守りたいもの   作:行方不明者X

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※お待たせいたしました

※いつもより長いです

※難産回でした


38.パピルス戦

【Lily】

 

Papyrus brocks the way!(Papyrusが行く手を阻んでいる)

 

世界がモノクロに完全に切り替わった瞬間、アナウンスが流れた。そのアナウンスにはっとして目を擦ってパピルスを見る。が、パピルスは私がさっき見たような顔はしていなかった。……さっきのは気のせいか?

 

「フリスク、どうする?」

「?」

 

私は首を傾げるフリスクに問いかける。

 

「彼と友達になりたいかい?」

「!」

 

私の問いに驚いた様子を見せ、考える素振りをする。そしてしばらくすると、フリスクは深く頷いた。……うん、そう返答すると思った。

 

「ん、分かったよ。じゃあフリスク、出来ることを出来るだけやりな。それから、庇いきれないかもしれないから自分でも避けれるようにしておいて」

「分かった」

 

フリスクに回避準備をしてもらい、私はリュックを木の近くに投げる。ぼすっと雪の上に落ちる音がしたのを聞き、私は片手に持ったナイフを構え直した。……これで存分に攻撃阻止に集中出来るな。

 

*PAPYRUS-ATK 20 DEF 20

He likes to say(彼の口癖は):“Nyeh heh heh(ニェーッヘッヘッ)!”

 

フリスクは調べるを押したらしく、アナウンスが流れる。……うん、まぁ知ってる。

 

『ニェーッヘッヘ!』

 

先程流れたアナウンス通りにパピルスが高笑いをあげて、自身の背面に骨の弾幕を召喚した。

 

「いくぞ人間!」

 

その声と共に弾幕がこちらに向かって進んで来る。

私はフリスクを引き寄せて横に避けた。……最初は楽なんだけどな。

 

Papyrus is cackling(Papyrusは悩んでいる).

 

……悩んでいる、か……

彼の優しさに思わず苦笑する。……今日初めて会ったばかりの私達にも情を抱いてくれているのか、と少し自惚れた。

 

ピッ、と何かを押す音が聞こえ、フリスクはパピルスに向かってパクパクと口を動かす。

 

『なっ何!?俺様をナンパしているのか!?』

 

パピルスの動揺が混ざった言葉にコクリとフリスクは頷く。あぁ、ナンパしたのか。

 

『ついにお前は俺様に究極の気持ちを伝えようとしているのだな!』

 

まぁ究極の気持ちの中に『友達になりたい』がカテゴライズされるならそうやな。

そう思いながら頷いておく。

 

『だ、だが!俺様は凄く高い基準を求めるスケルトンだぞ!!!』

「えっ……?」

 

友達になるのに基準要るっけと言わんばかりの戸惑いを表した顔でこちらを見るフリスク。取り敢えず首を傾げておいた。

フリスクは空中に手をさ迷わせる。そして、口をパクパクと動かした。

 

『なんてことだ!!!お前は俺様の基準をすべて満たしているのか!!』

 

スパゲッティ作れますを選んだらしく、パピルスは嬉しそうにしながらそう言った。

 

「あ、私も作れるよ」

「本当か!?!?」

 

私も便乗して自己申告すると、ぱあっと目(?)を輝かせるパピルス。かわいい。

 

『つまり俺様はお前たちとデートしないといけないのか……?』

 

少し頬(の部分の骨)を赤くしながらパピルスは呟いた。……これでデートイベントのフラグは立ったかな?

