煤に塗れて見たもの   作:副隊長

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17.研ぎ澄ませてきたもの

「海デスよ、海!」

 

 景色が流れていた。車内に元気な声が響き渡る。暁切歌。マリアの運転する車の中で、姦しい声が耳に届く。

 

「エルフナインは海に行った事あるの?」

「……傍を移動した事はありますが、今回のように落ち着いた時間を取って来た事はありませんね」

「なら、夏らしく海水浴がおすすめデスよ!!」

「うん。暑いから、冷たい海の水は気持ち良いよ。塩水だから、後が少し大変だけど」

 

 暁の声に合わせるように月読がエルフナインに問いかける。その言葉に、エルフナインは少しだけ考えるように間を開けると、殆どありませんねと首を振る。なら、目一杯楽しまなきゃいけないデスねっと、暁は泳ごうと誘いをかけ始めた。それに月読が賛同するように続ける。そんな二人の様子に、エルフナインは困ったような笑みを浮かべる。

 

「二人とも、一応は改修の終わったシンフォギアのテストと、自動人形との再戦に向けた特訓を兼ねているのだから、あんまり羽目を外しすぎないようにね」

「はーいデス」

 

 そんな三人の様子に、マリアが少し釘を刺すように言った。とは言え、彼女自身、夏だと言うのに二人を満足に遊びに連れて行けていない事に負い目を感じているのか、それ程しつこく言い募る気は無さそうだ。一応はと言った感じで告げると、助手席に座るこちらに一瞬視線を向ける。

 

「でも、あなたが此方の車に乗るとは少し予想外だったわね。響とクリス(あの二人)に誘われたのに、あっさり断るなんて思わなかったから」

「まぁ、そういう時もあるよ。あの子らとの付き合いは長いが、少々姦しいからな。偶には、親睦を深めるのも良いだろう?」

 

 マリアの言葉に一度頷く。一行は筑波にある異端技術研究機構に向かっていた。そこで調査結果の受領任務があるのだが、その折に簡単な慰安旅行も兼ねて、付近にある政府保有のビーチが解放されるという事だった。司令自身は特訓の為と言っていたが、何時も急な出動を課している為、機会があれば普段遊べない分を目一杯過ごして欲しいという想いもあるようだった。

 その移動の際、自分が敢えてマリアの運転する車に乗った事を少しだけ不思議に思っているのか、そんな事を聞いて来ていた。ちなみにもう一台は緒川が運転する車であり、響、翼、クリス、小日向が同乗していた。他にも藤尭などが先行している為、受領任務自体は勝手に進んで行く事だろうから、一行は直接海に向かっていた。

 

「それは確かに一理あるわね。だけど、その理由は方便でしょ?」

「と言うと?」

「あなたは無頓着に見えて、意外と人を見ているからね。五人乗りの車。そのうちの一人が緒川。その横には翼。逆に此方の運転手は私。なら、調と切歌が此方に乗るのも自然の流れ。そこまで決まれば、向こうの三人娘が一纏まりになるのも自然であり、そうすると、空きが一つ」

「響と小日向が一緒の方が自然であるからな。それに、俺としてもエルフナインが傍に居る方が都合が良いと言うのもあるよ。……どうにも、俺はあの子らの近くにい過ぎた気がしてな。君たちにだからこそ、話しておきたい事もある」

 

 此方に乗ったのには何か理由があるのだろうと問いかけるマリアに苦笑が浮かぶ。確かにあるが、それほど重要な事でも無かった。何だかんだ言って、暁や月読と接する機会が少なかった、というのも確かに理由の一つではある。軽く息を吐き、目を閉じる。抱きかかえているクロの熱を感じながら、言葉を続ける。

 

「言っておきたい事?」

「ああ。あの子らは強くなったよ。三対一とは言え、敵の首魁であるキャロル・マールス・ディーンハイムを圧倒するほどの強さだ。俺が思っているよりもずっと強い」

 

 自分が四機の自動人形と戦いを繰り広げていた間に、あの子らは一度キャロルを下していた。それは、彼女等もずっと強くなっているという事なのだろう。自らの意志で魔剣の呪縛を破り更なる強さを手に入れ、遂には錬金術師を下している。キャロルとは直接戦っていない為、四機の自動人形の強さとは比べる事は出来ないが、あの子らも最早自分が守らずとも言い程になっているという事だった。その事実が嬉しく思う反面、少しだけ寂しく思ってしまう。後を行く者達はやがて、前を行く者を越え更に先に進んでいくという事だった。

 

「確かにあの子達は強いわ。私なんかよりもずっと強い」

「そうでもない。君もまた、あの子らとは別種の強さを持ち合わせているよ」

「そんな事は……」

 

 あの子達は強いと告げると、マリアも同意し、自分などより遥かに強いと続ける。その言葉にこの娘はと少しだけ呆れてしまうが、仕方がない事だろうと思い直す。自分の事と言うのは意外に見えないものである。世界を守りたいと願い歌で世界を繋げた人間が弱いはずが無いのだが、それは自分がそう思えなければ意味の無い事でもあった。悩んでいるように言ったマリアに、それ以上いう事はせず、話を進める。

