※最後までお付き合いいただけると幸いです
【Lily】
*
暗闇の中、最後の闘いの幕開けを告げるアナウンスが流れる。
【あはははははははっ!!!】
それに続いて、闇の中に笑い声が響く。笑い声の主は、目の前で愉悦に顔を歪めた、カミサマ。
【どうだい、Chara!!! これが僕の本当の姿さ!! 格好いいだろう!?】
人間のソウル、そして地下世界全てのソウルを取り込み、カミサマとなったアズリエルは、私に向かって笑いかける。
【今の僕はこの世界を思うままにできる神様だ!
アズリエルは、そうフリスクを嗤う。
【あは、あはははは、はははははは!!!!】
狂ったように笑うアズリエルを尻目に、私は、呆然とした様子でアズリエルを見るフリスクの手を握る。
「フリスク」
強目に手を握って声をかければ、フリスクはゆっくりと此方を向いた。
「…………どうしよう、お姉ちゃん」
そして、絶望に顔を歪めて、今にも泣き出しそうな顔で言葉を紡ぐ。
「皆のソウルがアズリエルに、どうしよう、どうしようどうしよう……」
「フリスク」
取り乱して脅えるフリスクの目を見て、私は声をかける。
「大丈夫。皆はまだ、死んじゃったわけじゃないよ」
そうフリスクに伝えれば、脅えた瞳が大きく揺らいだ。
「アイツはただ、皆のソウルを一時的に取り込んだだけだよ。一発ぶん殴るかどうかすれば、きっと皆は帰ってくるさ」
「………どうして、そんな事が分かるの」
私がフリスクに向かって微笑みかければ、フリスクは疑惑に満ちた瞳で此方を見る。
「だってアイツ自身が『ハッピーエンド』を掴んだら皆を地上に出してやるみたいなこと言ってたし―――……あとはお姉ちゃんの、勘」
それに対して、私は笑顔でそう言ってやる。
「それに、あなたの胸には、皆を救える、奇跡を起こせる力があるじゃないか」
フリスクの心臓の辺りに指を置いてそう続ければ、フリスクはハッとしたように目を見開いた。
「………私はいつだってフリスクを信じてるよ。あとはあなた自身の決意だけ。………さぁ、フリスク」
私がそう問いながら手を強く握る。
「―――………皆を、助けに行こう」
驚愕の顔で私を見ていたフリスクは、顔を引き締め、私の手を強く握り返した。
「――――うん、勿論だよ!!」
そう言って見開かれたフリスクの瞳は、決意に満ちて、輝いていた。
未だ笑い続けるアズリエルに向かって向き直り、声を張り上げる。
「アズリエル!! 皆を返せ!!」
私がそう言えば、アズリエルは狂ったような笑いをピタリと止め、此方を見る。
【…………なあに、Chara。君、そっちにつくの?】
至極面倒くさそうに、アズリエルはそう言った。
【まぁ、いいけどね。言ったじゃん、ソイツが見事『ハッピーエンド』を掴み取れたら、地下世界を解放してあげるって】
一つ溜め息を吐いて、神様ぶったアズリエルは続ける。
【まぁ、そんなこと有り得ないけどね!!】
そしてまた笑い出すアズリエルから目を逸らして、私達はお互いの顔を見て、頷き合う。
お互いの手をもう一度握り返してから、手を離す。
―――………きっと今のフリスクなら、私が傍にいなくても、正しい選択をしてくれる。
そう信じることが出来たから。
「フリスク!! あなたに向かう攻撃は出来る限り私が請け負ってやる!! 傷のことは気にすんな、こんなとこで死んでやる気は絶対にない! 必ず生き延びてみせる!! だから、あなたはあなたの好きに動け!!!」
意識を失っても尚握っていたナイフの柄を握り直し、私はフリスクに向かって叫んだ。
フリスクは私を見て――――頷いた。
「分かった!!」
そう言って、フリスクはいつも使ってきた『ACT』を叩く。ピッという音が耳に届いた。
*ASRIEL DREEMER ∞ATK ∞DEF
*|Legendary being made of every SOUL in the underground《地下世界全てのソウルを取り込んだ究極的存在》.