 

『デ、デートの事はまた後でな!お前を捕まえたらだ!!』

 

まだ少し頬を赤くしながらパピルスは骨を召喚する。……捕まったら、元も子もないんだけどね。そう思いながらまたこちらに向かって来る骨を避けた。

 

*|Papyrus is thinking about what to wear for his date.《Papyrusはデートに何を着ていこうか悩んでいる》

 

思わず少し口元が綻ぶ。……さっきまで友達になれないなんて言ってたのに、デートについてちゃんと考えているのか。そう思うと、心が少し暖かくなる。

 

ピッ、と音がして、パピルスがまた顔を赤くする。……フリスクまたナンパしたんかい。

 

『なんてことだ!!!デートはまたあ、後でな!お前を捕まえたらだ!!!』

 

そう言いながら骨を召喚するパピルス。また避けようとして、

 

「あっ」

 

ぼすっ

 

雪に足をとられ、体勢を崩してしまった。

 

「ヤバッ」

「お姉ちゃん!?」

 

急いでフリスクを骨の軌道から突き飛ばし、私も避けようとする。

 

ゴッ

 

「って……」

 

一本、間に合わずに腕でガードして受け止める。……骨だからって油断してたけど結構痛いなこれ。次からは受け流さないと。

 

「お姉ちゃん!大丈夫!?」

「おー、大丈夫大丈夫。……というか、フリスクこそ大丈夫だった?結構強く突き飛ばしたけど」

「ぼくは、平気だけど……」

 

突き飛ばしたフリスクが駆け寄って来て心配そうに私を見る。パーカーの袖を捲って当たった部分を見てみると、少し赤く腫れていた。……あー、これは痣になるな。

 

「……!」

 

袖を元に戻して立ち上がり、パピルスを見ると、心配そうな顔をしていた。……本当に、優しいな彼は。

 

「あー、えっとパピルスさん?私は平気だからそんな心配そうな顔しなくて大丈夫だぜ?」

「そ、そうか……じゃない、何を心配してるんだ俺様は!?」

 

そう言って彼はブンブンと頭を振った。

 

*|Papyrus is thinking about what to cook for his date.《Papyrusはデートで何を料理しようか悩んでいる》

 

……まぁパスタだろうけどな、とアナウンスに返し、雪を掴んで痛む腕に押しつける。……冷たいけど、これでしばらくは麻痺して痛みが分からなくなるはず。我ながら雑な応急措置に苦笑した。

フリスクを見ると、少し戸惑いながら『ACT』を押し、口を動かしていた。

 

『なんたる自己犠牲……お前と戦う罪悪感を消そうとしてくれているのか……』

 

……あぁ、侮辱を選択したのね。そう呑気に考えながらパピルスを見ると、こちらが驚くほど暗い顔をしていた。

 

『俺様はお前にそんな気づかいされる価値はない……』

 

ちょうど、私が幻視したようなあの苦しそうな顔で、パピルスはそう言った。……あぁ、やっぱり、彼にあんな顔は似合わないな。

暗い顔をしながら、パピルスはまた骨を召喚し、こちらに向かって攻撃してくる。今度は当たらなかった。

 

Papyrus dabs marinara sauce behind his ear.(Papyrusはマリナーラソースを耳の裏に塗った)

 

……マリナーラソースって食べ物だよな……?なんで塗ってんの……?

アナウンスにツッコミを入れつつ、パピルスを見ると、確かに何かを耳がある辺りに塗っていた。どういうことやねん。

パピルスから視線を外してフリスクを見ると、今の反応でもう『ACT』は意味がない事に気付いたのか、『MERCY』に手を伸ばしていた。……『Player』はトリエルさんと戦った時みたいにやればいい、ということに気付いたらしい。良かった。

 

『戦うつもりはないのか……?』

 

私とフリスクは驚くパピルスの言葉に頷く。

 

『ならば、俺様の“ブルーアタック”に耐えられるか見せてもらおう!』

 

来たか。私は下ろしていたナイフを構え直してフリスクをまた突き飛ばして骨の軌道から外した。

 

「フリスク、ちょっとそっち行ってて!!」

「えっ!?」

 

直後にパピルスが召喚した青い骨の弾幕が次々と向かってくる。それを微動だにせずにやり過ごすと、

 

「うおっ……!?」

 

急に体が重くなった。今までより速いスピードで向かってきた骨を避けようとするが体が追い付かずに諸に食らってしまう。

 

「うっ……」

 

一瞬意識が飛びかけたが直ぐに唇を思いっきり噛んでなんとか踏みとどまる。……予想通り重力変化か……!

