※支離滅裂です
【Lily】
チーン、という音がして、エレベーターの扉が開いた。次のフロアに着いたらしいと判断し、私は涼しいエレベーターの中から出たくないなと思いながら足を動かし、外に出る。
「うっ、やっぱりあっつ……」
マグマから遠ざかったからか、少し温度が低くなりはしたが、それでも暑い。やだなぁ、この暑さ。
暑さにうんざりしながら、小さな炎のモンスターに話しかけにいったフリスクを待つ。小さく挨拶を返して此方に戻ってきたのを確認し、先に進む。
「……? え、こんなとこに雪?」
不思議そうに呟いたフリスクは、先に見える小屋のようなものへと近付いていく。その後を私はついていき、この小屋は確かサンズのホットドッグ屋だったか、と思い出す。
「やぁ、サンズ。さっきぶりだね」
「……おぉ、お前さんか」
鳥形のモンスターに話しかけにいったフリスクを追い越し、カウンターに腕を枕にして顔を伏せていたサンズに話しかければ、眠たそうな顔を上げてよぉ、と気怠げに手を上げた。
「またバイト?」
「まぁ、そんなところだな。ホットドッグ屋なんだ。買っていかないか?」
「あー……どうしようかな。安くしてくれるっていうならいいけど」
「おいおい、勘弁してくれよ」
「あはは、冗談だよ」
サンズと軽く談笑していると、話し終わったらしいフリスクが近付いてくる。
「よぉ、ホットドッグ、買ってくか?」
サンズの言葉に悩む様な仕草をしたフリスクは、暫くそのまま考え込むと、頷く。そしてポケットから代金を引っ張り出し、サンズに手渡した。
「へへっ、毎度あり」
代金を受け取ったサンズは、ほかほかと湯気(?)を上げるホットドッグらしきものを取り出し、ケチャップとマスタードをかけて、フリスクに差し出す。
「ほらよ。アポストロフィードッグだ」
「………え、ホットドッグじゃなくて?」
サンズの口から聞こえた言葉に思わず聞き返す。
「そう。アポストロフィードッグ。アポストロフィードッグ。ホットドッグの略さ」
……『Player』に解説するためとはいえ、二回も言われると何か気持ち悪いな……
そんな事を思いながら成り行きを見守っていると、サンズの言葉に納得したようにフリスクは頷き、差し出されたホットドッグを受け取る。手を汚さないように紙に包まれた熱々のホットドッグは、本当に美味しそうだった。
「熱々のうちに食べちゃいなよ」
「うん!」
いただきます、と言って、フリスクはホットドッグにかぶりついた。そして目を輝かせ、おいひい、と言って、やっぱり熱かったらしく、はふはふと熱を逃がしながら食べていく。可愛いな。
「おー、いい食べっぷり。……サンズ、君もしかして料理上手かったりする?」
「上手いかどうかは知らんが、まぁ、大抵のものは作れるぜ」
「マジかよ……」
ウィンクしながらそう言ったサンズに、驚いてしまう。
……でもよくよく考えたらそうだよな。今までパピルスが育った環境に必ずサンズはいた筈。弟にご飯を食べさせる為、とかいう理由で修得してても別に可笑しくはないな。私だって料理あんま好きじゃなかったけど、フリスクに美味しいご飯食べて欲しくて頑張ってそこそこ作れるようにはなったし。
「ところでお前さん」
「ん?」
「大丈夫か?」
「……え、何が?」
唐突に、サンズが私の事を気遣うような発言をした。何故そんな事を訊かれるか分からず、素で聞き返してしまう。
「いや、さっき休憩してるときにクッキングショー見てたんだがよ。出演してた人間、お前さんらだろ?」
「………あー、うん」
そこまでサンズに説明され、彼が何を心配しているのか察する。つまりはメンタルは平気かって言いたいのか、サンズは。
「うん、今のところは大丈夫。一周回って冷静になったから」
「そうか、ならいいんだが」
サンズにそう返すと、ぐいっとパーカーの裾を引っ張られる。
「ねぇ、お姉ちゃん、あーん!」
「えっ」
引っ張られた方を見ると、ホットドッグを半分くらいまで食べたフリスクが私にホットドッグを差し出してくる。
「凄い美味しいよ、これ! お姉ちゃんも食べて!」
「え、あ、うん……じゃあ、いただきます」
突然のことに戸惑っていると、ずい、とフリスクは背伸びをして私の口にホットドッグを近付けてくる。流石に妹の好意を無駄にするわけにも訳にもいかず、私は差し出されたホットドッグに一口分かぶりつく。
「!」
とても良い焼き加減のソーセージを噛みきると、じゅわ、という音がしそうなぐらいにソーセージの肉汁が溢れ出し、レタスのシャキシャキ感が、マスタードとケチャップ、そしてふわふわのパンにマッチして、確かに凄く美味しかった。……なんだこれ、ガチで旨いな。
「あぐ、ん……もういい、後は食べていいよ。うん、本当に美味しいね、これ」
「でしょー?」
咀嚼してかぶりついた分を飲み込み、感想を述べる。
「これ、本物のソーセージか?」
「いや、『ウォーターソーセージ』さ。ソーセージとはちょっと違うな」
「へー……滅茶苦茶美味しいよ、これ。
「…………は?」
ふと私が零した言葉に、サンズは目を丸くする。
「……あ。ごめん、何でもない」
その表情で、私は私にとっても彼にとってもとんでもない事を言ったことを悟り、直ぐに誤魔化す。とはいっても聡い彼には意味が無かったようで、先程気遣ってくれたときには無かった疑心の籠った目で私を見つめる。その目から私は目を背け、ホットドッグを食べきったフリスクを見る。
「……」
