【Lily】
次は……あ、レッサードッグの見張り小屋の所だっけ。
そう思いながら道を抜けると、どれも異様に首が長い犬の雪像が作られていた。
「……え、なにこの地獄絵図」
思わずツッコミながら頭を回転させる。……確かこれってなでまくってないとならなかったはずだ。私そこまでなでたっけ?でもお金もらってないよな…?
「……あぁ、いたいた」
「?」
声をかけられて前をみると、もう少し奥の方で話しかけるはずだった牛のモンスターが立っていた。
「あんた、さっきここの担当の犬の頭なでなかったかい?」
「はい、撫でましたが……」
「そっか、じゃああんたなのね。……これ、あの犬からだよ」
そう言って手のひらに金貨をどっさり乗せられる。
「!?」
「あの犬が、あんたに渡してほしいっつって預けてきたの」
「え、でもこんなにたくさん……」
ざっと60枚はあるぞこれ……まさか、あの頭ぶつけたやつで境地に辿り着いたのか?
「いいから、もらっておきな」
「……じゃあ、いただきます」
この先必要になるし、彼の好意を無駄にするのはいけないと判断してありがたく受け取る。
……これどうしまおうか……
そう考えているうちに、牛のモンスターはどこかに行ってしまった。
「……!」
どこに行ったのかキョロキョロ見渡していると、小屋の裏の林のなかで何かが光を反射したのに気づく。
……カメラか。そういえばあといくつあるんだっけ?
そう考えながら空いていたリュックのポケットに金貨を入れた。
「……お姉ちゃん、この中、ポメレーズンの箱でいっぱいだ……」
「G○NTZかな?」
金貨をどこにしまうか四苦八苦しているうちにセーブを終えたらしいフリスクが小屋の中を覗いてそう言った。
――――――――――――――――――――
次は……あー、あの氷のパズルか?
「あ、またパズルだ……お姉ちゃん、これ、どうやって解こう?」
「んー………取り敢えず、こっち行ってみない?」
「そうだね」
先に坂になっている道から攻略する。……確かパピルスとサンズの雪像があるんだっけな。
「……あっ、お姉ちゃん!パピルスの像だ!」
「おー、ホントだ」
フリスクが道の先にパピルスの像があるのを見つけ、近づいていく。……結構作り込まれてて凄く良い出来だと思うけどさ、スケルトンに筋肉あっただろうか。
「……サンズはもうちょっと本気だそうぜ?」
「あはは……」
パピルスの雪像の隣には、もはや雪像というより雪の塊といった方が正しいようなサンズの雪像があった。……マーカーで文字書けるレベルってどんだけ硬いんだろうかこの雪。
「他には何もなさそうだし、上に戻る?」
「うん」
ざくざくと来た道を戻り、またパズルの前に来る。
……んー、ここ、別に落ちても怪我しないけど、万が一怪我したらやだし、解いちゃうか。
「……フリスク、私これ分かったかも」
「え!本当!?」
「うん、ちょっと見てて」
フリスクを待たせ、スケートの要領でまた氷の上を滑ってバツを丸に変えていく。……ちなみにこれ、上のバツからだと螺旋を描くように解けるけど、下のバツからでもパズルが解けたりする。
全てのバツを丸に変えて、私は滑った勢いでスイッチを踏む。
カチッ
ゴゴゴゴ
スイッチを踏むと、道が現れ、切れて通れなくなっていた道と繋がる。
「よっしゃ、解けた」
振り返ってフリスクを手招きして呼ぶ。すると、フリスクは一直線に滑ってきてそのまま私に抱きついてくる。……うおっ、あったかいな。子供体温って素晴らしい。
「お姉ちゃん凄い!」
「あはは、ありがとー」
フリスクが顔を輝かせ、私を見上げながらそう言った。かわいい。
「行こうか」
フリスクから離れ、手を引いて一直線の道を滑る。
ぼすっ
「つめたっ」
「!?」
何今の音。驚いて滑り終わったあとにフリスクを見れば、頭の上に雪が被さっていた。……雪まみれになってら。
「あーあ、大丈夫?」
「だいじょ……へくちっ」
「……大丈夫じゃないなこれは」
雪で冷えてしまったらしく、フリスクがくしゃみをする。かわいいな。
雪をフリスクの頭から払い、自分のパーカーを脱いでフリスクに着せる。……うわさむ。
「着てな」
「えっ!?で、でもお姉ちゃんが寒いんじゃ……」
「だーいじょぶだよ、バカは風邪引かないさ」
「……お姉ちゃんバカじゃないもん」
ぷくっと頬をふくらませて不満そうにしながら、それでも私の心配をしてくれるフリスクに和みながら頭をなでる。言葉に言い表せないほどかわいい。
「あはは、まぁ、体があったまったら返してくれればいいからさ。今は着てな」
「………うん……」
渋々頷くフリスクを見て、私は脱ぐために一度降ろしたリュックをまた背負う。
「先にどっち行く?右?それとも真っ直ぐ進む?」
「んー………右いく」
フリスクに判断を任せ、右の道(ゲームだと下の道だったはず)を進む。前を歩くフリスクには流石に私のパーカーは大きいようで、袖が大分余ってフリスクが動くごとに揺れていた。
「………お前さん、その薄着で寒くないのか?」
「あ、サンズ」
道を抜けると、サンズが壁に寄りかかりながら話しかけてくる。
「寒くないわけがないわな」
「だろうよ。だったらなんで……」
「いやー、フリスクが風邪引いたら嫌じゃん?」
「……」
一瞬驚いたような顔をしてから、サンズはまた疑念の籠った目線を送ってくる。そしてフリスクからも視線がくる。……視線がいてぇよ。
「……もう行っていい?」
「おう。じゃあな」
サンズと別れた瞬間、背景が白黒に切り替わった。……どうやら戦闘らしいな
*
……あー、そういえばここギフトロットとエンカウントすんだっけな。忘れてた。
ふと彼の頭を見ると、額に写真が貼ってあった。……飾られてるやつってランダムだからどうなるかと思ったけど……まさかあるとは。……せっかくだし使わせてもらおう。
*GYFTROT―ATK 16 DEF 8
*|Some teens "decorated" it as a prank.《若者たちにイタズラで「デコレーション」されている》
「誰だそんなことしたの」
流れたアナウンスに思わず声に出して突っ込む。……まぁスノードレイク君は確定だろうけど。
『これをどかしてくれ……』
「いいよ」
悲痛な声でそう言ったギフトロットは、プレゼントの箱のようなものを召喚し、こっちに飛ばしてくる。青い色に変色した箱の所にフリスクと一緒に転がり込んで避けた。
*|Gyftrot distrusts your youthful demeanor《Gyftrotはあなたの若者らしい品行を信用していない》.
