煤に塗れて見たもの   作:副隊長

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22.夢と生きる道と

「マリアさんッ」

「――ッ!?」

 

 水竜がマリアに向けその咢を以て襲い掛かる。エルフナインの叫びに、思わず思考停止していた体が急速に事態を把握していく。思考が追いつく前に跳躍していた。衝撃。間一髪のところでエルフナインを抱きかかえたままマリアは窮地を脱する。

 

「イグナイトの制限時間も残り僅か。此方の制限時間も似たようなもの。悪いけど、出し惜しみはしないわよ?」

「な、まだ増えるか!?」

 

 水竜が二つ三つと増え、最期には五体の竜が生まれる。各々が触れるだけでシンフォギアの障壁ごと押し潰しかねない圧力を放っている。エルフナインを抱えながら後退したマリアの背に戦慄が走る。確かにガリィには一度勝利している。だが、眼前に広がり威を振るうこの力は何だと思う。自動人形は確かに強かった。だが、その比では無い。本気で戦えと言っている。黒金の言葉を代弁する様なガリィの言葉の意味を、目の前の光景が嫌というほど明確に告げている。自身はイグナイトを発動し、暴走すらも制御した力を纏っている。だが、目の前の敵の強さは何だ。

 

「うぁッ!?」

「ッ、すまないエルフナイン」

 

 無理な機動により、青の攻勢を何とか凌ぐも、別の問題が浮上する。シンフォギアの保護を持たないエルフナインである。常人を遥かに越えた機動力による、回避行動。何とか錬金術による身体の保護を行っているが、生身には強力すぎる機動が、エルフナインの口から苦悶の声を零させる。

 

「クロちゃん」

『――自動錬金』

 

 そんな様子を見ていたガリィが、黒金の自動人形に一言伝える。二つの自動人形は、英雄の剣を媒介に繋がっていた。何を望んでいるのか、それだけで言葉を尽くすより早く伝わる。黒金の自動人形が右腕を強く握る。命の輝きが、吹き荒れる。そして、水竜を避けながらも黒金にも意識を割いていたマリアの反応速度を超える。

 

「うぁッ!?」

「――ツ!?」

 

 瞬撃。何処に消えたと思うよりも早くマリアの胸に渾身の一撃が突き刺さる。拳。金色の輝きを放ち続ける右腕を以て、マリアを全力で打ち抜いていた。完全に認識速度を越えられていた一撃。その強烈過ぎる拳に、エルフナインを取りこぼしてしまう。しまった。マリアはそう思うも、視線すら動かす事が出来ない。直後に砂浜の上を吹き飛ばされるマリアが別の衝撃を感じた。

 

「うぁ……。エルフ、ナイン」

 

 受け身を取る事すらできず地を転がり、強すぎる慣性を何とか減衰させたところで膝を突き踏み止まる。たった一撃。黒金の拳を受けただけで膝が笑っている。膝だけでなく両手をつき何とか立ち上がったところで、地に感じた衝撃の事もありエルフナインの安否に意識がむく。しかし、エルフナインはおろか、先ほど確かに拳を叩き込んで来た黒金の姿すら見えない。

 

「まったく、クロちゃんには感謝しなさいよ。邪魔なエルフナインを態々安全圏まで捨てに行ってくれたんだから」

「なん、だと?」

「まぁ、あんたがエルフナインを気に掛けてると、全力を出せないからでしょうね。敵さん相手に何を馬鹿な事をと思わないでも無いけど、元となった英雄がアレだものね。仕方がないか」

 

 何処に行ったと焦燥を示すマリアの様子にやれやれと言わんばかりに青は肩を竦める。そのまま一度攻撃の手を止めるも、即座に海水を操り、二体の水竜だけを作り出し今度は戦場全体を覆いつくさんばかりに海水を高く高くと収束する。青の右腕。時間が無いという先の言葉を裏付ける様に全身に展開されていた純白の外装が少しずつ崩れ始める。イグナイト。既に起動からそれなりの時間が経っており、恐らく制限時間の7割程度は使い切っていた。エルフナインは黒金に連れ去られ、眼前には崩れ落ち始めたガリィがただ笑っている。どうすれば良い。そんな言葉が思い浮かぶ。

 

「きなさい。あなたの全てであたしに示して見せてよッ。『英雄』を引き摺り下ろす。それが、『英雄』を否定し強い意志を示したあんたの責任よ」

「――。人は『英雄』などに縋ってはならない。誰かが高みに立って守ってくれる。それは、守られる側からすれば心地良く、温かなものなのかもしれない。だとしても、それだけで終わってはいけない。戦う者は何時だって傷付いている。己の責任から目を背けてはならない。そんな為体では、今に繋いでくれた人たちに合わせる顔が無いッ!!」

 

