魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第26話  あなたのお家へ連れてって

楽しい時間が過ぎるのはあっという間だよな。

二日目の朝が来て、今荷物をまとめているところだ。

やっぱり行きより帰りの方が荷物が多い。

思い出増えた分だけ荷物が増えるってね。

 

 

帰りはというと、シルヴィアを肩車しながらオレが先頭になって歩いていった。

 

 

後ろをちらっと見ると、グレンとエレナが刃物の手入れについて話し合っていた。

こんなときでもお真面目さんだな。

 

 

二人から数歩遅れて、ミレイア達がいた。

あさってな質問をミレイアが投げ掛けて、知らんとは言えずに知ったかぶろうとするアシュリー、そんな二人をやんわりたしなめるリタ。

 

 

ミレイアがどんどん変な方に行くのはあのトリ女のせいか?

羽むしるぞこの野郎。

オレの目線に気づいたアシュリーが、ちょっと照れてからウィンクしてきた。

違う、そうじゃない。

 

 

「おとさーん、あそこにワンワンがいるー。おっきいのー。」

「ほんとだ、おっきいねぇ。」

 

 

こちらの反応に気づいてか、ノソリノソリとこっちにやってきた犬らしきもの。

どんどん大きくなるなぁ、犬ってこんなに大きかったっけ?

 

遠近法の常識をうち壊しながらやってきたその犬は、いや狼は巨大だった。

例えるなら平屋の家が迫ってきたような圧迫感だな。

 

 

「ええぇ?でっか!」

 

 

グレン、お前の反応は正しい。

 

 

「このワンちゃん、お腹の毛だけ白いのですね。」

 

 

ミレイア、普段のお前はあんななのに、どうして今に限ってそんな反応なんだ?

 

 

「ご無沙汰しております、我が君。」

「あー、やっぱお前か。これで会うのは三度目か。」

「そこまで覚えていただけるとは、光栄の極み!」

「調子に乗んな、インパクトがでかいだけだ。」

 

 

こいつはグレートウルフのリーダーだ。

グレートウルフってのは、草原の覇者って言われるくらい強者らしいが、ほんとかねぇ?

 

はじめて会ったときはアシュリーと出会う前だから、大分前だな。

あろうことかシルヴィアたんたんを「半端者」なんてぬかしやがった。

 

 

 

 

 

 

 

だから

 

 

 

 

 

 

コンマ2秒で

 

 

 

 

 

 

ぶっ飛ばした。

 

 

 

そのやられっぷりは、木を何本もへし折ってようやく止まったほどだ。

死んじまったか、いや死ねと思ってぶん殴ったんだが、意外にも生きてたよな。

 

 

チッ。

 

 

二回目はアシュリーと森の見回りをしているときだな。

会うなりその巨体がゴロンと転がってお腹を見せてきた。

 

埃っぽい、転がんな、つうか邪魔だから帰れ。

 

そういって追っ払ったんだった。

子犬みたいな鳴き声出してショボくれてたっけ。

 

 

で、今がその三回目と。

こいつ面倒くさい奴だけど注意したらやらなくなるんだよな、面倒くさいけど。

 

 

「何しに来たうっとおしい。我が君とか呼ぶな消えろ。」

「ヌゥ・・・ご息女とは知らずに暴挙に及んだこと、何卒お許しいただきたく・・・」

「ぁあ?テメェ、あんだけの暴言吐いといて許せだと?マジでいっぺん死ぬかオラァ!」

「何卒、何卒お許しを、どうかお慈悲を!」

「聞こえねぇ届かねぇ響かねぇよ、口先の謝罪なんかよ。あんまナメた真似してっと海底に沈めっぞボケが!!」

 

 

地に伏せて可能な限り頭を下げているケモノに向かって、オレは天空の高みから言葉を叩きつけた。

怒鳴り付けられて大きな巨体がビクッと震える。

ほんとにお前強者かよ?

 

お、進退極まってアゴを地面に打ち付け始めたぞ。

アーッハッハ、なぁんて無様なのかしら?

 

ったく、マイエンジェルに唾吐くような真似して何いってやがる。

キュゥウンとか泣いてもダメだ、死ぬまで許さんからな?

父親ってのは娘のためなら魔王にだってなれるんだぞ!

