魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第17話  魔王の護剣 エレナ

エレナだ。

今は魔王の元で家臣をやっている。

元々はプリニシア王国の、中級貴族の家の出身で若くして騎士となったのだが、出奔して今はここにいる。

だから、姓は捨てた。

敢えて名乗るなら、魔王の護剣 エレナとでも名乗ろうか。

 

 

かつて私は増長していた。

なにせ周りの男共は全く相手にならなかったのだ。

剣を握るようになってからロクに挫折もせず、それはもうメキメキと上達していった。

その勢いは留まる事をしらず、叙勲を受けて騎士となり、数多の戦場で手柄をたて、ついには国筆頭の武術師範まで倒してしまったのだ。

まぁ、20歳にも満たない子供がそんな栄誉に与れば天狗にもなろう。

 

 

私に敵う人間などいない、そう思うようになっていたし、公言もしていた。

私こそが人族最強であると。

今思い返すと顔から火が出るほどに恥ずかしい。

そしてその思い上がりが、己の命を危険にさらした。

 

 

とある強力な魔物が現れ、討伐令が出た。

当時国内の兵は別の討伐令に、大規模な賊徒の取り締まりで兵の招集に手間取っていたのだ。

私は焦れていた。

早く戦いたい、そして皆から称賛されたい。

そんな欲求に耐えかねて出撃してしまった。

たった一人で。

 

 

今思うと愚かとしか思えないが、当時はなんとかなると思っていた。

さらに言うと、独りでの討伐という栄誉を欲してしまった結果だった。

その後どうなったかというと、勿論惨敗だ。

こちらの攻撃は一切通らず、相手の攻撃は防具を物ともせずに切り裂いてきたのだ。

これで戦いをしろという方がどうかしている。

 

 

あの時自分の軽率さを恨んだ。

仲間がいれば盾を重ね合わせて攻撃を防げた。

仲間がいれば魔法で弱らせる事ができた。

仲間がいれば隙を生み出して狙い撃つことができた。

 

 

仲間がいれば・・・。

 

 

その時は流石に死を覚悟したな。

なにせその仲間と呼べる者たちはまだ城内にいたのだから。

どんなに急いでも三日はかかる行程、間に合うはずもない。

このまま独り寂しく死んでいくのだろう。

誰にも看取られず虚しく散っていく未来がハッキリと見えた。

 

 

盾が紙くず同然に切り裂かれたそのとき、一筋の閃光が魔物を貫いた。

魔物はというと、その一撃で絶命して霧散した。

呆気にとられつつも、光の出処に目をやると一人の人族らしき男がいた。

さも何事も起きていないように、肩に乗せた少女とゆっくり歩いて去って行ったのだ。

その背中に声をかけることもできず、ただ呆然としてしまった。

 

 

その後なんとか城へ戻り、討伐の完了を報告した。

そして職を辞した。

身体はもう戦えないほど傷ついており、あまりの激戦にもう精神が耐えられないと嘘をついて。

家には、しばらく旅に出るとだけ告げて、半ば夜逃げするような形で出奔したのだ。

 

 

数少ない手がかりを頼りに、レジスタリア地方に辿りついた。

そこでしばらく足踏みをしていたのだが、魔王の噂を聞いてここへ辿り着いた。

最初は家臣にすることを酷く渋られたが、側にいるうちに認められたようだ。

特に娘であるシルヴィアと打ち解けられたことが大きかったようだ。

 

 

幻想であった人族最強の称号。

私では届きようもない、果てしなく遠くにあるもの。

自分がそれを得ることは諦めた。

だが、それと同時に別の野望が頭を占めるようになった。

アルフと子を成し、その子を人族最強に仕立て上げるというものだ。

 

 

私の剣技に教育、アルフの溢れんばかりの魔力を与えれば、間違いなく強くなる。

私は人族最強のものの母になりたい、そう思うのだ。

そのためにはアルフの協力が必要である。

意を決したその日にアルフの部屋に訪れた。

 

 

「ん、もう夜だぞ、なんの用だ?」

「アルフ、私と子作りしよう。」

「ん、そうか。帰れ。」

 

 

あっさり袖にされてしまった。

それからというもの、何度お願いしても聞いてもらえなかった。

ダメな理由を聞いてみると、そういうもんじゃないから、だそうだ。

男と女ってのはもっとなんか違うらしい。

説明になってない説明だったが、強い拒絶を前に引き下がるしかなかった。

なので街の酒場にて、そういう色恋に詳しそうな人間に聞いてみる事にした。

 

 

「そうかい、それはまた難儀な話だな。」

「そうなのだ、私の剣技が衰える前に子が欲しい。早いうちにアルフから子種を植えつけて貰わなくては。」

「いや、子種ってアンタ・・・。そのアルフって人の気持ちがわかる気がするぞ。」

 

 

何がいけないのか良くわからないが、そういうところが良くないらしい。

剣など振らずに、詩集やら噂話やらと親しくしていたなら、これも理解できたのだろうか。

 

 

「このままでは願いの成就が難しい事はわかった。だが諦める気はない。何かいい方法はないか?」

「つってもなぁ、そんだけ断られてんじゃなぁ・・・。」

「頼む、もはや見当もつかんのだ。正解でなくて構わない、せめて何か手がかりを!」

「うーーん、うまくいく保証はないけど、無いわけじゃ・・・ないな。成功率は2、3割がいいとこだぞ?」

「十分だ、教えてくれ。」

 

 

そういって教わり、手配したのがこれだ。

 

 

 

荒縄。

 

 

 

これがどういう事なのかよくわからない。

身体に巻きつけ、手を縛ればいいらしいが、何やら罪人のようではないか。

そう聞くと、アンタみたいな腕っ節の強い女を力づくで従わせるっていう征服欲をそそるんだ、と言っていたが・・・本当にそうなのだろうか。

 

 

まぁダメでも構わない、早速実践してみよう。

巻き方は、胸を挟み込んで強調するように、腕は後ろ手になるようにだったか。

自分でやるにはいささか骨が折れるな。

そうやってしばしアルフの部屋で待ち構えていると、きぃとドアが開いた。

 

 

「うぉっ、エレナお前何してんだ。」

「アルフ、これで良いのだろう?さぁ頼むぞ。」

「いや一体何を頼むって・・・あっ・・・。」

 

 

しばらく考えを巡らせたような仕草をしている。

これは今までにないパターンだ。

もしかして成功したのだろうか?

とても優しげに私の両肩に手を添えてきた。

期待に思わず顔が上気した。

 

 

「あのな、エレナ。オレは他人の性癖に難癖つける気はない。その気持ちは尊重する。」

「そうか、ようやく気持ちを汲んでくれるのか。」

「だから否定はしない、そして深く関わる気もないと言っておく。」

「いや、待ってくれアルフ、私は本気なんだ。主以外となんて考えられない。」

「すまん、本当に・・・。オレはノーマルなんだよ。」

 

 

柔らかい仕草で追い出されたが、閉じられたドアからは強固な拒否の姿勢が伺われた。

 

 

「待ってくれアルフ、私を受け入れてくれ!」

 

 

どれほど懇願してもドアは開く気配すらしなかった。

 

 

 

それからというもの、縛り方が悪かったのかとか、アイテムが不足していたのかなど、エレナはどんどん深みに嵌っていってしまうのである。

その結果、彼女の主人からは「病的なドM剣士」という大変不名誉な肩書きを頂戴することになるのだが。

 

彼女の方向音痴な努力を正してくれる者は、この森には居なかった。


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