【Lily】
次の部屋に進むと、また携帯がなった。
「出たほうがいいよ?」
そう促すと、フリスクは携帯を取り出して通話ボタンを押し、耳に当てる。
まぁ十中八九トリエルさんだろうな、と思いながら電話が終わるのを壁にある石板を読みながら待っていると、
「ねぇお姉ちゃん、ママがバタースコッチとシナモンどっちが好きか聞いてるよ」
「え、私も?」
一度携帯を耳から離し、フリスクはそう私に聞いた。
「んーと……シナモンかな?」
「わかった」
そう言えばこれバタースコッチシナモンパイのイベントかと思い出し、私はとりあえずシナモンを選んだ。
……つーか、今トリエルさんのことサラッと『ママ』って言ったなこの子。
「………終わったよ、行こう」
「おー、わか『プルルルル……』……」
「……ドンマイ、お姉ちゃん」
トリエルさんェ……人の台詞遮らないで下さいよ…
ちょっと悲しくなりながら、フリスクが電話に出るのを見届ける。
「…お姉ちゃん、バタースコッチも大丈夫?」
「うん、平気だよ」
そう答えればフリスクはまた電話に戻る。しばらくすると、フリスクは電話を切った。
「終わったよ」
「そっか、じゃあパズル解きますか」
つってもこの岩動かすだけだけど。
力を込めて岩を動かせば、岩はすーっと動き、ガチャンと音を立ててスイッチに嵌まり、針山が下がった。
次の部屋に進む。
―――――――――――――――――――――
次の部屋は……あー、そっか、落ち葉の上踏んだら落ちる道か。
どうするかな、と考えていると、またフリスクが前に出て、ずぼっと勢いよく落ちていった。
「フリスク!?」
まぁ、しばらくすれば戻ってくるだろうと検討をつけ、待っておくことにした。
……来ない。もう数分立ったぞ?
「……フリスクー?何やってんのー?」
落ちて空いた穴を膝をついて覗き込んでいると、後ろから肩を叩かれた。
「何さ『ぷにっ』……おい……」
「引っかかったー!」
振り返れば、私の頬に指を当ててくすくすと楽しそうに笑うフリスクが。つか超古典的なイタズラだなこれ。
「こっちは心配してたっつのに……」
「ごめんなさーい、下にヒントがあったから覚えてたんだ」
…あぁ、なんだ、覚えてただけか。モンスターに襲われたかと思った。
「…せっかく覚えてくれたんだし、忘れないうちに行くか。先導してくれる?」
「うんっ」
元気よく返事したフリスクは私の手を取って落ちないように慎重に進む。 真剣な表情だった。
無事に渡ることが出来た私は、頑張ってくれたフリスクをなでる。
「ありがとう、フリスク」
「えへへ…」
照れたように、尚且つ嬉しそうに笑うフリスク。やだ、ぐうかわ。
「行こう、お姉ちゃん!」
フリスクに手を引かれ、私は進む。
―――――――――――――――――
次は……喋る岩の部屋か。
ただ解けばいいと思っていたさっきまでの自分を殴りたい。モンスターとの戦闘を全ッ然忘れてた。
「流石にっ、二体同時は、キツイなっ!!」
ガキン、ガキンと私のカッターが弾幕を弾き飛ばす音が響く。
ザシュッ
「…って……!」
「お姉ちゃん!」
「私はいいから避ける事に専念して!!」
服と肉が切れて私の血が滲む。
油断した。まさか私に当たるとは……しかも結構痛いぞこれ。ゲームだった時、フリスクはこの痛みに耐えてたのか?……マジで聖人君子だな、この子は。
弾幕が止む。どうやらこちらにターンを譲ったらしい。すぐさまフリスクは『MERCY』ボタンを押した。
*
*
戦闘終了アナウンスが流れた。私はカッターをしまい直す。
「お姉ちゃん!大丈夫……?」
「ん、平気だよ、こんなん。フリスクは大丈夫?」
駆け寄ってきたフリスクが怪我してないことを確認し、ほっとする。
「うん……でも、お姉ちゃんが……」
「こんなの飴でも舐めとけば治るよ、心配しないで」
にっこりと安心させるように笑っておけば、フリスクは強張っていた顔を緩ませる。
「……無理、しないでね?」
「うん。大丈夫さ」
……まぁ無理しないってのはちょっと守れないかもだけど。
そう思いながら岩を動かしていく。ちょっと傷に響くけど、まぁ大丈夫かな。
二つ石を動かし、最後の石を動かそうとすると、
「おおっと!俺を押そうってのはどこのどいつだい?」
「エボット山近くの孤児院出身、そしてこの子の姉のリリーですけど」
「おぉ、いいねぇ、礼儀正しい奴は嫌いじゃないぜ」
なんだこの石、ゲームだった時も思ったけど中々饒舌だな。
意思のある石ってか。やかましいわ。
「って、孤児?親御さんはどうした?」
「………」
「……あー、すまねぇ、悪い事聞いちまったな」
「いえ…」
しかも気遣いが出来るときた。人間だったら惚れてた(友人として)。
「まぁ、嫌な事聞いちまった代わりと言っちゃあなんだが、あのスイッチの上で大人しくしといてやるよ。早くとおっちまいな」
本当は言葉遊びでもする予定だったんだが、と言って彼(?)は大人しくスイッチに嵌まった。
まさかのプチ原作改変。……これで『Player』に私の存在バレたりしないよな?つか、あれやっぱり悪意あってやってたんかいな。
まぁその時はその時だと覚悟を決め、私は石にお礼を言う。
「ありがとうございます、別に気にしなくてもよかったのに……」
「いや、こういう礼儀は通したいのさ。さ、行きな」
………やだ、コイツマジでイケメン、もといイケ石だわ。
石にトゥンクしながら、私はフリスクを連れて次の部屋に進んだ。