【Lily】
先程の道にまで戻ってくると、ピロン、という音がフリスクから聞こえる。
「『あーあ番号押すのに五分もかかっちゃった。よし電話! 遂に電話をかけるよ!!!!』」
五分……?
携帯を引っ張り出して投稿を読み上げたフリスクの言葉に、そんなに短かったかと内心で疑問に思いながら、装置に乗り、対岸に飛び移る。携帯をしまって飛んできたフリスクを受け止めて地面に降ろすと、
プルルルル………プルルルル………
「あ、電話だ。アルフィスかな?」
「多分ね」
携帯を引っ張り出してフリスクが電話に出ると、
ガチャンッ
「えっ」
出た途端に切れた。
「えっ、あれ……?」
「………イタズラ電話だったの?」
「いや、そういうわけじゃないと思うけど……あれ……?」
電話に出た途端に切られた事に驚いて唖然とするフリスクに訊いてみれば、首を振りながら否定される。
「んー……間違えて切っちゃったのかなぁ……?」
「さぁ……? まぁ、用があればまたかかってくるだろうし、気にしなくていいんじゃない?」
「そうだねー」
首を傾げるフリスクに一応フォローをしておけば、フリスクは頷いて携帯をしまった。
「行こう」
―――――――――――――――――――――――
「………うっわ」
道の先に見えてきた連なるビームの壁に、思わず声が出る。……えげつねぇな、この配置。
「何あれ……」
後から来たフリスクの愕然としたような声が聞こえた。それを聞きながら私はビームの壁に近付いて観察する。……ゲームだった時は俯瞰で見てたから分からなかったけど、こんな風に壁になってんのか。下から潜れば行けるかと思ってたけど、ダメそうだな、これ。
プルルルル………プルルルル………
一応考えていた対策が潰れ、どうしようかと悩んでいると、後ろから電話のコール音が鳴った。
「……今度こそアルフィスじゃない?」
「そうかも」
振り返りながらそう言えば、フリスクは頷きながら携帯を出し、電話に出る。
「……」
フリスクの声が電話に出た途端に聞こえなくなった事に『Player』に対して若干の怒りを覚えながら、時々頷きながら話をするフリスクから目を逸らし、私はあることを思い付いて、リュックの中を漁る。
ガチャン
電話が切れたと同時くらいに、私はリュックから取り出した、どう処分するべきか悩んでいた自分の切られた髪をマグマに向かって投げ捨てた。
「!? ちょっとお姉ちゃん!!?」
私の行動に驚いたらしいフリスクが駆け寄ってきてマグマを覗き込む。ジュッ、という音を立てながら髪はマグマに呑まれ、消えた。
「邪魔だったし棄てた。よく考えたらあれが無かったらリュックにまた空きが出来るしね」
「え、えぇ……?」
目を丸くするフリスクにそう返し、ビームの壁の前に立つ。
「まあ私の髪はいいんだよ。それで、アルフィスから何か聞いたの?」
「えぇー……えっとね、青色のビームは止まれば痛くなくて、オレンジ色のビームは動いてれば痛くないって!」
「了解。じゃあ先に進もうか」
そう言った瞬間、またフリスクからピロンという音がする。………アルフィスSNS弄りすぎだろ。
「『やったよぉぉー!!! アンダインが電話で天気の話を振ってきた以来の緊張だった……』」
それもそれでどうかと思うがな、と思いながら、私は壁の前に立つ。
「じゃあ、まず私が通ってみるよ。フリスクはあとからおいで」
「え……でも……」
「大丈夫だよ、アルフィスの言葉を信じよう」
「………うん」
心配そうに顔を歪めるフリスクの視線を感じながら、意を決してビームの壁に飛び込んだ。
「っ……」
何かが私を通っていくような感覚を覚えながら、ビームの壁を一気に二つ、無事通り抜ける。