 

「とは言え、黒金の自動人形は別だ。アレはシンフォギアでは相手にできない。俺が戦わなければいけない相手だろう」

「血刃、ね」

「ああ」

 

 頷く。自身が血刃の使い手であるからこそ解ってしまう。シンフォギアでは自動人形の用いる血刃に勝つ事は不可能に近い。

 

「たしか、あたしと調が響さんと戦っていた時に乱入して使った技デスよね?」

「S2CAで束ねたフォニックゲインを斬り捨てた。博士に酷い事されたのもあの時だから、よく覚えてます。あの時はそれどころじゃなかったですけど、今考えて見ても、何が起こったのか良く解らない」

 

 血刃を以て、絶唱の力を斬り捨てた事もあった。フロンティア事変の際に起こった対峙であったが、その時に二人の目の前でも斬り裂いていた。

 

「血刃は目に見えない力を斬る事が出来る。フォニックゲインなどは、まさに斬る為に在るように思えるよ」

「目に見えないものを斬る……?」

「そんな事が出来るんデスか?」

 

 二人の驚きに、ただ頷く。事実は事実として、出来るとだけ告げれば十分だろう。確かに常識では考えられない事だが、そもそもシンフォギアが異端技術の代名詞である為、大きな問題にはならない。むしろ、黒金に斬られた事で、その領域に行きつけた自分の方がおかしいのかも知れないと一瞬思うが、今は重要な問題でも無いので棚上げする。

 

「シンフォギアで血刃を相手にするには、黒金に一度たりとも斬撃を放たせない以外に方法は無いだろう。そして、一度でも打たせればフォニックゲインが斬り捨てられ、解除に追い込まれる。君たちは生身でアレと戦い勝つ自信はあるか?」

「……。無理でしょうね。一度生身でファラと対峙した事があるけど、あの時の言動から今考えて見れても手を抜かれていたのが解るわ。シンフォギアなしで挑めば赤子の腕を捻るように容易く敗れると思うわ」

「だからシンフォギアで相手どるのは現実的では無い。単純な剣術の腕ならば、翼の方が上ではあるのだが、自動人形である以上、基本的な能力が人間とは違いすぎる」

「ちょ、ちょっと待って?」

 

 話を進めていると、唐突にマリアが声を上げる。それでも運転を誤らないのは流石である。

 

「黒金と翼では、翼の方が剣の腕は上なの?」 

「ああ。俺の見立てだがな。身体能力と武器が強すぎるから圧倒しているように見えるが、単純な技量では翼の方が遥かに上だろう。極端な話だが、黒金が血刃を使わなかったとすれば、翼の方が厄介な相手だろう」

「でも、キャロルが撤退するまでの間、圧倒されていましたよ?」

 

 こちらの言葉に、エルフナインがおずおずと問いかける。その言葉も映像を見ていたからこその疑問なのだろうが、直接刃を交わす戦闘の経験が少ないエルフナインでは、戦いの呼吸を上手く理解できていないのだろう。

 

「剣術だけならば翼が上と言うだけの話だよ。黒金の強さは剣術だけでは無い。アレの強さは自動人形の出力に物を言わせた人外の機動であり、人形故の変則的な剣筋であり、何よりも痛みを無視した思い切りの良さだよ。人間であるのならば、誘導弾を殴るなど考える事はあるかもしれないが実行はしない」

「それは、そうですが……」

「だが、あれにはそれが出来てしまう。己が為すべき事を理解しており、必要があれば押し通す事が出来てしまう。自分の為したい事が明確であり、破格の能力も持ち合わせている。だからこそ、迷いがなく強い」

 

 黒鉄の戦い方は映像として確認していた。自動制御されている飛翔剣に加え、血刃を人外の機動と稼働を以て実戦に組み入れている。確かに剣術だけを見れば翼の方が上であるが、戦いとはそれだけに決まる訳では無い。黒金の扱う剣は素直である。エルフナインが言うには血脈の剣を奪ったようであり、実際に相対してみても本物であると実感できる。だが、それだけである。剣士の用いる技。その域にまでは達していない。黒金の意志が僅かしか介在していないのも、手に取るようにわかった。文字通り何度も刃を重ねている。剣から技を見るのはそれほど難しくはない。だからこそ、断言できる。黒金は剣士としてはそれ程でもない。

 

「アレはまだ未熟者だよ」

「あの強さでデスか!?」

「流石にそれは、言い過ぎだと思いますけど」

 

 俺の言葉に暁が驚きを示し、月読は過小評価し過ぎなのでは無いかと問いかける。それに一度頷く。

 

「とは言え、あくまで剣術だけを見て言えば、だ。剣士としては二流でも、総合的な能力は戦士として一流の範疇に居る。強くなっているよ。アレは初めて会った時に比べれば、驚くほどの速さで成長している。それこそ、あの子らのように、ね」

