【Lily】
「んー……なんか、こっちは嫌だ。左にする」
『
「………あ、あの氷って…」
ふと前を行くフリスクがベルトコンベアに乗って流れてくる大きな氷を見てそう呟いた。スノーディンで狼のモンスターが投げているのを見かけたのを思い出したんだろうか。
……確か、コアが熱暴走を起こすのを防ぐ冷却材にされてるんだったっけ? で、
ベルトコンベアから落ちていく氷を横目で見ながらそんな事を考え、右に曲がって通りすぎる。直ぐに分かれ道に差し掛かり、左に曲がる。
『このパズルを解けば、終点は開くだろう』
左に曲がって見つけた電子看板の内容に二人で目を通す。というか電子看板とか発展してんな。
「終点……?」
「メタトンがいるとこじゃない? ほら、さっきエレベーターで行けなかったでしょ」
「あぁ、成る程」
看板を読んで首を傾げたフリスクにそう返せば、納得したように頷く。そして、また先を歩き始めた。
「あ、これか」
道の先には今までやってきたあの対岸の船を撃つパズルがあった。
「お姉ちゃん、どうする? どっちがやる?」
「んー、私は別にどっちでもいいんだけども。フリスクはやりたい?」
「……うん、やってみたい」
「じゃ、どうぞ」
振り返ったフリスクと相談し、フリスクに譲る。フリスクは画面に向き合い、パズルを解き始める。
「ん、ここは……えーっと……?」
カチャカチャとボタンやらを操作してパズルを解こうと四苦八苦するフリスクを眺めてから、一応辺りの警戒をしておく。こんなところでモンスターと鉢合わせしたらまずい。
「………これでどうだっ」
警戒しながら暫く待っていると、そんな事を言ってフリスクがボタンを勢い良く押す。二連続で弾が発射され、軌道上にあった箱とその奥にあった船を破壊した。画面に『おめでとう』という文字が浮かび、正解を導けたことを示す。
「やった!」
「よくできました」
「えへへ」
顔を輝かせて喜ぶフリスクの頭を撫でれば、更に嬉しそうに顔を綻ばせる。可愛い。
「さて、これでメタトンのところに行けるようになった筈だ。先を急ごうか」
「うん!」
喜ぶフリスクを急かし、部屋から出る。そして今度は左に曲がり、進んでいく。また分かれ道に突き当たり、今度は真っ直ぐ進んでみる。
「………? あれ、箱だ」
突き当たった部屋にはぽつんと一つだけ箱が設置してあった。これ以外に特に設置物は無かったよなと思いながら部屋を見渡しておく。その間にフリスクは箱を漁り、何かを取り出した。
「あ、これさっきのお店のバーガーだ」
「え、こんなとこに?」
箱の中から引っ張り出したバーガーを見て、思わず顔を顰める。そういえば今思い出したけどあの箱ゴミ箱じゃん。バーガー入れとくにしてももうちょっと入れる箱を選んで欲しかったわ。
「ここに『休憩がてらにおやつはいかが?』って書いてあるし、持ってってもいい?」
「……いいよ。入れとこうか?」
「お願い」
電子看板を読んで私に了承を取ってくるフリスクに許可を出し、リュックに入れておくことを提案する。頷いてバーガーを差し出したフリスクからバーガーを受け取り、リュックを前に持ってきて入れてまた背負い直す。あ、またちょっと重くなった。
私がリュックを背負い直したのを見たフリスクは来た道を引き返していく。それの後を追い、また左に曲がる。
「また分かれ道だ……どっち行く?」
いい加減分かれ道だらけでうんざりしたのか、フリスクが若干げんなりした顔でそう訊ねてくる。
「んー………決める前にこれ読もうよ」
「そうだね」
そんなフリスクに電子看板を指差して提案し、二人で読む。
『北の部屋を乗り越えれば、終点は開くだろう』
電子看板の内容を見て、フリスクは首を傾げた。
「あれ、さっきぼくたちパズル解いたよね?」
不思議そうなフリスクを見て、そういえばさっき最初の十字路のところの看板を読まなかったなと思い出す。……しゃーない、補足入れとくか。
「そうだね。だからもう終点は開いてると思うよ。ほら、右に行くとさっきのセーブポイントに繋がってるみたいだし、多分、あのまま真っ直ぐ来てたらこっちに行く羽目になってたんじゃないかな? しかも乗り越えろって書いてあるし……左の道は十中八九モンスターかさっきのレーザーの壁が待ち受けてるんじゃないかな」
「うわ、さっき左選んで良かった……」
自分が持っている原作知識をそれっぽい理由を付けて説明すれば、フリスクは少し顔を青くしてそう言った。
「じゃあ、このまま真っ直ぐ進んで大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
フリスクの判断に従い、そのまま真っ直ぐ進む。進む道の左の壁にフリスクは電子看板を見つけたのか、駆け寄っていく。
「『東に行け! そこが終点だ』……うん、こっちが終点でいいみたい」
「やっぱり?」
そんな会話をしてから、左に曲がらず真っ直ぐ行って次の看板を見る。