 マリアのそんな内心を察したように青が全力を示せと笑う。その間にも海水は集い更に大きな力と成していく。海。戦場はガリィの力が最も活きる場所である。ただ、先ほどまでの戦いでは活かさなかっただけなのだ。思考の片隅で通信が飛ぶ。残りカウント200を切っている。左腕。覚悟を決める。握った拳に宿るのは、受け取り繋ぐと決めた想いと、仲間が気付かせてくれた本当の強さ。弱くても良い。平凡な拳でも良い。己の弱さを認め、それでも尚諦めずに立ち上がる事の強さを握りしめ心に歌を灯す。

 そんなマリアの姿に青は嬉しそうに口角を歪める。腕が、足が、身体が崩れていく。毒に塗れた『英雄』が自壊するかのようでありながら、それでも何の迷いもなく力だけを集め束ねる。その力に呼応するように水の竜は天に向かい伸びていく。

 左腕。高まる力の全てを収束させる。アガートラームの腕部装甲をガングニールの様に展開、聖剣を接続。銀色の剣を基点に高められた歌の力が一点に収束する。腰を深く落とし、力の放出に耐える為食いしばる。

 

「生き残ってみせなさい。そして『英雄』と呼ばれる者の強さを知れッ。その上で、もう一度『英雄』なんていらないんだと、吼えて見せてよッ!!」

「何度だって言ってやる。人は『英雄』などに縋ってはならない。守られるだけに終わり、あがき、もがき、そして最後に立てることを忘れてはならないッ!!」

 

 そして、閃光と激流がぶつかり合う。互いに高められた力。放たれるは、星の力である海を用い極限まで高められる命の一撃、。迎え撃つは、友に教えて貰った想いを握りしめた少女の歌によって高められたフォニックゲインの収束、一条の想いの閃光。左腕。マリアと一撃と、ガリイの一撃は互いの左腕を基点に放たれる。銀腕がぶつかり合う余りの出力に軋み悲鳴を上げる。青の左腕。崩れ落ちるそれが加速する。

 

「私は、負けない。この力で、託された想いで、強く成って見せるッ!!」

 

 歌が加速し、フォニックゲインの高まりが限界すらも越える。視界一面に広がった海の奔流。銀腕から放たれる想いの一撃を以て打消す。そして、海を越えた先に居る筈のガリィを穿つ。笑み。閃光に貫かれた青が笑っている。水竜。一対のソレは、貫かれるガリィを無視するようにマリアに向かいその牙を剝ける。

 

「――ッ!?」

「何を呆けているのかしら? 戦いで傷を負うのなど、特別な事ではないんじゃない?」

 

 一条の閃光に貫かれ弾き飛ばされたガリィは、即座に中空に錬金術を発動。即席の足場を作り出し、それを基点に一気に飛んだ。聖剣を手にした少女は目を見開く。身体は穿たれ自壊し、それでも自動人形は止らない。纏っていた純白の外套。風穴を開けて尚、力強く、その強さを示す。『英雄』は止らない。身体を穿った程度では、歩みを止める道理は無いと言わんばかりに力を掴み取る。二体一対の水竜。追いついてきたガリイがその二匹に崩れ落ちる両腕を翳す。そして、二振りの氷剣を掴み取った。至近距離。力を解き放った反動と迎え撃った力の輝きに、一瞬反応が遅れたマリアに向かい軌跡は煌めいた。

 

「良い事を教えてあげるわ。『英雄』とは己の意志でなれるものではない。誰かの中でこそ、なる者なの。英雄を必要とする者の中で、気付かぬうちに届いてしまっているものなの」

「だとしても、人は誰かでは無く、己が力で立っていなければいけない。誰かに任せるだけではいけないんだッ!!」

 

 左腕。聖剣と英雄の剣がぶつかり合う。互いの刃が砕け散る。重なり合う視線。右腕。聖剣を押し切った英雄の剣が、防御をこじ開けられた剣の乙女へとその刃を以て想いを押し通す。自壊する刃。だからこそ、最期の輝きを示すようにその力を誇る。

 

「――ッ」

 

 避けられない。早さと強さ。そして、示される力にマリアは歯を食いしばる。死。眼前に突き付けられたそれを前にして尚、逃げる事は選べなかった。ごめんなさい、みんな。そんな言葉が胸の内を過る。守りたかった。そして共に生きて行きたかった。そんな想いが、強く胸に生まれる。それでも、もう何かを為す力が無かった。

 

「――チッ。時間切れか。此処までのようね」

「――なん、だと?」

 

 刃が少女を一刀の下に切り伏せる。その直前、マリアのイグナイトが制限時間を越え強制解除される。強制的に生身に戻されたマリアの眼前で英雄の剣は停止する。至近距離にいるガリィ。マリアと視線が交わり、まぁ、仕方がないかと苦笑を浮かべた。

 

「おめでとう、強き人間。あんたは『英雄』の力に打ち克った。生き残った」

 

 突き付けられている刃が砕け散る。突き出されていた左腕。限界威を越えた力に耐えきれなかったと言わんばかりに崩れ落ちて行く。腕が砕け、足が砕け、胴が崩れていく。青の身体が、ぐらりと揺らぐ。