 

 この場にいない三人娘の事を思い描きながら続ける。キャロルが言うには、そしてエルフナインが知る限りの情報になるが、黒金は英雄の軌跡であるらしい。自身が示してきた剣を元に強化が重ねられているのだとか。初めて対峙した時は、剣すら持ってはいなかった。それが、模倣とは言え、今は血脈の技を用いるまでに成長していた。その伸び幅は素直に驚嘆する。

 

「技とは、ただ同じように動けばいい訳では無いよ。マリアは俺が動き方を丁寧に教えれば、俺と同じ事が出来るか?」

「無理ね。少なくとも、私には鉄パイプで地面を斬るなんて芸当は出来ないわ。それも生身でなんて」

「だろうな。研鑽の果てに技は存在する。同じ動き、同じ力の入れ方をするだけでは、習得したとは言えんよ」

 

 即答したマリアに頷く。剣に限った話では無いが、技と言うのはただ同じ動きをすれば良いものでは無い。使い手が違えば技もまた幾らか変わる。動きに意思が加わり、それを己の中で昇華して初めて『技』は成るのである。故に、模倣だけが完成した黒金の技は、未だに『技』にはなり得ていない。黒金の意志が、乗り切れていない事が良く解る。

 

「とは言え、人形でありながら意志を示す。自動人形とは不思議なものだ。このまま経験を積み、己を乗せる事が出来るようになれば、果たして装者で止め得るのか」

 

 逆に言えば、意志さえ乗せれる様になれば黒金の技は完成するという事にもなり得る。黒金に足りない一番大きなものは、戦いその物である。動きは出来ている。つまり、意志が追いついていない。心技体の内、心が追いついていない。人形に心など存在するのかという疑問も浮かぶが、五機の自動人形を実際に相手にしてみると、人間以上に人間らしい瞬間すらあるのではないかと思えるほどだ。

 

「歌は斬って捨てられ、奇跡もまた斬られる」

「そんな事が……」

「できない、なんて楽観できないのも事実デスね」

 

 呟きに、月読と暁が考え込む。脅す気は無かったのだが、そうなっているのかもしれない。

 

「血刃にはソレが出来てしまう。他の誰でも無い、私たちの前で奇跡を起こして見せたあなただからこそ、その言葉は重たいわね……」

 

 マリアもまた、運転しながらではあるが神妙に呟いた。

 

「まぁ、あまり心配してくれるな。その為に俺がいる。黒金を相手にどうすれば良いのか、そしてキャロル・マールス・ディーンハイムを相手にどうすれば良いのかは考えているよ」

 

 少しばかり沈んだ空気にそんな事を告げていた。考えている。それこそ、以前言葉を交わした時から考えてはいた。

 

「勝算があるという事ですか?」

「ああ、鳥の鳴き声は哀しい、という事だよ」

「なんデスかそれ?」

「謎掛け、だな。答えを教えるだけでは芸が無いだろう?」

「……全く見当がつきません」

 

 エルフナインの問いに答えると、月読と暁が何ですかそれと頭を捻る。助手席であるため、バックミラーで見えた考え込む二人の様子に小さく笑う。エルフナインも考え込み始めた。流石のエルフナインも、今の言葉だけではどうするべきなのかと言うのは思い当たらないようだ。

 皆の様子に、それほど難しい事は考えていないよと笑った。自身は武門である。ならば、為すべき事はそれ程多い訳では無い。

 

「見えて来たわね」

「さて、特訓だったか。基本的には君たちに任せるが、俺の方でも少しだけ指定させて貰うかもしれない」

「解っているわ。でも不思議ね。あり得ない動き、あり得ない剣閃。そして思いきりの良さ。黒金の自動人形の話をしている筈なのに、聞けば聞く程あなたを彷彿させる。まるで、親子か何かみたいだわ」

「そうか。随分と大きな子供を持ってしまったのかもしれないな」

 

 マリアの言葉に思わず吹き出す。確かに血脈の技を使えるようにはなっていた。未だに『技』には到達していないが、黒金の動きを思い描いている時は、確かに子供の技を見詰める親のような心境だったのかもしれないと不意に思った。

 

 

 

 

 

 

「揺れてるな」

「ああ、そうだな。揺らいでいるよ」

 

 政府保有の海水浴場。和気藹々とした声が届く。眼前には少女らがビーチバレーに興じている。

 筑波の異端技術研究機構で、ナスターシャ教授が残した研究成果の解析が行われていた。その受領任務も無事終わり、藤尭が合流して来ていた。一泊する予定な為、緒川の方は同じく政府が保有する宿泊施設に一足先に向かい、部屋の準備をしてから再び合流するという事で今は二人少女たちの試合を観戦していた。しみじみとした藤尭の呟き。頷く。確かに揺らいでいた。

 

「これまで前に立って来た。あとどれくらい前に立てるのか、そんな事を考えるとどうしても、な」

 