 

『青ざめたな!これが俺様の攻撃だ!』

 

口の中に血の味が広がるが無視し、パピルスの高笑いを聞きながらなんとか立ち上がる。……予想以上に重いけど、これならなんとか動けそうだ。

 

You're blue now.(あなたは青くなっている)

 

「お姉ちゃん!!」

「おー、今怒んないでくれ。後でちゃんと聞くからさ」

 

怒ったような、今にも泣きそうな顔でフリスクが駆け寄ってくる。フリスクの心臓がある辺りを見て、ソウルが赤いままなことに安堵した。

 

「さて、と……」

 

前を向いて、また心配そうな顔をしているパピルスに安心させる意味で小さく笑顔を作る。すると、ほっとしたようにパピルスは息をついた。

 

「フリスク、私の後ろに居てね」

「…………」

「……フリスク?」

 

フリスクの前に立って呼び掛けるが返事がない。驚いて振り返ると、フリスクは今にも泣きそうな顔で頷いた。

 

「いい子」

 

頭を撫でてからまた前に向き直る。

ピッ、と背後でまたボタンを押す音がした。

 

『ウーム……なにを着て行こうか……』

 

まだ考えてたんかい。若干ぼーっとする頭の中でツッコミを入れる。……まぁそれだけちゃんと考えてくれてるってことだけどね。

そう考えながらパピルスが召喚した骨を受け流す。……重力がかかってるからか重心が安定して受け流しやすいな。

 

*|Papyrus dabs MTT-Brand Bishie behind Cream his ear.《PapyrusはMTTブランドの美容クリームを耳の裏に塗った》

 

何故耳の裏だけ……?

入れ物を取り出してクリームを塗るパピルスに思わず心の中でツッコミを入れる。……というかMTTブランドスパンコールつけたハンバーガーとか売ってる割には中々にまともな物も売ってんな。

 

『なに!?デートのことなど……考えてないぞ!!!』

 

その間はなんだその間は。

慌てるパピルスにツッコミを入れそうになるが、なんとか飲み込んで攻撃に備える。

召喚した骨を受け流していく。

 

「あっヤベッ」

 

ゴッ

 

一本受け流せなかった骨を両腕で受け止める。……いって。

 

*|Papyrus dabs MTT-Brand Anime Powder behind his ear.《PapyrusはMTTブランドのアニメパウダーを耳の裏にかけた》

 

何かの入れ物を取り出して耳辺りにかけるパピルス。……アニメパウダーって何……?

 

『はっ!俺様に必殺技を使わせる気か?』

 

いやそのつもりはないけどね。

そう思いながら向かってくる骨をナイフで受け流す。…今度は一つ残らず受け流せた。

 

*|Papyrus dabs MTT-Brand Cute Juice behind his ear.《PapyrusはMTTブランドのキュートなジュースを耳の裏にかけた》

 

「ジュース!?」

 

思わず声に出た。……えっ、ジュースって耳の裏にかけるものじゃないよね……?

ピッ、と背後で音がする。

 

『人気者になるのが楽しみだな!!!』

 

パピルスのその言葉に顔を歪めそうになる。

……それが犠牲の上で成り立つと知ったら……ううん、絶対に知られちゃいけない。

骨を弾き、ナイフを握り直す。

 

*|Papyrus dabs MTT-Brand Attraction Slime behind his ear.《PapyrusはMTTブランドの引力ヘドロを耳の裏に塗った》

 

ヘドロ!?

流れたアナウンスに思わず顔をしかめる。今パピルスは何か塗ってるわけなんだが……えっ、パピルスヘドロ塗ってんの……?

 

『パピルス:王国騎士団の頭である!』

 

ヘドロにちょっと衝撃を受けながら、私は誇らしそうに声高々に言うパピルスが召喚した骨をナイフで受け流す。……三つ普通の弾幕が続いた後に青い骨が向かってきた。

 

「……!」

 

……最後に青い骨が来るってことはまさか後ろからか!?