目の前の唸りながら頭を抱えているアズリエルを分析したアナウンスが流れてくる。それと同時に、アズリエルが顔を上げた。
【なに、それでも抵抗する気なの? いいよ、ちょっと遊んであげる!!】
アズリエルが手を掲げると、その手に炎が集まり、塊を形作っていく。その手が振り下ろされると、その塊から炎が波を描きながら放出された。ゴウッ、という音を立てて迫りくるそれを横に飛んで避けて、離れながらも攻撃を繰り返すアズリエルを睨み、炎を避け続ける。
*
攻撃が止み、ターンが回った合図が流れる。
空間が、虹色に輝き始める。
―――……壊れ行く世界の終末の景色とは、こんな風景のことをいうのだろうか。
そんなことを思いながら、私はナイフを構えた。
*
*
フリスクがターンを回し、アズリエルにターンが回る。アズリエルがキラキラと輝く両手を振り上げると、何かが迫ってくるような感覚を覚える。ある筈もない空を見上げると、空から星が落ちてきていた。
「!!! マジかよ!!」
「お姉ちゃん、走ってッ!!」
「わかってる!!」
降り注ぐ星の中を、駆け抜けていく。落ちては弾ける星の欠片を避け、ナイフで弾き返す。最後に一等大きい星が落ちてくるのを見て、フリスクを抱えて緊急離脱した。星の欠片が身体を掠めていくのを無視し、無理矢理離脱した。
*
星が止み、フリスクを降ろすと、フリスクは直ぐに『ACT』を押してターンを回す。
*
*|You can feel the empty space in your inventory get smaller and smaller《持ち物の空きがどんどん小さくなっていくのを感じる》!
【あのさ……】
フリスクが胸に決意を抱き続け、立ち続けているとアズリエルがフリスクに語りかける。
【僕はもうこの世界を壊すことなんてどうでもいいんだ】
やれやれと言わんばかりに首を振りながらアズリエルはそう言うと、また両手を掲げる。その両手にバチバチと閃光が走っているのが見え、まずいと判断してフリスクを抱え上げる。
その瞬間、アズリエルが手を振り下ろした。
ズドドドン
という音が幾つもして、先程までフリスクがいた場所や他の場所に、虹色の雷の柱が落ちた。あれに撃たれたらまずい、と判断して、尚も落ちてくる雷の中をフリスクを抱えて走る。
*
太い雷の中を潜り抜けると、ターンが回った。
*
*
急いでフリスクを降ろすと、フリスクは『ACT』を叩き割らん勢いで叩き、ターンを回す。
【君を倒してタイムラインを完全に支配したら……すべてをリセットしたいだけなのさ】
ターンがアズリエルに回ると、アズリエルはそうフリスクに語りかけて、両手に呼び寄せた二振りの剣を携え、此方に斬りかかってくる。
「フリスク、ナイフ貸して!!」
「! うん!」
咄嗟にフリスクに叫ぶと、何をするのか察してくれたのか、直ぐにナイフを差し出してくれた。それを受け取り、私も両手にナイフを握って前に出る。振り下ろされた剣を受け止めると、金属が擦れる音ともにデカイ衝撃が直接伝わってきた。それでも何とか受け流し、直撃を回避する。
*
激しい剣劇が止むと、此方にターンが回る。フリスクが『ACT』に手を伸ばし、叩いた。
*
*
アナウンスが頭に響く。ナイフを片方ポケットに突っ込み、フリスクの手を握る。
【君が歩んできた時間も……みんなが刻んだ記憶も。ゼロになるまで巻き戻すんだ!】
アズリエルが口を開き、笑う。そして雷を纏った手を振り上げると同時にフリスクを抱え上げて、神罰だと言わんばかりに落ちる雷の柱の中を走り抜け、突き進む。
*
雷が止むタイミングを見計らってフリスクを降ろす。フリスクは『ACT』を叩き、アズリエルを見据えた。