 

「あら? どう言う心算かしら?」

「――ッ。私は、勝ってなどいない」

 

 どうしてと思うよりも前に、咄嗟にマリアは受け止めていた。崩れ落ちる身体が、どうしようもなく悲しかった。自壊しながらも恐れすら見せず戦った姿がどんな言葉よりも雄弁に示しているのだ。死を恐れぬ強さ。そして悲しさを。『英雄』と呼ばれる者の行きつく果てを。

 

「それでもあんたは生き抜いたわ。例え撃ち破る事は叶わずとも、その想いを貫いて見せた。抗って見せた。そして『英雄』の力は、抗う術を失くした者を討つほど安くはないのよ」

「私は、強くなどな――」

 

 

 本気になった青の力に耐え凌いだマリアであるが、敗北感に襲われていた。自身が何とか立っているのは、ただ時間切れに追い込めただけに過ぎないからだ。最後の瞬間。それがあと数秒続けば確実に負けていただろうことが解ってしまう。故に、自分は結局託されたものを握りしめても強くなれなかったと悔しそうに零す。

 そんな勝利者の姿にやれやれと思いながら言葉を遮る。気付いていない様だが、本気になった自動人形を相手に、食らいつく事など、先程までのマリアでは考え付かない程の変化であった。これまでの様な手抜きの戦いでは無く、『英雄』が相手の時の様に殺す気で戦い、その上で殺し切れなかったのだ。殺さないのと殺せないのでは天と地ほどの差が存在していた。自身が『英雄』の力を前にギリギリではあるが踏み止まれている事に気付かず、強くなれていないと零すマリアの姿が、滑稽であった。だからこそ、強いのだとも思い苦笑が零れる。

 

「そう言える事こそが強いのよ。まぁ、今のあなたには解らないかもしれないけどね。精々、悩みもがきなさい――」

 

 そして一瞬の静寂。一陣の風が吹き抜けていく。最後にそんな言葉を残し、青は砕けて消え去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「小日向。エルフナインを頼む」

 

 傍に居た小日向に短く告げる。返事。待たずして意識を失っていたエルフナインを預ける。黒金。アルカノイズ出現の通信を受け傍らにいた小日向と共に現場へと向かっている途中だった。その最中。何度か凄まじい水流が海辺から立ち上り、それに向かっている時に現れた。

 黒金。エルフナインを抱え、一直線に此方に向かって来ていた。一瞬の判断。間合いに入る直前黒金が制止し、対峙する事になった。動く。そう感じた時、黒金はエルフナインを差し出すように歩みを進めた。金眼。既に抜かれている英雄の剣。外装越しに瞳が合った。人形故に感情が宿らない筈の瞳。何故か、揺れているのが解った。抜きかけた童子切を収め、エルフナインを受け取る。そして小日向にエルフナインを預けたのが今であった。

 

「……」

 

 無言で黒金と見つめ合う。血刃。それが既に抜かれている。だが、未だ刃が動く事は無い。何もせず、剣気を纏う事すらせず、ただ見ていた。やがて、黒金に変化が訪れる。かつて斬り落とした右腕。黒金の小手。金色の宝玉以外に、青き宝玉が増えているのに気付く。その宝玉が、不意に強く輝きを示した。海辺の方で、凄まじい水流が舞い上がり、数瞬後、それを貫くような閃光が駆け抜けていく。

 

『――』

 

 黒金が視線を水流と閃光が駆け抜けた方向に映した。隙。斬ろうと思えばいくらでも斬れる程のものを晒していた。それを、斬り捨てようとは思わなかった。ただ、揺らぐ刃を見つめ続ける。

 

『――英雄の剣(ソードギア)残された力(アドヴァンスドサード)

「ッ!? 先生!?」

 

 不意に、力が弾けるのを感じた。黒金の全身を、凄まじい力が吹き荒れる。金色の、命の輝き。それが叫び声を上げる様に、ただ強く吹き荒れる。小日向の鋭い声が飛ぶ。それに、ただ下がっていろとだけ告げる。黒金の周囲が、全てを凍てつかせようとするかのように姿を変える。その姿に、何となく解ってしまった。泣いているのだ。

 

「仲間を失うのは、初めての経験か?」

 

 一言、黒金に向け問いかける。視線。ゆっくりとこちらに向けられる。赤き刃。ただ、強く握りしめられている。氷嵐。慟哭を上げる様に、黒金の右腕を中心に吹き荒れ続ける。感情の揺らぎ。手にした血刃から、明確に感じた。ゆっくりと、童子切を抜き放つ。左腕。浅く斬り裂いた。

 

「言葉など不要か。来い。付き合ってやる」

『――』

 

 言葉の意味を理解したのか、黒金もまた血刃をゆらりと動かす。視線が交錯する。潮合が満ちていた。小日向がごくりと息を呑んだ。その音色が合図とするように黒金が低く跳躍した。見据える。その速さは、装者の誰と比べても尚、速い。

