【Lily】
ちょっと迷って左の道(ゲームだと上の道)に進んだ私達は、一つの看板を見つけた。……あ、ベイクセールのやつか。
「……スパイダー・ベイク・セールだって、行ってみようよ!」
「ん、わかった」
25ゴールドあるしな、一個づつは買えるだろ。……ゴールドが多くないかって?カットしたけど何回か戦闘あったんだよ。フリスクに傷つけさせなかったから安心してくれ。
「お邪魔しまーす…」
前の部屋に戻ってベーカリーに入った。…というか、よく見たら壁に文字書いてあったな。ゲームではなかったぞ、これ。…そういえば、クモのドーナツ、どんな味なんだろうか。
フリスクがゴールドを蜘蛛の巣に置いた。するするする、と糸を下ろした蜘蛛達が二個ドーナツを手渡した。……え、二個?
「はい、お姉ちゃん!」
「………。ありがとう、フリスク」
にっこり笑いながらドーナツを私に差し出すフリスク。どうやら私の分を買ってくれたらしい。心が暖まった。
「…でも、ちょっともったいないから後で食べていい?」
「うん、いいよ!」
フリスクにOKをもらってドーナツをリュックにしまった。
………『Player』はサイダーを買わずにドーナツ二個買ったのか。ふーん……
さっきの部屋に戻り、今度は看板を無視してフロギー達に話しかけにいったフリスク。
……確かこのフロギー達の最後の一匹が、トリエルさんと戦う時のヒントになってるんだっけ。さて、『Player』はその事に気づくのかな?
フリスクが歩き出したことに気付き、私も後を追う。
プルルルル………
出口付近で、携帯がなった。…あ、電話イベか。
携帯を耳に当てて、たまに頷くフリスクを見ながら、私は壁に寄りかかって待っておく。
しばらくすると、フリスクは携帯をしまってこちらに走りよってきた。
「ママが余計な物は拾わないでねって言ってたよ」
「そっか…伝言ありがとう、フリスク。」
「ううん」
……余計な物、ねぇ……ないと思うけどなぁ。
そう考えながら先を進んだ。
――――――――――――――――――――――
*
*
部屋を移動した途端に現れたベジトイド達の弾幕を切り裂き、しのいでいると、条件を満たして『MERCY』を押したのか、戦闘が終了した。
……弾幕、切り裂けるのか。これは一考する必要があるな。
さて、次は……あぁ、二人目の子の装備があるところか。あとナプスタ君がいるんだっけな。
そう思いながら、石板を読み終わったフリスクに話しかける。
「流石に穴の数が多いから、ここからは二手に別れよう。私は左側を調べるから、フリスクは右側を頼んでいい?」
「うんっ、いいよ!」
「それから、何かあったら拾って来ること。いいね?」
「……?うん」
フリスクにはナプスタ君とリボンがある右側を任せ、私はリュックを下ろして一番端の穴に飛び込む。一瞬の浮遊感の後、木の葉の上に着地する。……なるほど、コレがクッションになってて下手に降りても怪我しないようになってんのか。
ふと左に目を向けると、ベジトイドが地面に埋まるようにして隠れていた。
………ちょっと試したいことがあるんだよな…
「ねぇ、ベジトイド君。ちょっと話があるんだけども」
私はそう声をかけながら彼の緑色のところをもって引っこ抜く。
「…野菜が話す訳ないだろ」
「あるでしょ、君はモンスターなんだから。それとも何、マンドラゴラのこと知らないの?」
「………なんだそれ」
ぶらぶらと揺れながら興味を露にするベジトイド君。
「地上ではね、マンドラゴラっていう植物があるの。成分は植物なんだけど、ちょっと人間っぽい……私みたいな形をしてるの。で、引っこ抜くとキーキー大音量で泣くっていう……まぁ、多分君の種族がモデルなんだろうね。そういうのが一応あるよ」
「…俺たちは引っこ抜かれても泣かないぞ」
ちょっと呆れながらそういうベジトイド君。
「まぁそうだね、現に引っこ抜かれてるし。……さて、これで植物は泣く……もとい話すということが証明された訳だけど、話を聞いてくれるかな?」
そういうと、彼はじっと私を見てから頷いた。
「ありがとう。じゃあさ、ちょっと頼みたいんだけど――――……」
―――――――――――――――――――――
「お姉ちゃん!」
「おー、おかえり。何かあった?」
ベジトイド君と別れ、壁の穴(無事通れた)を通って上に戻ると、すでにフリスクが戻ってきていた。手には色褪せたリボンを持って。
「……それ、どした?」
「これ?落ちてたの」
そこの穴に、と言いながらフリスクは私が落ちた穴と反対側の穴を指差す。
「そっか。……それ、むすんであげよっか?」
「いいの?やって!」
私にリボンを手渡し、後ろを向くフリスク。どうやら髪に結んで欲しいらしい。
かわいいなと思いながら、私はじっとリボンを見つめる。
……どんな経緯で落としたか知らないけど、持ち主に返してあげたいな……
「……?お姉ちゃん?」
「あ、ごめん、なんでもないよ」
……ごめんね、ちょっと借りるね
心の中で持ち主に謝ってから、私はフリスクの髪にリボンをほどけないようにキツく結んだ。
「出来たよ」
「ありがとう!」
嬉しそうに笑うフリスク。激かわ。
さてと、心も癒されたことだし、スイッチ押しに行きますかね。
「じゃあ私はこっち行くから、そっちよろしくね」
「まっかせて!」
フリスクがサムズアップしたのを見てから、私は落ちた。
ゲーム通り、そこはスイッチ部屋になっていた。
……これを下ろせばいいんだよね?
「よいせっ」
ガコン
何かが作動する音がした。十中八九、次の部屋に進めるようになったんだろう。
そう思いながら穴を通って上に戻る。今度は私のほうが先だったらしく、誰もいなかった。
「お姉ちゃん!オバケさんに会えたよ!」
しばらくすると、フリスクが興奮しながらかけてきた。
「なー?また会えるっていったろー?」
「うん!」
可愛いなと思いつつフリスクの手を取り、先へ進んだ。