10/31ですね。皆さんお菓子を持っている友人がいたら、いくぞ○○、菓子の貯蔵は十分か?と聞いてあげましょう。
競技祭完結。そしてゾンビ系ゲロイン登場。今回は約6000文字と、いつもの1.5倍位です。
私――クロス=ファールスは今、広大なフェジテの街の中で、とある二人組追っていた。周りには自分と同じ服装をした同胞。皆腰の剣に常に手を置き、見つけしだい直ぐに拘束出来るように構えていた。
「いたぞっ!」
張り詰めた空気を壊すかのように、仲間が大声で目的の二人組を追う。二人組の片方、金髪の少女の手を引き、黒髪の長身な男は顔も見せずに一目散に逃げる。
――手間を掛けさせる・・・・・・
これで何度目だろうか。目前に現れては直ぐに消える。フェジテという都市一つを使った鬼ごっこは予想以上に体力と精神力を削って行く。隣で併走している仲間の顔にも苛つきが見え始めている。
――それにしても、先程から感じる踊らされているかのようなこの感じは・・・・・・一体・・・?
「次の道を右に移動して、衛兵が接近するまで待機して下さい。町から離れた場所へ誘導した後、リィエルは鏡を壁に用意して」
『わかった』
「師匠は合図とトライ・レジストの中和をお願いします」
『了解した』
衛兵が右往左往している中、ただ一人、時計塔の屋上からそれを見下ろす少年。時計塔の屋上には今の状況とは合わない心地良い風が吹いている。
これから後は、全て計画通りに進めるだけ。自分にミスは、許されない。
頭を上げ、快晴の空を見上げる。未だに時間の経過を感じさせない空からは、今日がとても濃い1日であり、心に余裕が無かったことが伺える。
――・・・・・・・・・・・・
『ニュクス、準備が出来た。合図を出したら鏡への狙撃を頼む』
「了解しました」
リラックスの為に無心となり、風を感じていたニュクスは即座にアルベルトとリィエルの示し合わせた場所を遠見の魔術で見る。
衛兵が次々とその場へと集まって来る。幾つかに別れていたグループも、いつしか一つの場所へと集まっていた。腰に掛けた剣を引き抜き、リーダーであろう人物が拘束をしようとしていた。
ニュクスは先に錬成しておいた狙撃用のライフルを構える。レンズには遠見の魔術がエンチャントされている為、標的を狙撃するのにはとても向いている。
衛兵のリーダーがグレンに化けたアルベルトに接近したその時、アルベルトが両腕を上げた。狙撃の合図であるそれを見たニュクスはトリガーに指を掛け改編した三節を唱える。
『若き雷帝よ・数多の閃光の槍以て・刺し穿て』
ライトニングピアスの殺傷レベルを下げ、対象に当たると分散する術式は、詠唱の完了と共にライフルから鏡へと発射される。
ニュクスの持つライフルのスコープからは分散したライトニングピアスが沢山の鏡によって反射し、その場に居た全ての衛兵の手足を撃ち抜く姿が見えた。威力を弱くした事で、筋肉を長時間麻痺させるレベルに収まっている為、衛兵達はバタバタと固いレンガの床へと倒れていく。
『後は俺達が見ている。グレンの援護を頼む』
「了解しました」
ライフルは仕事を終え、すぐさま崩れて行く。耐久に限界が来ていた。
「普通の錬成も今後の課題か・・・・・・」
ライフルを捨て、屋上から消える。まだ終わっていない自分の役割を果たす為、ニュクスはフィジカルブーストを掛けながら自分の通っている学院を目指した。
「あなたはアルベルト・・・?」
――やっと、たどり着いた。
アルベルトの真似をして、グレンは競技会場にて、アリシア女王陛下の前に立っていた。その後ろにはリィエルの真似をしたルミアが居る。
――俺達は今回、お前の援護は出来ても直接的な問題解決は出来ない。これは『