フリスクがすかさず『ACT』を押し、ギフトロットに近づいて角に引っ掛かっていた靴下をぱっと取ってもってくる。……なぜ靴下の中にナゲットをいれたし。
*|You remove a stocking filled with chicken nuggets.《あなたはチキンナゲットが溢れそうな靴下を取り除いた》
『マシにはなったかな』
少し声のトーンが穏やかになったギフトロットは、小さい雪片を召喚して飛ばしてくる。その一発が私に飛んで来た。
「つめてっ」
弾幕が掠ったところが一気に冷える。……パーカーがないから尚更冷えるな……
*
……よし、このまま行けば大丈夫かな?
そう考えながらフリスクに近づいてパーカーからカッターとナイフを出す。
出し終えると、フリスクは背中にあった箱を取る。
*|You remove the box of non-dog-related raisins.《あなたは遺犬子組み換えでないレーズンの箱を取り除いた》
なんだよ遺犬子って。遺伝子とかけてるのか?……つかレーズンって今のところレッサードッグしか心当たりがないんだけど。
『マシにはなったかな』
また少しだけ穏やかなトーンになったギフトロットの攻撃を弾いて飛ばす。……弾幕が弱くなってきてるな。もうちょいか。
*Gyftrot seems slightly less irritated.
「フリスク、頭に貼ってあるあの写真、取ったら持ってきてくれない?」
「? いいよ!」
フリスクにそう頼むと、笑顔で了承して取りにいってくれた。ぺり、という音がして写真がギフトロットの頭から剥がれる。
*|You remove a childhood photograph of Snowdrake an his parent.《あなたは子供の頃のSnowdrakeとその家族の写真を取り除いた》
『肩の荷が降りたよ』
穏やかなトーンでギフトロットはそう言った。……これでもう大丈夫か。
*
『ACT』を押して名前が黄色に変わった事を確認し、フリスクは『MERCY』を押した。
*
*
そのアナウンスと共に背景に色が戻ってくる。
ギフトロットは嬉しそうな顔で去っていった。
「はい、お姉ちゃん。写真」
「ありがとう」
ギフトロットが去っていくのを見送り、フリスクは私に写真を渡してくる。失礼して写真を覗き込むと、小さいスノードレイク君とゲームで見た彼のお父さん、そして、その隣には、微笑む美しい鳥のモンスターが写っていた。
………大事な物なんだろうに。なんでこんなことしちゃうのかね。
「………お姉ちゃん、大丈夫?」
「ん?何で?」
「凄く悲しそうだったから……」
フリスクが心配そうに見上げてくる。……そこまで悲しそうな顔してたか、私。というかそんな顔してたのか。
「大丈夫だよ、行こうか」
取り敢えず誤魔化して先を促す。さっきの場所から瞬間移動したらしいサンズが、じぃっと私を見つめていた。
「……なぁ……尾けてきてるのか?」
「な訳なかろうて」
近づくと、ニヤニヤとしながらサンズはそう言った。……内心穏やかじゃないんだろうけどな。
「じゃね」
彼と別れて先を歩く。……確かこの先って、あれだよな。開かない扉のところだったはず。スペシャルサンクスの弾幕を全部避けきれば開くんだっけ?
―――――――――――――――――
考えながら進むと、案の定洞窟が口を開いていた。
「……? なんだろうここ……」
興味津々でフリスクは洞窟の中に入っていく。それに続いて私も入る。
「うわ、綺麗」
洞窟の中は薄ぼんやりと青色の光で明るくなっていて、ラ○ュタの洞窟のシーンにそっくりで綺麗だった。
「……お姉ちゃーん、この扉開かない……」
奥まで進んだフリスクが呼び掛けてくるのを聞き、私は止まっていた足を動かしてフリスクの傍に行く。……あ、光るキノコ綺麗だな。緑とかなら地上でも見るけど、これ青色だしな……どういう原理なんだろう?
「開かないの?」
「うん。この光るキノコとかも触ったりしたんだけど、何にも起きなくて……」
困った顔でこちらを見るフリスク。光るキノコを見れて若干テンションが上がっている私はゲームで見た通りの青紫色の扉に近づき、扉をよく観察する。
……扉にノブはなく、上の方にはトリエルさんが着ていた服についていた紋章のようなものが書いてある。鍵穴もないし、開きそうにないかな。
そう思いながら諦められずに一発扉に蹴りを入れてみる。……扉はびくともしなかった。
「うーん……開きそうにないなぁ、これは。鍵穴でもあれば良かったんだけどねぇ」
「だよねー……」
二人で息をつき、扉に背を向ける。
「諦めて奥の道行くか」
「そうだねー」
二人でそう決めて、私達は来た道を戻り始めた。
※更新が遅くなってすみません。