世界を救った男の娘の青い彼女の運命の夜

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ツイッターで一時期はやった、ホワイトデーにもらったものを使って、ぐだの子孫がピンチになったときに呼ぶあれ


彼女の蒼いFate

『――いいね、困ったら、これを持って祈りなさい。きっと、力が漲ってくると思うから』

 

 仕事に出かける前、泣きじゃくる私に父さんが贈ってくれたそれは、奇妙な文字の刻まれた耳飾りだった。

 子供の頃、ほとんど話半分で聞いていたが、胸を躍らせながらも、なんどもなんども聞いた話がある。

 普通の子供ならば、絵本を読んでもらう物だけど、うちはそうじゃなかった。

 

 私の父さんは世界を救った英雄である。

 

 なんて話、同級生は誰も信じないだろう。どこにでもいるような平凡な人で、困っている人は見過ごせない、そんなお人よしだ。母さんもそんな父さんだからこそ、惹かれて結婚に至ったのだと言う。十代、それも父さんのバイト先での出会いをきっかけに付き合い始めたのだと言う私の両親。

 

 先にそのバイト先にいたのは、母さんだと言うけれど、なぜか今でも“先輩”呼びは忘れられないのだと聞く。

 実はその母さんもまた、父さんと同じなのだという。

 

 燃える街を、

 フランスを、

 ローマを、

 オケアノスを、

 ロンドンを、

 アメリカを、

 キャメロットを、

 古代ウルクを、

 

 頼りになる英雄たちを従えて(父さんは「力を借りていただけ」といつも訂正するけど)、色んな困難を時代を渡りながら乗り越えて。

 

――――そして、歴史を焼き尽くそうとしていた者と対峙したのだと言う。

 

 その黒幕は、憂い、憤ったことで人類を滅ぼそうと乗り出した。そんな奴なんてきっと悪かったんでしょう、なんて聞いてみると、

 

愛衣(あい)はそう思うかな?けどね、父さんは、そうは思えないんだ』

 

 私は今でも覚えている。

 あの寝つけない夜、リビングでベランダに出て夜風を浴びながら聞いた、父さんが大切な人を失い、頼れる英雄も戦えなくなり、身一つになって盾を持って殴りあったそうだ。

 

 人間の歴史そのものを焼き尽くそうとする、そんな強大な力を秘めた相手に普通の人間でしかない父さんがどうして渡り合えることができたのか。

 

『あいつ自身も弱っていたからね。最後の最後に、人間としての自我に目覚めることができたんだと思う。計画は失敗したが、最後の勝ちまでは譲れない。そういって、満身創痍な父さんとあいつで殴りあったわけだよ』

 

 喧嘩なんか到底したことのなさそうな、父さんが言うと、本当に驚いた。

 どうして、パパはやさしいひとなのに、と言うと、父さんは私の色素の薄い髪を撫でながら、小さく口元を歪める。

 

『俺も譲れないものがあったんだよ、愛衣。俺は、俺の信じた人、俺がこれまでに出会ってきた人との出会いで得たものを無駄にはしたくなかったんだ。いつか、君もそんな風に思うときが来るだろう。そうだね、そのときまでに君に聞いておくとしたら、』

 

 父さんは、私の目を覗き込んで、なにかを重ねるように言った。

 

『―――――君は、どんな人になりたいんだい?』

 

 あの夜は、とても月が綺麗だった。

 

※   ※    ※

 

「うーす、神楽坂(かぐらさか)お疲れー」

「お疲れ、遠野(とおの)。そっちはもう片付け終わったの?」

「いんや、まだまだ。男子たちが遊びはじめちゃってさー、ほとんど終わってない。全く、文化祭前も文化祭後も変わんないってどういうことよ?」

 

 文化祭後の片付けに愛衣が文化祭でクラスが使った道具の入ったダンボールを抱え、運んでいると、茶髪をサイドテールにした女子生徒が肩に手を置く。ししし、と笑う彼女は派手な見た目ではあるが、笑う様子はまるでいたずら小僧のようだ。