「………うん、大丈夫。おいで、フリスク」
自分の体に傷がない事を確認して安全だと確かめ、フリスクに声をかけると、戸惑ったように壁を一瞬見上げてから、フリスクはダッシュで通り抜ける。
「………ほんとだ」
私の元まできたフリスクは、何処にも傷がないことに驚いたような顔をした。まだ不思議そうに自分の体をペタペタと触るフリスクからピロン、という音が聞こえ、また通知が来たらしいと察し、携帯を引っ張り出すのを見届ける。
「『あれ? 地下には天気なんてないのに何で聞いたんだろ?』」
読み上げられた書き込みに、アルフィスも中々鈍いよなぁ、と思う。天気を聞くなんて青春漫画だと好きな子の前でどもった時の常套句みたいなもんなのになぁ。……まぁ、一種の諦めみたいなのもあるんだろうけど。自分の所業に苦しめられてる証拠だよなぁ。
そんな事を思いながら、私は先を目を凝らして見てみる。すると、スイッチがある事に気付き、あれを押せばこのビームを止められると思案した。……ビームの中通らせる必要なかったな。
「フリスク、彼処にスイッチがあるっぽいから行ってくるよ。動かないでね」
「え……うん……」
フリスクに動かないように指示し、青色のビームを少しずつ動いて切り抜ける。
「……っ」
……慣れねぇな、この感覚。
慣れない感覚に若干気持ち悪さを覚えながら、ビームの壁を止まって走ってを繰り返して切り抜けていく。
青。
オレンジ。
青。
オレンジ。
青。
青。
オレンジ。
「……ふぅっ」
なんとか無事に切り抜け、スイッチを急いで押す。カチリ、という音がしてスイッチが緑色に切り替わり、ビームの壁が消えた。
「よし、おいでー」
フリスクに声をかけてこっちに来てもらい、また先に進んだ。
――――――――――――――――――――
道を進んでいくと、またフリスクからピロンという音がした。
「『やば進む道教えるの忘れて』……え、T? どうやって読めばいいんだろう、これ」
「『た』って打とうとしたんじゃない?」
「あー、成る程」
怪訝そうな声をあげたフリスクに振り返らずに返答すれば、納得したような声をあげて、携帯を持ったまま私の隣を歩こうとする。隣に来たぐらいにまたピロンという音が聞こえ、更新されたらしいと察しする。
「『キュートな自撮り晒しタイム』」
「写真上げたの? 見して」
「ん」
フリスクに携帯を見せてもらうと、確かに写真が乗っていた。………ゴミ箱の。
「………自撮り……なのこれは?」
「違うと思う」
「だよな」
思わず顔をしかめてそう言えば、即座にフリスクに否定される。携帯から顔をあげ、フリスクの手を引いて先に進む。
「フリスク、曲がるよ」
そう声をかけ、左に曲がって歩く。
「………あー、閉じちゃってんな……」
「え? あ、本当だ」
ふと足を止めて目の前にある重厚な扉を見て、そんな事を呟くと、フリスクが反応して顔をあげ、同じように扉を見る。
「どう突破するべきか……」
そのまま矢印が切り替わる装置の一歩前ぐらいで悩んでいると、電話がかかってきた。
プルルルル……プルルルル……
「アルフィス?」
「うん」
フリスクに電話の相手を確認して手を離し、電話が終わるのを待つ。比較的直ぐに終わり、二、三分するとフリスクは電話を切り、携帯をしまった。
「なんだって?」
「あのね、あの扉の突破方法教えてくれたよ!」
「マジか。タイミングいいな」
ゲーム通り突破方法を教えてくれたらしく、嬉しそうにフリスクは笑いながらそう言った。それを見て、若干複雑な気持ちになる。……仕組まれてんだよなぁ、これ。
「で、どうしろって?」
「左右のパズルを解くと開くらしいよ。で、最初は右の方がいいって」