 藤尭の言葉に答える。その間に、エルフナインが空振りを行う。上手く打てないと困ったように呟いたエルフナインに、マリアがアドバイスを行っている。弱くても良い。自分らしく打つのが大切なのだと教えている。

 

「唐突なシリアスをありがとう。いや、確か大事な話なんだけど、振った本人としてはそんな意図はなかったんだ」

「ん? ああ、そう言う事か」

 

 藤尭の言葉に、自分の考え違いに思い当たる。確かに揺れてはいる。マリアがエルフナインに手本を見せるようにバレーボールを打ったところで思い当たった。一度試合が止まったので仕切り直しのようにクリスがボールに反応する。打ち返した。そしてまた揺れている。

 

「好きだな、お前も」

「そりゃ、男ですから。てか、前から思っていたんだけど、ユキは女の子に興味がないのか?」

 

 意図に気付き、藤尭の言わんとしている事を理解する。相手は子供だぞと告げると、マリアさんはセーフなのではと返って来る。確かにと頷く。そして、そんなこちらの様子に気を良くしたのか、藤尭が思い切ったという感じに聞いて来た。少しばかり考える。

 

「まぁ、武門だからな。隠さず言えば贖える」

「……いや、まぁ、確かにそうだけど。こう、愛が欲しいと思わないのか?」

「……愛、か。愛される事があると言うのならばそれは喜ぶべき事だが、欲しいとは思わんよ」

 

 自分とて男である。一切そう言う欲求が無いかと言えば、そんな事はあり得ない。むしろ、毒を盛られた事により、身体自体は渇望しているのかもしれない。だが、幼き頃の経験からか、愛は無理して求めるべきものでは無いと感じてしまう。

 

「相変わらず変に冷めてると言うか」

「仕方がない。そう言う風に育ってしまったんだよ」

「うーん。その気になればより取り見取りだと思うけど」

「それはまぁ、随分と評価してくれる」

 

 あんまりと言えばあんまりな藤尭の言い草に苦笑が零れる。ある意味当たってはいる。上泉の方には、まだ腕を落とされた事は報告していない。爺様の事である、面倒な事になるのは目に見えている。

 

「でも、実家から催促が来るんだろ? さっさと結婚しろって」

「まぁ、な。武門としては血が欲しいのだろう。一度里帰りした時に話した。本腰を入れている訳では無いだろうが、そう言う話はよくあがる。暇を見ては送られてくるよ。見合いの話なら、倍以上に増えている」

「いや、確かにそう言う反応を期待して話を振ったんだけどさ、予想以上だった」

 

 向こうから話が転がって来るなんて羨ましいと藤尭が冗談めかして嘆く。本当に羨んでいる部分もあるだろうが、それだけと言う事でも無い。

 

「興味本位で聞くけど、あの子達の中でなら誰が好みなんだ?」

「また、答え辛い事を聞く」

「難しく考えなくて良いよ。単なる好みの話だし」

 

 藤尭が笑みを深める。馬鹿な話をしている様で、人を良く見ている男でもある。そうでなければ、風鳴司令がS.O.N.G.の主要人員に置く筈はない。さて、どんな意図があるのかと思いつつ、答える。

 

「小日向、次点で月読だろうか」

 

 単純な好みで言えば、最も小日向が近いだろうか。大した理由は無い。響以外には控えめで奥ゆかしい為、和服が似合うだろうなと思う。そう言う意味では月読も良い線を行くが少しばかり幼すぎる。せめてあと三年だろうか。それでも子供ではあるのだが、少しばかり真面目に藤尭の問いに考え込む。

 

「意外だな。よく一緒にいるクリスちゃんとか響ちゃんって言うかと思ってたんだけど」

「まぁ、ただの好みの問題だろう? 好みに近いのと、好きなのとはまた違うだろう。どれだけ好みだろうと、相容れないものもあるさ。逆もまた然り」

 

 そんな言葉で話を区切る。最初の話では無いが揺れている。少しばかり、刃を握りたかった。

 

「さて、少し斬って来る」

「斬るってまた、いきなり何を?」

「暫くは暇だからな。海でも斬ってみようかと思う」

 

 やる事は既に決めていた。後は、為せなかった時の事を考えるだけであった。直ぐ傍らにあった刃を手に取る。童子切安綱。斬れるかと言葉ではなく、心で問う。斬ってみるか? そんな意思が返って来る。笑った。

 

「いや、海を斬るって何だよ」

「まぁ、出来るか試してみるだけさ」

 

 少女らは、本腰を入れる前の慣らしを興じている。今暫くは、自分の剣を振るうのも良いかと思い、海を前にした。柄に触れる。

 

「いやいやいや。海って斬れるもんだっけッ!?」

「存外、出来るものだな」

 

 そして一瞬、海が割れた。藤尭の驚いた声が、少し笑えた。

 

 

 

 

 

 

「誰だよ、途中から本気になった奴は……」

 