路地裏で遭遇したアルベルトに言われた事、その前にセリカに言われた事でやっと分かった。
どんなに優れた魔術師でも直接手は出せないモノ。脅しというのも考えられたが、アルベルトとリィエルが自由に行動して俺に接触している時点でその可能性は薄くなった。ならば相手に絶対に破る事の出来ない規則やルールを付けたと考えられる。
宮廷魔導士だった頃、良く事件の資料などで見た古くから使われていた魔術の一つ。
「いいえ陛下、私の名前はアルベルトではありません――」
「き、貴様は!?」
自分とルミアに掛けていたセルフイリュージョンが解け、声や姿が元の自分の物に戻る。ゼーロスは何故ここにいる!?と、驚いているが、答える前にやって貰わなくてはいけない事がある。
グレンがセリカにアイコンタクトすると、セリカは待っていたかのように即座に防音結界をグレンを中心に発動させる。
ゼーロスはセリカの行動を見てもそれに動じはしなかった。手は既に剣の鞘へと動いている。
――呪いの品はどれだ?陛下に掛かってるなら陛下のどこかにあるはず・・・・・・あの首飾り・・・陛下はいつもロケットを付けていた。もしかしたら・・・
「大変失礼ですが陛下、その首飾り、拝見させて貰っても宜しいでしょうか?」
「・・・!はい、ではそちらに移動しま――」
ブォン、と空気の切れる音。
グレンは咄嗟に後ろへと後退する。
「陛下、私がこの不届き者を排除いたします故、下がっていて下さい」
「ゼーロス・・・!」
「ゼーロス、大丈夫です。見せるだけですよ?何も警戒する必要はありません」
「・・・協力者の可能性もあります。私は1%でも可能性があるならば、確かめなければなりません」
「!ルミア、下がってろ」
「先生!?何をする気ですか!?」
そう言いながら、ゼーロスは剣を持ち、グレンへと迫る。接近戦を得意とするグレン。しかしそれはゼーロスも同じ。ゼーロスとの技量の差は即座に埋められるものでは無い。
――一か八か
グレンはその事を理解していたからこそ、戦おうとはしなかった。フィジカルブーストの三節詠唱をしながら宮廷魔導士だった頃に鍛えられた瞬発力と足の速さでゼーロスを追い抜き陛下の下に辿り着ければこの事件は解決する。
グレンは走り始めようとする。が――
「させぬっ!」
ゼーロスがそれを邪魔する。フィジカルブーストの三節詠唱を唱える暇を与えない攻めに、グレンの顔色は悪くなっていく。
「糞っ、武器のリーチが長い分こっちの攻撃は届かねぇし・・・拙いなっ!?」
ゼーロスの剣技によって徐々にグレンの傷が増えていく。見るからに劣勢なのはグレンである事に、後ろへと下がっていたルミアは心配そうな顔で泣き叫ぶ。
「先生っ!もう良いんですっ!やっぱり私が、私が――」
「黙ってろっ!お前は俺が守らないといけねぇんだ!約束しただろうがっ!」
「でもっ・・・!」
グレンの言葉がルミアへと届くと同時に、グレンの左腕にゼーロスの剣が深々と突き刺さる。ゼーロスが剣を引き抜くと、グレンの腕からは血がドクドクと流れ出る。
「ぐぅ・・・う・・・!」
「勝負付いたな魔術講師、後ろにいるルミア=ティンジェルを引き渡せば命は奪わん」
「誰が、渡すかっ・・・!」
グレンは弱々しく立ちながら、苦悶の表情を見せつつも、ゼーロスを正面から睨み付ける。既にグレンがアリシア女王の下へ辿り着ける可能性は0に近い。
「そうか、最後まで守るべき者を見捨てなかったその姿勢、敬意を称する」
ゼーロスは最後まで守ろうとするその姿勢を評価し、グレンへ最後の一撃を与える。
これを見ていた誰もがグレンはここで殺されるのかと思った。次に起こる事を目にするまでは。