『もう戦えない。考えることもできない。しかし、ここを乗り切れば、我が道は開けるだろう』
内容を見て、フリスクはまた首を傾げた。
「どういう意味だろ……」
「……メタトンとの戦いが終われば、お城に行けるってことじゃないのかな?」
「うーん、やっぱりそうなのかな」
そう会話してからまた真っ直ぐ道を進む。対岸まで伸びる長い橋の上を進み続けていると、ふと、真ん中辺りでフリスクが立ち止まった。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
どうかしたの、という意味を込めて少し首を傾げれば、フリスクは少し顔を伏せた。
「えーっと、その……」
少し言いにくそうに口籠もったフリスクは、少しすると意を決したように顔をあげ、私を真っ直ぐに見る。
「……次のメタトンの戦いからは、ぼくも、ちゃんと戦っていい?」
「………えっ」
そして、そう提案した。
「今まで散々お姉ちゃんに守られて、頼ってばっかりで、自分で戦ってこなかった。……でも、それじゃやっぱりね、駄目だと思うんだ」
だから、とフリスクは硬い決意を滲ませた覚悟を決めた顔で続きを言った。
「お願いお姉ちゃん、ぼくにもちゃんと戦わせて」
そこまで聞いて、私は言葉が出てこずに黙り込んでしまう。
………サンズと話して、考えたんだろうか。
その考えに辿り着いて、私は内心頭を抱える。でも、そう。そろそろ、守ってばっかりじゃあ、駄目なんだよなと思う。
「…………」
「お姉ちゃん………」
フリスクには傷付いてほしくないという願望とフリスクが自分で決めた意思は尊重したいという思惑が混ざって頭がごちゃついてくる。
「…………………分かった」
「!」
暫く考えてから、私はフリスクに頷いた。
このまま守り続けていたら、一人では歩いて行けなくなってしまうかもしれない。何より、フリスクの成長の機会を保護者であり姉である私が潰しちゃいけない。そう考えた為だ。
「ただし、一個条件ね」
私が頷いたことにより嬉しそうな顔をしていたフリスクの顔が、引き締まった。
「フリスクに手が届く距離にいて、尚且つフリスクが攻撃によって傷付きそうだったら、私は必ず庇いに行く。それだけは分かってて。……やっぱり、フリスクにはなるべく傷付いてほしくないからさ」
「え………うん、分かったよ」
条件の内容をフリスクに言えば、フリスクは少し間を開けてから頷いた。……この条件さえつけておけば、守りにいける。
「………じゃあ、行こうか」
「うん」
二人で横に並び、今度こそ対岸に向かう。少しすると、先程も見たセーブポイントの光が見えた。
「あ、さっきの……」
そう言ってフリスクは光のもとまで駆けていく。その後を歩いて追っていくと、エレベーターがあるのを見つけた。
「これ、さっき動かなかったエレベーターがここに繋がってるのかな?」
「多分そうじゃないかな」
空中で手を彷徨わせるフリスクを横目に、エレベーターのスイッチを押してみる。すると、シュッという音を立てて扉が開いた。
「あぁ、やっぱりそうだったみたいだ」
「メタトンが使ったのかな?」
「その可能性も充分有り得るね。使わせない為だとは思うけど」
そんな雑談をしながらフリスクがセーブを終えるのを待つ。ふと入り口に掲げてある紋章を見上げてマジで某竜の冒険の紋章みたいだなという感想を抱いていると、服の袖を引っ張られる。
「終わったよ」
「ん。……多分この先にメタトンがいる。覚悟は、いいね?」
「もっちろんだよ」
二人で目配せをして固く手を繋ぎ、中に足を踏み入れた。
――――――――――――――――
薄暗い部屋の中を進んでいくと、拓けた場所に出る。其処に、メタトンが佇んでいた。
「オーウ、イエス。来たね、ダーリン」
「あぁ、当たり前だろう?」
待ちわびた様に言ったメタトンににやりと笑みを浮かべておく。
「遂に僕たちの決着の時が来た。……『壊れた』ロボットを完全停止させる時が」
「……はは、何を言ってんだ。君、最初から『壊れてなんかない』だろう?」
私がそう言えば、メタトンはピタリと動きを止めた。
「なーんだ、やっぱり分かってたの?」
「そりゃああんなにグダグダな演技を見せられちゃあねぇ」
ネタがバレていたのが分かって残念そうなメタトンの言葉にそう返す。
「そうさ……違う!! 不具合? プログラムの改変? 現実的に考えなよ。今までやってたことは全部、ただの壮大なショーにすぎなかったのさ」
ホットランドにいる間に起こった全てのネタばらしをするメタトンは、そう捲し立てる。
「そう、ただの自作自演。アルフィスはきっと君を騙していたんだ」
そうして、メタトンはアルフィスが一番言われたくなかったであろう真実を私達に明かした。
「アルフィスは画面に映る君を見ているうちに、君の冒険に執着するようになった。どうしても君の冒険物語の一部になりたかったんだ」
そして、こんな