 息を切らせ倒れ伏したクリスが零した。海を相手に刃を振るっていると、少女等の方も特訓に切り替わっていたのか、慣れない砂浜に体力を取られたのか各々がだらしなく倒れている。女子としてどうなのかと思う態勢で倒れている者もいる為、どうしたものかと一瞬考える。

 

「一区切りついたようだな」

 

 結局、一番余力のある翼に声をかける。

 

「ええ、良い鍛錬になりました。普段は行わないように遊戯から気付けば鍛錬に発展しているのは、私では行えない鍛錬の在り方の一つと言えます。それだけでも、良い経験になりました」

「それ、本気で言ってるのかよ先輩」

 

 一仕事終えたと言った感じの翼の言葉に、クリスが口を挟む。少しだけ視線を移す。何かに気付いたのか、クリスは凄い勢いで佇まいを治した。

 

「あ、あんまりマジマジ視んなッ!」

「見られて困るものでもあるまい」

「そりゃ海だけど……、そう言う問題じゃないんだッ!」

 

 ふしゃーっと威嚇を始めた白猫から視線を戻す。あの雪音クリスが海で友たちと一緒にいる姿にある種の感慨を覚えるが、あまり浸ってばかりでも居られない。

 

「とは言え、君はまだ動けるか?」

「はい。これ位ならば、問題ありません」

「では、翼を借りて行こうかな」

 

 まだ動けるかという問いに、翼は当然ですと頷いた。マリアや響ですら疲れ座り込んでいる中、流石に防人は余力があるようだ。

 

「それと小日向。君は動けるか?」

「私、ですか?」

 

 こちらの問いに予想がついていなかったのだろう。小日向が少し驚いた様に聞き返す。小日向の持つ陽だまりの剣にはイグナイトモジュールは搭載されていない。技術の系統が違うため当然ではあるが、小日向は小日向で鍛錬を行っていた。とは言え、まだまだ基礎が足りていない為、他の者と比べれば幾らか簡単なものであった。だからか、まだ余裕がある様に見える。

 

「剣を教えると言いながら、あまり時間が取れていなかったからな。少し、教えようかと思ってな。翼もいる。良い機会だと思うが、どうする?」

 

 視線を交わし聞いていた。数瞬の逡巡。小日向は頷き立ち上がる。

 

「未来がやるなら私も」

「今回は剣術の指南になる。それでもやるか?」

 

 剣の鍛錬だぞと告げると、響は困ったように笑った。剣術と響とでは、重なるものが少ない。

 

「翼さんも一緒だし大丈夫だよ。だから、響はご飯の用意でもして待ってて」

「大丈夫?」

「うん」

 

 そして、小日向の言葉に響は頷いた。じゃあ、みんなで美味しいご飯作ってるねと告げると一同は移動していく。そして、その場には翼と小日向が残った。

 

 

 

 

 

 

「先ずは、翼から行おうか。シンフォギアを纏って構わないぞ。遠慮は不要だ。特訓という事だ、此方も少しばかり荒っぽくいく」

「解りました。では、Imyuteus――」

 

 剣を交えやすい様に場所を変え、先ずは武門と防人が対峙する。童子切を抜き放ったユキは、それを翼に突きつけ戦う用意を促す。それに短く頷き、翼は天羽々斬を身に纏う。その姿を見た未来は、己も陽だまりの剣を身に纏った。黒猫が、未来の傍らで丸くなる。ユキの姿を見つけ、近付いて来ていた。未来の視線の先には、夏であるのに長袖を纏い殆ど汗をかいていない上泉之景と、天羽々斬を纏った翼が対峙している。一瞬だけ、ユキが未来に視線を移す。その瞳に、ただ見ておけと言われたような気分に陥る。小さく未来は頷いた。

 

「行きます」

 

 準備が整った翼が、短く宣言する。羽々斬を構えていた。

 

「――ッ!?」 

「反応が遅い。準備ができている事など、対峙すれば解っている」

 

 そして踏み込むと思い定めた時には、白刃が煌めいていた。咄嗟に羽々斬を翻す。鈍い音が鳴り響く。翼の口から驚きに満ちた呻きが零れる。既に武門は戦闘態勢に入っている。二の太刀。斬撃が加速する。

 

「つぁっ!?」

 

 斬撃を受け止めきれず崩れた翼に向け、ユキは石突を以て翼を打ち伏せる。防人が地に沈み、即座に跳ね起き、立ち上がり様に一閃を放つ。

 風が吹き抜ける。放たれた斬撃。武門は先ほどと同じく、石突で打ち払う。羽々斬。柄に刃が食い込む直前に、手首の力で動かされた剣に力を逸らされ、はじき返される。踏み込む。至近距離で弾き飛ばした翼に向け飛び込む。

 

「――かはッ」

 

 苦し紛れで放った斬撃では武門に通じはしない。翼の反応速度を超える速さで放たれた蹴撃に、無防備な隙を突かれ吹き飛んでいく。

 

「翼さん!?」

 

 唐突に始まった一方的な展開に思わず未来は声を荒げる。

 

