【Lily】
「おぉ、涼しい……」
さっきまでクッソ暑い所にいた所為か、光がない暗いラボの中は涼しかった。冷房効いてるのかな?
「すみませーん、誰か居ませんかー?」
「……? あ、お姉ちゃん、あれ……」
「ん?」
声をかけながらラボの中を少し進むと、巨大なテレビがついていた。何かを映し出している事に気付いたらしいフリスクは、テレビに近付いていく。そして、テレビを見てから驚いたような顔で振り返った。
「ぼく達が映ってるよ!」
「はぁ!?」
思わず驚いて私もテレビに近付いてみる。すると、スクリーンを覗き込む私達の背中が映っていた。
「えぇ……マジかよ……何処にカメラがあるんだ……?」
そう言いながら振り向いて天井の方を見てみる。キラリとテレビの光に反射してカメラらしき物のレンズが見え、彼処かと見当をつける。
「ちょ、盗撮やん………」
「え?」
「いや、なんでもない……行こう。暗いから離れないでね」
「うん」
思わずそう呟けば、フリスクに不思議そうな顔をされた。……いや、うん、見られてたのは知ってたけどね……?
「……おーい、誰か居ませんかー?」
テレビから離れ、また呼び掛けながら進むと、シュッという何かが動く音が少し先で聞こえた。
「……ん?」
目を凝らして見ていると、小さめの影が動くのが見え、その瞬間、周りが明るくなった。
「うおっ、まぶしっ」
「………え?」
突然明るくなった事に目が着いて行けず、思わず目を覆いながら声を出す。すると、相手も此方に気付いたらしく、驚いたような声をあげた。
「うー……あ、どうも」
目を瞬かせて光に慣らしながら手を上げて挨拶すれば、白衣を着た恐竜のような眼鏡をかけたモンスターは、驚いたように目を丸くし、そして頭を抱えた。
「ああ、なんてこと。こんなに早く来るなんて思ってもいなかったわ!」
わたわたという効果音が付きそうなくらいに慌てながら、優しい声で目の前の彼女はそう言う。
「シャワーもまだだし、服も適当だし、部屋も掃除してないし、それから……」
「あのー、ちょっと……挨拶に応えてくれないとこの左腕が下ろせないんですけど……」
慌てる彼女にそろそろ上げている左腕が辛い事を言えば、はっとして彼女は此方を向いた。
「あ、ご、ごめんね! どうも! 私はアルフィス博士。アズゴア王直属の科学者です!」
「どうも」
自分で『博士』って言っちゃうのね、と思いながら挨拶を返し、左腕を下ろす。チャリ、腕輪の鎖が擦れる音がした。
「で、でも、あー、私はワルモノじゃないですよ!」
慌ててそう付け足す彼女――アルフィスを見ながら私は内心苦笑する。……私、全部知ってるからなんとも言えないんだよなぁ。
「実は、あなたたちがルインズを出てから、私は、ええと……」
若干吃りながら話すアルフィスの言葉に耳を傾ける。
「……ずっとあなたたちの冒険を画面越しに観察していたの。あなたたちの戦いも……あなたたちの友情も……全て!」
「………それ盗撮って言うんじゃ……まぁいいや。え、じゃあスノーディンとかにあったカメラとかで見てたってこと?」
思わず小声でツッコミを入れつつ、私はアルフィスに確認する。
「……!!! えぇ、そうよ!」
「? あー……やっぱりそうなんだ」
一瞬、私を見たアルフィスの顔がぱあっと輝いたような気がして、内心で疑問が生じる。ただ、次の瞬間にはもう微笑むような顔に戻っていたからか、気のせいなのか迷って判断が下せず少し困惑する。……なんだったんだ?
