魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第54話  ありがとうの気持ち

 

「こうして魔王さんは目覚めましたとさ、めでたしめでたし。」

 

 

だぁー疲れた!

こうして丁寧に語るとメチャクチャ長くなるのな。

二人の顔を見ると、グレンは考え事を、ミレイアは涙目でプルプル震えている。

オレが話を切ると、ミレイアは バンッと机を叩いて立ち上がり、猛然と外に駆けていった。

 

 

バタァン!

 

 

ミレイア、ドアくらい丁寧に閉めようか。

壁がけっこうグラッとしてたよ。

遠くから絶叫のような話し声が聞こえてくる。

 

 

 

  シルヴィアちゃんんーシルヴィアぢゃんんんーー!

 

  うわ、びっくりした。どうしたのミレイアちゃん?

 

  大変でじだねー辛かっだでずねーぇええ!

 

  え、何でないてるの?おなかいたいの??

 

  お腹は痛くないでず、私もぉずっど一緒に居ますがらーぁ!ずっど側にいまずがらぁーー!

 

  え、うん。ずっといっしょにいようね!ミレイアちゃん大すきだよ!

 

  ニャァァアア!ビィャアアア!!私も大好きですぅーー!!

 

 

 

おい、あれ大丈夫かよ。

何か変な属性生えてないか?

困ったちゃんキーパリングに定評のあるお兄様をチラッと見た。

力なく首を振るだけだった。

最近のグレンの達観ぶりは、宗教家あたりに匹敵しそうな程だ。

 

 

「そういえばモコちゃんは結局どうなったの?」

「オレの魔力を介して顕在化する、物質世界から隔絶された存在になった・・・とか言ってたぞ。」

「え、それってどういうこと?」

「オレにもわからん、長々と説明はしてたが。」

「とりあえず、生きてるってことでいいんだよね?」

「そういうこと、で良いと思う。」

 

 

専門家不在の素人だけの会話だ。

明確な答えや説得力のある言葉なんか出てこない。

気紛れにヒョコッと現れる変わった猫。

その解釈で問題ないだろう。

 

 

楽しそうな二人の子供の声が、外から近づいてきている。

ミレイアの暴走はどうやら落ち着いたらしい。

 

 

カチャリ。

 

 

大人しめにドアが開いた。

シルヴィアたんはお行儀がよろしい。

さっきの誰かとは雲泥の差だな。

 

 

「おとさん、見て見てー!チョウチョつかまえたの。」

「ほんとだ、キレイだねぇ。」

 

 

虫カゴに入れた蝶を見せてくれた。

黄色一色の羽の蝶が、カゴの中の枝に止まっている。

 

 

「リタお姉ちゃんにも見せてあげたの。そしたら可愛いわねだって!」

「そっかそっか、良かったねぇ。」

「みんなに見せたら、はなしてあげてねって言われたから、もう出してあげるんだぁ。」

「そうか、じゃあお外に離してあげようか。」

 

 

一緒に小屋を出て、そこでカゴを開けた。

止まっていた枝を取りだして、外に出るよう促した。

しばらくすると、フワッと飛び立った蝶が花の方へ飛んでいった。

やっぱりノビノビ生きてくてれる方が、ずっと魅力的だな。

そよ風の中を悠然と泳ぐ蝶を、シルヴィアと共に見守った。

 

 

こうして改めてシルヴィアを見ると、感謝の気持ちが沸き起こってくる。

 

幼い身で言われなき迫害を受け続けて。

あれだけの憎悪の目を向けられて。

幾日も恐怖に曝されて。

それでもこうして真っ直ぐ育ってくれている。

 

ありがとう、卑屈にならないでくれて。

ありがとう、いつも笑顔でいてくれて。

ありがとう、世界を憎まないでいてくれて。

シルヴィアはオレの、世界で最高の娘だ!

 

 

陽が傾いて、伸びていく二つの影。

その影は手を繋いでしばらく佇んでいた。


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