*
*
【そうしたら僕らは全てを始めからやり直せる】
アズリエルはそう続けて、キラキラと光る手を振り上げる。振り下ろされると同時に、また星が降り注いだ。
フリスクと同時に走り出して、星が降り注ぐ中を潜り抜ける。飛んでくる欠片をまた両手に持ったナイフで叩き落とし、避けて、壊す。
*
星が止むと同時に、フリスクは表示された『ACT』を叩いた。
*
*
【この役割に一番適した人物が分かるだろう? 君がやるってこと】
私達が自分に勝てる筈がないと侮っているのか、アズリエルはベラベラと喋る。そして何処からともなくデカイ銃のような物を造りだして此方にその銃口を向ける。フリスクを抱えあげ、その銃口から放射状に発射される弾の雨の中を突き進む。何発かが身体を掠めていく。知ったことか。
ガチャッ
という音がして、銃口が縦に割れ、中に装填されていた光が太い光線となって此方を撃ち抜こうとする。迫りくるそれを走り抜けて、回避する。
*
中が空になって光線が消え、アズリエルがそれを投げ捨てた途端、ターンが回った。フリスクは私の腕の中から飛び降りて、『ITEM』を叩いた。
「お姉ちゃん!! お姉ちゃんの夢を思い続けて!!」
そして何かに気付いたのか、私に振り返ると、そう叫んだ。
―――………私の、夢?
そう言われて、反射的に思い浮かぶのは、目の前の彼女の笑顔。
私の夢は―――……
*
*
言われるまま自分自身が此処にいる理由をしっかりと脳裏に思い描けば、身体中が暖かい何かに包まれていく。みるみるうちに傷で生じた痛みが消え、身体に活力が溢れてきた。そして、フリスクが『ITEM』でこの戦いだけで使えるアイテム、『最後の夢』を使ったのだと遅れて察した。
【そして君は僕に破れる】
誰かに背中を押されているような、不思議な感覚を覚えていると、アズリエルの声が響く。持ち直して斬りかかってくる彼の剣を弾き、受け流す。
【………ッ、邪魔しないでよ、Chara!!】
フリスクを攻撃しようとする度に立ち塞がる私に苛立ったのか、剣を振り下ろしながらアズリエルが叫ぶ。
「ハッ、やなこった!!」
その剣を受け止めて拮抗し、そう言い返してやれば、アズリエルは顔を歪めてもう一度剣を振り上げ、両方の剣を振り下ろす。振り下ろされると同時に光の粒子となって迫ってくるそれを、飛び退いて避けた。
*
ターンが回ると、フリスクは直ぐに『ACT』を叩いた。
*
*
【やり直すたびに】
またアズリエルの手に、銃のような物が現れる。発射される弾を避け、フリスクに当たりそうなものを叩き落とす。銃口が割けて光線がフリスクに向かって飛ぶが、フリスクはそれを難なく回避した。
*
虹色の光線が消えると、フリスクにターンが回る。『ACT』を押し、彼女は進む。
*
*
【何度でもね!!】
希望を抱いて立ち続けるフリスクを見据えて、アズリエルは雷を纏った両手を振り上げる。流石にこれはまずいと判断して、フリスクを後ろから抱えあげ、先程と軌道の変わった落雷の中を走る。ゲームだった時とは違い、危険を知らせるマークもない中、走っていく。
*
「ありがとう!!」
ターンが回る。フリスクは礼を言いながら私の腕の中から飛び降り、ターンを回す。
*
*
【君が「ハッピーエンド」を求めるのだから】
そうアズリエルが未だ立つフリスクに続けると、アズリエルはまたキラキラと光る手を振り上げる。すると、また空から星が降り始めた。降り頻る星々の中を駆け抜けて、欠片を弾き、回避する。
*
ターンが、フリスクに回る。フリスクは『ACT』を叩いて、アズリエルを見据え続ける。
*
*
アナウンスに遅れて自分の夢を強く願えば、ぼんやりと笑顔のフリスクが目の前に浮かび上がり、私の手を握る。そこを起点に暖かいものが身体中を伝わり、駆け抜けていく。
