先生からのプレゼントです。
これは大切で、楽しくて、悲しくて、忘れられない、そんな思い出の一欠片――
星々が煌めく綺麗な夜空、心地良い風が吹く中、とある一室で男の人生に関わる重大な事が起きていた。
「今日から貴方は、生活させて貰う代わりに、任務を受けて貰うわ。」
俺、ニュクス=アバター推定16才男性。今特務分室って所で、赤い髪した女の前に立って任務を渡されてます。え?どうしてこうなったって?俺が気絶してから、身柄をイヴに拘束され、身寄り無し、仕事無し、衣食住なんて出来てません。と違う世界から来た事以外の自分について説明したんだよ。そしたら、なら好都合ね、貴方しばらく私の所で生活しなさい、と言われたんだよ。急な展開に凄い驚いたんだけどさ、出て来る料理は豪勢だし、前世の俺は異性の家で住むとかしたこと無くて、まぁ少し?少しだけ?この世界来て良かったぁ・・・なんて思いましたよ。でもさ、当たり前だけど条件があって、任務を受けろと言う。働かざる者食うべからずってね。どんな任務、と聞いたら、害虫を退治するだけ、と言われたんだ。害虫退治にこんだけ大きい城みたいなのいるのかねぇ・・・・・・。
「んで、どんな害虫?」
「毒をバラまく蛾のようなモノね。一緒にセラを同行させるから、頑張って学んで来なさい。」
渡された資料には期限は3日後、と書かれている。蛾の退治に3日って、周囲にも被害が出てるのかな、と書類を見る。しかし、蛾の項目等何処にも無く、変わりにあるのは麻薬取引に関する人物について。
――あれ、コレヤバい仕事じゃない?
「どうしたの?まさか昨日まであれだけ豪華な食事を取らせてあげたのに断るつもり?」
料理はこの為だったのか・・・、セラという人には悪いけど、ここは全部任せよう。本当に申し訳無いけど。
ニュクスは分かりましたと答えて、セラについて聞く。イヴは聞かれると分かっていたかの様に一度もつっかえず、スラスラと説明して行く。
その説明によると、セラという人物は、執行官ナンバー3『女帝』のアルカナを持つ遊牧民族シルヴァース一族出身の女性らしい、しかも族長の娘で元姫君らしい。
・・・・・・無礼が無いようにしないと・・・・・・
「・・・・・・えと、それ本当ですか?」
「本当よ、元だけどね。」
何故わざわざそんな人選ぶんだよコイツ・・・・・・
ニュクスは自分に元姫君という普通ではない立場の人を付けた事に疑問を覚えながらも、セラに顔を合わせに部屋を出る。扉を開けようとすると、コンコンコンコンと4回扉を叩く音、ニュクスは扉を開けると、青い髪をした鷹の様な目の長身の男と目が合った。
「?失礼、帝国宮廷魔導士団特務分室所属、執行官ナンバー17アルベルト=フレイザー、任務を終了した。」
「あぁ早かったわね?なら次の任務はそこに突っ立っている子に付いてもらうかしら。」
突っ立っている子――ニュクスはアルベルトの目に内心少し怯えたが、表情には出さないように気を付け、軽く自己紹介を済ませる。
「えっと、ニュクス=アバターと言います。身寄りが無い所をイヴさんに拾われて、生活の代償に此処で働く事になりました。えっと、宜しくお願いします。」
「此処で働く・・・・・・?何を考えているイヴ。」
アルベルトはニュクスの自己紹介を聞き終えると、イヴをその鷹の様な目を細める。此処での仕事がどれだけ普通の子供にキツいものなのか、理解しているからこそ疑問に思ったのだろう。イヴはそれに当たり前の事を聞かれ困惑する様な表情で説明する。
「私が何の価値も無い駒を作ると思う?その子に魔術の特殊な素質が合ったと分かったからに決まっているでしょう?」
「特殊な素質だと?」
アルベルトは怪訝な表情でイヴを見る。普段は浮かべない様な楽しそうな表情をしているイヴを見るに、相当珍しいモノなのだろう。執行官ナンバー0のグレンの様に、魔術に向いていないが応用すれば強いのかも知れない。
「え、俺の素質?いつ調べ・・・・・・あぁ・・・引き取られた直後のアレか・・・」
「そう。貴方の魔術特性は『反映』、別の言い方をすると状態維持かしら?貴方は魔術を他と比べて消費を少なく、長く現象を維持出来る。アルベルト、貴方が欲しくなりそうな魔術特性ね?」
アルベルトはその発言を無視し、ニュクスを直視する。ジーッと見つめ、しばらくして目を離し、後で俺の部屋に来い。と告げて部屋を出た。ニュクスは、何だったんだ、今の・・・と呟き、しばらくして要件はもう無いわと言われ、イヴの部屋を出る。ニュクスが出て行った後、イヴは窓から見える星空を眺めながら、これから起きそうな事を少し楽しそうに考えていた。
「魔術特性・・・あんなの初めて見た・・・フフッ。」
イヴの部屋を出た後、俺は言われた通りアルベルトさんの部屋を訪れた。この後セラさんに会わなければいけない為、長くならなければ良いな・・・
「来たか・・・」
