【Lily】
道を抜けると、鮮やかな傘とそれに負けないくらい鮮やかな水色の兎の青年が沈んだ表情で車輪付きの箱に寄りかかっていた。……あぁ、この人ナイスクリームさんか。案外身長高いな。
「なんで売れないんだろ……アイスを食べるには最高の気候なのに……」
「もっしもーし、そこのイケてるお兄さーん?」
興味が湧いたから絡みに行く。……つかこれだとただのナンパやな。私の声に気付いたのかナイスクリームさんがこっちを見る。
「暗い顔してたらお客さんも逃げてっちゃうよ?いつだってスマイルスマイル!」
キラッと言わんばかりの笑顔で話しかける。ナイスクリームさんは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに顔をぱぁっと明るくする。……あ、耳も立った。
「ああっ!!お客さんだー!!」
現実で見る笑顔かわいい。と内心和みながら彼を見つめる。
「いらっしゃいませ!ナイスクリームはいかがですか?」
にっこりと0円の笑顔で接客するナイスクリーム君。……そういえば、ナイスクリームって確か実際にあるんだっけな?
「君の心をあっためるアイスクリーム!」
体は?とツッコミをいれてはいけない。
「今ならたったの15G!」
「んー……15Gかぁ……どうするよフリスク。買う?」
多分一個は買えるだろうな。この後レッサードッグとかと遭遇するし、そこまでお金に困るわけじゃないからフリスクに判断を任せる。
フリスクは少し考えた後、ポケットから金貨を取り出した。その動作にまた顔を明るくしてからナイスクリーム君は箱からアイスを取り出した。……あ、良かった、包みがあるやつだ。リュックにしまうときどうしようかと思った。
「はいどうぞ!ナイスな日を送ってね!」
「おー、ありがと。じゃあねー」
「あ、お姉さん待って!」
「ん?どしたのお兄さん」
フリスクの代わりにアイスを受け取り、別れようとした所に彼に声をかけられる。
「はい、おまけ!」
「え」
振り返ると、先程見た0円の笑顔でもう一本アイスを彼が差し出していた。
「さっき、励ましてくれたでしょ?」
「…?」
励ました、という言葉に記憶を探る。……あぁ、さっきのナンパみたいなやつか?スルーされたかと思ってたけど、ちゃんと聞いててくれたのね。
「あー、いや、元気になってくれて良かったよ。というか、これ売り物じゃ……もらっていいの?」
ちょっと恥ずかしくなりながら笑っておく。
「うん、どうぞ!」
「……まぁ、くれるって言うならもらうよ。ありがとう」
好意を無下にはできないと判断し、彼の手からアイスを受け取る。ふわふわとした毛並みが少し触れた。
「それじゃあね」
彼に手を振り、フリスクの分のアイスをフリスクに手渡して歩きだした。
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さて、と気をとり直して目の前のボール(というよりも雪玉)とその向こうにいるサンズを見つめる。
……正直言ってこの雪玉はスルーしても大丈夫なんだよね。それより向こうの道のほうが大事なんだよな。どうしようか……
そう考えていると、アイスをポケットにしまったフリスクが興味を示したらしく雪玉に近づいていった。……ポケットにアイスいれてなんで溶けないの?
「お姉ちゃーん、このボール転がせるー!」
雪玉を蹴り飛ばして転がすフリスク。…あ、ちょっとずつ小さくなってる。
きゃっきゃっと楽しそうに笑いながら転がしていくフリスクを止める訳にもいかず、後を追いかけていく。
「……あ」
ふと雪が盛ってあるところに目がいき、カメラを見つけた。そういえばここにもあったな、と思いながらカメラから目をそらした。
目をそらした先で、フリスクが穴に雪玉をシュートしていた。……あ、旗たった。紫か……
「お姉ちゃん!入れられたよ!」
「おー、よくやったな」
嬉しそうに駆けてくるフリスクの頭をなでる。かわいい。
「ところで、さっきサンズが居たけど、声かけなくていいの?」
「あ!そうだった」
思い出したような動作をしてからフリスクはサンズに向かって駆けていった。その後を歩いて追いかける。……確か雪フライ売ってるんだっけ。雪ってパン粉つけて揚げれたっけ……?
心のなかで雪フライについてツッコミつつサンズと話しているフリスクに追い付く。『いらない』を押したのかフリスクは首を横に振っていた。
「よう。雪フライ、お前さんはいらないか?」
「遠慮するよ。……というか雪って揚げれたっけ?」
勧められたのを断り、ついでにツッコミをいれておいた。サンズは少し笑うと、もう用はないと口を閉ざした。
「行こうか」
フリスクに声をかけて道を抜けた。
※リアルで多忙期に入るので更新が二日に一話になります。ご了承お願いいたします。