【君が「友達を大切に想う」のだから】
フリスクの幻影が消えると、アズリエルが口を開いてそう言った。そして、フリスクを狙って、また斬りかかってくる。フリスクとアズリエルの間に身体を挟み込み、受け流した。
*
私が入ったことによって幾分かやはり加減されているのであろう剣劇を切り抜けると、アズリエルは剣を消して高く飛び上がる。それと同時にターンが回り、フリスクはターンを進める。
*
*
【君が「決して諦めない」のだから】
未だ立ち続け、自分を見据え続けるフリスクに対してそう続けて、アズリエルはまた銃を取り出して銃口を構える。フリスクに向かって放射状に発射される弾を弾き、走って回避する。太い光線が飛来するが、二手に飛び退いて事なきを得た。
*
光線が消え、ターンが回る。フリスクは凛とした顔で、『ACT』を叩いた。
*
*
【………君、まだ死んでないの?】
先程まで行われていた『
【でもまぁ、最高だろ?】
それでもまだ侮っているのか、フリスクを見下したまま、笑顔で続ける。
【君の「決意」が。君をここまで導いた力が……君を破滅させていくのさ!!】
「………それはどうかな」
笑うアズリエルに対して小さく言い返し、続けて落ちてくる雷を、フリスクを抱えて避ける。落ちる毎に空間を揺らす雷の中を突き進み、駆けていく。
*
落雷が止むと、そうアナウンスが流れた。此処までは何とか切り抜けられたか、と安堵する。
【…………ねぇ、Chara】
そんな中、不意にアズリエルが私に向かって声をかけてくる。
【提案があるんだ。もしCharaが今すぐ僕と一緒に来てくれるなら……僕はソイツから手を引くよ。ソイツの友達も返してやっていい。君のソウルを借りれば、僕はこの姿のままでいられるからね】
目線だけアズリエルに投げ掛けてやれば、アズリエルは笑いながら提案してくる。
【今の僕ならソイツ一人が幸せに生きていける世界を創ることなんて容易いし、君を今度こそ幸せに出来る自信があるんだ。良い条件でしょ?】
そう言いながら、アズリエルは私にすうっと近寄ってきた。
【だから、ねぇ。お願い。今度こそ僕の手を取ってよ。この世界を、僕達の手で………造り直そうよ】
そう言って、彼は、歪んだ笑顔で笑いながらトリエルさんそっくりの手を差し出した。
「――――アズリエル」
その手を一瞥して、私はアズリエルの名前を呼んで、笑いかける。
【! なあに、Chara? 僕を選んでくれるんだね!】
私のその顔を見てか、目の前のアズリエルの顔が、嬉しそうに、満足そうに歪んで、笑みを深めた。
「お姉ちゃん…………!?」
フリスクから、動揺する声がする。
―――………確かに、良すぎる条件だ。私一人がここでアズリエルの手をとれば、フリスクはきっと幸せに生きていけるのだろう。父さんと母さんは死なずにすむんだろう。
でもね、大丈夫だよ、フリスク。
「―――――誰が、お前の手なんか取るか」
私が、今のコイツの手なんて取る筈ないから。
【………………え?】
あの子そっくりなこの顔が浮かべた笑顔のままで否定されたのが信じられなかったのか、アズリエルは目を丸くする。
【――――………そん、な、そんな、嘘だ、なんで!!?】
遅れて私の言葉をようやく理解したのか、そう叫んだ。
【ぼくは神様なんだよ、Chara!!?】
信じられないと言わんばかりに吼えるアズリエルを、私はじっと見る。
【そんなぼくを、本当の神様になったぼくの手を取ってくれない……? そんなわけ………】
「あるんだよ、この勘違い野郎」
取り乱すアズリエルに向かって、私はそう言った。
「ルインズでも言った筈だぞ、私は『Chara』じゃないって」