 

 

 

「もう、おとさん!ワンワンいじめたら、メッだからね!」

「貴様の悪行はもはや許された、以後善く励め。」

「おぉ・・・・・・寛大なる沙汰。さらなる忠誠をお誓いいたします!」

 

 

 

全く・・・ワンちゃんを虐めるなんてどこのドアホウだよ。

過去のいざこざなんか水に流して、皆仲良くするべきなのに。

博愛主義者のオレには欠片も理解できんわ。

ん、グレン君?何か私に言いたいことでもあるのかね?

 

 

「厚かましいようですが、我ら大狼族たっての願いをお聞きくだされ。」

「ふむ、私は寛大だからな。とくにワンちゃんにはな?何なりと申せ。」

「我をどうか、魔王軍の末席に」

「あ、それ却下ね。」

 

 

えぇーって顔をでかいワンコがした。

いやだってさ、お前マジででかいじゃん。

家で暮らすには不便すぎるっつの。

 

 

「そこをどうにか・・・大狐から出ているのに大狼から出ていないというのは・・・。」

「しがらみとかメンツの話になんの?」

「左様に。」

「いや、リタは人になれるけどさ。お前はどうよ?」

 

 

あ、うなだれたな。

つうことは無理か、うーん残念!

じゃあそろそろ帰ってねー、なぁ帰れよ?

 

 

「ならばせめて、一族のものをお預けいたします。どうかお受けくだされ。」

「ふーん、そいつはでかくなんの?」

「狼のほどの大きさで止まり申す。」

 

 

こいつがやたらでかいのは、群れの長だかららしい。

一族から少しずつ集まる魔力ででかくなっちゃうんだって。

へースゴイッスネ。

 

 

そんで連れられたのは、生後半年も経ってないような子犬だった。

うちの女性人は早くもメロメロだ。

まー、飼っても良いけどさー。

一応安全なやつかどうか、心を読んでおこう。

どうやらコイツは魔力が無さすぎて、会話ができないみたいだからな。

 

 

オレは子犬に手をかざすように向けて、声を聞いた。

 

 

うーん?

何かしらない人がいっぱいだなぁ

あ、ぼくと同じ犬のこどもがいるよ。

女の子だね。

君は犬なの人なの?

二本足でたってるよね。

耳かゆい。

 

犬の女の子がこっちきた。

あそぶ?あそぶの?

かけっこする?僕とくいだよ?

あ、耳かゆい。

 

わっわっ、だっこするの?

たかい、たかいなぁ。

いたいいたい、毛はひっぱらないで。

うん、そうそう、そのナデ方でいいの。

耳かゆい、かゆかゆかゆ!

 

 

うん、大丈夫そうだ。

グレートウルフの一族なんていうからどんな危ない奴かと思えば、随分とまぁ呑気だな。

 

 

あとでノミ退治もしてやろう。

 

 

「我が君、そのものをどうか宜しくお願いいたしますぞ。」

「あー、わかったよ。ペットを飼うからには最後までってね。」

「いかようにも御使いいただいて構いませぬ、では。」

 

 

そういって巨大なワンコ、巨ワンコは去っていった。

 

 

「ねぇねぇ、名前はどうするんですー?誰かがきめちゃいますー?」

「そういうのが得意そうな奴が決めてくれよ。」

「魔王様、でしたらこのミレイアにお任せください。」

「お、おう。まぁやってみてくれ。」

 

 

嫌な予感しかしない。

でも試す前から断るのもかわいそうだしな。

 

 

「では、この子はボロン・・・」

「うん、それは止めた方がいいな。」

「それではゲレゲ・・・」

「それも止めた方がいいな。」

 

 

ミレイアがそんなぁーって顔になる。

お前な、その名前にしたら消されちゃうぞ?

さらに言うとこの世界が消えちゃうぞ?

とてつもなく大きな力によって。

 

 

「コロとかどうかな?さっきから転がってるし、丸っこいし。」

 

 

お、さすがお兄ちゃん。

妹の不手際をしれっと無かったことにする兄の鑑!

 

 

「いらっしゃいコロちゃん!あなたは今日からコロちゃんだよ!」

 

 

シルヴィアがそう言ったことで本決まりのようだ。

特に異論もないようだしな。

 

 

旅行に行くと帰りは荷物が増えている。

きっと皆も子犬をもらったりするからだろう。


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