「最初はあなたたちを止めようとしていたんだけど、でも……スクリーンを見ている内に応援したくなったっていうか」
少し照れながらそう言葉を紡ぐアルフィス。
「だ、だから、えー、助けになりたくて! 私の知識があれば、ホットランドは簡単に抜けられるので!」
「!」
アルフィスのその言葉に、今度は横に居るフリスクがぱあっと顔を輝かせる。かわいい。
「アズゴア王のお城にも案内できるし、大丈夫!」
「おぉ、それは助かるね」
私が相槌を入れると、アルフィスは一瞬口を閉ざした。
「………えっと、でも実は、あー、ちょっとだけ問題があって」
問題?と言わんばかりに、フリスクは首を傾げた。
「随分前に、私はメタトンっていうロボを作ったんですけど」
『ロボ』と聞いて驚いたのか、フリスクは目を丸くした。
「元々のコンセプトは、エンターテイメント用のロボで。……あの、その、テレビスターロボって感じの」
「……アニメとかでよくあるような?」
「そうそう、そんな感じ!」
確認の為にそう訊き返すと、アルフィスは頷いた。
「で、そのロボをもっと便利にできないかなと思って。あの、ちょっとした実用的な機能っていうか」
「あー、あると便利だもんね。それで?」
相槌を打ちながら、話の先を促す。
「た、例えば……対……対人戦機能とかそういうアレみたいな?」
「…………へぇ、そっか」
その言葉を聞いて、自分でも驚くほどの低い声が出た。私の雰囲気が急変したのを感じ取ったのか、一瞬、アルフィスが顔を青褪めて固まった。……まぁ、アンダインにキレてるのもどうせ見てたんだろうしなぁ。そりゃ怖がるわな。
「も、もちろん、あなたたちが来てすぐに、解除しようとしたんですけど! ……ちょっとした手違いがあって……」
「ふーん。それで?」
「あー、えっと……」
吃りながら話すアルフィスに、次を急かす。
「………人間の生き血を求めて暴走する殺人兵器になっちゃった、みたいな? エヘヘヘ………ハァ」
「そう」
冷たく見えるであろう反応を返しながら、内心でアルフィスに若干の罪悪感と怒りを覚える。……ごめん、君が考えてること全部知ってるんだよなぁ。
「でも、まぁ、出会わなければ大丈夫なので!」
「それフラグでは……?」
思わずツッコミを入れたその時、小さく、何かが転がってくるような音が耳に聞こえた。
「あれ?」
フリスクもその音に気付いたらしく、キョロキョロと辺りを見渡す。
「……? 何か聞こえたかしら?」
私達の行動を不思議に思ったらしいアルフィスがそう言った瞬間、
ドォンッ!!!
「うおっ!?」
「わっ!?」
固いものが何かを突き破ろうとしている音が聞こえた。衝撃のあまりに地面が揺れ、一瞬ふらついてしまう。
「離れないで!!」
「うん!」
フリスクを抱き寄せ、振動に耐える。
ドォンッ!!!
ドォンッ!!!!
だんだんと近付いてくるその音に、お出座しかと覚悟を決める。リュックからナイフを急いで取り出し、もしもの時の為にポケットに突っ込む。
ドォンッ!!!!!
「オーノー」
アルフィスが顔を青褪めさせ、音が聞こえた壁を見る。
ドォンッ!!!!!!
壁が衝撃に耐えられなかったらしく、一際大きな音を立てて倒壊する。フリスクに瓦礫が当たらないように庇いながら、もうもうと立ち上る煙の向こうに揺らめく影の動きを見つめる。………来たか。
その次の瞬間、照明が落ちて、暗闇が訪れた。
「オーウ イエス!」
キンキンとした機械っぽい男性の声が聞こえた。
「ようこそ、みなさん……」
次の瞬間、壁をぶち抜いて登場した影にパッとスポットライトが当たり、姿を照らし出す。………そこにいたのは、とても覚えのある箱型のロボットだった。
「本日のクイズショーへ!!!」
電子音の所為で耳が若干痛い、と思いながら、上から降りてきたミラーボールと紙吹雪、そして『ゲームショー』と書かれたネオンサインの看板を見て、顔をしかめる。目がいてぇ。
「今回も素晴らしいショーになることでしょう! さあみなさん、今日の挑戦者に盛大な拍手を!」
「……あー、えっと、君がメタトンかな?」
何故か聞こえてきた拍手と私達の上から落ちてきた紙吹雪の中、取り敢えず私はマイクでショー(?)を始めようとするロボットに確認をする。
「わお! これは嬉しいサプライズです!私のことを知ってていただけるとは!!」
「まぁ、さっきまでアルフィスに説明されてたしね……」
すると、ロボットは此方を向いて、嬉しいそうな声で目の前のロボット―――メタトンはそう言った。その姿に私の記憶の中の彼と一寸の狂いはなく、やはり彼なのだと確信する。
「クイズショーは、初めてかな?」
「参加した事があるかってこと?」
「そういうこと!」
「………それなら、私達二人ともないよ」
若干困惑していると、メタトンからそんな問いが投げ掛けられる。意味を確認して答えると、メタトンは顔らしき場所を黄色とオレンジに点滅させる。
「心配ご無用! とっても簡単ですよ!」
いつの間にか横に出てきていたフリスクが、それを聞いて安心したように息を吐いた。
「ルールは、たったの一つだけ。クイズに正解しないと……」
メタトンが次の言葉を紡ごうとしたその時、『1』と表示されていたパネルが、赤と黄に点滅する。
「アナタたちは死んじゃいます!!!」
「…………は?」
メタトンがそう大声で言い放ち、フリスクが顔を青褪めさせて固まったその瞬間、世界が白黒に切り替わった。
※2/17 加筆修正