浮かべた笑顔を引っ込めて、私はアズリエルに向かって言ってやる。
「なのにお前は私をずっと『Chara』だと勘違いして、私が命を賭けてでも『守りたいもの』に手を出した。
―――……そんな奴の手なんか、取ってやるもんか。そんなの、断固としてお断りだ」
白と黒の色の反転した両目を見据えて、私はこの世界で一番歪でツギハギなカミサマに告げる。
身体も、先程見た少年から成長した青年と言っていい身体なのに。
頭に生えた角も、アズゴア王と同じくらい立派なのに。
縋るようなような声で、目を細めて、現実を否定して駄々を捏ねている。
まるで、身体だけ大きくなってしまった子供のような、そのカミサマに。
【……………嘘、だ】
私の言葉を受けて、現実を否定するようにカミサマは首をゆるゆると頭を振る。
【嘘だ、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!!】
そして、絶叫する。
【そんな筈がない、そんな訳がない!!! 君は『Chara』だ、ぼくの一番の親友で家族だ!!!】
何も聞きたくないと周りを拒絶するように頭を抱え、カミサマは顔を伏せる。
【じゃなきゃそんな顔で笑うもんか、そんな目でぼくを見るもんか、そんな服で走り回るもんか!!!!】
カミサマは自分に言い聞かせるように、自分にとって都合の良いことを並べ立てる。
不意に、カミサマが顔を上げた。
反転した瞳が、私を映す。
【どうして君はそこまでぼくを否定するの!? ぼくが君との計画を台無しにしたから!!? ぼくが
そして、問いを投げ掛ける相手を間違った問いを、ぶつけてくる。
【――――どうして。どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして―――――………】
狂気を滲ませた瞳で此方を見ながら、狂ったように『どうして』とカミサマは言い続ける。
【…………――――どうして、ぼくに………君を救わせてくれないの………?】
最後に、ぽつりと、そう呟いた声が聞こえた。
此方を見ていた瞳の狂気は消え、強い悲しみに染まっている。
それを無理矢理無視して、私は隣のフリスクの手を握る。
「最後にもう一回言ってやる。――――そんなの御断りだ!!」
私がそう叫んでフリスクを見れば、フリスクは安堵したように笑い、手を握り返してくれた。
【ああああああああああああああああああああああ!!!!! もういい!!! 君がぼくの手をまだ握ってくれないなら、力尽くで分からせるまでだ!!!!】
激昂したカミサマは頭を掻き毟り、ギラギラと強い狂気に汚染された目で私達を射抜きながら叫んだ。
【さぁ、遊びの時間は終わりだ!!】
そうカミサマが告げると、カミサマを起点にして空間が闇に呑み込まれていく。全てを闇が支配すると、目の前に巨大な山羊の頭部のようなものが現れる。
【■■■■■■■■■■■―――ッ!!!!】
現れたそれが雄叫びを轟かせると、空間が立っていられない程大きく揺れる。
ビキリ
何かがひび割れる音を耳が捉え、反射的に上を見ると、空間に罅が入り、崩れ落ちてきていた。
「フリスク、避けろ!!!」
フリスクにそう叫んで、大口を開けたそれに向かって吸い込まれていく空間の欠片を避ける。幾つかが腕や足に当たるが無視して、避け続ける。
【■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!】
また雄叫びが響くと同時に、空間が白く光り始める。
目を潰されないように咄嗟に腕で目を庇い、そして―――………
「お姉ちゃん!!」
その叫びを残して、全てが光に呑み込まれた。