※支離滅裂です
【Lily】
*
世界が白黒に切り替わった途端、そうアナウンスが流れた。目の前で私を見つめる―――いいや、顔に該当する部分が見当たらない為に見つめているのかも分からないが、アマルガメイツは別段何をするでもなく、じっと、ただただじっと、私の顔を見つめたまま、動かなかった。対する私も、目の前のアマルガメイツをただじっと見つめる。
「お姉ちゃん! 下がって!」
暫くソイツと見つめ合っていると、背後のフリスクから声が飛んでくる。ハッと我に返って、アマルガメイツを刺激しないように一歩づつゆっくりと後退りした。
「………ウォン」
じっと見つめていた私が動いたからか、小さく、アマルガメイツが鳴いた。その犬や狼辺りの鳴き声と、アマルガメイツの身体全体を観察して、犬ようなの形の身体をしていることから推測し、確信する。
コイツは、エンドジェニィだ。
「……何だろう、あの子……犬………?」
「多分ね」
フリスクの傍まで下がり、直ぐに抱えられる位置に立つ。エンドジェニィを見据えたまま短いやり取りをすると、フリスクは『ACT』に手を伸ばす。
*AMALGAMATE―
ピッという音を立てて、アナウンスが流れた。それが流れ終わると同時に、エンドジェニィが震え出す。
ぐぱぁ
音にするなら、これがいいだろう。のっぺらぼうだった顔が変形して、大きな一つの穴を開ける。攻撃開始の合図であると悟り、直ぐ様フリスクを抱えあげ、回避体勢を取った途端、
ビュッ
ふわりと浮かび上がったエンドジェニィの顔の穴から無数の棘が飛んでくる。
「うわッ」
中々鋭利な先端のソレを、前後左右に移動して何とか避けていく。数本身体を掠め、服や肌を薄く切っていく。
*
浮かんでいたエンドジェニィが攻撃を止めて床に降りると同時に、アナウンスが流れる。アナウンス通り、エンドジェニィは此方をじっと見つめていた。
「………お姉ちゃん、一回降ろして」
お互いに相手を見据え、緊迫した空気が流れる中、フリスクが言葉を発した。
「………いいの?」
「うん。降ろして」
「……………分かった」
私の問いかけに、何とかできる自信があるらしいフリスクは力強く頷いた。それを見て、私はフリスクの指示に従ってそっと床に降ろす。直ぐに抱えられるように気を付けながらもフリスクから手を離すと、フリスクはエンドジェニィに向き直って、『ACT』に手を伸ばす。
「………相手が犬のモンスターなら……」
*
一言そう呟いてから、フリスクは『ACT』を押し、口元に手を当て、エンドジェニィに声が届くようにする。そしてアナウンスが流れると、フリスクの呼び声に反応したのか、エンドジェニィは耳の部分をピクリと動かし、穴から何かを垂らしながらこちらに向かって飛んできた。
*
かなりの勢いで飛んでくるそれを、フリスクの腕を引っ張って無理矢理しゃがませて避ける。エンドジェニィは私達の上を通り過ぎて後ろの壁に激突し、べしゃりと潰れる。その瞬間を見計らってフリスクを抱えあげて距離を取り、フリスクに飛び付いてこようとするエンドジェニィを避け続ける。
*
突如エンドジェニィの突進攻撃が止み、此方にターンが回ったことを示すアナウンスが流れる。それを見計らってフリスクを降ろすと、フリスクは直ぐ様『ACT』を押して、エンドジェニィに向かって『此方に来い』というジェスチャーをした。それに誘われるままに、エンドジェニィはフリスクの前までふわふわと浮かんだままやって来た。
*
そのままフリスクの前に着地し、その巨体を沈めて座り込んだエンドジェニィの頭を、フリスクはその場に座り込んで撫で始めた。
「………今までの犬のモンスターみたいにすれば、終わるかな?」
撫でながらそういったフリスクの言葉を咀嚼し、どうやら『Player』はここに来るまでに戦ったレッサードッグやグレータードッグなどの犬系のモンスターとの戦いを参考にして行動しているらしい、と見当付ける。
*
*
「クゥン……」
アナウンス通りカタカタと震えていたエンドジェニィは、不意に大人しくなり、フリスクの太腿に頭を預け、すりすりと頭を擦り付けた。
*
*Zzzzz……
鼾をかいて眠るエンドジェニィの頭を、フリスクは撫で続ける。