 

「刃が、随分と揺らいでいる」

 

 全霊の一閃。無造作に、だが、全霊を以て放たれた一撃を受け止め、その意思を明確に感じ取る。意志の載せられた刃。それは、どんな言葉より雄弁に想いを突き付けて来る。大切なものを失くした。失いたくなかったのに、そうするしかなかった。そんな子供の癇癪の様な慟哭を刃が痛いほどぶつけて来る。それを、ただ受け止め続ける。斬ろうと思えばいくらでも斬れる。だが、そうしようという気が起こらない。小日向の叫びが、どこか遠く聞こえる。血刃。例えそれに至ろうと、今の黒金の刃など何も恐れる事は無い。殆ど感情を表す事の無かった黒金が、言葉では無く刃だけで想いをぶつける。その刃を受け止め、ただ見据える。

 

「痛く、辛く、そして悲しい。仲間を失うというのは、大切な者を失うというのはそういう事だ。だからこそ人は亡くしたくは無いと想い、だからこそ人は喪わない術を探す」

 

 血刃を受け止め、逸らし、弾き飛ばす。黒金の右腕が更に強い輝きを放ち、全てを凍らせようとその威を振るう。逝ったのは、青か。その姿に、そんな事だけを思う。身体が凍てついていく。気に留めず、刃を受け止める。右腕を強く握りしめた。

 

『――自動錬金』

 

 黒金の動きが加速する。それを必要最低限の動きで往なす。どれだけ速くなろうとも、使い手が鈍である事に変わりはない。加速した血刃を、己が血刃を以て撃ち落とす。どうして。黒金のそんな言葉が聞こえるような気さえして来る。ただ、涙を流しながら振るわれる剣を見詰め続ける。

 

「人形に涙などありはしないか。泣けぬのは辛いな。だが、お前が戦場に立つというのならそれで良い。戦いの果てでの死を嘆く事などあってはならない。戦いの果てでの死を否定してはならない」

「――」

 

 至近距離で撃ち合いを続けていたが、これ以上は続ける意味もない。一閃。黒金を弾き飛ばし距離を取る。見据えた。強く、強く黒金は血刃を握っている。此方の刃、最後の一撃を終えた後、刃は白刃に戻っていた。敢えて、再び血刃を握る事を禁ずる。

 

「小日向」

「は、はい」

「見ておけ。血刃との戦い方を教えてやる」

 

 黒金が力を収束していく。次で終わり。気付けば消えていた氷の力に、そんな想いを感じ取る。俺達から距離を取り、エルフナインを庇っていた小日向に声をかける。血刃の持つ力は無双と言えるだろう。だが、全能では無い。血刃を破るのに、血刃を越えた力など必要では無かった。皆が皆、力を求めている。小日向も、装者達も、そして、馬鹿な娘も。それが、どうしようもなく危うく思えた。強いというのは、新たな力に至る事ではない。想いを押し通す為、より強い力を求める事などであって良い筈が無い。黒金の右腕に添えられた血刃を見詰め、此方は左腕で童子切を手にした。再び訪れる潮合。

 

「来い。先に斬らせてやる」

『――』

 

 踏み込み。予想を上回る速さで一気に跳躍していた。錬金術を用いる事なく行われたそれは、だからこそ、先ほど以上の高みへと至っていた。低い姿勢からの勢いを乗せた逆袈裟。笑みが零れる。錬金術を用いる事無く、更に強くなる黒金の姿が、何故か嬉しかった。右腕。黒金の右腕に、黒鉄の右腕をぶつけた。凄まじい衝撃が右腕に生じる。それを、流す事なく内に宿す。斬撃。血刃は無双の一振りではあるが、刃で斬らねば斬り落とす事は出来ない。放たれたそれを、刃では無く腕を打つ事で制する。武門。それは剣だけに非ず。戦いとは、水の流れの様にその時折で幾筋にも変わるものなのだ。

 二の太刀。弾かれた勢いを流しきり、再び放たれようとする斬撃。ほんの一瞬困惑を宿した金眼に向け、まだまだ未熟者だ、と吐き捨てる。

 

『――ッ』

 

 渾身。拳の間合いで尚、血刃に拘り刃を振り抜こうとした未熟者を拳を以て打ち上げる。黒金の腕から、血刃が零れ落ちた。無防備に晒された胴体。身体に宿った力を殺さず、そのまま勢いを乗せ蹴り飛ばす。

 

「血刃を、破った……?」

「言った筈だぞ小日向。血刃は無二ではある。だが、そこまでだ。それ以外の全てを超える訳では無い」

 

 小日向が驚きを隠さず零す。左手の童子切。使う事なく鞘に納める。確かに血刃は強い。黒鉄の自動人形は強大な敵である。だが、それだけで戦いは制する事が出来るものではない。戦う力が強ければ良いと言うものではない。強き力。時にそれは、思わぬ弱さを生む事も充分にあり得る。

