守りたいもの   作:行方不明者X

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※お待たせいたしました


87.恋のお手伝い

【Lily】

 

セーブポイントを通過し、道なりに沿って歩いていく。未だに付きまとう暑さに苛立ちを覚えながら、ただただ進む。

 

「そこの! お前たち! 止まれ!」

「はい?」

 

道の角を曲がろうとすると、ガシャンガシャンという金属が擦れる音と聞き覚えのある声に呼び止められる。この場に居る人物と言えば私とフリスクくらいだし、きっと私達に声をかけているんだろうと判断し、振り返る。案の定、そこには先程見かけたロイヤルガードの二人が居て、此方に向かって走り寄って来ていた。

 

「あれ、誰かと思ったら先程お会いした方々じゃないですか。どうかなさったんですか?」

「あぁ、やっぱりお前たちか………いや、少しな………」

 

走ってきた彼らに、取り敢えず自然な様子を装って用件を伺ってみる。すると、兎耳のロイヤルガードさんが言い辛そうに言い淀む。

 

「………そう言えば先程、人間を警戒しているという様な内容の事を仰っていましたが……まさか、見つかったんですか?」

 

少し考える素振りをしてからそう言えば、兎耳のロイヤルガードさんは驚いたように少し動きを止めてから、静かに頷いた。

 

「そう、なんか、ストライプシャツと黄色い一本線の入ったパーカーの人間達が居るという匿名の通報があったんだ。今まさにホットランドを徘徊しているのだとか………なあ、おっかない話だろう?」

「成る程、そうなんですか。確かに恐ろしいですね……」

 

そう彼に返しながら、我ながら白々しいなと心の中で自分に悪態を吐く。『恐ろしい』という割には余りにも平然とし過ぎている所為か、先程から寡黙な方のロイヤルガードさんから向けられている視線が痛い。心無しか殺気すらも込められている気さえする。

匿名の通報者って結局非道になりきれないロボットの彼なんだろうな、と通報者について大体の見当を付けながら話を続ける。

 

「まあ、落ち着くんだ。オレ達が安全なところまで誘導してやるから、な?」

「あはは、じゃあ、お言葉に甘えて」

「………大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、なんかあったら私が守るさ」

「………」

 

そこまで話して、少し不安そうなフリスクの手を引いて、踵を返して先導する彼らについていく。五歩ほど歩いたところだっただろうか、寡黙な方のロイヤルガードさんがふと足を止めた。

 

「……ん? どうした、相棒?」

 

そんな彼を不思議に思ったのか、兎耳のロイヤルガードさんが声をかける。そうすると、彼はボソリと何かを呟く。

 

「その子達のシャツとパーカー? ……それがどうかしたのか?」

 

呟かれた言葉を聞き返すように彼はそう言って、はっと意図を察したように相方と一緒に此方を見る。そしてじーっと私達を見ると、また寡黙な方の彼に向き直った。

 

「相棒……お前もオレと……同じことを考えているのか?」

 

そう言うと、兎耳の彼は此方に背を向ける。

 

「クソ。なんて……恥ずかしいミスなんだ」

 

そして、明確な敵意を此方に向けながら、彼らは自分達の武器を召喚して私達を見据える。それを見て私はフリスクの前に出て、庇うように立つ。

 

「こいつらが、オレ達が倒さなくてはいけない敵じゃないか」

「……はは。簡単に『倒す』なんて言うけど、そんな簡単に倒せると思うなよ?」

 

そう私が彼らに言った瞬間、周りが白黒に切り替わった。

 

Royal Guard attacks(Royal Guardが襲いかかってきた)!

 

白黒になった世界で武器を構える彼らと対峙する。私はナイフを抜かずに、フリスクをすぐに抱えられるように構えておく。後ろでピッという音がした。

 

*RG 01-ATK 30 DEF 20

Royal guard member with shining,(ピカピカの鎧をまとった、)polished armor(王国騎士団のメンバー).

 

調べるを押したらしく、頭の中にそんなアナウンスが流れる。アナウンスが流れ終わった瞬間に、ロイヤルガード達が攻撃に移ろうとする。

 

『よし、チームアタック!』『……チームアタック』

 

息の揃った掛け声と共に、彼らは攻撃を仕掛けてくる。私の背後に素早い動きで寡黙な方の彼が周り込み、それと同時に兎耳の彼が剣を使って攻撃してくる。攻撃される瞬間を見計らってフリスクを抱え上げ、前後から繰り出される攻撃を全神経を研ぎ澄まして横に回避する。

 

シュンッ

 

「あぶなっ」

 

一閃、容赦なく背後から斬りつけてくる寡黙な彼の攻撃を間一髪体を捻り、避ける。

 

「チッ」

 

仕留めれなかった事に苛ついたのか、確かに一つ舌打ちをして、寡黙な彼はそのまま兎耳の彼の隣に立った。

 

Sweat pours from 02's armor(02のアーマーから汗が吹き出る).