 

「フリスク!!」

 

ガキン!

 

フリスクを引き寄せてなんとか骨を弾き飛ばす。……間に合って、良かった。

 

*|Papyrus dabs MTT-Brand Beauty Yogurt behind his ear.《PapyrusはMTTブランドのビューティーヨーグルトを耳の裏に塗った》

 

「……ヨーグルトって塗るものだったっけ」

「違うと思う」

「だよね」

 

流れたアナウンスにツッコミを入れると、後ろに居るフリスクから同意が返ってきた。

ピッ、とまた音がする。

 

『パピルス:前代未聞の名パスタシェフである!』

 

また誇らしく声高々に言うパピルスの攻撃を弾き飛ばす。……また、彼が言うことが自分に言い聞かせているように聞こえ始めた。

 

「お姉ちゃん!!」

「!!」

 

ゴッ

 

余計な事考えていた所為か、諸に攻撃を三発食らってしまった。……痛いけど、さっき頭に当たったほどじゃない。

 

Papyrus realizes he doesn't have ears.(Papyrusは自分に耳がない事に気付いた)

 

今更かおい。パピルスに対するツッコミを心の中でしつつ、なんとかナイフを構える。

……正直、さっきの諸に攻撃で食らったダメージが響いてきてる。……でも此処で倒れる訳にはいかない。

 

『アンダインも誇りに思うだろうな!!』

 

それはどうなんだろうか。骨を弾き返しながら思う。…そんなことになったら、彼女は多分複雑だろうなぁ。

ダメージが響いてきている上に重力がかかっているおかげで、足元がふらついてきている。

 

ガッ

 

また弾き返せずに骨が当たる。……一本だけでよかった。

 

Papyrus is trying hard to play it cool.(Papyrusはクールに見せようと頑張っている)

 

そのアナウンスに、私はパピルスを見た。……辛そうな、顔をしていた。あぁ、頼むよ、そんな顔をしないで。

そう願いながらナイフを構える。

 

「お姉ちゃん……!!」

 

背後で心配そうなフリスクの声がする。……また心配かけちゃったなぁ

 

『王様もパピルス型の生垣を作ってくれる!!』

 

……そう言えば、アズゴア王は生垣作れるんだっけな。思い出しながらナイフを振るう。今度は上手く受け流せた。

 

Papyrus is rattling his bones.(Papyrusは骨をガタガタ鳴らしている)

 

アナウンスが流れると同時に、ガタガタと音が聞こえた。……どうやって鳴らしてんの?

そんな事を考えていると、痛覚が麻痺してきた。これならなんとかいける。

ピッ、と背後で音がした。

 

『俺様の兄弟は……えっと、今までと変わらないだろうな』

 

まぁ、だろうね。確かパピルス王エンドでもあんま変わんなかったし。

そう思いながらナイフを振るってスピードの速い骨を受け流す。……もうそろそろキツイ攻撃が来るはず。

流れるアナウンスを聞き流しながら、私は出さずにおいたカッターをポケットから取り出す。……そろそろ二つで受け流さないとキツイ。

 

『俺様は多くのファンを獲得するだろう!!しかし……』

 

最後は沈んだ声でパピルスが言う。また向かってくる骨を受け流す。二つでやった方が断然楽だった。

 

Smell like bone.(骨の匂いがする)

 

そのアナウンスに思わず吹き出しかけた。……骨の匂いってなんだ。

 

『誰でもお前と同じぐらい俺様をスキになるのだろうか?』

「……さぁね」

 

思ったより冷たい返答になってしまった。…彼が傷ついてないといいなと思いながら攻撃を受け流す。

 

Papyrus whispers “Nyeh heh heh!”(Papyrusは「ニェーヘッヘッ!」と言っている)

 

そのアナウンスの直後、彼特有の高笑いが辺りに響く。それを聞き流しながら傷を確認する。……うん、この調子ならなんとか耐えきれそうだ。

ピッ、とまた背後で音がした。

 