 吹き飛ばした黒金。間合いの外で、ゆっくりと立ち上がる。金眼。再び目が合う。ただ、小さく笑った。

 

「手にしたものに拘り過ぎだ、馬鹿者。――少しは、気が紛れたか?」

『――』

 

 黒金が手放してしまった血刃を消滅させる。無手。互いに刃を収め、視線が交錯する。

 

「行け。これで貸し借りは無しだ」

『――自動錬金』

 

 そして、黒金に一言かける。機械音声。それが響き渡り姿を消す。

 

「先生は、なにを……?」

「上手くは言えない。言えないが、刃は確かに泣いていたよ。或いは、涙を流せぬから、刃を以て泣きに来たのかもしれないな」

 

 エルフナインを抱え黒金との戦いを見詰めていた小日向が零す。その言葉に、満足のいく答えを返す事が出来なかった。ただ、血刃は血刃を以て相対さなくても破り得るのだと、示す事は出来ていた。

 

 

 

 

 

 

「あんたは、大丈夫なのかよ?」

「問題ない。少しばかり、刃を重ねただけだ」

 

 エルフナインを抱え、小日向と共に宿泊施設へと戻って来ていた。その場には既に皆が集まっており、同じく幾らか傷を負い戻って来たマリアの治療を施していた。小日向にエルフナインを預け、自分は部屋を移す。安楽椅子に座り込み、深く息を吐いたところで視線を感じる。そのまま、気配が動き、言葉が投げかけられる。雪音クリス。マリアの治療とエルフナインの解放を他の者達に任せ、自分の様子を見に来たようだった。投げかけられた言葉に、とりあえずはと頷く。黒鉄の右腕の力も使わず、血刃もそれほど多くは用いなかった。無理という程の戦いを行ったつもりはない。少し疲れただけだよと、心配性な白猫に告げる。

 ふと、白猫以外の視線を感じた。低い位置。気付けば部屋の隅の方に、連れて来ていたクロが丸まりながら此方を見ている。数瞬、黒猫と見つめ合う。すっと猫は立ち上がり、真っ直ぐな足取りで此方の下に向かいすり寄って来た。そっと抱き上げる。にゃあっと一鳴きした。

 

「コイツも心配してるってよ」

「……。そのようだ。誰も彼も、心配性なものだよ。有難い事に、な」

 

 戦場にあるクリスは兎も角とし、クロの様な猫にまで心配されているとなると苦笑が零れる。無論、猫である為、此方がどのような生き方をしているのか理解はしていないだろうが、動物故に、感じる物があるのかもしれない。

 思えばこの子は、自分が一人であった時からずっと共に居る。多くの戦いがあった。

 装者に出会い、ノイズを相手に立ち回り、始まりの巫女とぶつかり合い、自動人形が暗躍し、英雄の剣が作り上げられ、今、錬金術師とそれに従う自動人形が世界を壊そうと画策している。そんな戦いの折、最も自分が言葉を投げかけたのは、或いは、玄だったのかもしれない。会話をしたという意味ではない。胸の奥底に在るものを投げかけたのは、話す事が出来ない、黒猫だったのかもしれないと思う。猫が相手であったから、ある意味自然体でいられたのか。一人の時でも、多くの時を共に在った。日常であり、家族であった。傷付き身体を癒す時も、繋ぎ続けられた技を研鑽する時も傍に居た。多くの時を共にしたのだと、ふとした折に感じる。両親の墓参りに戻った時も、言葉を投げかけた事を思い出す。何を話そうか、玄に話す事で、自分の中を整理していた。拾ってから多くの時を過ごした家族である。猫であり家族でもあった。多くを語るのに躊躇う事は無かった。

 

「無理、し過ぎなんだよ。あんたは」

「そんな心算はないのだがな」

 

 抱き上げ、膝の上に抱えたクロを撫でていると、白猫がすぐ傍に腰を下ろした。零した言葉が震えている。何時も想いを押し通して来た。その度に、白猫には複雑な想いを抱かせたのだろう。或いは、近付き過ぎたのかもしれない。不安を隠そうとしないクリスの様子にそんな事を思ってしまう。

 会話がそこで途切れる。数瞬の沈黙。音が零れていた。不意に、クリスが歌を口遊み始める。聞き覚えのある歌。確か、文化祭に訪れた時に聞いた歌だ。思い出す。宿泊施設の一室で歌っている為、伴奏は無い。だが、聞き覚えのある歌詞に、嗚呼、あの時の歌かと思い至る。司令と共に並び聴いた。最初の数節は、会場に飲まれ、歌い始める事が出来なかったのだと後に聞いたが、あの時の歌だった。瞳を閉じ、歌を聞く事に意識を移す。まだ見ぬ自分の事が判らなくて、戸惑っていた。だけど、手を差し伸べられ大丈夫だと言ってくれた。信じるってこと、大切なもの。やっと見つけられたと、そう歌っている。