暫くそのままフリスクが撫で続けていると、突然、エンドジェニィは飛び上がった。
*
「バウ!」
そしてそのまま空中に浮かび上がり、また棘のようなものを飛ばしてくる。直ぐにフリスクを引き寄せ抱えあげ、棘を避ける。
ドスッ
一本、左の二の腕に刺さり、痛みが走る。
無視して避け続ける。
*
此方にターンが回り、まだ『ACT』する気であろうフリスクを降ろすと、真っ青な顔で私の腕に刺さる棘をみた。
「大丈夫!?」
「え? うん、大丈夫だよ」
心配しているらしいフリスクから見えないように背を向けて棘を引っ付かんで抜き、床に投げ捨てる。思ったよりかなり深く刺さっていたらしく、肌に親指の腹くらいのサイズの穴が開いてしまった。どろ、と遅れて血が流れ始める。
「あー……案外深いなこれ」
鉄臭いような、生臭いような血の匂いが鼻をつく中、袖を捲り上げて包帯をきつく巻き直して止血を行う。どうにか処置を終えて振り向き、心配そうな顔をするフリスクに向かって笑う。
「もう大丈夫だよ、進めて」
「………本当に?」
「うん」
疑うような目線で傷を見るフリスクに頷くと、フリスクは傷を睨んでいたが、暫くするとエンドジェニィに向き直って『ACT』を押した。そして、アズゴア王戦で使うと言われて渡しておいたナイフを取り出した。
*
ナイフを取り出して何をするのだろう、とフリスクを見ていると、フリスクは大きく振りかぶってそのナイフを投げる。放物線を描いて部屋の入り口辺りに落下していくそれをエンドジェニィは追い、落下したナイフを穴――いや、口って言った方が正しいか。それで咥えた。
*
*
のしのしと巨体を揺らして歩いてきたエンドジェニィは、フリスクの足元にナイフを落とした。からん、という音が響く。
*
フリスクは戻ってきたナイフを拾い上げて、また投げた。それを、エンドジェニィはまたそれを取りに行く。それを三、四回程繰り返すと、エンドジェニィの動きが鈍くなってくる。
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ナイフを咥えて戻ってきたエンドジェニィは、ナイフを床に置くと、そのままフリスクにしなだれかかる。
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フリスクは慌てて寄りかかってきたエンドジェニィを抱き止め、その場に座り込んだ。エンドジェニィは口から何かを滴らせながら、フリスクに甘えている。本来ならば彼からの攻撃がある筈だが、それが起こる様子がない。それでも何時でもエンドジェニィからフリスクを引き剥がせるように警戒しながら、私も恐る恐る手を伸ばしてみる。
*
いつの間にか彼のターンは過ぎたのか、アナウンスが流れた。
*
フリスクは直ぐ様『ACT』を押し、寄りかかっているエンドジェニィを撫でる。それに続いて、私もエンドジェニィを撫でてみる。
「………わふ」
私の手が触れた途端にエンドジェニィが身体を身動ぎさせて反応し、それに反応して手を引っ込めてしまう。それでももう一度触れてみると、エンドジェニィは大人しくしていてくれた。
………触った感触は、私が知っている犬のそれではなかった。毛は生えておらず、つるりとしている。伝わってくる温度は、ひんやりとしている。多分これは、一度死んだような状態になっているからだろう。全ての生き物は、死ぬと徐々に体温を失い、やがて冷たくなる。崩落したモンスター達はその状態から無理矢理復活したようなものだから、体温がないんだろう。
そんな事を考えながら触れた手を動かして、エンドジェニィを出来るだけ優しく撫でてみる。
*
フリスクと一緒にエンドジェニィを撫で続けていると、アナウンスが流れ、アナウンス通りにエンドジェニィは口から泡を発生させる。泡が弾けた飛沫がフリスクに少しかかるが、別段何らかの影響はないらしい。泡を発生させながらも、エンドジェニィはただ大人しく撫でられている。途中からガタガタと震え始めるが、それさえ除けば、エンドジェニィは攻撃もせずにフリスクの腕の中で本当に大人しくしていた。
*