 愛衣の肩に手を置いたとき、バランスを崩しかかったので、あわててダンボールを支える。彼女――遠野茜(とおのあかね)は、その容姿もさることながら人気が高いことを愛衣は知っている。本人はそれを鼻にかけるどころか、むしろ、自然体に振舞っていることもあって、愛衣ととは入学当時からの付き合いである。

 

 話題は文化祭の片付けの進捗のようで、遠野のクラスはあまり進んでいないようだった。豪華な内装のオバケ屋敷を彼女のクラスは行ない、展示関係の表彰では一位をもらっていた記憶がある。優勝記念と言うことで騒いでいるのだろうか、と思うと愛衣は苦笑いが漏れた。

 

「まぁ、でも、遠野のクラスのお化け屋敷。あれ、凄かったし。優勝したんだから、そこは大目に見てあげないとね?確か、遠野のクラスのなんとかくんの意見なんでしょ?今回は男子のおかげによる勝利、なんじゃないかな?」

「あんた、本当に優しいわね。悪い男に引っかかりやしないか、お姉ちゃん、今から心配だわ……」

「お姉ちゃんていうほど年離れてないでしょ。同学年なのに」

 

 けろっとした顔でかえってきた愛衣の言葉に遠野は唖然とするが、それから、こいつめこいつめ、と側頭部をぐりぐりとじゃれあうつもりで押し付けてきた。

 

 ぎゃあああ、お姉ちゃん、痛いよーなんて茶番があったのはご愛嬌。彼女らはいつもこんな感じである。

 

「それ、1つ、あたしが持つ。神楽坂だけに持たしちゃいけないしね。……てか、誰もついてこなかったの!?」

 

 女子だけに持たせるなんてサイテー、と遠野は憤慨して愛衣からダンボールの一つを受け取った。

 

「いいんだよ、茜。私が自分から運ぼうと思っただけだから。一成くんは心配してくれたんだけど」

「ああ、東堂生徒会長ね。そこら辺は評価してあげてもいいかもね、堅物で五月蝿いけど。……で、これ、どこに持ってくの?」

「その言い方はひどいよ……。職員室の隣の授業準備室。鍵は持ってるからね」

 

 二人の脳裏に過ぎるのは眼鏡をかけた生徒会長を務める、一人の男子生徒。

 堅物で古風な口調をしているが、生徒が過ごしやすいようにと学校の改革を行なっており、堅物ではあるが、決して融通が利かないわけではない。

 

「……まぁ、向こうが無意識であれどうであれ、好意を持ってるのは確かか」

「え?なにかいった?――あ、もうすぐだよ。ありがとうね、茜」

「お、おー。お互い様でしょ?――……苦難な道のりよ、生徒会長」

 

 生徒会長が親切心から来るもの以外に少なくとも、愛衣に対して好意を抱いているのは、遠野は以前から感じ取っていた。

 愛衣が困っていれば、ほとんどの確率で助けにやってくるのは生徒会長とその場に居合わせれば遠野の二人。

 あとは、気まぐれで教師が手伝ってくれるかのどちらか。

 

 真面目で堅物と言われる生徒会長の東堂一成も、どこかしら抜けているところがあるが、優しい神楽坂愛衣、

 

 きっと、この二人は似合っていると思うが、生徒会長の気持ちに愛衣自身が気づくのは当分先になりそうだ。

「気遣いの人」である、愛衣はひそかに人気があり、中学時代に愛衣に何人か告白していたのを見たことがあるが、愛衣が申し訳なさそうな顔で断っていたのを遠野は思い出した。

 

 それから、授業準備室へとたどり着き、愛衣が一度荷物を置いて鍵を開ければ、中に荷物を運んでいく。所定の位置は分かりにくく、もう少し重量があれば、さすがに二人の腕力ではきつかったかもしれない。

 

「んー、まあ、こんな感じか。他にはもうないんでしょ?」

「実は、もう少しだけ。一個だけなんだけど、グラウンドのほうに持っていかなくちゃならないものがあって。パイプ椅子なんだけど……、あ、遠野はもう帰っていいよ?待たせられないし」

