワリ自由ですよーお得ですよー?」

「わ、私に花など似合わんかもしれんが、その・・・絶対大切にするから、私にくれないか?」

「ねぇ、私たちはそろそろ・・・次のステージに進んで良い頃だと思うのよ。」

「お前らとりあえず離れろ、すり寄んな押し付けんな。」

 

 

ワラワラと集まる三人。

数歩離れて避難したグレンと花の神に鎧の神。

隔離やめろ、オレもそっち側にいれてくれ。

 

 

「この方がたはーいつもこうですー?」

「そうだね、だいたい毎日かな。」

「まぁ賑やかですねー。お客様の今日の運勢は、良いことある日でしょうかねー?」

「客人もやりますなぁ。両手どころか頭にも花とは。しかも全員が美人ときておる。」

 

 

クソッ、悪気はないと思うが煽り文句にしか聞こえんぞ。

オレはその辺りの花を数本拝借して、囲みを突破した。

アシュリーの脇を抜け、エレナの股下をスライディングし、リタの頭を踏み台にして逃げることに成功した。

 

 

「シルヴィア、ミレイア。この花とかもキレイかな?良かったらこれも持っていって。」

「ほんとーこれもキレイ!おとさん、ありがとう!」

「魔王様感激です、このお花はずっと大事にします!」

 

 

よし、これで何とか誤魔化せたな。

ブーイングが喧しいが、全部無視だ。

プンスカなんて擬音が聞こえてもだ。

 

 

「アルフは子供に逃げすぎですよーヘタレー、ムッツリヘタレー、ヘタレオブザイヤー!!」

「これはぁトーーフってぇ言うんですよぉ。独特の文化があるようでぇー」

「キィヤァァアァァー!やめてぇぇえーー!」

 

 

あ、なんか泡吹いて倒れた。

悪は滅びた。

この旅行中はアシュリーのコントロールが簡単で助かる。

 

 

それからしばらくして、みんな思い思いに花を貰えたようだ。

シルヴィアは跳び跳ねんばかりに喜んでいる。

 

 

「お姉ちゃん、キレイなお花ありがとうー!」

「いえいえー、花達もとても喜んでますよー。あ、そうだ。」

 

 

そういって花の神はちょっと変わった花を取り出した。

 

 

「せっかくだからお嬢ちゃんも占いやりますー?」

「いいの?やりたいやりたい!」

 

 

え、それ大丈夫か?

落とし穴にハマったりしないよな?

まぁ、所詮は占いだろうが・・・。

 

 

「今日はいいことがある、ない、ある、ない、ある・・・ない、・・・あるー!」

「やったぁ!いいことあるー!」

 

 

ちょっとだけホッとしたオレ。

いや、そんな占いを信じてる方じゃないけどさ。

今までの流れをみてるとなぁ。

 

 

一部を除き上機嫌で宿に戻ったオレ達。

すると「百万人の来館者ー!」とかでシルヴィアが盛大に祝われた。

記念として顔のイラストが入り口に飾られ、特別なデザートも晩飯に付けてもらえた。

ご満悦なシルヴィアを余所に、オレはさっきの占いについて考え込んでしまう。

 

 

・・・偶然だよな?


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