そのまま彼のターンは過ぎ去ったらしく、アナウンスが流れた。フリスクは『ACT』を押し、ビクビクと身体を震わせるエンドジェニィを、そのまま撫で続けた。
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暫くフリスクがエンドジェニィを撫で続けていると、エンドジェニィは次第にその震えを小さくし、やがて震えなくなった。ただ、フリスクに撫でられるのを本当に嬉しそうに甘んじて受けている。ふと、エンドジェニィの足の方を見てみると、安心しきったような顔をした犬達の形が見えた。
*
「わふ、わふわふ、わおん」
ぐりぐりと、フリスクに甘えるように頭を擦り付けるエンドジェニィを、フリスクは少し微笑んで撫でてやる。
少しすると、エンドジェニィは立ち上がってフリスクから離れ、少し離れた場所で一声、
『わん!』
と吠えた。
*
アナウンスが流れ、彼が満足したことを伝える。
「………エンドジェニィ、っていうんだね、君」
『ACT』を押したフリスクが満足させたことによって表示された名前を読み上げる。そして、エンドジェニィの名前が黄色くなっていることを確認したのか、向かって微笑みながら、『MERCY』を押した。
*
*
そのアナウンスが流れると同時に、エンドジェニィはふわりと浮かび上がって、何処かへと飛び去っていってしまう。その後ろ姿を見送ると、世界に色が戻ってきた。
「…………ふう、終わったかぁ」
戦闘が終わった安堵に思わず一息つくと、左腕がずきりと痛んだ。見れば、先程刺されて開いた穴からであろう出血が包帯から滲み、パーカーを汚していた。止血が完全に出来ていなかったらしいなと、何処か他人事のようにそう思った。
「あちゃー、血が出てきたなぁ」
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
「おう、大丈夫大丈夫。まぁ一応回復はしておくけどさ」
私を気遣うようにフリスクは顔を歪めながらそう言った。それに笑って返しながら、傷を眺めてみて、これは放っておいたら失血による貧血で行動に支障が出そうだと判断し、リュックを降ろして中を漁る。そしてキッシュを取り出して、口に含んで咀嚼する。あ、美味しい。
そうやって口に運んでは咀嚼して飲み込む作業を繰り返し、食べ終わる頃には左腕の痛みはもう引いていた。
「ん、ごちそうさまでした」
誰に言うでもなくそう言って、リュックを背負い直して私が食べ終わるのを待っていたフリスクに向き直る。
「お待たせ、もう大丈夫だよ」
「本当に? 痛くない?」
「うん、この通りさ」
心配そうな顔をするフリスクに対して左腕をぐるぐると回して本当にもう何ともない事を伝えてみせると、フリスクはほっと一息を吐いて安堵したような顔になる。
「良かった………お姉ちゃんが怪我するなんて
…………は?
いや、あぁ……
「………そっか」
その顔のまま続けられたフリスクの発言に、一瞬動揺する。
………そうだった。本人は何も言わないけど、フリスクは一周目の後の記憶があるんだよな。
すっかり失念していたそれを再認識し、頭に留めておく。
「………さてと、換気扇も回ったし、これで向こうの部屋の霧も晴れただろうから行こうよ」
「そうだね、行こう」
話を逸らし、本題の研究所探索の方に戻す。そしていつの間にか手の中に懐中電灯が無いことに気付いて慌てて目線を部屋全体に向けると、部屋の隅に転がっているのを見つけて駆け寄って拾い上げ、消えていた光を点ける。薄ぼんやりとだが灯った光にまだ使えそうだと安堵しつつ、フリスクの元に戻る。
「さて、行こうか」
「うん」
どちらからともなくまた手を繋ぎ、来た道を引き返し始める。
………あと、もう少し。
どうも皆様、行方不明者Xです。
今回、えまるさんから支援絵をいただいたのでご紹介させていただきます。
【挿絵表示】
カートゥーンチックな絵柄がとても可愛らしい……活動報告でも報告させていただきましたが、本当にこの絵を見た瞬間『ヴッ』って言ってしまいました。私はSansか。
この場で改めてお礼させていただきます。ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いいたします。