魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第36話  戦の終わりに 後編

王城に戻ってきたオレは、リタに出迎えられた。

リタはどうやらテラスでぼんやり街並を眺めていたらしい。

見張りとは一体・・・。

まぁ中に居る奴らは指一本動かせないからね、問題ないっちゃあない。

中に入ったオレはドカッと玉座に座り込んだ。

 

 

フカフカかと思ったが、意外と硬い。

金ケチってんな、大王様よ。

オレはなるべく尊大な姿勢を保ったまま、いたぶるように話しかけた。

 

 

「それでお前ら、どう決着をつける気だ?」

「け、決着とは?」

「こんだけの騒ぎを起こしたんだ、このままハイサヨナラって帰すつもりか?」

「そ、それでは賠償金を・・・」

「違う、そんなもんいらねえよ。金に困ってないしな。」

 

 

こっちの意向としてはやっぱり獣人の保護と協調、かな。

オレが命令してもいいんだけど、それだと上部だけの動きになっちゃうからな。

できればコイツらの口から言わせて、自発的にやる空気を生み出さなきゃな。

そしてゆくゆくは獣人の住みやすい、シルヴィアが安心して歩ける国になってほしい。

オレは指3本立ててから1本折って、2本指を見せつけた。

 

 

・・・ん?

 

 

あれ、オレなんで指なんか立ててんの?

なんでアイツが間違えた時に指減らしてんの?

なんかノリでやってるけど、ボンヤリしてた!

これって指全部折ったら何かしなきゃダメなやつじゃん!

 

 

「で、では領土の割譲と、豊穣の森・レジスタリア地方への領土不可侵を・・・」

「領土は邪魔なだけだからいらん。お前らが束になったって勝負にならないんだ、不可侵条約も無意味だ。」

 

 

バッカ野郎はずすなよ!

指折らなきゃいけねえだろ!

不可侵も悪くないけど、今回はそこじゃねえよ!

 

 

あー、不味いあと一本だ。

あと一本折ったらそれっぽい事言わなきゃならない、でも何も思いつかない。

ホラ、お前ら、オレが入ってきた時なんて言った?

あれ大ヒント、つうか答えみたいなもんだから!

 

 

「お前たちは何にもわかってない。慎重に考えてから言えよ。」

「・・・。」

 

 

おし、さすがに1本だけ残ったお兄さん指を見て、事態が飲み込めたようだな?

もう後がないぞ、今までの事を冷静に振り返れば答えが

 

 

「では、我が国の領民を奴隷として魔王殿の生贄に」

 

 

ばーかーやーろー!

んなもんいるか!オレ一言でもそんな話したかコラ!

そんなセリフはミレイア嬢ちゃんからだけで十分なんだよ!

 

 

オレはゆっくりと最後の指を折った。

周りからは押し殺したような悲鳴が聞こえる。

小声で相談しているヤツも居るようだ。

相談したいのはこっちの方だよ、これから何を言えばいいか何にも思いつかねえよ!

今身近な相談相手といえば、テラスに来てる蝶々と戯れているリタこの野郎。

オレが険しい顔で黙っていると、天の助けのような声が聞こえてきた。

 

 

「少し私からもよろしいでしょうか、魔王様?」

 

 

すぐ隣から、柔らかい質の声。

オレの隣ってことは女王様ってヤツか。

よし、なんとか引き伸ばしてくれ。

その間、オレは魔王っぽいこと考えるから。

 

 

「・・・・・・なんだ?」

「これでお気が済むかは存じませんが、命を奪うのでしたらまず私からになさいませ。」

「な、女王陛下!なりませんぞ!」

「もはや女王も何もありません。兵は敗れ、王は討たれ。我が王家ももはやこれまでです。」

「魔王殿、女王陛下の前にワシをお斬りくだされ!」

「いや、私を先に!」

「いやいや、オレこそ先に!」

 

 

・・・ん?

この女王は妙に人望あるな。

さっき国王連中を拉致したときは声すらあげなかったのに。

あれかな、国王派と女王派ってヤツか?

うーーん、この人望は使えそうだが、どうすりゃいいかな。

 

 

「魔王様、一筆書き残したいので、動けるようにしていただけませんか?」

 

 

まぁいっか。

この段階でどんでん返しなんか無いだろうし。

女王だけ身体の自由を与えると、丁寧に文字をしたため、ご大層な印まで押してくれた。

そこには「獣人奴隷の解放、獣人への差別撤廃に待遇改善、過去に攻撃をしてしまった獣人達に対する謝罪と賠償」について書かれていた。

あの短時間でここまで洞察するとは、結構切れ者だよな。

 

 

「魔王様、こちらを政務のものにお渡しください。私の言葉と印があれば、あとは下の者が対応してくれるでしょう。」

 

 

うん、切れ者だし肝も座ってるし理路整然としてるし、立派な人だね。

よし決めた、こいつを家に連れて行こう。

そこで実際に獣人を見てもらうか。

 

 

「女王、付いてこい。」

「承知しました、お供致しますわ。」

「ま、魔王殿!女王様だけはどうか、どうか!」

「穏便に済ませるかどうかは、コイツ次第だ。リタ、行くぞ。」

「わかったわ。んーーーー、どうも蝶々って捕まえられないのよねえ。」

 

 

お前ずっとそんなことしてたのか。

後で説教だからな?

