【Lily】
橋から突き出される無数の槍を避けながら、私はフリスクを連れて橋の上を走る。
さっき計算したルートに狂いがなければ、右に向かえばいい筈だ。そう判断し、右に進む道を選ぼうとする。
ぼうっ
「チッ」
……やっぱりそう簡単には通してくんないよなぁ。
それを阻むかのように道の上に現れた青白い円を周り道して回避し、ペースを落とさないように走り抜ける。
現れる。左の道を選んで回避する。
現れる。軌道修正しながら回避する。
現れる。回避する。
それを繰り返して、やっと広場に辿り着く。結局、計算した最短ルートを通らせてはくれなかった。
ぼうっ
中々仕留められない事に対して苛ついたのか、広場に出た途端、出現する槍の量が増え、足元から感じる殺気がより強いものになる。………ラストスパートだ。気張れよ、私。
「走り抜けるぞ、フリスク!」
「うん!!」
息が切れていないかという確認の意味も込めてフリスクに呼び掛けると、間髪入れずに返事が返ってきて安心する。そして動かす足のスピードを速め、出現する槍と槍の間を縫って真っ直ぐに、橋の上を駆け抜けた。
―――――――――――――――――――――
ようやく見えた一本道に飛び込み、しばらく一本道を走っていく。……すると、少し前の所で橋が途切れてしまっていた事に気付いた。
「うそ………!!!!行き止まり……」
「……はは、マジかぁ」
………知ってたとは言え、本当に絶望的だな、これ。
暗くて底が見えないぐらいの高さにある事にぞっとしながら、私は思わず笑ってしまう。
ガシャリ、ガシャリ
金属が擦れる音に振り返ると、此方に対する殺意を籠めた鋭い眼光の鎧騎手が、特徴的な赤い髪を揺らしながら此方に近付いて来ていた。
私は鎧騎手に笑顔を浮かべながらフリスクを私の後ろに隠し、ポケットからカッターと玩具のナイフを取り出した。
「………やぁ、正義のヒーローさん?」
寒気がするほど冷酷な殺気を放つ彼女を威嚇代わりに睨み返し、笑みを浮かべてナイフをズボンのポケットに移しながらそう言ってみる。……彼女からの返答はなかった。ただ此方を見据えたまま、彼女は腕を振り上げ、
ヒュンッ
勢い良く、振り降ろした。
その瞬間、
ドガンッ
彼女がいる側と此方側を別けるかのように無数の槍が刺さった大きな音が響くとともに、一瞬大きな揺れが私達を襲う。
ぐらっ
そして、直ぐ様浮遊感がやってきた。
「あっ…」
「!! フリスク!!」
私はカッターを放り投げ、振り返って私に手を伸ばすフリスクの腕を掴んで引き寄せ、せめてフリスクに痛みがいかないようにと、祈りを籠めて強く抱き締めた。
落ちていく浮遊感の中、ゆっくりと意識が消えていった。