魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第104話  慢心の代償

災難ってのはいつだって盲点を突いてくる。

気が回ってる部分には対策をしてたりするが、虚を突かれるもんだから被害が甚大になりやすい。

大敵を降してお祭り騒ぎをして、オレたちは気が抜けていたんだろう。

ヤツの侵入を安々と許してしまった。

 

 

明け方の事だ。

昨日の騒ぎで疲れていたのか、誰もが熟睡していた頃。

突如地響きとともに、強力な魔力を持った者たちが家の前に現れた。

大小20は居るだろうその集団は、リーダー格はもちろん、他の手下らしきものも油断できない力を持っていた。

これだけの集団の侵入を許すとは、我ながら間抜けだったと思う。

そして考え無しに飛び出してしまった事も。

 

 

慌てて入り口に向かうと、リタ、エレナ、アシュリーの全員が揃っていた。

ひとまず武器を手に外に出る。

そこには多数の白い狐、そして群の中央には巨大な狐が見えた。

そのリーダー格の狐は白い体に真っ赤な模様が描かれていた。

まるで火焔のような、実際に燃えているかのような躍動感のある模様だった。

 

 

「偉大なる我が大狐族の娘よ、探したぞ。まさかこのような所をほっつき歩いていたとはな」

「……長老様」

「誇り高き種族であるそなたが、雑多な獣や汚れた人族などと交わっていようとは。本来であれば厳罰ものである」

 

 

雑多な獣だと?

てめぇ、死にたいらしいな。

臨戦態勢に入ろうとしたが、制止の手が延びてきた。

アシュリーだった。

その手は押しとどめるというよりは、懇願の気持ちが込められている。

 

 

「アルフ、ダメです。大狐の王です。下手な事をしたら殺されちゃいますよ」

「なんだその王ってのは?」

「詳細は一切不明なんですが、この世界が出来た時に産み落とされたと言われる伝説の狐です。私たちの敵う相手じゃありません」

「その通りよ、アルフ。あなたでも恐らく……。お願いだから大人しくしていて」

 

 

リタが数歩前に出て跪いた。

許しを請うためか、祈りでもするかのように。

その狐の王とやらは驚くでもなく、当然といった面持ちで受け入れている。

 

 

「長老様に遠路ご足労いただき、心苦しい限りです。ましてや掟に従わず、しきたりを破ってしまった私などの為に」

「本来であれば首を刎ねておるが、そなたの群を抜く魔力が惜しい。今すぐ戻るというのであれば不問といたす」

「お言葉ですが、もうしばらくお待ちいただけませんでしょうか」

「ならん、図に乗るでない!」

 

 

狐の王がそう叫ぶと、地面が大きく揺れた。

吠え声だけでこの威力……確かに尋常な相手じゃない。

アシュリーの怯え方にも納得がいった。

 

 

「気高き魂が汚れるぞ。下等生物などと群おって。もはや一刻の猶予もならぬわ!」

「長老様、なにとぞ、なにとぞご再考を!」

「くどいわ! 未練があるというのであれば、今すぐ断ち切ってくれよう!」

 

 

マズイ!

狐の口には膨大な魔力が集められている。

何かとんでもない攻撃を仕掛けようとしているのは確実だ。

オレは両手を突き出して射線上に立った。

今出せる全力の魔力防壁。

これで防げないはずはない。

 

 

「貴様が魔王を名乗るガキか。その程度の力で愚かな、身の程をわきまえい!」

「グハッ?!」

 

 

オレはいとも簡単に弾き飛ばされ、近くの岩に激突した。

なんだあの火球は……。

着弾したかと思うと炸裂し、抵抗する事もできないまま吹っ飛ばされた。

こいつは、強い。

強敵、いやオレよりもずっと上位の力を持った存在だ。

 

 

「クソッ 化け物め!」

「やめろエレナ!」

 

 

お前の、いや、オレたちが敵う相手じゃない。

下手に逆らわずに、お前たちは逃げるべきなんだ。

エレナの迷いのない一閃が狐の王に打ち込まれた。

だが、それは相手の首には届かずに、爪の先によって阻まれた。

 

 

「ほう、ニンゲンにしては良い太刀筋。度胸もある。だがそれだけよ」

「うわぁーッ!」

 

 

小石のように吹き飛ばされたエレナは地面に着地し、2度、3度と転がって止まった。

たった一撃でエレナもやられてしまった。

やはりコイツは規格外の存在だ。

このままじゃ全滅しかない。

 

 

「森の小娘よ。そなたはどうする? この者たち程に愚かではあるまい」

「私は、私は怖いですよ。でもここまでされて、みんなにこれだけの事をしたあなたを、許す訳にはいきません!」

「よせ、アシュリー! 子供たちを連れて逃げるんだ!」

「豊穣の森よ、招かざる客を駆逐しなさい!」

 

 

アシュリーがそう叫ぶと、地面から巨大な木の根が何本も飛び出した。

人間の体よりも太い根の先は鋭く尖り、四方八方から狐の王に襲い掛かった。

生まれ育った地での魔人による攻撃だ。

少なくとも手傷くらいは負わせたか。

 

 

「そ、そんな。ダメージが全然無いだなんて……」

「ふん、まだまだ幼い。工夫も足りない。練りこみが足りんわ!」

「キャァァアー!」

 

 

アシュリーもオレたちと同じ道をたどった。

攻撃など何もなかったかのように、同じように立っている狐の王。

その両目は、オレたちを見下すように睥睨(へいげい)していた。

 

もう立っているのはリタだけだ。

この危機にどう立ち向かえばいい?

こんな化け物とどう戦えばいいんだ?

あまりにも絶望的じゃないか!

 

 

「おやめください長老様! もはやこれまで、すぐに皆の元へ戻ります」

「はじめから申しておれば良いものを。では行くぞ」

「リタ、待つんだ!」

「ごめんなさい、こんな最期で。シルヴィアたちによろしくね」

「リタァーッ!!」

 

 

オレたちは事もなげに負けた。

そしてリタを庇ってやれなかった。

狐どもは光に包まれたかと思うと、瞬く間に消えていく。

背中の小さくなったリタを連れて。

 

大陸の覇者。

与えられた称号が自分を嘲り笑う声がする。

聞こえるはずのないそれが、いつまでも耳に突き刺さった。


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