ニュクスは机の上に置かれている資料に目を向けている為、アルベルトの表情が見えない。要件は?とアルベルトにニュクスは聞いた。アルベルトはそれでも資料に目を向けたまま、要件を話し始める。
「お前の得意な事は何だ?」
「・・・・・・え、あ、得意な事ですか?」
いきなり飛んできた小学生の様な質問に驚いたが、素直に前世で得意だった事を伝える。
寝る事とゲーム、勘と射撃ですかね。と答えてアルベルトの様子を見る。射撃と聞いて一瞬アルベルトは資料のページをめくる手を止めたが、未だに資料を見ている。
「・・・苦手な事は?」
「そう・・・ですね・・・あ、勉強とゴキブリ退治、後は殆どのスポーツです。」
アルベルトは勉強が苦手と聞くと、サッと座っていた席を立ち、ニュクスに読んでいた資料を渡す。イヴへの返却だろうか、とニュクスは考え、アルベルトから軽く100枚近くある資料を受け取る。
「それは宿題だ。此処での学力不足は時に死に繋がる。死にたくなければ、その資料の内容をバカでも分かるぐらいに簡単に纏めてこい。評価は俺がする。」
期限は3日後だ。と告げて、アルベルトは再び机に向かい、新しい資料を読み漁る。勤勉で頭良さそうで強そうだなぁ・・・もしかしてセラって人も筋肉とか凄いのか・・・?とアルベルトを見たニュクスは考えていた。宿題として出された資料を持ち、ニュクスは部屋を出る。アルベルトはニュクスが出て行ったと判断し、読んでいた資料のページにしおり代わりに何かが書かれたメモを挟む。
――射撃が得意でマナ消費が少ない、か。成る程、確かに羨ましい魔術特性だ。特に狙撃に通ずるものに置いて、才能がありそうだ。
アルベルトは椅子に座ったまま、ニュクスの才能を開花させるプランを考えていた。因みに、アルベルトの作るプランは、無理してなんぼ、無茶してなんぼのものである。何でも、とある『隠者』は見ただけで恐怖して1日眠れなかったとか。
「フッ、久し振りに任務以外の事で徹夜をしそうだ。・・・・・・そう言えば宿題を渡しに行かなければな・・・。」
アルベルトの部屋を出て行き、資料を持ったままニュクスはセラの部屋を目指す。途中で会った黒髪の男性によると、この先にある民族の着けてそうな羽の付いたアクセサリーが掛かっている部屋がそうらしい。
「お、見つけた。」
ニュクスは資料を片手の平の上に乗せ、ウェイトレスの様になりながら扉をノックする。コンコンコンコン、4回叩くと部屋の中から声が聞こえ、しばらくして扉が開いた。
「あれ?君は?」
「自己紹介に来ました。えっと、本日付けで良いの・・・かな?任務を受ける事になったニュクス=アバターです。えっと、その、宜しくお願いします。」
相手が女性の上、元姫君というのもあり、先のアルベルトより緊張が増したニュクスは自己紹介を間違いが無いか心配になりながらセラへする。その様子にセラは少し笑うと、ニュクスの頭の上に手を乗せて、その青い髪をよしよし、と言いながら優しく撫でる。緊張を解す為なのだろうが、ニュクスからすると恥ずかしいと言う追撃でしか無い為、顔をほんの少し赤くする。・・・・・・恥ずか死い。
「あれ、緊張解せなかったか・・・、でも君みたいなまだ小さな子がどうしてこんな所で?」
「あ、えと、代償です。養ってもらう。」
それを聞いたセラは即座に引き取ってくれる身寄りが居ないんだと気付き、暗い表情を見せる。これから任務をして辛い思いをする事になるだろうまだ自分よりも若い男の子の姿に、セラは優しく、ニュクスの心に問い掛ける様に質問する。
「・・・・・・君は任務をどう思う?」
「任務、ですか?それは、その、イヴから貰った内容を見る限り・・・・・・好きとは思えなかった・・・です。」
ニュクスは素直に自分の思っていた事をセラへと打ち解けた。セラはその事に満足したのか、うん、そっか、と少し嬉しそうに笑みを浮かばせる。
「・・・あれ、その資料は?」
「あ、アルベルトさんから宿題で・・・・・・」
アルベルトからの宿題、という言葉に、セラはえっ、と固まる。えっと、どうかしました?とニュクスが聞いてもセラに反応は無く、しばらくして意識が戻り、一言ニュクスへと伝えた。
「あー、えっと、死なないように頑張って!私応援してるからっ!」
セラはそう言うと扉を閉める。・・・・・・どうやら非常にマズい物を受け取ってしまったようだ。
「・・・・・・死なないように死ぬような物渡すかなぁ・・・普通。」
一人扉の前で呟くニュクス、しかし誰もその疑問に答えてくれる者は居なかった。ニュクスは一人、夜の廊下を自室まで歩くのであった。
「あの子大丈夫かなぁ・・・?アルベルトの出す宿題って、拷問レベルで有名なんだけど・・・・・・ん、誰?どうしたのアル――」
どうでしたか?アルベルトが殺る気(本人にその気は無い)になっている姿を書くのは苦労しました・・・・・・
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