「おぉ、もう食べきったのか。案外食べるのはやいな、お前さん。紙は俺が処分するから、こっち寄越せ」
パクパクと口を動かしながらサンズに何かを言って、フリスクはサンズに丸めた紙を手渡す。
「それじゃ、食べ終わったことだし、私らは行くよ。じゃあね」
「………おう」
まだ疑心の籠った目で私を見ながらも、サンズは手を振って私達を見送ってくれた。その手に背を向けながら、私は言動にはもうちょっと気を付けないとな、と思った。
「さて、行こうか」
――――――――――――――――――――――
真っ直ぐに道を歩いていると、ピロンという音が横のフリスクから聞こえる。またSNSが更新されたか……
「『彼女とディナー』………え、彼女? お人形さんだよね、これ……」
どうやら写真付きだったらしく、携帯を開いたフリスクは怪訝そうな顔をする。確かミューミューのフィギュアが写ってるんだっけ、と思いながら、携帯の画面に釘付けなフリスクの手を引いて進んでいく。またピロン、という音がした。
「『ホットな写真を貼る流れ? じゃあ俺様はクールな友達と』……パピルスSNSやってたんだ……」
フリスクの言葉に、そういえばパピルスもやってたな、と思い出しながら歩いていくと、何かが向こうから跳んできて、急に周りが白黒に切り替わった。
*
エンカウントか。
「フリスク、携帯しまって後ろに居て」
「うん」
そう冷静に判断しながら、私はフリスクに携帯をしまうように指示し、ハンカチを取らずにナイフを取り出す。確か、コイツの弾幕は爆弾を落としてくるやつもあった筈。ナイフで切り捨てた瞬間に爆発したら不味い、と判断したためだ。
*PYROPE―ATK 29 DEF 14
*|This mischievous monster is never warm enough《このやんちゃなモンスターは温まりきったことがない》.
『燃やせ、ベイビー。燃やすんだ!』
何をだよ、と心の中でツッコミを入れながら、予想通り此方に投げ飛ばされてきた爆弾を爆発する前に弾き、遠くへ飛ばす。爆発して起きた爆風を浴びながらも何とか全て弾き、直接の被弾は免れる。
*
爆風の熱さに少し火傷したらしく、ピリピリと肌が少しだけ痛む。後ろのフリスクを見てみれば、長袖を捲っていなかったからか、火傷はしていなさそうだった。
フリスクに怪我が無い事に安堵していると、『ACT』を押したフリスクは、キョロキョロと周りを見渡してから、何かを見つけて走っていく。そして、見つけた物を迷うことなく回した。
*
*
そうアナウンスが流れた瞬間、周りの温度が高くなる。
「くそあつっ……!」
『あつい!! あついい!!! もっと! 熱くだ!!』
思わず悪態を吐く私に対し、パイロープは興奮したように叫ぶ。そして、自分の体の燃え盛るロープらしきものをフリスクに向けて伸ばそうとする。
「こっち狙えよ!!」
そう言いながら、フリスクに向かって駆け寄り、ロープがフリスクに当たる前より先にフリスクの前に辿り着き、直ぐ様抱え上げる。
「燃えてる部分の炎、多分オレンジアタックだ! 動いてればダメージ喰らわない筈だから突っ込むよ!」
「うん、分かった!」
フリスクに覚悟を決めてもらい、弾幕の中を突っ込んでいく。体を何かがすり抜けていく気持ち悪い感触に耐え、走り抜けた。
*
「お姉ちゃん、さっきの機械のところまで戻って!」
「オッケー」
熱くなれよォォォォというネタを思い出しながら、『ACT』を押したフリスクに指示されたままに、先程の温度調節器の前まで戻る。すると、フリスクは私に抱き抱えられたまま、ダイヤルを思いっきり回した。
*
*
*
『あつい!! あついい!!! もっとだ! 熱くだ!!!』
アナウンスが流れた瞬間、また一段と熱くなる。眩暈が起きる程暑い中、フリスクを降ろして前に出て、パイロープから飛んできた爆弾を弾いていく。爆風で更に熱くなる中、耐える。
*
やっと弾幕が止み、此方にターンが回ってくる。若干暑さで朦朧としていると、後ろからピッ、という音がした。
*
*
やっと戦闘が終わったらしく、周りが白黒から切り替わると同時に、温度が大分低くなる。温度調節器をフリスクが回してくれたんだな、と思いながら、腕で汗を拭った。
「あー、暑かった……」
「大丈夫……? 水飲んだ方がいいんじゃないかな」
「そうだね、飲もうか」
フリスクの提案に賛同し、リュックを前に持ってきて水入り瓶を引っ張り出す。そして蓋を開けて一口飲み、フリスクに渡す。まだ冷たかった水が、渇いた喉を潤していった。
「んっ、んー……ぷは、生き返るねー」
「そうだね」
ごくごくと三口程水を飲み、此方に瓶を渡したフリスクに同意し、瓶をしまう。そしてリュックを背負い直し、一歩歩いた瞬間、またピロンと音がフリスクから聞こえた。
「『ちょ……クールスケルトン95! ……それ冗談だよね?』」
いや、それお前が言うか……?
と思いながら、また携帯を見出したフリスクの手を引いて歩いていく。また、ピロン、という音がした。
「『ギャグパートは、俺様の屈強な上腕二等筋だけだぜ』…え、パピルスって筋肉あったっけ……?」
「それ突っ込んじゃいけない」
書き込みを読み上げたフリスクの疑問にそう返し、そのまま私はこう続ける。
「別れ道あるけど……どっち行く?」
「え、うーん……左!」
「オッケー、じゃあ左から行こうか」
少し悩んでからそう言ったフリスクの言葉に従い、私は左に曲がり、そのまま道なりに進んでいった。
※3/12 ミス修正