【Lily】
結局壁にあった看板の『お宝』という単語に興味を持ったのか、フリスクはシャーレンちゃんが隠れていた左の道を選んだ。………この部屋、確か犬に横取りされるアーティファクトの部屋の仕掛けがあるところだったっけ…?
「あれ、ピアノだ……」
道を抜けた先に、小さめのピアノがある事に気付いたフリスクが、ピアノに駆け寄っていく。……シャーレンちゃん、アンダインが居ないとき、これ使って練習してたりしたんだろうか。
そんな事を思いながら私はそのピアノの上を見上げてみて、壁に記号がないか探す。……ないな。あれは『Player』からしか見えないみたいだと結論付けて良さそうだ。
ポーン、ポーン
ピアノの柔らかい音が部屋に響く。音源であるピアノを見ると、フリスクが適当に指を動かしていた。
「………うーん、このピアノと宝物になんの関係があるんだろ……?」
「……ここの壁がへこんでるし、正解すれば多分ここが開く仕掛けなんじゃないかな?」
ある程度弾いてからフリスクは首を傾げた。……まぁ、これはあの石像からのやつじゃないと開かないだろうしなー。私もそこまで覚えてないし。
「……ねぇ、フリスク。こっちの看板に『思い出の歌が通路に響く』って書いてあるんだけどさ、何処かにヒントがあるんじゃないかな?最初の八音だけ弾けばいいみたいだし、探しに行ってみない?」
「……うーん、そうだね」
看板を指差してフリスクに言ってみれば、フリスクは少し考えてから頷いた。
「じゃあ、探しに行こうか」
「うん」
フリスクと話をまとめ、来た道を戻り始めた。
――――――――――――――――――
来た道を戻り、奥の道へと進むと、古びた石板が壁に埋め込まれていた。
『この力に対抗手段はない。その代わり、人間はモンスターからソウルを奪えない。』
……さっき見た石板の続きで間違いなさそうだな、と思いながら石板の続きを読む。
『モンスターが死ぬと、そのソウルは消滅する。
また生きているモンスターからソウルを奪うのは非常に困難だ』
………これは、どういった原理なんだろう。そう思いつつ考察する。
モンスターの体って魔法で出来てるらしいし、殆どが水で出来てる人間の体と違ってソウルとの結び付きが強いのか?だから死んだら一緒に消えてしまうのか……?
そんな事を思いながら次の石板に目を通す。
『ただし、一つだけ例外がある。ボスモンスターと呼ばれる特殊な種のソウルだ。
ボスモンスターのソウルの力は強く死後も残留する力を持っている……ほんの僅かな間だけ。
もし人間がこのソウルを吸収することができたら。だがそれは一度も叶わなかった。
そして今後も決して起こらないだろう。』
人間への失望と怒りが滲み出ている文を最後に、石板は途切れていた。
「……ボスモンスター?」
フリスクが不思議そうに首を傾げる。
「……ママとかパピルスとかのことかな?」
「さぁ……どうなんだろうね」
中々的を得ているフリスクの発言に首を傾げ、私は石板から目を離した。
――――――――――――――――――――
道なりに歩いていくと、
ピチャン、ピチャン
と、小さく水の垂れる音が聞こえ始める。……あの石像が近いのか。
そのまま進むと、光に照らされて座り込んでいるモンスターの石像が見えてきた。……想像してたよりは小さいな。
「なんだろう、あれ……」
そう言って、石像に興味を持ったらしいフリスクは近付いていく。そして、
「……この子の上だけ雨が降ってるみたいだ」
と石像の上から差す光と落ち続ける水滴を見ながら呟いた。
「うーん、傘でもあれば差してあげたかったんだけど……流石に持ってないよね?」
「そりゃね」
私に確認を取るフリスクに頷いておく。……持ってくれば良かったな。失敗した。
若干後悔しながら石像を見る。目を固く閉じて壁に背を預ける姿は、ただ眠っているだけにも見えた。……この石像、もともとはモンスターだったとかないよな……?
石像の精巧な出来に思わずそんなことを思いつつ、石像に近付いてみる。
………~……
「…………?」
ふと、水滴が石像に当たる音に混じって、聞いた覚えのあるメロディーが聞こえたような気がした。
「? どうしたの、お姉ちゃん」
「……いや、なんか音が聞こえたような気がして……」
「え?ほんと?」
首を傾げた私にフリスクが不思議そうに聞いてくる。それに返答し、石像の前に膝をついて、抱きつくようにして生きていたら心臓がある辺りに耳をあててみる。
……~~~………
……やっぱり、聞こえた。水が跳ねる音が邪魔で聴きづらいけど、ゲーム通りの優しい音が。
「……どう?」
傍に来ていたフリスクが訊ねてくる。
「……うん、やっぱり聞こえる。でも水の跳ねる音で聞こえにくい」
「そっか……」
傘でもあればなぁ、とフリスクが小さく呟いた。……この先に確かあったはずだし、それ使うかな。
「ま、気にしてても仕方ないし、行こうか」
「………うん」
どうも後ろ髪引かれる思いらしく、フリスクは一度石像を振り返ってから、私の前を進んでいった。
―――――――――――――――――――
道なりに進んでいくと、傘立てが道に置いてあった。……良かった、あった。
「! お姉ちゃん、傘!」
「おぉ、ほんとだ」
同じく傘立てを見つけて嬉しそうにフリスクは傘立てに駆け寄っていく。そして、傘を持っていこうと傘に手をかけ、ふと気付いたように私を見た。
「………これ、持っていっていいのかなぁ」
「うーん………『おひとつどうぞ』って書いてあるし、大丈夫だと思うよ」
私が看板に近付いて読むと、フリスクは安心したようにほっと息をついてから傘を一本引っ張り出す。
「あの子に差しにいっていい?」
「うん、いいよ。じゃあちょっと戻ろうか」
傘を一本腕に提げたフリスクの手を引いて、来た道を戻り始めた。