 歌は想いである。或いは、歌の歌詞が雪音クリスに通じるものであるからこそなのかもしれないが、誰かが手を繋いでくれた強さと、それ以上の優しさを手にした事を歌が伝えてくれていた。笑っても良いかな。許して貰えるのかな。あるがままに歌っても良いのかなと、歌が問いかけて来る。言葉では無く、内心だけで頷く。帰る場所。確かに、それは在った。捨て猫の様でしかなかった荒んだ少女が、今、そんな優しさに触れた歌を唄ってくれていた。それが、ただ嬉しく思う。

 

「以前にも言ったが、俺は君の歌が好きな様だ」

「――ッ。そっか」

「だからこそ聞いておきたい。君にとって歌とは、なんだ?」

 

 だから聞いていた。歌が終わり、左腕に付けられたネフシュタンの力が少しだけ満ちたのが解った。身体の内を、温かなものが吹き抜けていく。だからこそ、今聞いておきたかった。

 

「あたしにとっての歌?」

「ああ。君にとっての歌だ。雪音クリスにとって、歌とはなんだ?」

 

 問いかけ。それ以上の言葉は発せず、ただクリスの言葉を待つ。随分難しい事を聞いているという自覚はある。だが、知っておきたかった。

 

「わかんないよ」

「そうか」

 

 しばらく考え続けて、ぽつりと零れ落ちたのはそんな言葉だった。

 

「あんたに出会った時、あたしは歌が嫌いだった。そう思っていた。だけどあいつらとぶつかり合い、おっさんに大切な事を教えて貰った。パパとママは歌で世界を平和にしようとした。あたしに夢は諦めなければ叶うんだって教えようとしてくれていた。そんな二人の歌が、大好きだった。その気持ちを思い出させて貰ったから、もう一度歌が好きだって言えるようになった」

 

 そして、解らないと零した言葉を皮切りに、一つ二つと言葉が紡がれ始める。

 

「リディアンに通うようになって、あたしなんかにも友達だって言えるような人たちも増えていった。色んな事が初めて過ぎて、上手く接する事が出来ない事もあったけど……、そんな時歌があたしを助けてくれたんだ。授業の時であったり、何の変哲もない会話の中であったり、学園祭の時の思い出であったり……」

 

 歌は色々な事を教えてくれた。与えてくれた。初めての学園生活でも、大好きだった歌が多くのものを繋いでくれた。繋がりを、手繰り寄せてくれたと続ける。一度は嫌いになった歌だけど、今は大切なものだと胸を張って言えると。そんな言葉を紡いでいく。

 

「歌は戦う為の力だって本気で思った時もあった。その力で戦争を起こすものをぶっ潰してやろうと本気で考えていた時もあったよ。だけど、それじゃダメだって教えてくれた人たちもいた。シンフォギアを纏う以上、歌は力だという側面もある。だとしても、それだけじゃない」

 

 歌は力である。そう認める一方で、それだけでも無いとクリスは続ける。シンフォギア。その力を振るう為には歌によるフォニックゲインが欠かせない。戦う為の力でもあるんだと少女は続け、だとしても、っと言葉を続ける。

 

「歌は戦う力じゃない。戦う為に用いる歌なんて、歌の本質から見ればほんの僅かなものでしかない。だって、パパとママの歌は、あんなに素敵だったんだから」

 

 自分の大好きだった歌は、戦いの為の歌なんかじゃなかった。人々を繋げ、世界を平和にしたいという願いだったのだと。誰かを想う、優しさが大好きだったと。

 

「だからね。あたしはパパとママの夢を繋ぎたいと思った。その夢はきっと、綺麗で守るべき優しさだから。だから夢を繋いで行きたい」

 

 だからこそ、夢は自分が繋ぐんだと。二人が大好きだったあたしが繋ぐんだと、小さく笑う。

 

「あたしにとって歌はね。多分『繋がり』何だと思う。手を差し伸べて繋がってくれた人が居る。大切な想いを残してくれて、繋いでくれた人が居る。こんなあたしの歌を、好きだと言って大切なものを繋いでくれた人が居る。うん。歌は、あたしにとって『繋がり』なんだと思う。今を生きて、夢へと進む為の繋がりなんだ……」

 

 最後に白猫は、歌とは自分にとっての『繋がり』なのかもしれないと結論付ける。その想いをただ聞いていた。少しだけ口許が綻ぶ。強くなったのだなっと、ただ思っていた。何処か危うく、頭の片隅で案じる事が多かった娘であるが、その必要はないのだろうと思えていた。まだまだ脆い。だけど、既に拠り所はあるようだ。それが、ただ嬉しく思う。

 

「夢へと進む為の繋がり、か。良いな、君の歌は」

「~~ッ。あ、改めて言うなッ!? その、恥ずかしい、だろ……」

 

