※支離滅裂です
※ネキファンの方本当にごめんなさい
【Undyne】
「…………よくも、私の妹を傷付けてくれようとしやがったな、おい?」
ギラリと私を睨む目の前の人間。突如変わった口調に驚愕していると、人間が天井を見上げ、何かをボソボソと呟き始める。
―――――――――チャンスだ。
瞬時にそう思った私は、攻撃をしようと飛び上がり、人間目掛けて振り上げた槍を思いっきり叩きつけようとする。
――その瞬間。
「堪えるのはもう、疲れた」
気が付けば私は、その人間から距離を取っていた。
まだ其処まで白熱した闘いを繰り広げた訳でもないのに勝手に息が乱れ、心臓が早鐘を打つ。嫌な汗が止めどなく流れていく。本能が警鐘を鳴らし、逃げようとする。
無理矢理逸らしていた目線を上げ、目の前の人間を直視する。
「…………どうした?」
笑顔を浮かべながら、此方を見る。
「今、私に攻撃仕掛けようとして……逃げたのか。
全く光の入らない瞳を愉しそうに細め、喉の奥でクツクツと嗤う人間。その瞳には、下手をすれば直ぐに呑み込まれそうになるようなどろりとした泥のような『ナニカ』が渦巻いていた。
「………まぁ、それはいいや。私の事なんて今はどうでもいい」
次の瞬間、人間から滲み出す『ナニカ』が、隠す事なく溢れだした。
「さっきから聞いてればさぁ、勝手なことばっかり言いやがって」
絡めとるような『ナニカ』を撒き散らしながら、人間は此方に歩き出す。その動きに私は反射的に一歩後退りしそうになる。それを抑えつけ、私は槍を構えた。
「さっき、初めてちゃんと向き合ったときさぁ、お前、『贖い』って言ってたけど、なんなんだよ。なぁ。答えろよ」
槍を大量に召喚し、人間に発射する。人間が槍を弾く合間に、私は答えた。『ナニカ』に、答えさせられた。
「貴様ら人間は、私達モンスターの同胞を殺しただろう!!! その罪を糾弾して何が悪い!!!」
私がそう答えれば、人間は小さく頷いた。
「そうだな、確かにその罪は糾弾されるべきものだ。赦されてはならないものだ」
「なら……!!」
「でも、『言う相手が違う』だろう?」
「………は?」
思わず、目を見開いてしまう。
………今、この人間はなんて言った?
そんな事もわからないのか、とそう言って人間は呆れた様に目を細めた。
「誰かを殺したっていうならお前の言う通りあの子も私も罪を贖うべきだ。 でも、なぁ。あの子が一体誰を殺した? 私が一体誰を殺した? 『誰も殺してない』だろうが。お前だって見ただろう? あの子が迷いもせずに少年を助けたところを」
ガツンと、何かに殴られるような錯覚が起きる。……誰も、殺して、ない?
「だ、だが、戦争に関与した可能性も……」
「ねぇよ」
私の反論を、無慈悲に人間は殺し尽くす。
「戦争が何年前に起こったのか知らないが、人間の寿命なんて精々80年前後だ。此所まで来る途中にあった石板の風化具合から見て、戦争が起きてもう100年以上は経ってる。『あの子が産まれてる訳ない』だろう? 全く関係ないじゃないか。
……それをお前は、あの子に贖えって? ハ、とんだ妄言だな?」
嘲笑いながら一歩、また一歩と確実に近付いてくる人間に、何も言えなくなる。
「それに、『いい子ぶりっ子』ってなんだよ。あの子は私とした『言葉の通じる相手とはまず会話をしろ』って約束を守ってくれてるだけだ。それをお前はいい子ぶりっ子だって? ハハハッ、『話すことを最初から放棄した』お前に言われたくねぇよッ!!」
召喚した槍を全て弾き、突如人間は叫んで走り出す。そしてその勢いのまま槍を振り上げ、私に振り下ろす。
ガキィン
「ぐっ……!?」
私の槍で攻撃を受け止めるが、先程の陽動の攻撃と比べて、遥かに重かった。鍔ぜり合い、そのままの体勢で人間は続ける。
「『存在する事が罪』だって? じゃあお前はお前の大事な存在がそんな理由で見るも無惨に殺されたらどうするんだよ、なぁ!」
『大事な存在』という言葉で、私は真っ先にAlphysやPapyrus、そしてAsgoreを思い出した。そして、それらが塵になっていく様を、思い浮かべてしまった。その瞬間、私は、それが起きでもしたら、絶望に叩き落とされると、確信した。
「『皆の鼓動が一つになるのを感じる』だぁ!? ハッ! お前に立ち向かった少年の勇気も否定する様な事言ったくせに、何言ってんだよ、なぁ!」
その言葉に、私は精一杯の反論をする。
「そんな事は一言も言っていない!!!!」
「言っただろうが、もう忘れたのか!?」
鍔ぜり合いが解かれ、また人間は槍を振るい、私はそれを受け止める。
「『私から逃げるためにあの子の後ろに隠れて』! お前さっき自分でそう言ったよなぁ!? あの子は逃げようとしたか?! あの時少年は自分から前に出たんだ!!! あの子と友達になりたいただそれだけで、少年はお前に殺されるかもしれない恐怖に立ち向かった!!!! それをお前は、全否定したんだ!!!! そんな奴が、無責任に『皆の鼓動』なんて言葉を使うんじゃねぇよッッ!!!!!」
もう一度、槍が振り下ろされる。また重くなった一撃が、容赦なく私を否定する。
「『あの子の死が皆のためになる』!? ふざけんな!!! あの子になんの罪があるっていうんだ!!! なんでお前の都合であの子が関係ない罪を贖わされなきゃいけないんだよッ!!!」
其処で、私は目の前の人間の瞳の中に渦巻いて撒き散らされる『ナニカ』の正体を理解する。
その正体は、【憎悪】。
小さい方の人間に振りかかる理不尽に対して燃やされる、負の感情だった。
「お前らの都合で、あの子の命の価値を、測るんじゃねぇ―――――ッ!!!」
「ぐ、あ……ッ!?」
今までの中で一番重い一撃が振り落とされ、私の槍が、
それを見ながら人間は私から距離を取り、私を軽蔑しきった瞳で見る。
「………ほら、どうした?」
先程までの怒号を潜め、人間は愉しそうに笑う。
「今まで私が言った事に対する反論は?」
嗤う。
「お前が今まであの子に対して言った事を、『お前にとって都合のいいこと』じゃないって証明出来るものは?」
ワラウ。
「ないの?」
その笑顔に、私の
「ハハハッ、じゃあ、お前が言っていた事は、ただの独りよがりだったって事でいいんだね?」
私の何かが、
「………騎士を、しかも纏め役の【
パキン、という音を立てて、ヒビが入ってしまった。
「あ………あぁ………」
偽善者。
その言葉が私に重くのし掛かり、『人間を捕まえる』と昂っていた頭を急速に冷やしていく。
自分が言っていた事について、認めさせられる。
少し頭を捻れば解るはずだった、ただの稚拙な暴論だったと。
「…………間違っていたのは、私だったのか?」
そんな言葉が、口から流れ出た。
「………」
沈黙する私の顔を一瞥し、人間は槍を道に放り投げて、私に背を向けて走り出した。
「……あっ、ま、待て……!!」
私ははっとして、人間の後を追いかける。
人間によって気付かされた自分の未熟さに、苛まされながら。