 

やはり彼も暑さを感じているらしく、アナウンス通りに鎧から蒸気らしきものが吹き出た。熱と汗を鎧の中に籠らせない仕組みだろうかと思いながら、その蒸気から目を逸らして集中する。私に抱えられたフリスクが、『ACT』に手を伸ばした。

 

*RG 02-ATK 30 DEF 20

Royal Guard member with stuffy armor(丈夫な鎧を着た、王国騎士団のメンバー).

 

寡黙な方の彼を調べたのか、そんなアナウンスが流れた。

 

『「消えて塵になるんだな」的な?』『………フン』

 

今度は兎耳の彼が私の背後に周り、前後から斬りつけてくる。

 

「おらよっ」

「……消えろ」

 

先程の攻撃とは違い、フェイントを仕掛けてくる。それを何とか見極めて避けると、私に攻撃避けられ体勢を崩した寡黙な方にカウンターで鎧に蹴りを一発入れておく。

 

「やだよ、私が消えるのはまだもう少し先だ」

 

ガシャンッ

 

「ぐっ……!?」

「相棒!!」

 

鎧を着ていても多少ダメージが入ったらしく、彼はふらつき、後退する。そんな彼を案じた兎耳のロイヤルガードが動揺し声を張り上げ、連携が崩れる。その隙を突いて二人から離れる。……足、ちょっと痛いな。

 

02 watches your movements(02はあなたの動きを注視している).

 

先程隙を突かれて蹴られた為か、体勢を立て直しながら私を注視する寡黙な方のロイヤルガード。

 

「……はは、そう睨むなって」

「…………ッ」

 

余裕があるように見せるため笑いながらそう言ってみれば、寡黙な彼から向けられる殺意がさらに膨らむ。それでも、私の心は凪いでいた。……殺意を向けられることに、慣れたくなかったんだけどなぁ。

ピッという音が腕の中から聞こえ、フリスクが私の中から出ていく。

 

「あっ、フリスク!?」

 

私の腕の中から離れ、体勢を立て直した寡黙なロイヤルガードに近付いていくフリスク。そして、いつの間にか手に持っていたハンカチで、寡黙な方のロイヤルガードの鎧を拭きだした。

 

You clean RG 02 armor(あなたはRG 02の鎧を洗った).

 

「……ちょっ、えっ!?」

「……なにを、する……!!」

 

今まで殺しに来てた奴に近付いた上鎧を拭くという端から見れば奇行にしか見えない行動に驚いたのか、狼狽えて対応が遅れる彼らを無視し、フリスクは鎧を拭き続けていく。

 

Its cooling dirt begins to wash away(冷却泥が流れていった).

 

そのアナウンスが流れると同時に、フリスクは満足したのか脱兎の如く此方に逃げ帰ってきた。

 

「何してんの!? 危ないこと必要以上しないで!!?」

「あはは……」

 

軽くフリスクに怒りながら、もう一度抱き上げて回避出来るよう構える。

 

『「貴様は死んでいる」、的な?』『………暑く………なってきた』

 

「北〇の拳かよ」

 

我に返った兎耳のロイヤルガードの言葉で懐かしい名言を思い出しながら、また二人から繰り出される連携攻撃を回避する。途中、フリスクが近付いてきた寡黙の方のロイヤルガードに隙あらば鎧を拭くというなかなか器用な事をし出したのをスルーしながら、回避に専念する。

 

「………………暑い」

「……え、相棒?」

 

ふと、寡黙なロイヤルガードが攻撃を中断し、立ち止まる。それに気付いた兎耳のロイヤルガードが戸惑ったような声をあげ、立ち止まる。

 

『………もう………耐えられない』

 

ガシャン、という音を立てて、彼が持っていた武器が落ちる。

 

『……鎧が暑い………熱すぎる!!!』

 

そして、寡黙な彼は鎧を思いっきり脱ぎ捨てた。鱗に覆われた鍛えられた上半身が現れ、思わず唖然とした。

 

『……これでいい』

「いやよくねぇよ!!?」

 

RG 01 looks bothered by something(RG 01は何か困っているようだ).

 

いや、ここでアンダインみたいに倒れられても困るけどさぁ……

と思いながら、取り敢えずツッコミを入れておく。半分聞き流していたアナウンスに兎耳の彼の方を見ると、確かに狼狽えてオロオロとしていた。

 

「あ、え、相棒、ちょっ………」

 

兎耳のロイヤルガードはチラチラと寡黙な方のロイヤルガードを見ては目を逸らし、目のやり場に困っているような動作をする。

 

「………。お姉ちゃん、ごめん、降ろして?」

「え、うん………危ないことはしないでね?」

「分かった」

 

それを見て何かを察したらしいフリスクは『ACT』を押し、私に一言告げてから兎耳の彼のもとへと小走りで近付いていく。そして、兎耳のロイヤルガードの鎧を軽く叩き、彼をしゃがませてから此方には聞こえないように耳打ちをした。

 

You tell RG 01 to be honest with his feeling(あなたはRG 01に本心を話すように勧めた).

