魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第31話  決戦を前にして

「陛下、間も無く平原エリアに入ります。」

「そうか、くれぐれも油断するな。」

「ハッ!前陣にはそう命じます!」

 

 

4日目の昼になってようやく森から離れられそうだった。

今までは付近に忌々しい森に沿うような道であったが、ここを抜けると平原地帯になる。

森さえなければあの連中の襲撃も、奇妙な失踪もせずに済むだろう。

それは末端の兵たちも感づいているようで、いくらか足並みが軽くなった。

 

 

平原に全軍が進行した時に休憩の合図を出した。

見張り以外は皆、安堵を貪るように休んでいる。

ここでしばらく鋭気を養えば、また戦えるようになるはずだ。

まだ半数以上の兵は健在で、魔道兵や攻城兵器も問題ない。

後は一般兵士の士気さえ戻れば・・・。

 

 

「左方に敵!グレートウルフの群れ!その数30!」

「なんだと!?」

「陛下、急ぎ隊列にお戻りください!」

「今すぐに陣を組め!相手のEPはいくつだ!」

「ウルフロード350、その配下どもが200前後!」

 

 

クソッ、全くついていない!

こんなときに「平原の覇者」と呼ばれる魔獣に襲われるとは。

ここには2000を超える兵が集まっているが、全く安心できない。

普段であればせいぜい500の軍勢で討伐するような相手であるが、心労で疲れ切っており、気を休めた瞬間を襲われてしまった。

一歩間違えば大損害を出してしまうだろう。

 

 

前方から指揮官たちの悲鳴が聞こえてくる。

 

 

「お前ら隊列を乱すな!そこから食われるぞ!」

「あああ!助けてくれえ!」

「穂先を!槍の穂先をそろえ・・・ガフッ」

「隊長!隊長がやられた!」

 

 

あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

グラハムは馬上で懸命に指揮していた。

弓矢を射掛けさせ、騎馬兵を投入し、陣形を何度も変えさせた。

魔獣の群れはこちらの攻撃をあざ笑うかのように躱し、こちらの隙を見つけては猛然と攻め込んできた。

 

 

グレートウルフのやっかいな所はその疾さだ。

人間はもちろん、馬よりもずっと素早く動く。

本来であれば弓や魔法で足を奪ってから、包囲して倒すのがセオリーだ。

だが今は、まともに戦える状態ではなかった。

彫刻刀で石が削り採られていくように、周りの兵たちが散っていった。

 

 

魔道兵の投入を考えていた矢先に、グレートウルフの群れはまとまって遠くへと離脱した。

この距離では魔法は届かないが、矢であれば届く。

 

 

「弓、射かけよ!」

 

 

号令を出したが、誰も動く気配がない。

誰もが中空を見上げて呆然としていた。

そこに目をやると、禍々しい魔力を身に纏った3人の人影が見えたのだった。

 

 

__________________________________________

 

 

 

おうおう、見てる見てる。

みんなこっちを凝視してるな。

それもそうか、狼に襲われたかと思ったらそいつらが急に大人しくなって、さらに唐突に空から人が現れたら。

きっとオレがそっち側にいたらビビってるわ。

 

 

さてさてゆっくりなるべく時間をかけて降りてっと。

この仕上げ作業に失敗しないように気をつけないとな。

ちなみにアシュリーはもちろん飛べるが、リタは飛べない。

例によってオレが二人分の魔力を持って、浮いている状態だ。

 

 

だからといってスタスタ歩いてきてもインパクトがない。

空からもったいぶって降りてくるとか、演出をしないと締まらないからな。

足元にはグレートウルフ達が控えてる。

おいお前ら、尻尾を降るんじゃない。

ハートフルな雰囲気を出すなっての。

 

 

オレはできるだけ皮肉の籠った口調で話しかけた。

もちろんあのいっちゃん偉そうな、プリニシア王に向けて。

 

 

「愚鈍な人族ども。オレのもてなしはどうだった?」

「・・・もてなしだと?」

「そうか、どうやらあまり楽しんで貰えなかったようだな。」

 

 

いやほんと楽しかった、大人になってやったイタズラのようで。

はじめて仕掛け人のような事をして、新しい世界を見つけた気分だった。

頑張って酷薄な笑顔を維持しなくては。

うっかりすると本気で笑ってしまいかねない。

 

 