「遠慮は不要と言った筈だ」

 

 吹き飛んだ翼に、ユキは短く言い放つ。瞬間、返事をするように千の落涙が降り注ぐ。

 

「先生!?」

 

 放たれた技は、翼がノイズを一掃する際に用いられるものである。一人を相手に其処までするのかという驚きの染まった叫びだけが響く。斬撃。千の刃が、武門に届く直前に雨が体に当たるかのように霧散する。千の落涙に対して放たれる、千の銀閃。一振りたりとも武門に青色の刃が届く事は無い。そんな事、翼は以前の手合わせで嫌という程見せつけられていた。一振り。無数の斬撃の中で、一振りの真打を紛れ込ませる。

 

「相変わらず、私の自信を完膚なきまでに撃ち砕いてくれる。だがッ」

 

 同時に羽々斬を強く握りしめ、翼もまた落涙の中に自ら飛び込む。幾ら武門とは言え、落涙の中では翼の刃を弾かずにはいられない。落涙自体は武門に通用しないとはいえ、その無数の刃を無視する事もまたできはしない。上泉之景は生身である。雨を穿つ一撃では無く、動きを制限する為の楔としてならば使いようがあった。雨の中とは言え、自ら生成した物である。刃の中を自在に駆け抜け、翼は武門に挑みかかる。

 

「考えたものだ」

「私とあなたでは力量が違う。ならば、先ずはそれを認めた上で対策を立てるのが防人です」

 

 落涙の中で翼は羽々斬を振るう。降り注ぐ雨の中、降り立った真打を掴み取り、二刀を手に翼は斬撃を加速していく。武門の刃と防人の刃では、正面からぶつかれば覆し難い差が存在している。だが、上泉之景とて全能では無い。斬撃を放たなければ、斬る事は出来ない。無数の刃で封殺しつつ、必殺の一撃をねじ込む。それが以前武門と対峙した折に考え出した、翼の結論だった。何かが一つでも狂えば己をも傷付けかねない戦い方に、だが武門は笑みを浮かべる。ユキは翼を相手に怪我をするなどと言う心算は無い。戦いの場に立っているのである。訓練とは言え、実戦と同じ意志の下に行われる事が武門にとっては心地良かった。内心で、強くなったなと呟く。

 

「とは言え、想定が甘い」

「ッ。相変わらず、叔父様と同じで無茶苦茶なっ!?」

 

 両の手にしていた童子切を、左腕一つで振るい、黒金の義手で二振りの羽々斬を迎え撃つ。鈍い音が鳴り響く。既存技術と異端技術の折衷品である黒鉄は、羽々斬の刃を流し、返す刃で翼の脇を浅く斬る。皮一枚斬り裂かれた。翼は思わず吐き捨てる。自分のできる中で、武門に届き得る可能性のあった組み合わせをあっさりと抜かれた事が驚きを表に出してしまう。

 

「くぅあッ!?」

 

 馳せ違う。落涙を抜ける。反転。翼が振り向いた時には、既に武門の一撃が突き刺さった。

 

「まだ、まだッ!?」

 

 弾き飛ばされた翼が即座に立ち上がり、羽々斬を構えた。眼前で行われるぶつかり合い。自分では到底届かない立ち合いを目の当たりにし、未来は思わず唾を飲み込む。容赦なく打ち据えられている。だけど、それでも立ち上がる翼の気概に圧倒されていた。そして何より、そんな翼を見詰めるユキの眼光に押された。

 

「強くなったな。あの時と比べれば、随分と強くなった」

「あの時の私ではありません。未だ届きはしないでしょう。ですが、簡単に折れない程度の実力は付けたつもりです」

「そうだな。刃を交わしたのが、随分と昔のように感じるよ」

「折られました。何度も折られ、その度に鍛え直されました。黒金の自動人形の様な強大な敵が現れた時、皆を守れる刃で在りたいと、その度に強く想いました」

 

 少しでも強くなりたかった。そんな気持ちを吐露する翼に、ユキはただ小さく笑った。確かに翼は強くなっていた。未だ武門の刃には届きはしない。だが、背中を任せても良いと思える位には強くなっていた。やはり翼か。そんな事をユキは思う。

 

「そうだな。だが、君は黒金とは戦うな」

「なッ――」

 

 だからこそ、ユキは童子切を突き付け翼に告げる。予想だにしていないかった言葉に、翼は目を見開く。そんな翼の様子を見据え、ユキは言葉を続ける。

 

「シンフォギアではアレには勝てない。どれだけ君が強くなろうと、君の刃は届きはしない」

 

 それが翼と刃を重ねたユキの結論だった。確かに翼は強くなっている。恐らく、接近戦では装者の中で最も強いだろう。だが、問題はそう言う事では無い。

 

「何故ですかッ!? 私の刃は、誰かを守るのには能わないと。友を守るには能わないと言われるのですかッ!?」

 