オレが焦った分ネットリ説教だからな?

女王とリタの手を取って、オレはテラスから飛び立った。

 

 

 

家に帰ってきた。

今居るのは家から少し離れた場所だ。

少し遠目に、シルヴィアとコロが駆け回っているのが見える。

転んだり、追いかけたり、逆に追いかけ回されたり、一緒に転がったり。

心から楽しそうに声をあげていた。

 

 

「見ての通り、あの子は獣人の子だ。お前達の国が率先して殺してきた種族だ。」

「当たり前の話ですが、本当に良く笑うのですね・・・。」

「よく笑い、怒られれば泣き、腹も空かすし、夜になれば眠くなる。当たり前だ。」

「私は獣人の、特に幼子を見かける機会はありませんでした。みんな口々に、悪魔だのなんだの話す事を聞くばかりで・・・。」

 

 

実際のところ、王都の人間もだいたいそんな感じだろうな。

被害は受けていないのに、悪意ある噂ばかり聞いてるうちにその気になっちゃうというか。

差別ってのは憎悪よりかは、無理解の方が問題だと思う。

相手を知らないから、良心が痛まずに傷つけられるし、奪えるし、殺せる。

だからもっと生身の部分を知れば、肌で感じれば風向きも変わるかもしれない。

 

 

実際この女王はすでに何かを感じたようだ。

 

 

シルヴィアがこちらに気づいて駆け寄ってきた。

 

 

「おとさん、おかえんなさい!そのおばちゃんはだあれ?」

「まあ知り合いかな。」

「え、ええそうよ。おばちゃんは知り合いなのよ。」

「そうなんだ。シルヴィはね、シルヴィっていうの!」

「そう、元気な子ね。素直で可愛らしい・・・。」

「ねえ、おばちゃん。お顔どうしたの?血が出てるよ?」

 

 

そういや?に怪我してんなコイツ。

何かで打ったように赤くて、さらに切り傷になってて血が少し出たようだ。

いや、オレじゃないよ?

オレは羽刺したくらいだから、これは冤罪だから!

 

 

「おばちゃんいたいの?血がでていたくないの?」

「え、・・・ええ。大丈夫ですよ、痛くなんか・・・ありませんよ?」

「ほらほら泣かないの。いたくても泣かない子はいい子なの。」

「そうね、泣くのはよくないわよね。こんなオバさんだしね・・・。」

 

 

たぶんこの女王は今、罪の意識に苛まれているんだろう。

プリニシア王国はあまりにも獣人を殺しすぎた。

恐らく、人族至上主義に傾いた頃からずっと。

女王自身が獣人を弾圧したわけでは無いが、彼女の前身の者が、そして国が軍がそれをした。

その事をまるで自分の罪のように、自分の中に閉じ込めるように、女王は胸元に手を当てている。

 

 

「さ、シルヴィア。ちょっとお父さんはお話があるから、向こうで遊んでらっしゃい。」

「わかったの、おとさんもお仕事しすぎちゃだめなの。」

 

 

コロと向こうへ駆け去って行った。

何度も転びそうになりながら、お互いにじゃれ合いながら。

 

 

「私たちは、私たちの国はいつから誤ってしまったのでしょう。」

「・・・。」

「これからどれだけの血が流れれば終わるのかわかりません。ですが、願わくば私で終わりに・・・。」

 

 

女王はそう言って、祈るように膝を折った。

罪の意識も手伝ってか、楽にして欲しいのか、殺せと言っているのだろう。

オレはおもむろに抜いた愛剣を掲げて、無造作に振り下ろした。

 

 

そこに落ちたのは女王の首。

 

 

ではなく、数本の髪の毛だけが散った。

 

 

「・・・、魔王様。あの」

「女王はたった今死んだ。国の犯した罪を背負って。」

 

 

状況が飲み込め無いのか、王女がキョトンとしてる。

ピンと来てくれよ、なんか恥ずかしいじゃん。

 

 

「女王は死んだが、お前は新しく生まれ変わった。その身で何をしたい?」

「わ、私は、私は・・・。」

 

 

予想外の展開なのか、戸惑いの色合いが強い。

だがそれも徐々に薄まっていき、やがてまっすぐと前を見据える、強い目になった。

 

 

「私は、まず一刻も早く獣人奴隷の解放を行います。」

「よし、上出来だ!」

 

 

この女王に任せておけば、ある程度なんとかなるだろう。

その後オレは女王を伴って王城に戻った。

そこで中にいた奴らの羽をとって、体を自由にしてやった。

オレに攻撃してくるかもな、と警戒してたんだが、その心配はなかった。

女王の無事を喜んで、皆で囲むようにして盛大に泣いていた。

 

 

これだけやれば十分だろ?

そんな言葉をここには居ないクライスへと投げかけた。


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