【Lily】
………次は、願いの間だったっけ?
記憶を探り、そう仮定する。
「……!!!お姉ちゃん、天井みて!!」
「?」
ふと、前を歩いていたフリスクが大きな声をあげる。指示に従って天井を見ると、
「………うわぁ……」
思わず感嘆の声が出る。天井には、地上の星と見紛う程に美しい星が出ていた。
「綺麗だねぇ……」
「ねー……」
しばらく、二人揃って天井を見上げる。……あ、駄目だ、首がいてぇ。フリスクより先に首を元に戻した。
「……首いたい……」
「大丈夫か……」
流石に辛くなったらしく、そう呟いてフリスクも首を元に戻す。次に、丁度目に映ったらしい壁にあった看板に近付いていく。
「……願いの間、だって。お願い事すれば叶うのかな?」
「どうだろうね………お願い事にもよるけど、その人次第じゃないかな?」
「そっか」
願い事が叶うか叶わないかはその人の努力次第だしな。
そう思いながらフリスクに返答すれば、エコーフラワーに近付いていった。
『遠い昔、モンスターは夜空のお星さまに願い事を囁いていたのよ。心からお願いすれば、きっとホントに叶うってね。……今はもう、あの天井にきらめく石たちにお願いするしかないのだけど……』
姉妹か何かの会話だろうか、子供に語るような女性の声がエコーフラワーから聞こえた。……なんでだろうか、一瞬母さんを思い出した。
少しセンチメンタルになっていると、フリスクは次のエコーフラワーに近付いていく。私も後を追ってエコーフラワーに近付く。
『みんなの願いが間違ってるわけない!きっと王様が証明してくれるよ』
さっきの姉妹の会話の続きなのだろうか、子供の声が聞こえる。……確かに、地上に出たい、という願いは間違ってはいないと思うけどね……
フリスクが調べたエコーフラワーを見て複雑な気持ちになる。
……ガシャ、ガシャ
「……?」
ふと、背後から音がすることに気付いた。……あ、これまさか。
そう思って振り向くと、周りが白黒に切り替わる。
*
あぁ、やっぱりウォシュアか。私は振り向いた先にWoshua一体だけが居て安心した。………アーロンが一緒にくるときがあるから油断ならないんだよ……
内心安堵しながら、私はカッターとオモチャのナイフを構える。……あれ、確かウォシュアの見逃す条件って回復弾幕を取ればいいんだっけ?
見逃す条件を思い出しながら二つとも構えると、背後でピッという音がした。
*WOSHUA-ATK 18 DEF 5
*|This humble germophobe seeks to cleanse the whole world. 《この卑屈な潔癖症は世界を浄化する方法を探している》
………『世界の浄化』と聞いてノアの方舟しか思い浮かばなかったんだけど……
一瞬思い浮かんだ恐ろしい事態をウォシュアの設定を思い出してやるわけねーだろと直ぐ様打ち消す。皆を殺したら塵になって掃除が面倒みたいなこと言ってたはずだし。……皆を殺したくない的な意味もあるんだろうけどね。ツンデレかわいい。
『ピヨピヨ』
『キレイなさえずり』
ウォシュアのドラム缶の中のひよこ(だろうか?)が鳴いたことに気付き、思考を切り替える。確かにかわいいけどな。……つかウォシュアの声がかわいいな。
ウォシュアは魔法陣を展開し、その魔法陣飛んできた水の弾幕を避けていく。手に水が一発被弾し、握っていたナイフを弾き飛ばされた。
「いって……」
……水が圧縮されて発射しているらしく、結構痛い。飴舐めなきゃな。
*
……え、する?