 その言葉に、翼は言い募る様に言葉を荒げる。黒金と戦うとすれば、先ずはユキだろうと翼も思ってはいた。だが、有無を言わさず戦うなと言われるとは思っていなかったからだ。強くなるために、誰かを守る為に刃を研ぎすませてきた。先達に打ち伏せられはしたが、強くなる努力は惜しんでこなかった。その全てを否定されたように思え、思わず声を荒げてしまう。

 

「強くなった。そう言った筈だぞ」

「ならば何故ですか。強くなったと言うのなら、何故戦うな等と……。それでは、剣の意味がありません。先生も道具にすらなれないと言われるのですか」

 

 告げられた短い言葉に、何故か翼は心がざわめく。守る為に強くなった。その筈なのに戦うなと言われた。戦いにおいて、剣において最も信頼する先達に言われた言葉は、翼の胸に引っかかっていたものを強く刺激する。

 

「……ならば、試してみるか」

 

 翼の言葉を聞いたユキは、小さく呟く。そして、腕を深く斬り裂いた。

 

「先生!?」

「ッ!?」

「血刃を相手にするという事がどういう事か教えよう」

 

 童子切が血をその身で喰らう。刀身が真紅に染まり、武門の腕からは鮮血が零れ落ちる。対峙していた翼は勿論、成り行きを見守っていた未来も声を荒げる。話には聞いていた。だが、自ら腕を斬る所を間近で見るのは初めてだった。血刃が生成される。黒金の自動人形。それが用いていたものよりも、更に鮮やかな色をした無双の一振りを武門は防人に突きつける。腕の傷。ネフシュタンが見る間に塞いでいく。傷など直ぐに塞がる。ユキは二人にそう告げた。その言葉が、二人にはどうしようもなく悲しく思える。

 

「君は強くなったよ」

 

 踏み込み。かつてはまともに反応する事も出来なかった速さに、ギリギリの所ではあるが翼は対応する。血刃。その刃とはシンフォギアでは斬り合う事が出来ない事を、黒金の自動人形に嫌というほど味わわされている。だが、ユキの方が翼よりも遥かに速い。刃が重なる。羽々斬が、何の手応えもなく斬り落とされた。だが、歌が斬られた訳ではない。揺れ動く心を落ち着かせる暇もなく、武門は更に早くなる。

 

「初めて出会った頃に比べれば、遥かに強い。痛みを知り、悲しみを知り、それ以上の優しさを知ったのだろう。誰かの為にと、友の為にと言えた。そう言い立ち上がれた。それほど強くなっているよ」

 

 翼が再び羽々斬を生成する。振り抜かれる斬撃。その刃を、柄で打ち上げる事で跳ね上げ、逸れた羽々斬を血刃が断ち切る。涙が零れる。お前の刃は友を守るに足らない。撃ち破られる度に、翼は言葉ではなく現実でそう告げられている気がしてしまう。風鳴の道具にも馴れなければ、友を守る刃にも成れない半端者。そんな言葉が思い浮かぶ。

 

「不器用な上に真面目が過ぎる。奏も、そう言っていたはずだぞ?」

 

 蹴り飛ばされ、それでも即座に翼は立ち上がる。刃を振るう先達の言葉に、大切な親友の笑顔が思い起こされる。真面目が過ぎるぞ。想い出の中の奏が、苦笑を浮かべながら告げる。

 

「だからこそ、私は強くなりたいと願ったのです。かつて守れなかったものがあり、故に今大切なものを守れる様になりたかった。私の刃は、その為に研ぎ澄ませたのです。ですが、私は風鳴の道具にもなり切れず、されど大切なものを守る刃にもなりきれない。それでは私は如何すれば」

 

 ユキは一度刃を止める。翼の荒い呼吸の音だけが静寂の中を響いた。羽々斬。何度斬られようと、腕の中で再生を果たす。

 

「人は刃になれはしない。思い定める事は出来る。だが、本当に人である事からは変われはしない」

「だからこそ、強くなりたいと。先生の様になりたいと」

 

 構えた。羽々斬、感情のままに振り抜かれる。イグナイトモジュール。装者達に組み込まれた新たな力は、心の闇を増幅する代償が存在していた。膨れ上がった想いのまま、翼は刃を振るう。

 

「無理だよ。君は俺になれはしない。同じように、俺も君にはなれはしない」

 

 そして、血刃が羽々斬を手折る。何度となくぶつかり、その度に剣聖の刃に防人の刃は断ち斬られた。

 

「ならば私は如何すれば良いのですか。友を守る剣である為には、私は如何すれば」

「答えなど、出ているでは無いか。友を守る為に刃を研ぎ澄ませたのだろう。ならば、その刃を振るえば良い。人は道具に等成れはしない。君が君のまま、強く在れば良い」

 

 対峙する。示さなければいけなかった。上泉之景が万が一にも敗れる事があれば、少女たちの中でその後を任せられる人間は風鳴翼に他ならない。

 

「ですがッ!?」

「君は、また俺に奏を悪く言わせる心算か?」

「ッ!?」

 