「貴様、亜人だけでなく魔獣まで従えているというのか!」

「その程度の事も知らなかったのか。お前達の情報収集力もたかが知れているな。」

「クッ・・・。出来損ないの分際で・・・。」

「言いたい事はそれだけか?口喧嘩まで弱いとは救えないな。」

 

 

話を聞いていた兵達が膝を折りそうになる。

そりゃそうだよな、不可思議な攻撃に加えて魔獣まで相手にすると考えたら。

心がポッキンポッキン折れる音が聞こえるようだ。

 

 

ついさっきからリタが魔法の詠唱を始めた。

体から薄ぼんやりとした光が放たれている。

敵が心をへし折られて魔法が掛かりそうになったら、唱えるように指示を出しておいた。

結構じっくり詠唱してる、これはマジのヤツですわ。

 

 

「貴様ら、何をする気だ!」

「それをわざわざ教えてやる意味はないが・・・。構わん、特別に教えてやる。貴様らにはこれから最高の恐怖と!絶望を味あわせてやる!」

 

 

芝居がかったような仕草で宣言した。

兵達は動揺してすでに及び腰だ。

戦おうとするものと逃げようとするもので、早くも混乱が起きている。

 

 

・・・の紫紺の王に祈る 偉大なる魔の力において 児戯なる者共に深き恐怖を・・・ 

 

 

静かにリタが魔法の詠唱を続けている。

詠唱ってかっこいいよな、なんつうかロマンがあってさ。

オレは詠唱なんて知らないけど、それっぽいのを言ってみたい。

晩の時と同じように、リタの魔法をオレが範囲拡大させる手はずだ。

その時に少しは魔王っぽいセリフを叫んでみたいじゃん?

そろそろ発動しそうだ、準備しなきゃ。

 

 

「深淵の恐れをその魂に刻まん・・・スカーズ!」

「えーーっと、えーーーっと、ヨイショォ!!」

 

 

あーーやっちまった、なんか祭り囃子みたいなのでた!

アドリブ弱すぎんだろオレーー!

さっきまで大物面してたから、一層この掛け声は恥ずかしい!

今まで真面目に引っ張ってきた会話が、全部ギャグになっちゃうじゃん!

 

 

オレの心配を他所に、敵さんは大混乱だ。

良かった、さっきの変な掛け声はたぶん聞かれてない。

 

 

「うわあああ、ドラゴンだぁああ!」

「う、うわ、やめてくれ!オレはへへ、蛇だけはダメなんだ!」

「おい、お前らしっかりしろ!地平線にとんでもない大軍がでてきたぞ!」

「う、腕が・・・腕がどんどん腐っていく・・・。」

 

 

うへ・・・。

すげえな、何千人もの悲鳴って。

もちろんこいつらが見てるのは全部幻覚だ。

そいつが思うおっかないものが、さも今起きているかのように感じているはずだ。

 

 

「陛下!もはや軍の維持はできません。城までお逃げください!」

「ふざけた事を!このまま引き返せというのか!」

「混乱が激しく、同士討ちすら始まっています。ここはひとつ無事な者とともに落ち延びてくだされ!」

「おのれ・・・!このっ屈辱は忘れんからな!」

 

 

プリニシア王が無事だった連中だけ引き連れて帰ってったな。

無事な連中は、近くに魔道兵がいた奴らか。

まぁ、敵を前にしてこんだけ盛大に大混乱を起こしたら、戦いどころじゃないもんな。

リタに聞いたところ、もうしばらくしたら元に戻るらしい。

じゃあここはこのままでいいか。

 

 

巨ワンコ達には帰還を命令し、オレたち3人は森の奥へと帰ろうとした。

でもその途中でひとトラブル。

オレが途中で魔力枯渇を起こして墜落した。

もちろんオレの力で一緒に飛んでたリタも巻き込んでだ。

膨大な魔力を使って幻術を拡張をしただけでなく、行き帰りに二人分の飛行魔法も使ってしまっている。

もうちょっと考えて行動すりゃ良かった。

 

 

なんとか地面に降り立って横になろうとしたオレ。

例によって膝を貸そうとしたリタに割り込んで、アシュリーが膝を突き出してきた。

もう抵抗する気力もないオレはされるがままだ。

 

 

「やった、とうとうやりました!膝枕ゲッツですよ!うへへ、どうですか?美少女のナマ足膝枕は?!」

「っさい、大声 やめろ」

 

 

それを言うだけで精一杯だった、なんとも締まらない最後だな。


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