 君にとっての歌とは良いものだなと伝えると、白猫は恥ずかしそうに赤くなる。その様子を相変わらず可愛らしいところがあると思いながら見つめる。クロが身動ぎをした。丸まっていた黒猫が、顔を上げ俺とクリスを交互に見やる。

 

「あ、あたしの事ばかり聞かれてると不公平だッ! あんたにも何かないのかよ。例えば、こう、夢とかッ!?」

「夢……、か。今の俺に夢などありはしないな」

 

 一瞬気が逸れた事で、クリスが無理やり会話の流れを変える。聞きたい事は聞けていた。まぁ、良いかと会話の流れを変えずに続ける。

 

「意外……、なわけでもないけど」

「まぁ、それなりに生きているとな、色々な事を考える事もある。自分の手にしているもの。自分に届き得るもの。夢もそのうちの一つだろうか」

 

 クリスの言葉に頷く。我ながら、己は夢の為に生きるなどと言い切る性分では無い。武門である。戦う術を磨き上げて来ていた。だからと言う訳では無いが、自分にはクリスの言うような大きな夢と言うものはありはしない。

 

「じゃあ、あんたにも昔は夢とかあったのか?」

「……そうだな。青臭い事を考えていた頃も無かったとは言わんよ」

「なら、それを教えてくれよ」

「……、まぁ、内緒だ」

 

 クリスの言うような、夢を抱いた事が無いとは言わない。だが、自分のそれは誰かに語るようなものでは無かった。少なくとも、雪音クリスの夢の様に、誰かの為に歌うという優しさに満ちたものとは違うだろう。何より、かつて見た夢など、早々語るものだとは思えない。既に自分の中では終わっている。語るような事には思えない。人の事は聞いておいて悪いとは思うが、話す気にはならなかった。

 

「ちょ、人の事は根掘り葉掘り聞いた癖にずりーぞッ!!」

「すまない。大人とはずるいものなんだ」

 

 あんまりと言えばあんまりな此方の言葉に、白猫は頬を膨らませてむくれる。怒っているようだが、響が相手の時の様に無理押ししようとする気はない様だ。

 

「そうだな。もし、君の夢が叶う時が来たならば。その時は教えようか」

「本当だなッ? 絶対に絶対だからなッ!」

「ああ、約束だ」

 

 流石にあまりにも意地悪が過ぎるかと思い、そんな事を約束していた。とは言え、半ば話さないと言っている様なものなのだが、白猫がむきになってゆびきりを行う。妙なところで幼くなるが、そんな姿がらしくて笑みが零れる。

 クリスの夢が叶うのには、どれほどの時が必要であり、どれだけの壁があるのか。夢を掴み取る高みに立った時、果たして傍には誰が残っているのか。左腕に暖かな想いが宿ってくれている。だからこそ、夢を掴んで欲しいなと、そんな事を思う。

 

「と言う訳だ緒川。この子を頼むぞ?」

「――は?」

 

 話が一区切りつく。その瞬間、一言部屋に響くように言い放った。クリスの素っ頓狂な声が届く。緒川慎次。超常災害対策機動部S.O.N.G.の司令風鳴弦十郎の懐刀であり、歌姫風鳴翼を世に送り出す主導者でもある。その手腕は、芸能に関して疑う余地はなく、人としても信用できる人物だった。いるのは解っていた。と言うか、元々は今回の件で出た被害について、緒川と情報共有をする為に場所を移したという理由もあったのだが、先にクリスが来てしまったという事だった。

 

「いや、この状況でネタばらしをしますか?」

「まぁ、そのうち話そうと思っていたのだろう? ならば、早い方が良い。色々と都合が、な」

「それはそうですが――」

 

 天井からトンっと降りて来る緒川の言葉に頷く。善は急げと言う訳では無いが、夢の内容が内容である。準備や学び始めるのは早い方が良い。風鳴翼の様に歌い踊る偶像としてとは少しだけ違う方向になるのかもしれないが、やらなければいけない事はそれ程変りはしないだろう。

 

「な、な、な――」

「……、クリスさんならば、まぁ、こうなりますよね」

 

 パクパクと口を開く白猫の頭に触れる。そのまま、子供を撫でる様にくしゃくしゃと撫でる。ほんの僅かな時間、そうしていた。沈黙。なにすんだよと、恨みがましそうに此方をみている。

 

「夢は、存外手が届く場所にあるのかもしれないぞ?」

「え――?」

 

 そんな白猫に一言告げた。呆けたようにこちらを見ている。

 

「クリスさん。歌で、表舞台に立って見る心算はありませんか? ゆくゆくは、翼さんやマリアさんと共に立つ事も視野に入れて」

 

 そして、緒川の一言で雪音クリスは衝撃を受けたように固まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりの元、小さな炎がパチパチと音を鳴らし弾ける。夏の夜。蝋燭の火を囲み、各々が火を灯す。花火。手にしたそれが、夜の闇の中を閃光が駆ける様に広がっている。装者達はまだ学生も多い遊び盛りでもある。折角来た海。その最後の夜は、皆で花火を使い思い出を増やしていた。遠目から眺めている。傍らに緒川が座り、共に眺めている。

