守りたいもの   作:行方不明者X

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14.TrueLaboratory探索⑥

【Lily】

 

決意抽出機の前を通り、引き返してきた私達は濃霧が漂っている筈の部屋にやってきた。懐中電灯で照らして警戒しながら中を見てみると、先程作動させた換気扇がちゃんと働いているらしく、先程の濃霧は消え去り、部屋の中がちゃんと見えた。

 

「お、霧が消えてる。調べられそうだよ」

「ほんと? じゃあ、早速調べよう」

「そうだね」

 

フリスクと短くやりとりをして、部屋の中に足を踏み入れる。すると、

 

「………? なんか、寒い……?」

 

何故か、体感的に温度が一度か二度くらい下がったような気がした。

…………ここにいる、アマルガメイツの影響だろうか。

 

「あ、お姉ちゃん、報告書あったよ」

「……お? 本当だ。読む?」

「うん」

 

私の呟きが聞こえなかったのか、フリスクは私の発言に特に反応せずに直ぐ横にあるパネルを指差してそう言った。直ぐにフリスクの話に合わせて会話を続け、二人でパネルの前に立つ。ピッという音がして、内容が表示された。

 

『報告書19

 

遺族からいつになったら皆を返してくれるのかという電話が鳴り続けている。

彼らに何と伝えればいいんだろう?

もう電話に出たくない。』

 

「………やっぱり、何かが起きて、皆が此処から帰れなくなっちゃったんだね」

 

私が内容を読み終わると同時くらいに、フリスクはそう呟いた。

 

「みたいだな。………フリスクの言ってた通り、今まで出会ってきたここのモンスターは、研究の為に集められてきたモンスター達と考えた方がいいのかもね」

「………」

 

私がその呟きにそう返せば、フリスクは沈鬱そうな顔をして押し黙る。そして不意にパネルから目を逸らし、先を進み始める。それを後から追いかけ、ついていく。

 

ガチャッ

 

直ぐ横にあった冷蔵庫が気になったのか、フリスクは取っ手に手をかけて開き、中を覗き込む。

 

「なんかあった?」

「………ううん、何にもないや」

 

その中身がどうなっているかは知っているが、一応聞いておく。中に何もない事を確かめたらしいフリスクは冷蔵庫の扉を閉め、立ち去ろうとした所で不意に目を見開き、もう一度中を覗き込んだ。

 

「……何してるの?」

「………いやさ、青色の装置の部屋のメモに『冷たい』って書いてあったから、もしかしたら冷蔵庫の中にあるんじゃないかなって思って。ほら、冷蔵庫の中って冷たいし」

「あぁ、成る程」

 

思わずフリスクに問いかければ、中を熱心に覗いていたフリスクは、残念そうな顔をして冷蔵庫の扉をきちんと閉めながらそう言った。その主張に納得したように頷いてから、次の冷蔵庫の前に立ち、取っ手に手をかける。

 

ガチャッ

 

という音を立てて開いた扉の中をしゃがんで覗くと、そこには何も見当たらなかった。

 

「そっちはどう?」

「……ここにも何もなさそうだ」

「そっかー……」

 

後ろから尋ねてくるフリスクに言葉を返し、扉を閉めて立ち上がる。

 

 

ガタタタン!!

 

 

「「!!?」」

 

その瞬間、左隣の冷蔵庫が派手に揺れた。思わず二人して後退り、お互いの顔を見合わせる。

 

「…………え、今、あの冷蔵庫……動いた……?」

 

視線を冷蔵庫へ動かし、警戒してその場を動かず冷蔵庫を見据える。動揺するフリスクを背中に隠し、警戒しながらじりじりと冷蔵庫に近付いてみる。そして取っ手に手をかけて扉を開いてみると………そこには何も居なかった。

 

「……………何にもいないよ」

「え、嘘……? じゃあ、何で震えたのこれ……」

「さぁ……?」

 

その冷蔵庫に対する警戒は解き、肩の力を抜いて開けた扉を閉める。そして、二つ隣の冷蔵庫に擬態するモノに対する警戒を引き上げた。

 

「………うーん、冷蔵庫には無いのかなぁ。三つ見たけど、何にもないし……でも他に何も無いしなぁ……」

「……まぁ、取り敢えずパネルを見てみようよ」

「そうだね」

 

首を傾げるフリスクにパネルを指差して言えば、フリスクは頷いてパネルの前に立つ。その後ろから表示された内容を覗き込んだ。

 

『報告書20

 

