魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第28話  それぞれの王

不機嫌そうな男が一人。

居並ぶ恐縮した男達が十数人。

ここはプリニシア王国の王城の謁見の間。

そこでこの国の王である、グラハム・ロード・プリニシアは苛立ちながら報告を聞いていた。

30を少し過ぎた、壮健な王だ。

謁見の間はたった一人の威圧感に、完全に呑まれていた。

 

 

「それで、レジスタリアに派遣した代官は、おめおめ追い払われてきたのか。」

「はっ。街に入ることすら叶わず、門前で不思議な力によって追い返されたそうです。」

「魔王などとほざく者たちの仕業で間違いないな?」

「亜人による妨害との報告ですので、間違いはないかと。」

「忌々しい奴等よ。人の皮を被ったでき損ないの分際で。」

 

 

空白になったレジスタリアの地を、貴族ではなく勇猛な騎士を送り込もうとして失敗した。

住民どもは受け入れを拒み、門を閉じた。

力ずくで突破を試みたようだが、見たこともない魔法に阻まれたらしい。

入ろうとすると突如電撃に襲われたという話だから、失伝している太古の魔法であろう。

そのような真似は、豊穣の森で暮らすという連中くらいにしかできないはずだ。

 

 

「なにやら大量の物資が商人どもより持ち込まれた模様。戦備えのつもりでは?」

「慌ててかき集めてもたかが知れておる。ところで、住民どもは従う気がないのか?」

「トルキンのごとき統治の再来はいらない、と口々に申しております。」

「フン、あの男は苛烈であっただけのこと。あの非凡で優れた手腕を凡人どもは理解ができんのか。」

「まさしく、まさしく大王の仰せの通りにございます。」

 

 

我々は支配者だ。

絶対的な権力者だ。

その強者に向かって拒否を表すなど許されることではない。

 

トルキンの失政?

馬鹿なことを。

領主が寄越せと言えばへりくだって差し出し、死ねと言えば笑って誇らしく死ぬのが領民というものだ。

浅ましい身分の者が天に唾を吐くなど、許されることではない。

 

 

「・・・もちろん準備はできておるな?」

「はっ!歩兵5000、魔道兵100、攻城兵器5、御身の回りに騎兵300、いつでも出撃できます。」

「直ぐ様出撃を。レジスタリアと森の不忠者共を皆殺しにする!」

「ハハッ!」

 

 

慌ただしく動く家来を眺めながら、次の手について考え続けた。

どんな不可解な罠を張られていても、どれだけ卑怯な手を使われても対応できるように。

 

 

魔王め、今貴様は何をしている。

次はどんな悪巧みを考えている。

 

 

未知の相手に対して、何度も何度も戦略を練り直していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あーりーさん!」

「アリさんさーん!」

「くるっと回ってワッショイショイ!」

 

同時にオレとシルヴィアが同時にポージングした。

オレはトリのような形を身体全体で作り、シルヴィアは猫のような形を作っている。

 

 

「シルヴィのかちぃー!」

「あー、おとさん負けちゃったなぁ」

「おとさん、さっきからよわーい」

「うーん、頑張ってるんだけどなぁ」

 

 

オレはシルヴィアと、オリジナル第三段である「アリさんホィ!」の遊びをしている。

こんな遊びをたくさん思い付くなんて、シルヴィアったら発明家さん!

ちなみにこの遊びは合図と共に、三すくみになっているポーズをお互いにとる。

そのポーズの組み合わせで勝ち負けが決まるという、最高にハイセンスな遊びだ。

 

「アリ関係ないじゃん・・・」って思った奴は一歩前に出ろ。

物言わぬ石像にしてやる。

 

 

「ねぇおかしのおじちゃん、いっしょにやるの。」

「私ですか?それでは失礼して。」

 

 

もう完全にお菓子のおじさんとして定着しているクライス。

本人はさも当たり前のように受け入れている。

オレはツッこまんからな?

 

 

「ワッショイショイ!」

「ショイ!」

 

 

うわクライス、なんだそのポーズ。

人間のできる動きじゃないだろ、こえぇよ。

 

 

「なにそれー、そんなのないよ?」

「ええ、よく知らないものでして。」

「もう!ちゃんとおぼえなきゃ、メッなんだから!」

「すみません、教えてください。」

 

 

ひとつずつ丁寧に教えるシルヴィア。

微妙にポーズを変えて再現して、怒られているクライス。

これがうちの執政官。

一応、内政官のトップなんだよな。

子供にめっちゃ怒られてるが。

 

 

「アルフー、見てくださいよー。さっき森で見つけたレアな鉱石ですよ。これで魔道具を作ればーーオゥフ!」

 

 

向こうからやってきたアシュリーが、クライスの不思議な動きを見て絶句した。

まぁいきなりこんなん見たら誰でもそうなるわな。

 

 

「え、え、え?それ関節どうなってんです?なんでそこまで曲がるんですか?ほんとに人間ですか?うわ、足もよく見たら捻れまくってるじゃないですか、こわっ!」

「アシュリーお姉ちゃんもあそぶの。いっしょになってあそぶの。」

「え、これをやれって?ムリムリムリ!身体ぶっ壊しますって!」

 

 

逃げるようにして飛び去っていくアシュリー。

何か用事があったんじゃないのか?

つうかクライス、気色悪いからそれやめろ。

 

 

「アルフ、警備が完了したぞ。商人達の搬入も終わって後日清算に・・・ゥッフゥ。」

 

 

次の被害者はエレナか。

普段クールなこいつがこんなリアクションって珍しいな。

だがすぐに冷静さを取り戻して、じっくり観察してから自分もチャレンジを始めた。

やめとけ、その先に未来はない。

 

 

そうこうしているうちに日が暮れて、リタが呼びに来た。

晩飯まで食おうとしたクライスを追い出して、危機を回避したのはどうでもいい話。

それにしても仕事量を軽くして正解だったな。

こうしてノンビリできる日をキッチリ確保しないと頑張れないもんな。

 

 

いつまで続くかわからないこの安息を、オレは心から愉しんでいた。


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