 

そのアナウンスが流れると同時に、フリスクは此方に先程と同じように小走りで帰ってくる。それを受け止め、私はすぐにフリスクを抱え上げた。

 

『オレ……オレは……』

『………どうした?』

 

兎耳のロイヤルガードが動揺している事に気付いたのか、寡黙な方のロイヤルガードは兎耳の彼を案じるような声を出しつつ、私の背後に周る。それを見て、兎耳の彼も攻撃を仕掛けようとする、が……

 

「お、オレは……」

 

何分、フリスクに囁かれた言葉が響いているらしく、先程までの攻撃の鋭さは無く、連携が上手く取れていなかった。

 

『………な、なぁ……』

 

攻撃が止み、兎耳のロイヤルガードの隣に寡黙な方のロイヤルガードが立つ。すると、兎耳の彼は意を決したように話を切り出す。

 

『もう……もう……もう我慢出来ないんだ! このままなんて!!』

 

唐突に、彼は思いの丈を寡黙な方の彼にぶつけ始めた。

 

『なあ、02! オレは……オレは、お前が好きだ!』

 

そして、兎耳の彼は寡黙な方のロイヤルガードと向き合い、一世一代の告白をした。

 

「やっぱり……」

 

私の腕の中で、フリスクが確信を持ったような言い方で、そう呟いた。そして、もういいよ、と言って私の腕の中から出て、地面に降りた。

 

『お前の闘う姿……お前の喋り方……お前とするチームアタックも。オレはこうしてお前と並んでシンクロ攻撃するのが好きなんだ……』

 

今まで彼の中で渦巻いていたのであろう想いが、兎耳の彼の口から溢れ出ていく。

 

『02……オレは、その、これからもずっとお前とこうしていたい……』

 

彼のあの甲冑(だと思う)の下はきっと真っ赤になっているんだろうな、と思いながら、空気を読んで黙っておく。流石に私もそこまでKYじゃない。

 

『…………………』

『……あ……いや……忘れてくれ! こんな話!!! ハハ!』

 

ただ、黙って立つ寡黙な方のロイヤルガードに、引かれたと思ったのか、ハッとして彼は慌てて顔を逸らし、今の自分が言った言葉を無かった事にしようとする。

 

『………01』

 

慌てる兎耳のロイヤルガードを真っ直ぐ見ながら、寡黙な方の彼も言葉を紡ぎ出す。

 

『あ、ああ、なんだ相棒?』

 

一瞬ビクリと肩を大きく震わせてから、兎耳の彼はもう一度寡黙な方のロイヤルガードを見た。

 

『……………後で一緒に……アイスクリームでも……食いに行かないか?』

「……それ、って……」

 

間を開けながら、それでもはっきりと言われた言葉に驚いたのか、兎耳の彼は驚いたように言葉を溢し、そして、

 

『ああ、そうしよう!! ハハ!!』

 

嬉しそうに、頷いた。

 

01 and 02 are looking at each other happily(01と02は幸せそうに見つめ合っている).

 

「あはは、すっげー幸せそー」

 

アナウンス通り幸せそうにお互いを見つめ合う二人を見てそんな事を言ってから、私は二人に停戦を持ちかける。

 

「おーい、そこのお二人さーん。大事な人とのデートは早く行った方がいいと思うんで停戦しません?」

「デー………ッ!?」

「………あぁ、そうだな」

 

『デート』とはっきり言われて狼狽える兎耳の彼と、『デート』という言葉を特に否定せずに頷いた寡黙な彼を見て、フリスクはにっこり微笑みながら『MERCY』に手を伸ばした。

 

YOU WON(あなたは勝利した)!

You earned 0XP and 100gold(0XPと100goldを得た).

 

「それじゃあ、お幸せに!」

 

一応一言そう言って、私はフリスクの手を引いて、歩いていった彼らに背を向けた。

 

「………やっぱり、好きだったんだね」

 

ふと、ぽつりとフリスクがそんな言葉を漏らした。

 

「そうだねー。……多分彼らは男同士なんだろうけど、愛することを咎めたりしちゃダメだからね」

「うん、分かってるよ。だって、誰かを愛する事は誰にも止められないもん。違う?」

 

言おうとしていた事をフリスク自身の口か言われて思わず驚いてしまう。

 

「………そうだよ。そこに偏見を持ったりしちゃ、いつか誰も何も愛せなくなってしまうからね。それだけは覚えておいてね」

「うん」

 

そんな事をフリスクに言いながら、前に進んだ。


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