「そっか。じゃあ右から行くか?」
「うん!」
湧いてきた気持ちを殺し、フリスクに訊けば、そう返される。それに従い、装置の矢印表示が右になった瞬間に乗り、対岸に飛び移る。続いて飛んできたフリスクも受け止め、先に進む。すると、すぐに塔のようなものが見えてきた。真っ先にモンスターに話しかけに行ったフリスクを横目に、私は装置の中に入る。ゲーム通りのパズルに安堵しながら、私は壁にある貼り紙を見る。
『反対側の船を撃て! 邪魔な箱を動かして任務を遂行しろ』
説明書に目を走らせ、そしてパズルの操作パネルを見る。
「……あー」
解いていいのかなと悩んでいると、誰かが入ってきた音がした。足音からフリスクだと察し、振り返る。
「解けそう?」
「んー……」
フリスクに曖昧に返事をし、パズルを見つめる。
「………いや、これ多分フリスクも解けると思うからさ、やってみたらどうかなと思ったんだけど。やる?」
「! やる!」
「じゃあ、まずこのボタンが……」
私の問いに顔を輝かせて頷いたフリスクに場所を譲り、一応操作方法を教えておく。静かに私の説明を聞いたフリスクはさっそくボタンを使ってパズルを解いていく。
「ん、んっと………こうだ!」
ガチャガチャと箱を動かし、『撃つ』と上に書いてあるボタンを押すと、見事箱を壊し、反対側の船を撃ち抜き、パネルに『おめでとう』という文字が浮かび、パズルが解けたことを告げた。
「やった!」
「よくできました」
「えへへぇ」
喜ぶフリスクに頭を撫でながら褒めてあげると、さらに嬉しそうに頬を緩ませる。かわいい。
「……さて、行こうか」
「うん!」
手を繋いで、装置から出る。そしてそのまま真っ直ぐ先程の分岐点まで戻り、また装置に乗って今度は逆側に飛び移る。
「……! あ、道が塞がれてる!」
フリスクを受け止めて地面に降ろすと、フリスクは道の先を見てそう言って走っていく。その声に吊られて私も先を見ると、確かに青いレーザーで道を塞がれていた。
「マジか……」
そう呟きながらフリスクの後を追うと、レーザーの前でフリスクが立ち止まり、携帯を引っ張り出した。……あ、電話か。
「………」
フリスクの隣に立って電話が終わるのを待っていると、ゲーム通りに話が進んだらしく、電話が切れたと同時に目の前のレーザーが突如消えた。
「うおっ」
「おぉ、本当に消えた!」
思わず二人で驚いてから、先に進む。端にいる女子高生のようなモンスター二人に話しかけに行くフリスクを見ながら、私はまた先に装置の中に入る。そしてまた構造を確かめ、パズルを始める。……これはフリスクには難しいだろ。
「んー…これを……」
「あ、先に始めてる」
「ごめん、先にやってた」
「大丈夫だよ、ぼくもさっきやったし」
話を終えて中に入ってきたフリスクに振り返らずに謝り、パズルに集中する。……えーと、ここをこうして、こうして………
「おし、出来た!」
パネルを操作して端に箱を動かし、直線上にある箱を一つだけにして、容赦なく撃つ。すると、上手いこと反対側の船に当たり、先程と同じように『おめでとう』という文字がパネルに浮かんだ。
「お姉ちゃんすごい!!! これであの扉が開いたね!」
「あはは、ありがとう。そうだね。……進もうか」
装置の中から出て、分岐点まで戻り、今度は重厚な扉の前に飛び移る。フリスクを受け止めて地面に降ろし、隣に立たせると、
ギィィィィィ
という音を立てながら、ゆっくりと扉が開いていく。冒険もののゲームで良くあるような開き方に、内心で苦笑しながら、フリスクを見る。
「おー……」
扉を見て、目を輝かせるフリスクに若干癒されながら、私はフリスクの手を繋ぐ。
「行こうか」