魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第99話  戦場に聖域無し

オレは一人、敵陣へと切り込んだ。

切り込んだなんて格好の良いものではないな、フラリと立ち寄るようにと言った方が正確だ。

勿論それを許す兵士など居るはずはなく、『魔王だ! 敵の大将首だ!』という声が散発的に聞こえた。

すぐさま最前線に緊張が走り、矢が射かけられてくる。

まぁそれも効かないんだがな。

 

右手に握られているミレイアの短刀。

これは実に優秀な武器だ。

攻撃に優れている事は実証済みだが、防御面でも優秀だった。

何せオレに向けられた攻撃の一切を炎で焼き尽くしてくれるのだ。

こちらの意思に関わらず、自動的に。

 

なので矢が飛んできても、多数の兵で囲もうとも、全く意味を為さない。

一切合切が無情にも灰になるばかりで、オレの進撃を阻めるものは誰一人居なかった。

 

第一陣、突破。

第二陣、突破。

 

敵の歓声が祈るようなものに変わっていく。

『誰か止めろ! アイツを殺せ!』などと言った叫び声が充満していた。

無理な相談だな、この陣地に、いやこの世界にオレを止められるものなんか居やしない。

騒がずに殺されるのを待っていろ。

皇帝の次はお前らの番だからな。

 

 

第三陣、突破。

 

 

ここにきてようやく相手も工夫をし始めた。

丸太や岩を転がしてぶつけてくる。

煮えた油を投げつけて、火を点ける。

魔法兵をかき集めて攻勢に出る。

 

悪くない戦法だとは思う。

オレが相手でなければな。

あらゆるものを黒炎で防ぎ、そしてなぎ払っていった。

その余波を受けて、幕舎や防御柵も燃え始める。

第一陣や第二陣などは今頃火の海に包まれていているだろう。

 

 

第四陣。

 

グランニア軍の決死の覚悟が伺える布陣だ。

オレの進入路以外の場所は捨てており、全力でこちらを阻む気のようだ。

前衛を固めている兵士の悲壮な顔が、遠くからでもよく見えた。

なんと無意味な事を。

これまでの事から学ぶ気はないのか?

お望みであれば、お前らから消してやろう。

 

短刀を前方に向けて掲げ、魔力を存分に込めて打ち出した。

その魔力は炎を宿した球状となり、陣中で弾けた。

まるで戦勝の前祝いかのような業火の火柱が立ち上がる。

あらゆるものを無に還す断罪の炎。

苦しまずに絶命をもたらす慈悲の光。

オレはその輝きにしばらく見惚れた。

 

 

そして、第四陣……突破。

 

 

抵抗する気が無いのか、士気が崩壊しているのか。

オレを遠巻きに囲むばかりで、誰も仕掛けてこない。

無人の野を進むように奥の幕舎へと辿り着いた。

ここが皇帝の居る本陣だ。

 

無造作に中に入ると、忘れようもない男がそこに居た。

高価な装飾品で着飾ったその出で立ちは、吐き気を催す程醜悪だった。

まるで『自分の元には矢が届かない』とでも思っているかのよう。

戦場にあっても死とは無縁であると豪語するような姿だ。

こんな無様な男のために、一体どれだけの命が散っていったのか。

短刀を握る指に力が入った。

 

 

「よう、皇帝陛下。久しぶりだな」

「その凶々しさ、貴様が魔王か!?」

「今はそう呼ばれているな。元々はただの村人だったんだが」

「村人だと? 戯言を申すな、そんな力を持った人間が居るものか!」

 

 

顔面を蒼白にしながら喚く、人間界の支配者。

まぁ血筋だけで成り上がった男だからな。

自分の腕で勝ち取った権力者ならばもう少し骨もあったろうに。

つまらない殺戮劇になりそうだ。

 

 

「居るんだよ、目覚めさせられたと言った方がいいか。お前の手でな」

「何を申すか、かような事に関わってなどおらぬわ!」

「お前の趣味で『勇者』として送り出された人間の成れの果てだよ」

「……まさか、18番か? 一人だけ行方知れずになっておったあの18番なのか?」

 

 

知るかよ、通し番号なんざ。

つうかコイツ最低でも18回は繰り返してたのか。

飽きもせずあんな事を。

やはりコイツには慈悲はいらんな、確実に殺そう。

 

 

「さぁ『勇者』が『魔王』になって帰ってきたぞ。どんな気分だ?」

「こんな馬鹿げた事が起こるはずはない! 許されるはずがない!」

「誰の許しもいらん。最後に、アルノーに言い残す事は?」

「アルノーだと? あんな出来損ないに何も言う事は……」

 

 

最後まで言わせなかった。

なんとなくだが、アイツの事を哀れに感じて。

幕舎の中はかつて皇帝と呼ばれた男の灰と、恐怖のせいか呆けてしまった重臣だけとなった。

さて、次はお前らお偉方だな。

短刀を握り直すと、外から鈴の音が聞こえてきた。

 

 

チリィーン

チリリィーン

 

 

この音を聞くのはこれで二度目だ。

あの男がやってきたらしい。

丁度いい、どちらが強いかケリをつけてやる。

 

外に出ると、第四陣の入り口付近にその男は居た。

ディストルだ。

オレは斜面を駆け下りて、目の前に跳躍した。

そんなオレに驚いた風でもなく、沈んだ面持ちで口を開く。

 

 

「魔王アルフレッドよ、その憎悪はお前にとって不要の物だ。この場で消し去ってやろう」


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