 ユキは刃を収め、未だ言い募ろうとする翼に言い聞かせるように続ける。天羽奏。その名を出されてしまっては、翼も勢いを削がれてしまう。依然先達は敢えて翼の心の傷に触れていた。もう一度同じ事をさせる心算かと窘められると、当時の事を思いだし何も言えなくなる。

 

「君は強く成ったよ。それは、俺が保証する。それこそ、背を任せても良いと思えるほどだ」

「ならば――」

「急くな。思い込むと一直線なのは、君たち全員の悪い癖だぞ」

 

 背を任せても良い。再び予想もしていなかった言葉に、尚更何故と言う思いが芽生えてしまう。そんな翼を、ユキは少し落ち着けと窘める。

 

「言った筈だ。シンフォギアでは黒金に勝てないと」

「シンフォギアでは?」

「ああ、君だから戦うなと言う訳じゃない。シンフォギアを纏う者は、黒金と戦うなと言うのだよ。キャロルやほかの自動人形であったのならば、戦うなとまでは言わない。だが、黒金は別だ。君であろうが、クリスであろうが、響であろうが、俺は戦うなと言うよ。刃を重ねたから解るだろう、羽々斬を斬る以外にも、その気になればフォニックゲインを斬って捨てられる」

 

 翼の思い違いを正すように言葉を続ける。ユキは、イグナイトを発動させた装者達に、以前は感じなかった脆さを感じていた。明確な内容が解っていた訳では無い。だが、似たような事が一度合った翼とは刃を交わす間に、剣に込められた想いから感じ取れるものがあったと言う訳であった。敵の首魁であるキャロルは撃破していた。そして、その後に現れた黒金には為す術もなく敗北を喫している。状況からあたりを付けたという事だった。全てでは無い。だが、風鳴翼の持つ弱さの幾らかを引きずり出す事に成功していた。それを鍛え直したという訳だった。今のユキにできるのは、そこまでであるともいえる。

 

「黒金とは俺がやり合うよ。だが、万が一もあり得る」

「それほど、ですか?」

「まともに戦えば負けんよ。だが、逃げに徹されると辛いな。倒し切れないのは、今の俺にとっては敗北と同じだからな」

 

 その言葉に、翼はユキの懸念の意味を悟る。時間切れがある。つまりはそう言う事であった。だからこそ、風鳴翼を打ち直す為に血刃を抜いた。其処までする必要があると判断したという事だった。

 

「あと五年もあれば、君に任せられたと思う。シンフォギアでは無く、ただの剣士としての風鳴翼が、シンフォギアの出力に追いついていれば、何も言わずに任せられたよ。剣士としては、君は信頼に足るものを持っている」

 

 黒金の自動人形との交戦記録を見て、ただ一人正面から凌ぎ合えたのが翼だった。響やクリスも交戦しているが、真正面から立ち合えたのは翼だけだと言える。だから、その実力は信頼に足ると言葉として告げる。風鳴翼が生身でシンフォギアと同じ動きが出来るのならば、任せられたと。

 

「そこまで買って貰えていたのですか?」

「言う心算は無かったのだがな。とは言え、無い物ねだりは出来ない。俺が倒す心算ではある。だが、俺が無理だった時は、司令が戦うのが一番だろうな」

「しかし叔父様は」

「ああ、全体の指揮がある。そして自動人形たちは神出鬼没な為、交戦できるとも限らない」

「ならば、やはり私が。例え勝算が限りなく低いと言えども、心得のある者が戦うのが最も良いのでは」

 

 最も良いのは司令が戦う事だが、立場上前線に出るのは難しい。仮に出れたとしても、以前のように間に合うかは解らない。ならば、司令以外に戦える者で対策を立てておくのが現実的である。皆同じ条件であるのならば、自分がやるべきだと翼は告げる

 

「どうしようもないのならば、な。だが、一つだけ選択肢がある。あくまで、君たちを戦わせるよりは、だがな」

「選択肢?」

「ああ」

 

 聞き返す翼に、ユキは短く答えた。そして、話に入るには入れなかった小日向未来を見据える。

 

「英雄の剣。そして神獣鏡の力を継いでいる陽だまりの剣。それを持つ小日向が、小日向だけが、黒金の自動人形に対抗し得るよ」

「私、ですか?」

 

 そして、ユキの口から出された言葉は、翼にも未来にも予想だにしていないものだった。

 

 

 

 




切調、謎掛けを受ける
武門、気掛かりな事を一つずつ片付けにかかる
藤尭、誰も聞けなかった事を聞く
響、予想外の伏兵
翼、再び打ち直される
未来、予想外の展開についていけない

セレナ、奏に以前どんな事があったのか教えて貰い、目を輝かせる
天羽々斬、武門の雑過ぎる扱いが一周回って癖になり始める

久々の投稿できました。
以前ほどの頻度では更新できそうにありませんが、更新する心算はあるので気長に待って貰えると嬉しいデス。一度止まると、再起動が中々できないのが悩みデス

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