【???】
……成る程、『私』は死んでいるんですね。
そう説明されて、府に落ちた。
――――……嫌に冷静だね
少し驚いたような声だった。此処に居る以上否定は出来ませんから、と答えようとする。
――――……そっか
沈黙が流れ、また闇に支配される。ぼーっとその闇を眺めながら、私は考える。……さっき聞いた説明によれば此処は『生命の終着点』らしいが、正直言って実感が湧かない。さっきは怖いと思ったけれど、今はそこまででもない。これから消える、と明言されて逆に覚悟が決まってしまったのだろうか。
――――……ねぇ、君にお願いがあるんだ
ぼーっと眺めていると、沈黙が破られ、声が聞こえた。……お願い、とは言うが、もう死んでいる私に何を頼むつもりなんだろうか。
――――……僕と契約を結んで欲しいんだ
――――――――――――――――――
【Lily】
………なんだ今の夢。つか最後某QBっぽかったなおい。
今度は誰に起こされる事なく、私は目が覚めた。体を起こし、一つ伸びをする。……体が軽いな、よく眠れたからだろうか。
ベッドから降りて靴を履き、布団を出来るだけ整える。整えながら、さっきの夢について軽く考察する。……本当に何なんだろうか、あの夢は。『生命の終着点』って言ってたよな……じゃああの闇は『死』その物か?……なんか型月世界の根源みたいだな。
「……ん、あ、お姉ちゃん……」
「お、起きた。おはようフリスク」
声がして隣のベッドを見ると、フリスクが起き上がって目を擦っていた。
「疲れは取れた?」
「うん!あのね、なんかね、凄く調子いいの!」
元気満タンですと言わんばかりにフリスクはベッドから飛び降り、肩をグルグル回す。……あ、そう言えば宿屋に泊まるとHPが上限越えて30にまでなるんだっけか。その影響か?
「そっかー、良かったね。……それじゃあ、あのお姉さんにお礼言って行こうか」
「うん」
サイドテーブルに置いておいたバンダナを結び直してやり、私は床に下ろしていたリュックを背負い直し、部屋から出る。……さて、次はパピルス戦だ。
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お姉さんにお礼を言い、チップ代わりに女の子に飴をあげてから宿屋を出て、真っ直ぐにパピルスの待つ一本道に向かう。途中で、パピルスとサンズの家を通りすぎる。……うわぁ、マジでポストが歪んでる……どんな力で手紙捩じ込もうとすればこうなるんですかねぇ……
若干引きつつ、雪を踏みしめて進む。しばらく歩いていると、霧がかかりはじめた。……これパピルスが出してる霧なんだろうか。
「なんだろうこの霧……」
「分からない。……フリスク、はぐれないように手を繋いでおこう」
「! うん!」
一度姿がちゃんと確認出来るくらいの所で立ち止まり、手を繋ぐ。フリスクの手の温度が伝わってきた。……あったかいな。
しっかりと離さないように握り返しながら進む。……霧が濃くなってきたな。そろそろか?
「………人間」
前方の霧の中でパピルスの声がして足を止める。……しばらく見ていると、霧の中にパピルスのシルエットが現れた。
「この複雑な気持ちを聞いてくれ」
「いいよ」
パピルスの言葉に頷くと、パピルスは小さくありがとう、と呟くと、話し始める。…ゲームでは聞こえなかったけど、言ってたんだ。
「例えるなら……パスタ愛好家に出会って喜ぶ気持ち。パズルを解いた相手を褒めたい気持ち。クールでスマートなやつと、一緒に居たいと願う気持ち。これこそが……お前が今まさに抱いている気持ちだろう!!!」
それは君が抱いている気持ちなんじゃないかと思わず出かかった言葉を飲み込む。……此処で言ったら、多分ダメだ。
「そんなに複雑な気持ちなんてまるで想像もつかない。俺様は最高にグレートだからな。友達がたくさん欲しいなんて考えたこともないぞ」
……私には何故か、その言葉がパピルスが自分に言い聞かせているように聞こえた。
「二人だけの……かわいそうな人間よ……案ずるな!!!お前たちはもう二人きりじゃないぞ!」
え、と小さくフリスクが呟いたのが聞こえた。
「この、グレートなパピルス様が、お前たちの…………」
そこで、パピルスははっとしたように言葉を切った。……アンダインとかの他のモンスターに言われた事を思い出しているんだろうか。
「………いや……ダメだダメだ、何言ってるんだ、俺様は!友達になんてなれんのだ!!!」
向かい合ったシルエットは一瞬揺らぎ、考えを振り払うかのように頭を振った。……やっぱり、私には彼が自分に言い聞かせているように聞こえた。
シルエットが一瞬揺らいだ。きっと振り返ったんだろうなと見当をつける。
「お前たちは人間だ!俺様はお前たちを捕まえなきゃならん!!!そして、俺様は長年の夢を叶えるんだ!!!」
こちらに聞かせるというより、パピルスは自分に言い聞かせるように言葉を続ける。
「パワフルで!人気者で!超一流!それがパピルス様だ!!!」
……彼は、自分の夢が犠牲の上で成り立つと知ったらどうなってしまうのだろうか。壊れて、しまわないだろうか。……そう考えながら玩具のナイフを取り出して、構える。
「王国騎士団の新メンバーは……この俺様だ!」
一際明るく振る舞うような声が聞こえ、世界が白黒に切り替わろうとする。……彼のためにも、負けられない。そう覚悟を決めたその瞬間、
『……人間……すまない……』
一気に霧が晴れた向こう側でパピルスが苦痛に歪めた顔をしていたような気がした。