『お前のようなやつは本当に珍しい……』

 

だろうな、と私は心の中で同意する。いや、普通骨にナンパする奴いないし……

骨を弾きながらそう考える。一本、受け流しきれなかった骨が掠った。

 

Papyrus is considering his options.(Papyrusは他の作戦を考えている)

 

ぼんやりする頭でアナウンスを聞く。……作戦か、どんななんだろうか。少し気になる。

ピッ、という音がした。

 

『そしてデートも難しくなってしまうだろう……』

 

……そりゃあ、そうだ。

そんなことを考えながら青と白で交互にくる骨をなんとかやり過ごす。

 

*Papyrus is considering his options.

 

「お姉ちゃん……」

 

背後で今にも泣きそうなフリスクの声が聞こえた。聞こえないフリをして弾幕を弾く事に専念する。

 

ピッ

 

『お前たちが都に送られた後ではな』

 

そう言いながらパピルスが少し顔を苦痛に歪める。だから、そんな顔しないでよ。

攻撃を受け流しながらそう願う。また一本、骨が被弾した。

 

*Papyrus is trying hard to play it cool.

 

……あと、もう少し。もう少しで彼と友達になれる。

そう考えながらナイフとカッターを構える。

 

ピッ

 

『ぐぬぬ……もういいだろう!!諦めろ!!!』

「やだね」

 

ぐぬぬって、かわいいなおい。思わず口元が綻びそうになる。……まぁ彼は私の事も心配して言ってくれてるんだろうけどさ。

激しくなってくる骨の弾幕を弾き返す。そうしていると

 

バキッ

 

「いって…」

 

カッターの刃が折れ、皮膚を掠めて血が流れる。……まぁ本来戦闘用じゃないしね。いつか折れるとは思ってたよ。今まで折れないのが逆におかしかったんだ。

 

*|Papyrus is prepares a non-bone attack then spends minute fixing his mistake.《Papyrusは骨を使わない攻撃をくり出そうとしたが、間違いに気付いた》

 

幸運にも近くに落ちた折れた刃を拾い上げ、ポケットにしまう。…なんかに使えるかもしれないしね。

前に向き直ると、パピルスが顔を青くしていた。……自分の攻撃で血が流れたと思っているんだろうか。違うから安心してほしいところだな、と呑気に思う。

パピルスは手をこちらに伸ばそうとして、はっとして頭を振り、また骨を召喚する。

 

『諦めないなら……俺様の必殺技を味わうんだな!!!』

 

向かってきた骨を受け流す。……確かパピルスの必殺技はあの謎の犬に阻止されて終わってしまうはず。その後の攻撃が必ず一発は被弾しなきゃなんだよな。

 

*Papyrus is trying hard to play it cool.

 

……うん、あと少しだ。頑張らなきゃ。

気を引き締め、カッターとナイフを構え直す。

 

ピッ

 

『そうだ!!!もうすぐ必殺技を使うぞ!!!』

 

召喚しながらパピルスは言う。……普通の攻撃の時にそう言うのは、諦めて欲しいからだろうか。それとも私達が心配なんだろうか。……彼のことだからどっちもだろうけど。

なんとか骨を受け流しきる。

 

*Papyrus is rattling his bones.

 

刃が掠めた所から流れた血が、皮膚を伝って雪の上に落ちる。白地に赤い染みが出来た。私はカッターを握り直す。

 

ピッ

 

『もう少しで必殺技を使うからな!!!』

 

パピルスの声が少し震えている事に気づいた。……ごめんよ、こんな事させて。

骨を弾き、受け流す。

 

Smell like bone.

 

匂いを嗅ごうとしてみるが、私には血の匂いしかしなかった。……むせそう。

 

ピッ

 

『これがお前たちの最後のチャンスだ……必殺技を食らう前のな!!』

 

また普通の骨の弾幕が向かってきた。弾き返す。……あと少し。

 

*Papyrus is trying hard to play it cool.

