【Lily】
あの後、ゲーム通りにCharaちゃん(もしくはアズリエル君)が使ってたのであろう部屋に案内され、フリスクはキョロキョロ部屋を見渡し、少し周りを調べてからベッドの上でうとうとしはじめた。
「……眠いなら寝たほうがいいよ」
「…ぅえ?うん……」
めっちゃ眠そうだな可愛いすぎか。
靴を脱いで本格的に眠る体勢に入ったフリスクの傍にいき、頭を撫でてやる。
「寝るまでこうしてようか?」
「うん……おやすみ……」
「おやすみフリスク。いい夢を」
布団を被ってフリスクは目を閉じた。……ちょっとすると、すぐに寝息が聞こえ始めた。
…慣れない戦闘とかで疲れたんだろうな。ゆっくり休んで欲しいものだな。
フリスクの頭から手を退かし、部屋の電気を消して私は部屋から起こさないようにそっと出た。
「……おやすみ、フリスク」
そう言い残し、後ろ手でドアを閉める。
………さて、ここからは探索の続きだ。
私はトリエルさんに気付かれないように忍び足で外に出る。
無事外に出ると、私はセーブポイントの前に立った。
フリスクがしていたように、私もセーブポイントに触れる。
「………表示はされるのね」
ゲームと同じように、黒い画面が表示された。名前のところが白で塗り潰されたようになっているけど、プレイ時間やセーブ場所なんかは見えるようになっていた。
「……プレイ時間少ないな」
これで『Player』が初心者であることは証明されたな。
……そして、肝心のセーブボタンはなくなっていた。
「私はセーブ出来ないのか」
まぁ、それはそうだ。このゲームはフリスクに繋がってる『Player』が遊んでいるものなんだし。私がセーブ出来ちゃったら上書きしちゃうもんな。フラウィーがセーブロード出来なくなったのもその理屈か?
………だとしたら、なんで私にも見えるのだろうか。
ゲームだった時、フラウィーにこの光が見えている描写はなかった。だから多分彼にはこれが見えてない。……元々セーブロードが使えた彼が見えないって事は、本来なら私にも見えるはずがない。なのに見えているということは……【私が元々Player側の人間だったから】、ということか?
一番可能性が高い仮説を一つ出し、取り敢えずリュックから引っ張り出したノートに書き込んでいく。
……もう一つ、忘れないうちに書き込んでおこう。
ベジトイド君に協力してもらった実験の結果についてだ。
あの時、私は一つの仮定を立てていた。それは、【弾幕は物質・物体の法則を無視していない】んじゃないかというものだ。
だから、ちょうどいい弾幕を持っていた彼にいくつか弾幕を出してもらい、実際に切ったりしてみた。
…概ね予想は当たっていたようで、玉ねぎ型の弾幕は切ると目に沁みる液が出るし、とうもろこし型の弾幕はカッターが刺さって抜けなくなった。まぁ、なんとか抜けたが。
……この事から考えると、トリエルさんのあの炎の弾幕は、当たり所が悪ければ最悪火だるまになる可能性がある。それだけは絶対に阻止しなければ。
ゲームとはやはり違う、ということまでを書き込んで胸が痛くなる。……フリスクはこの痛みに耐えていたのかと思うと、本当に辛かった。
ノートとペンをしまい、リュックを背負いなおして私は部屋を移動した。
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「………あった」
玩具のナイフは、ぽつん、と忘れ去られたように部屋の隅に落ちていた。
拾い上げ、ついていた汚れを払う。……やっぱり材質はプラスチックだ。軽い。
「……ごめん、借りるね」
そう誰に言うでもなく呟いて、私はポケットに玩具のナイフをしまった。
「………………Chara?」
ばっ、と声がした方に振り向く。……あるかなとは思ってたけど、まさかここで会うとは思わなかったよ。まぁ、一人だし、接触はあるかなと思ったけど。
「………どちら様かな、喋るお花君?」
フラウィー。
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【Flowey】
「………どちら様かな、喋るお花君?」
振り返った彼女はにっこりと笑いながらそう言った。
…………あぁ、なーんだ、やっぱり
「覚えてないの?僕だよ!Asrielだよ!忘れたフリなんて酷いじゃないか!」
僕がそう言うと、Charaは笑顔を苦しそうに歪めた。
「……私は君の言うCharaって子じゃないよ」
そう言った。
「ねぇ、ここにアイツはいないよ?何で嘘つくの?」
「嘘じゃないよ」
「嘘だよ」
ねぇ、何で?何でそんな事言うのさ?
「ねぇどうして僕の傍にいてくれないの何でアイツの傍にいるのねぇ僕をみてよ僕だけを見てよねぇその笑顔を僕だけにちょうだいよ僕だけに向けてよ僕を抱きしめてよ僕を撫でてよ僕を僕を僕だけを僕だけを僕だけを愛してよ」
僕が近づくと、Charaはその分だけ後退りした。心なしか顔が青い。
「………どうして逃げるの?」
「……お前、そんなに狂ってたっけ……?」
何でそんな事言うのChara。僕は狂ってなんかいないよ?
「ねぇ、
「………ごめん、お花君。私には君が何言ってるのかさっぱり分からない」
そう言ってCharaは呆然とする僕の横を通りすぎていった。
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【Lily】
何あのフラウィー怖い。
全速力でHomeに戻ってきた私は息を整えながらそう思った。
何でアイツあんなに狂ってんの?ゲームではもうちょっと大人しかったっつーか生意気だったけどあそこまでCharaちゃんに執着してなかったよね?何であんなになったし。こえぇよ。
………つか気になる言葉言ってなかったか。『また世界を壊して』って……『Player』は初心者じゃないのか?いや、それだとさっき見たプレイ時間との矛盾が産まれる。……『Player』が裏技使った可能性?でも、プレイ時間は弄れなかったはず……
とんでもない爆弾が落とされ、混乱する頭を深呼吸して落ち着かせる。
……それは取り敢えず置いておこう。まだ試していない事がある。まずはそっちだ。
矛盾について凄く違和感を覚えつつ、それを後回しにして、私はホームの探索を続けた。