アナウンスに疑問を持ち、匂いを嗅いでみる。………あ、ホントだ。石鹸のいい匂いがするわ。
「いい匂いだね」
「………ありがとう」
思わず感想を溢すと、ウォシュアが照れたように目を逸らしながらお礼を言った。……え、やだ、きゅんときた。かわいいなおい。
ウォシュアのかわいさに内心悶えていると、背後でピッと音がした。
*
*
アナウンス通り、ウォシュアはぴょんぴょん嬉しそうに飛び跳ねる。かわいい。
ふと、ウォシュアの笑顔を見て思い出した。……そう言えばウォシュアって確か使われてない立ち絵なかったっけ。それそっくりだな。
『ピヨピヨ』
『グリーンでクリーンに』
ウォシュアの笑顔に荒んだ心を癒やされていると、また弾幕が飛んでくる。私は弾幕をカッターで受け止め、その後に飛んできた緑色の弾幕を掴んだ。
「………あ、治った」
緑色の水が手を伝って先程被弾して痣になっていた傷に触れる。すると、傷がみるみるうちに治ってしまった。……魔法って凄い。
*
先程弾き飛ばされたナイフを拾いに移動しながらアナウンスに耳を傾ける。………涙の成分って血も入ってるらしいし、衛生的かどうかって言われたら……どうなんだ……?
私もウォシュアと一緒に悩みそうになっていると、フリスクが『ACT』を押して名前が黄色になったのを確認したらしく、ピッと背後で音がした。
*
*
周りに色が戻ってくるのを確認し、フリスクは私に近付いてくる。
「お姉ちゃん!怪我、大丈夫……?」
「うん、大丈夫だよ。さっきの緑色の水で治ったから」
心配そうに私を見上げるフリスクの頭をなで、安心させる。その言葉に安堵したのか、フリスクはほっと息をついた。
「ならいいんだけど……無理、しないでね?」
「分かってるよ、大丈夫」
念を押すように言われた言葉に頷くと、フリスクは次のエコーフラワーに近付いていった。………まだこれくらい無理の範疇じゃないしね
『さあ!お願いしましょ!』
フリスクがエコーフラワーを調べると、明るいトーンの女性の声が聞こえる。そして、次のエコーフラワーからは……
『いつか本物のお星さまをおねぇちゃんとみれますように……』
………未来を信じる、無垢な子供の願い事がエコーフラワーに録音されていた。
……ちょっと、複雑だなぁ。
「あれ、出口がない……?」
奥の道になっているはずの所を覗き見てフリスクがそう言った。……あそこの壁をぶっ壊せばなんとかなるんだけどね。
「んー……この部屋にヒントがあるはずだし、調べてみようよ」
「……そうだね」
エコーフラワーを横目に流し見て、私は望遠鏡を覗き込んでいるフリスクの後ろにあるエコーフラワーに近付く。
『あーあ……星占い、また先週と同じ結果だ……』
そりゃ星が変わんないんだからそうだろうよ……
「お姉ちゃん!!ちょっと来て!!」
思わず心の中でツッコミを入れていると、フリスクが声をかけてきた。
「ん?何かあった?」
「これ、覗いてみて!」
手招きして呼ぶフリスクの指示のままに、少し腰を落として望遠鏡を覗き込む。その途端、満天の星空が広がった。………うお、綺麗だな。
「左上の所を見てみて」
「左上?」
望遠鏡を動かし、左上の方を見てみる。そこには、ゲーム通り『壁を調べろ』と書いてあった。……こんなとこにも自動翻訳かかってんのか。
「……『壁を調べろ』?」
「そうなんだよ。どこの壁だろう……?」
そういったフリスクはペタペタと壁を叩いて調べだす。……これって確かあそこの隠し扉のやつだよな……?
「………」
私は壁がある奥の道へと足を動かす。
「……? お姉ちゃん?」
「危ないから下がってて」
私の行動に疑問を持ったらしいフリスクが近付いて来るのを制し、私は壁に蹴りを一発いれた。
ガコン!!
大きな音がして、仕掛けが作動する。そして、そこには次のエリアに続く道が出来ていた。
「お姉ちゃん凄い!!」
先程のウォシュアみたいにぴょんぴょんと飛び跳ねるフリスク。かわいすぎか。
「このくらいなんてことはないよ。……さ、行こうか」
私を尊敬の目で見上げるフリスクの頭を撫で、私はフリスクの前に立って歩き出した。