「はあ?まだあんの!?ほんと、いつもぐだぐだしてる“ぐだ子”なのに。どうしてこうなるのやら。――校門で待ってるから、早く終わらせなさいよ?あとで連絡頂戴」

「もう、ぐだ子はやめてっていってるのに」

 

 

 神楽坂の『ぐら』とのんびり眠っていることから、愛衣を茜はぐだ子と呼んでいる。なんとなく、この響きがあっていることもあって、このように呼ばれていると母親に言えば、少し驚いた顔をして、取り乱していた(驚きぶりは少しどころではなかった)。

 片付けフケるから、とさらりと遠野は言った。

 それから、スマートフォンを持った手でひらひらとさせるが、一度止まって、

 

「そういえば、あんたのつけてるアクセサリーって」

「え?これ?父さんからの贈り物。凄く親しかった人に貰ったんだって」

 

 遠野の視線の先には、愛衣の首から提げているアクセサリーへと向けられる。

 あまりそういったものには興味がなく、疎い愛衣には珍しい。耳飾りのようにも見えるが、革紐を通してあってネックレスにしている。

 昔からのお守りとして父親からもらった、これを今でも大切にしており、シンプルなデザインから、高校ではひとつまでなら可能とのことでアクセサリーとして使用している。

 

「よく見てると似合うじゃん。……じゃ、待ってるから」

「ありがとね、茜」

 

 それから、愛衣は茜と別れ、パイプ椅子を体育倉庫へと運んだ。合計は五つ、三階の教室から全て運びきった頃には、時刻は午後八時。

 文化祭の片付けということで今日は目を瞑ってもらっているが、生徒の最終下校の時間は当に過ぎている。

 

「……茜には申し訳ないことをしたなあ」

 

 校門で待ってもらっている茜には、先にいっててほしいとメールで伝えた。先に帰ってくれ、と言えば、メールで怒られた。なんでも、暗いのにジョシコーセー一人で帰らせるわけにはいかないでしょ、ということだそうだ。

本人に指摘すれば間違いなく怒られるので言わないが、男前なところがある。

 

「あれ、なんだろう?」

 

 ふと、目に入ったのは校庭にいる二人の影。

 

 片方は大きな剣を持っているように見える。

 片方は斧を持っているように見える。

 

 文化祭の劇で使った小道具だろうか?

 校庭で遊んでいるようならば、注意をしなくては、と愛衣は窓を開けて、身を乗り出した。

 

「もう、下校時間過ぎてるから、早く帰ったほうがいいよ!」

 

 大きく声を張り上げて。

 

 斧を持ったほうも、大きな剣を持ったほうも愛衣に気づいたようだった。

 

※ ※ ※

 

「チッ、人払いをかけておいたはずだが、目撃者か」

 

 先ほどまで大剣振るう剣士と刃を交えていた自ら従える斧を持った巨躯の目を通し、使役者は舌打ちをする。

 それから、斧を持つ巨躯に対し、

 

「やれ、()()()()()()、」

 

 命じた。

 

「目撃者を始末しろ」

 

※ ※ ※

 

「え、あれ、こっちに来てる……?」

 

 斧を持った影が猛スピードでこちらに押し寄せてくる。

 愛衣は窓を閉め、鍵をかけた。それから、急いで荷物を摑んで教室を出ようとするが、それよりも早く、その大きな物体は突っ込んできて教室を破壊する。

 

 ガラスは砕け、文化祭の後にせっかく直したはずの教室の内装が滅茶苦茶になった。

 斧を持ち、赤く目を光らせているさまはまるで神話や御伽噺に出てくるような怪物。どことなく、その聞いたことのある雰囲気、自分は()()がなにかを知っている。

 

「――バーサーカー!?」

 

 父から聞いたことがあった。

 バーサーカーとは、狂化の恩恵を受けて能力を底上げし、攻撃力に特化した存在であると。

 ならば、普通の人間でしかない愛衣にはなす術がない。

 

「っ!?」

 

 振り下ろされる大斧、間違いない、バーサーカーは殺す気で来ている!