『アルカナは示す、強い意志と努力こそ、唯一夢を掴む可能性である事を』
結界の中に猫と女性の混ざったような生き物が現れる。
ゼーロスはその生き物が襲いかかって来るのを感じ、咄嗟にグレンから離れる。
「何者だ!・・・まさか――」
「違うよ、ゼーロス。私じゃ無い。この結界に人は入れ無いから、きっとこれは対象の場所へと召喚する魔術だ。これの発動者はかなり召喚魔術に長けているんだろう」
セリカは召喚されたネコマタを舐めまわす様にじっくりと観察する。今まで見て来た魔物や生物、神の下部に悪魔を記憶しているセリカは、見たことも無いネコマタの一回一回の仕草や行動を見逃すまいと興味深々になっている。
グレンは自分の前に立っているネコマタを見て、誰が助けてくれたのか即座に分かった。
「ったく、便利な魔術だな、召喚魔術ってのは・・・」
「先生っ!」
後ろに居たルミアがグレンの側へと近付き、治癒の為に腕にライフアップを掛ける。すると腕の出血は少し減り、感じていた痛みも徐々に消えていった。
「ありがとよ、助かった。さて、1人対1人と1匹。行くぜゼーロスのおっさん!」
「くっ・・・」
ゼーロスはネコマタが加わった事で不利となり、有利だった時とは違い、皺を寄せた顔に汗が流れ落ちる。
「化け猫、少しで良い、お前はゼーロスのおっさんの足留めを頼む。俺は陛下の下まで一直線で向かう。いけるか?」
飽くまでも目的は陛下の呪いを解く事、グレンの言葉にネコマタは頷くと、口から息を吹くように炎を放つ。徐々に大きく、熱くなっていく炎は、ゼーロスの周りを囲まんと円の形に走る。
「厄介な・・・!フンッ!」
「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・・・後少し・・・・・・!」
ゼーロスは一振りで炎の壁の一部を消し飛ばす。が、目の前にネコマタが足に炎を纏わせた蹴りを一撃入れに来ている。ゼーロスはこれをガード出来無いと判断し、炎の壁に当たるのを覚悟し後ろへと衝撃を減らす為に下がる。
ゼーロスが炎の壁を突き破り、転がる様に出てくると、既にグレンはアリシア女王へ後十数歩で付く所にまで来ていた。
「させるかァァァァ!」
ゼーロスはネコマタの攻撃を受け瀕死の体に鞭を打ち、グレンへと決死の体当たりをしようとする。ゼーロスの瀕死とは思えぬ速度の体当たりに、ネコマタはグレンごと炎に巻き込むと判断し、自身の身を使ったタックルをする。
タックルをしたネコマタ、受けたゼーロスはどちらも固い地面へと転がる。既にグレンはアリシア女王の目の前、ゼーロスは次のグレンの行動を妨害出来る程の距離には居ない。
「これで終わりだぁぁっ!」
「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
グレンはポケットに入っていた物を左手で出し流れる様にそれを見る。そして右手で、アリシア女王の付けている首飾りを掴み――
外した。
「ぁぁ・・・あぁ・・・あぁ・・・陛下・・・陛下ぁ!!」
ゼーロスはグレンが首飾りを取ったのを見て激昂する。片手に剣を持ち、尋常では無い速度でグレンの下へ辿り着くと、その体へと一閃を食らわそうとする。ネコマタが気付いたのはグレンの下にゼーロスが付いた時であり、既にその行動を止める事は出来ない。
「お止めなさい、ゼーロス」
――筈だった。
「陛下・・・?生きて・・・おられるのですか・・・・・・?」
「えぇ、ゼーロス。このグレン先生が助けて下さいました」
一体、どうして・・・と嬉しさと共に混乱するゼーロスへ、グレンは何が起きたのかを説明する。