 玩具とは言え、火であるのだが、普段から火器を手にしているクリスは、器用に複数の花火を持ちながら体の一部の様に手慣れた動きで火をつけ、仲間達に渡していく。妙に洗礼された動きに、感心していると緒川が語り始めた。

 

「とりあえずは、考えさせてほしいという事で話が落ち着きましたよ」

「そうか。まぁ、あの子が即座に断らないという事は、時間の問題かな」

 

 緒川慎次の誘い。それを受ければ、あの子は今までの生活と一変する。そういう事も考えると、即座に返事は出せなかったのかもしれない。今回の件に関しては、自分は振れない様にしていた。自分の進む道である。最後の所は自分自身の答えを出さなければいけない。それを理解しているのか、クリス自身も誰かに相談するという事はしていないようだ。もしかすると翼やマリアに多少の話を聞いているのかもしれないが、実際にどんな生活になるのかの確認と言った意味合いが強いのだろう。

 

「まぁ、あの子の事はあの子が決めるだろう」

「そうですね。大切なものが沢山あるから迷っている。今はそういう事なんだとおもいます」

「それで、何があった?」

「フォトスフィアが奪われました」

 

 クリスの話は一端終えておく。後は、あの子がどういった道に進むのかが大切であるからだ。

 そして、今回の襲撃での被害について尋ねる。元々今回海辺に来ているのも、筑波の研究所での調査結果の受領任務があったからだ。そして、その成果が奪われたという事だった。錬金術。様々な場所で自動人形が現れていた。守りが手薄になった時、仕掛けてきたと言う事だった。

 フォトスフィア。ナスターシャ教授がフロンティアに残した忘れ形見。自分は物を見た訳では無いが、光の球体であるようだ。まだ暫く調査を続けなければ一体何のためのものなのかは見当もつかない様だが、一部の調査結果を受け取ったのが今回奪われたという事だった。大本の情報自体は未だ筑波の研究所に存在しているようだが、何らかの目的の為に錬金術師側が動いたという事だった。

 

「とは言え、目的が解らず相手の所在も不明。相も変わらず後手に回らざる得ない、か」

「はい。他には近くの神社が襲撃されたような痕跡がある事も解っています」

「神社、か。あまり、錬金術とは結び付かないが、元を辿れば神道も陰陽思想から来るものだったか。ある意味、大本は同じなのかもしれんな」

「たしかに。あらゆるものを陰と陽に区分けし森羅万象に結び付ける。偶然などでは無く、何か、錬金術とも関わりがあるのかもしれませんね」

 

 他には神社が襲撃された。そんな結果を聞き、ふっと思い当たる。キャロルは万象に存在する術理と摂理。それを解き明かす事こそが使命であると告げていた。錬金術と、神道陰陽思想などの繋がりがあるかまでは解りはしないが。共に古くからの思想であり、技術である。何らかの関係があっても不思議ではない。そういった方面でも調査をしてみますと、緒川は言葉を残し直ぐ様動き出す。その速さに仕事熱心な事だと感心していた。

 

「あのバカたちが買い出しに行ったから、あんたも、花火をしないか?」

「そうだな。偶には、良いかも知れない」

 

 緒川が去った事で声を掛け易くなったのか、クリスが再びこちらに来ていった。その言葉に頷く。流石に花火で喜ぶような年では無いが、偶には良いかと思い渡された物を掴む。線香花火。蝋燭の火に向け先端を翳し、炎を受け取る。やがて火が燃え移り、パチパチと音を鳴らし夜闇を照らし始める。

 

「火。貰うぞ?」

「ああ」

 

 クリスが短く尋ねて来る。それにこちらも短く頷く。白猫の手にした花火にやがて火が乗り移る。

 

「綺麗だな」

「うん」

 

 ぽつりと零した言葉。傍で花火を見ていたクリスがただ頷いた。言葉もなく、ただ火を見ている。

 

「あ――」

 

 そして、花火は全てを燃やし尽くし火玉が地に落ち消える。自分の持つソレが先に落ち、後で火をつけたクリスの物がその時間差だけ長く燃える。とは言え、それほど長く燃える訳では無く、やがてそちらも火が消え、一瞬暗闇に包まれる。

 

「また、来年も花火しような」

「そうだな。そうできると、良いな」

 

 暗闇の中、クリスがそんな言葉を零す。表情が見えない。ただ、少しだけ声が震えているのは解った。頷く。そう在れれば良い。そんな事を思いながら、月を見上げた。少しだけ離れたところで、他の者達が和気藹々と花火を点け談笑をしている。クリスの手を引き、仲間たちの下へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マリア、英雄の力に喰らい付く。
黒金、刃を武門にぶつける。
武門、黒金の刃を受け止める
クリス、夢について語り、一つの道が見える。







やっと、ガリィちゃんを退場させられた。

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