【???】
そこは、ただただ闇だった。
何も感じない。
何もない。
目を開けているのか分からない。
手足が動いているのかも分からない。
怖い。
怖い怖い怖い怖い。
…―――――やぁ、こんにちは
そのなかで、声が聞こえた。
―――――――――――――――――――――
【Lily】
………なんだ今の。
穴に落ちたと思った瞬間意識が暗転して、見たのがこれって……幸先悪すぎじゃなかろうか。
誰かに体を揺さぶられる感覚を覚えて、私は目を覚ました。
目を開けて一番最初に入ってきたのは涙を目に溜めながらこちらを覗きこむフリスクだった。
「………フリスク?フリスクだよね?」
首を縦にふったフリスクをぎゅうっと抱きしめる。
「あぁ、よかった……怪我とかしてない?大丈夫?」
「うん、大丈夫…お姉ちゃんも、怪我ない?」
「ちと体が痛いけど平気」
取り敢えず一安心して、体を起こして辺りを見渡す。
……現実でみるスタート地点ってこうなってるんだ、と思った。
ふと、白くて山羊のような人が立っていることに気がついた。
………え、この人って、まさか。
「……えっと…貴女は…?」
「初めまして、お姉さん?私はトリエル。このルインズを管理しているの。」
「あ、はい、初めまして。私はこの子の姉のリリーといいます」
「あら、しっかりしてるわね」
やっぱりトリエルさんだったかー…ゲームでもそうだったけど、やっぱりこうしてみると母性に溢れた女性って感じなんだな、声もなんか聞いてて心地いいし。
………声も聞こえるし、私の言葉にちゃんと答えてくれる。やっぱりここはゲームじゃないんだと改めて理解した。
フリスクが立ち上がったので私も立ち上がる。
そこでリュックがないことに気がついた。
「あ、ねぇ、これ部屋の隅っこに落ちてたんだけど、お姉ちゃんのだよね?」
「おー、そうだよ」
フリスクが見つけててくれました。なかったら結構ヤバかった。特にノートはフラウィーとかに見られてたら超ヤバかった。絶対に取り返しがつかないことになる。
中身を確認して何もなくなっていないことを確認し、私はトリエルさんに向き直った。
「改めまして、リリーです。よろしくお願いします。」
「よろしくね。……あら、リリーって確かお花の名前じゃなかったかしら?」
「はい、そうなんですよ」
「ふふふ、可愛いお名前ね」
「…………ありがとう、ございます……」
うわ何コレ超恥ずかしい。微笑みながら言うのはずるい。これが大人の女性の包容力か。……ちくしょう、私もう19なのにこんな包容力ねぇよ……
ところで、と気を取り直して私は話を変える。
「あの、何故私を見つけられたのですか?」
そう、さっきからそれが気になっていた。
ここにトリエルさんが居る、ということは、フラウィーとはもう戦闘済み。本来、ここに戻ってくることはないはず。なのに、何故私を見つけることができたのだろう?
「……?どういうことかしら?」
「あぁ、いえ、えーっと…」
あ、まずい、質問の仕方が悪かったか……?
「……あぁ!そういうことね?さっき、あなたの妹さんが怖いモンスターに襲われていてね。その子を保護しようと思って、ルインズを案内をしようとしたのだけれど、部屋から出ようとしたら何かが落ちたような音がしたの。それで、気になって見に来てみたら、あなたが倒れていたのを見つけたのよ」
どうやら質問を正しく理解してもらえたらしい。
……確かに花がクッションになっているとはいえ、重いものが落ちれば音がするわな。そりゃそうだ。
「なるほど、そうでしたか。ありがとうございます」
「いえいえ、お姉さんに会えて良かったわね」
フリスクがトリエルさんの言葉に大きく頷いてくれた。やだ、超可愛い。
「うふふ、仲がいいのね。さて、お喋りはここまでにして、ルインズを見て周りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
ついてきてね、と朗らかに笑ってくるりと背を向け、歩きだしたトリエルさんを私達は追いかける。
……こうして、私の『Undertale』は始まった。
※8/20 加筆修正
※1/14 加筆修正