「愚者のアルカナ・・・・・・、そうか、聞いた事がある。かつて宮廷魔導士団の中に、魔術士殺しと呼ばれていた者が居たと・・・・・・まさか貴方だったとは・・・ではあの化け猫は・・・・・・?」
「ん?あぁ・・・その頃からの仲間だよ。ありがとな・・・・・・て、もう消えてるし・・・」
見ればネコマタは既に消えていた。説明の途中に消えていったのだろう。
ゼーロスは今回の騒動で多大なる迷惑を掛けた事、命を狙った事、その全てを心から反省し、ルミアとアリシア女王はお互いの気持ちを伝えあい、この事件は幕を閉じた。ゼーロスはその理由から軽い罰を受けることで免除され、グレンとルミアのお互いが持つ秘密もバレること無く収集が付いた。
「はぁぁぁ・・・とても興味の湧くお力ですね・・・。もうしばらく遊んでいたいのですが、残念ながらここは逃げさせて貰います」
「ぐぅ・・・・・・待てっ!」
「女性が帰るのを呼び止めるのは、あまり良くありませんよ?」
フェジテの南地区の裏通りへと続く薄暗い通路にて、ニュクスは薄気味悪い女性と戦い、苦戦していた。
ネズミの目によって、会場から逃げる黒髪の女性の存在に気付き、それを追うも、薄気味悪い雰囲気をしているその女性の使う魔術により、召喚された多くの女性の死体がニュクスを攻撃した。ニュクスはこれに応戦する為、ペルソナや魔術を使用した。しかしニュクスへと攻撃する女性の死体の数が多く、何時まで経っても死体は尽きずに、ニュクスの傷だけが増えていった。
そして現状に至る。
「貴方は不思議な殿方ですね・・・。ここまで
「黙っていろ・・・!生憎、痴女や変態に好かれても嬉しく無い・・・!」
ニュクスは血で濡れた顔を歪ませ、目の前の化け物女を睨み付ける。
既に死んだ者を使い捨ての道具として何の躊躇も無く使用する姿は、ニュクスの心を怒りで黒く染め上げる。
「あぁ、溜まりませんっ!その目、もっと見ていたい・・・!決めました!貴方ならこれを授けるに相応しいっ!」
女性は徐に服から鍵の様な何かを取り出し、それをニュクスの胸元へと物凄い速さで投げる。投げられた鍵は、ニュクスの体へと沈んで行き、やがて完全に溶け込む。
「何を・・・したっ!」
「少しだけ変わる為の手助けをと思いまして・・・。試作品ですが、きっとそれは貴方に力を与えましょう・・・。あぁ、申し遅れました。私はエレノア=シャーレット、天の智恵研究会のアデプタス・オーダーをしております。次に会うときが楽しみですね・・・ふふ」
ニュクスへと自己紹介を終え、エレノアは姿を消す。暗い路地にはニュクスと女性の死体の残骸しか無い。
「・・・逃げたか・・・糞・・・」
力が足りなかった。あの異様な感じの女――エレノアは天の智恵研究会のアデプタス・オーダーだった。つまり捉えられれば今度こそ天の智恵研究会の目的を知れたかもしれなかったのだ。
オマケに体へと溶け込んで行った謎の鍵。良くない物だとは思うが、それ以外の判断材料が無い。完全に分からない状態。
ニュクスはしばらく体を固い煉瓦に預け座り込む。周りの死体も何体か同じ様に背中を壁に預けているのを見て、まるで死体になった気分だな、等と思っていた。
「調査が終わったら・・・ちゃんと燃やしてやるからな」
ニュクスはそう言うと、数十分後にアルベルトが来るまで、沢山の死体の中で死んだ様に眠った。
ニュクス死す(嘘)
この後ニュクス君は打ち上げに出る事も無く、アルベルトと一緒に傷の手当て+報告です。
鍵は原作の最新巻に出てきているやつと似たものです。
9巻は驚きましたね、我は汝、汝は我とか。
読んでてペルソナかっ!って言っちゃいました。
・・・・・・上手いこと利用出来ないかな、とか考えちゃったり。