 必死で逃げ回るも、すぐに回り込まれて、鞄を投げつけるも、まるで意味を成さなかった。

 意味を成さん、とばかりに斧で切り裂かれ、教科書が落ちる。

 

 愛衣は、お守りを握っていた。

 

 自らの死を覚悟したからではない。

 自らの生を諦めたわけではない。

 

 自分が此処で死ぬのを良しとしないから、願った。

 

「(もしも、)」

 

 心の中で愛衣は願う。

 

「(もしも、このお守りが私を助けてくれると言うなら、)」

 

 願うのは、一つ。

 

「(天使でも悪魔でも何でもいいから、姿を現して、)」

 

 この状況を、切り抜けられる手段を!

 

『自分が死ぬと諦めたわけじゃない、ってか?こんな神秘も薄れた時代に珍しいこった。不思議なモンだ、オレ自身はほとんど()()()()のに覚えてるときたモンだ』

 

 脳裏に響く声は、快活な男のもの。

 

「(貴方は……?)」

 

 正体を問う彼女に男はばっさり切り捨てた。

 

『今はそんなことどうだっていい。オイ、嬢ちゃん。オレが必要か?』

「(だから、呼んでるんじゃない!なんでもいいから早く!)」

 

 何を当然のことを、と愛衣が怒れば、男の声は満足そうに笑った気がした。

 

『ハハ!気の強い女は嫌いじゃねえぜ!いいぜ、力を貸してやる!』

 

 すると、愛衣の周囲を青い光が覆い、風が舞い上がる。

 

『!?サーヴァントの召喚だと!?馬鹿な!?』

 

 バーサーカーの“目”を通し、使役者は驚嘆する。

 それから、その“膜”が晴れたときには、赤い一閃がバーサーカーを襲い、倒れた机に男は足を置き、愛衣のほうを向く。

 

「嬢ちゃんの呼ぶ声がしたんで来てみたんだが……、今回は戦い甲斐のある戦場じゃねェか?だが、改めて聞かせてもらうぜ?」

 

 蒼髪に、禍々しさと怖れを与える切れ長の紅い瞳。

 すらりと高い背丈に紅い槍を持った男。

 

「サーヴァント・槍兵(ランサー)。此度の召喚に応じ、参上した。―――お前がオレのマスターか?」

 

 青い男――ランサーがそのように述べた後、いきなりの事態についていけない愛衣が我に返ったとき、彼のピアスが自分の首飾りと同じものと気づく。

 

 

――神楽坂愛衣は、巻き込まれる

 

 

「つまり、お前は聖杯戦争に巻き込まれちまったってわけだ」

―――数奇な“縁”で愛衣が召喚した、槍兵。

 

「此度の聖杯戦争では、いくつかのクラスが存在しない代わりにクラスが被っている」

――――欠陥のある聖杯。

 

「俺はセイバー。それ以外のなんでもない。――――此処で、貴様に引導を渡すのは俺だ」

―――“塗りつぶされた”セイバー。

 

「来い。ギリシャ最強と謳われた私に貴公のそれがどこまで通じるのか。興味がある」

―――弓兵(アーチャー)、ギリシャ最強の大英雄。

 

「――――――ッ!」

――――大斧振るう怪物、狂戦士(バーサーカー)

 

「……あんまり、今回は面白くなさそうだけど。ま、楽しみ方はボクが見つければいいよね!」

――――理性蒸発の騎兵(ライダー)

 

 

「ランサーのマスターさん。私が滅んだ可能性からきたといえば、信じられますか?」

――――平行世界(イフ)からの来訪者、あるいは、今回の黒幕

 

 

――――絡みつく因果と過去の鎖、“英雄の子”は解き放つことができるのか?

 

 

「特異点の反応が確認されました。場所は、」

 

「―――現在、この時代そのものが、特異点です……!」

 

            突出特異点夢幻領域ニホン

                英雄の子

 

―――その日の夜も、月は美しかった。

 




なんか壮大で設定無視とかあるけれど、そこはご愛嬌。
許してほしい

元ネタ
遠野茜→遠野秋葉+紅赤朱

東堂一成→柳洞一成

ぐだ子について
・先輩!と呼ばれると実家のような安心感のある、あの子の髪色のぐだ子。
・父親の語る“昔話”が好きだった10代少女


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