 

パピルスを見ると、かすかにだけども震えているように見えた。……そりゃ、『必ず殺す技』だもんな。怖いよな。

……一応、備えておこう。バタフライエフェクトが起こらないとは限らない。私はナイフを握り直した。

 

ピッ

 

『見よ!これが俺様の必殺技だ!!』

 

一瞬躊躇いを見せてから、パピルスは声高々にそう言った。……が。

 

……。

 

「……?」

 

召喚したはずの骨が向かわないことに気付き、パピルスは後ろを振り返る。すると、

 

がじがじがじがじ……

 

皆大好きToby犬が骨を夢中でかじっていた。

 

「ふっ……」

 

不意を突かれて思わず笑いそうになる。……いや、だって、ねぇ?構えてたらこれだぜ……?

 

『なんてこった!!!俺様の必殺技が!!!』

 

しばらくフリーズしていたパピルスがはっとして叫ぶ。

 

『おい!このバカ犬!聞いているのか貴様!!骨をしゃぶるんじゃない!!』

 

パピルスにそう言われてギクッとしたように犬は骨をくわえたまま目を見開く。

顔をあげた犬はパピルスを凝視すると、さっさと後退していった。

 

『あ!!!こら!!どこへ行くんだ!!!俺様の必殺技を返してー!!』

 

パピルスの声も聞かず、犬は颯爽と何処かに行ってしまった。

 

『………』

「………」

「………」

 

場に気まずい沈黙が流れる。………どうすんだこの空気。一気に微妙な空気になったぞ。どうしてくれんだ。

 

『………まぁいい』

 

誰も何も言い出せずにいると、パピルスが一番最初に沈黙を破った。

 

『お次は超クールな通常攻撃だ』

 

Papyrus is getting ready for a regular attack.(Papyrusは通常攻撃をくり出そうとしている)

 

ターンがこちらに移り、アナウンスが流れる。……これを乗り切れば、パピルス戦は終わりだ。……絶対耐えきらなきゃ。

 

ピッ

 

『ハァ……至って普通の通常攻撃だ』

 

肩で息をしながら言うパピルスにどこがだよと言いたくなったが飲み込んで攻撃阻止に専念する。

さすがにキツイなと思っていると、目の前に大量の骨と大きな骨が現れた。……まずいな、これは、

 

「フリスク!!」

 

捌けない。

そう判断してフリスクを庇う形で抱き締める。

 

ガンッ

 

「が、ぁっ……」

 

背中に一気に打撃が襲ってくる。痛い。痛い痛い痛い痛い!!!

 

「………~~~ッ!!!」

 

歯を思いっきり噛んで耐え、腕の中のフリスクが傷を追っていないことに安堵した。……あぁ、この痛みをこの子が知らなくて良かった。

 

「お姉ちゃん!!?」

「…だい、じょうぶ」

 

フリスクから離れ、若干ふらつくけど立ち上がってパピルスに向き直る。

 

『どうだ……!ゼェ……わかっただろ……お前に!!ハァ……俺様は倒せない!!!そうだ!恐怖にガタガタと震えているんだろう!!ならば、この偉大なるパピルス様が……』

「……違う、よ……」

 

パピルスの言葉を遮って、私は言う。

手に力が入らず、私は雪の上にカッターとナイフを落としてしまう。……もうちょっとだけだ、耐えろ、私。

 

「……私は……君を倒す、つもりも……傷つけるつもりも……最初からないよ……」

「……な、に?」

 

私は驚いた声を出すパピルスに、頑張って笑顔を作る。

 

「……ただ、この子の……友達に、なってほしかっただけなん、だ…」

 

そこで、私の体は限界を迎え、雪の中に倒れこんだ。

 

「お姉ちゃん!!!!」

「人間!!!」

 

悲鳴にも似た声をあげたフリスクと顔を青くしたパピルスがこっちに駆け寄ってくる。

それをぼーっとする頭で見ながら、私の意識はゆっくりと暗闇に溶けていった。


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