今日アズゴア王が五つのメッセージを残していった。

四つは皆が怒っているという話

そして一つは私に良く似たかわいいティーカップを見つけたという話

ありがとう、アズゴア王』

 

「………慕われてるね、王様」

「そうだね」

 

ぽつりと呟かれたフリスクの呟きに同意する。

……そう言えば、一番最初のメタトンのクイズショーで、アルフィスの好きなモンスターは誰だっていう問題に、『アズゴア王』っていう選択肢があったっけ。で、それを選ぶと『アンダイン』って答えた時のアルフィスの反応と同じ反応が返ってくるんじゃなかったっけ。それはアンダインと同じくらいアルフィスが彼に惹かれているからだってどっかで見かけたことがある気がする。まぁ、そりゃ確かに研究で取り返しの付かない失敗して塞ぎ込んで鬱になりかけているところに優しくされたら、誰だってコロッといくわな。ただでさえアズゴア王は優しすぎる人柄――いやモンスター柄か? まぁ、そんなモンスターな訳だし。私だってそうだし。いや、アルフィスの心が読める訳じゃないから本当のところは知らんけど。

アルフィスがアズゴア王が好きな理由に自己解釈を交えて何となく納得しつつ、探索に戻る。

 

「あ、またパネルあったよ」

「本当だ」

 

冷蔵庫を挟んで次の壁に、またパネルを発見する。何も言わずに二人でパネルの前に立ち、内容を読む。

 

『報告書21

 

毎日、四六時中、ゴミ捨て場で過ごしている。

今となってはこれだけが私の全て』

 

「………これが一番最近のやつかな」

「多分そうだろうね」

 

フリスクの言葉に頷き返し、パネルから離れる。次の冷蔵庫に手をかけたフリスクを追い越して、最後の冷蔵庫の前に立つ。

 

「…………」

 

隈無く、目の前で静かに佇む冷蔵庫を観察する。暫くじっと見つめていると、一見他の冷蔵庫と何処も違わないように見えて、他の冷蔵庫には上にうっすらと埃が積もっているのに対し、これだけ少しも無い事に気付いた。これだと確信し、取っ手に手を伸ばし、触れる。その瞬間、

 

 

ひやっ

 

 

「……!?」

 

 

触れた取っ手の部分が、触れていられないほどに酷く冷たくなっているのに驚いて思わず手を引っ込めてしまう。警戒しながらもう一度触れると、取っ手に普通に触れられるぐらいになっていた。手をかけてゆっくりと扉を開いて中を覗いてみると、そこには何も見当たらなかった。

まぁそりゃそうだよね、と納得しながら扉をそっと閉める。

 

「お姉ちゃん、そっちには何かあった?」

「いや、何もなかったよ。そっちは?」

「何かの薬品みたいなのが入ってたけど、それだけで何も無かったよ」

「そっか」

 

冷蔵庫を調べ終わったらしいフリスクが此方にやってきて、訊ねてくる。それに首を横に振りながら言葉を返して会話を重ねる。

 

「うーん、やっぱりここじゃないのかなぁ………次の部屋にあるといいんだけど」

「………そうだね」

 

何が起きるか知っている私は、先に進もうとするフリスクと冷蔵庫の間に立って少しでもフリスクから遠ざける。

 

その、次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、部屋の空気が肌を刺す冷たさになる。

 

 

それはさながら、真冬のような、冷たさだった。

 

 

「えっ……!? 寒い……!!?」

 

 

暖かいとまでは言わないまでも、それでも常温ほどの温度だった筈の部屋の温度が突然として真冬のような寒さになった事にフリスクも何かが起こっていることを察したのか、目を見開いた。

 

 

「お姉ちゃん、これ……!」

「あぁ、多分そうだろうよ……ッ」

 

 

気をつけろ、と言葉を続けようとした途端に、

 

 

 

 

 

 

 

ぞっ、と、背中が泡立つほどの冷気が横から流れてきた。

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

 

バッと、瞬時に流れてきた方を向く。

 

 

中身が空っぽな冷蔵庫があるだけの筈のそちらを向くと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四角い形をしていた白いモノが、崩れ落ちて形を変えていくのを目撃した。

 

 

 

 

「………ッ!!」

 

 

 

 

後ろで、息を飲むような音が聞こえる。

 

 

 

 

咄嗟にフリスクを庇い、目の前で形を変えていく白いモノを見据える。

 

 

 

そして、その瞬間、

 

 

 

 

 

にっこりと、ない筈の顔で 微笑まれたような

 

 

 

 

 

「来るぞ!!」

 

 

 

 

私がフリスクに叫んだ途端、世界が白黒に切り替わった。


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