「そして、君の冒険に介入することにした」
黙ってメタトンの話を聞き続ける。
「彼女はパズルを再起動させ、エレベーターを止めた。僕に、君を苦しめるように頼んだ。全て、ありもしない危険から君を守るためのもの。全て、君に尊敬してもらうため……偽りの自分を、ね」
……これ、二次創作とかの真髄だよなぁ。この冒険に参加したいっていうの。
話を聞いて、何となくそんな事を思う。
別にその思いが悪い訳じゃない。否定はしない。それで誰かが救われて全てがハッピーエンドに向かうのは、別に嫌いじゃないし、悲しいエンドより誰もが幸せなエンドを迎えてほしいと思うのは何てことのない普通の願いだと思う。現に私もその
なんだ、自分もアルフィスのことを言えないじゃあないか、と内心自嘲しておく。
「そして今、彼女は物語のクライマックスを迎えようとしている。今まさに、アルフィスは部屋の外でその時を待っているんだ」
今私達が入ってきた入り口を指差し、メタトンはそう言った。
「そして僕達の『バトル』最中に、彼女が妨害に入る。僕を『停止』させ、君を『救助』して、一件落着。ついに彼女は、君の物語のヒロインになれるって訳さ」
メタトンは計画の全てを話し続ける。
「君は彼女を尊敬し、彼女も君に『行かないで』とすら言うかもしれない。……いやでも、その可能性は低いか。大きいダーリンがわかってたみたいだしね」
はは、と弱々しく笑って、メタトンはそう言った。
「僕はもうこんな予定調和の三文芝居はうんざりなんだ」
メタトンの性格を考慮すればそうだろうな、と内心納得する。彼はエンターテイメントに関しては完璧主義者と言っても過言ではない。芝居の為とはいえ自ら女装したりすることから、それは何となく察することが出来る。地下世界のスターとしてのプライドもきっとあるのだろうし、気持ちはわかる。
「それに僕はこれっぽっちも人間を傷付けたいとは思っていない。僕の願いは誰かを楽しませることだけ。……観客には最高のショーをお届けしないと、当然だろう?」
ぽつりと、メタトンは自分の内心を吐露する。その声音に、自分の中の後悔が、ずんと質量を持って大きくなって重くなる。その後悔を、今から今度こそは自分の意思で襲ってくるコイツと戦うんだと思い直して振り払い、真っ直ぐメタトンを見る。
「そして最高のショーとは何か……」
そこで、メタトンの声が弱々しいものからスターとしてのプライドを纏ったはっきりとしたものに変わっていく。そろそろ来るか、と察知させない程度に身構える。
「どんでん返しは無しだ」
スターとしての凛とした声でメタトンがそう言った瞬間、入ってきた入り口がしまった。
「ね、ねぇ!!! な、な、何が起こってるの?! ド、ド、ドアが勝手にしまっちゃったんだけど!!」
ドンドンとしまった入り口を叩く音に混じって、メタトンが言う通り待機していたのであろうアルフィスの声が聞こえた。
「申し訳ありません、皆様! 番組の予定は変更されました!!! 代わりに最高に盛り上がるフィナーレをお届けいたします!!!」
何処からか取り出したマイクを持って、突如点いたスポットライトに照らされたメタトンがそう声高々に宣言した。その瞬間足元が赤くぼんやりと光り始める。そして、地面が揺れ、上昇を始めた。
「う、わっ」
「きゃっ」
突然体に掛かった重力に体勢を崩し、膝をつく。そう言えば此処はエレベーターだったなと思い出した。
「本物のドラマ!! 本物のアクション!! 本物の血飛沫!! 私たちがお届けする新番組……『アタック・オブ・ザ・キラーロボット』!!!」
その声が響いた瞬間、周りが白黒に切り替わった。
*
戦闘を開始するアナウンスが流れる。フリスクは重力(というかGか)がかかってろくに動けない私を見てから、取り敢えず『ACT』を押した。
*Mettaton-ATK 30 DEF 255
*
『調べる』を押したのか、そんなアナウンスが流れる中何とか体勢を立て直して立ち上がる。
『そう、コアに細工したのは僕だ! 君を殺すために刺客を雇ったのも僕! だけど、どれも短絡的な計画だった』
自分がやった事を声高々に述べてから、メタトンはつまらなそうな声でそう締め括る。
『100倍いい方法があるんだ、分かるかな?』
「……ハッ、分かりたくもないね」
此方に問いかけるメタトンに悪態を吐き返す。すると、メタトンはやれやれというように肩を大袈裟に竦めた後、台詞を続ける。
『僕自ら君を殺す!!!』
大きな声が響き、メタトンは何もせずに此方にターンを回した。
*
メタトンの意図が分からなかったらしいフリスクは、『ACT』をしても解決しないと判断したのか、『MERCY』を押し、ターンをメタトンに返す。
『聞いてダーリン。僕はずっと君の戦いを見てきた』
唐突にメタトンは私たちに語りかける。
『君は弱すぎる。このまま進んでもアズゴアが君のソウルを奪うだろう』
「………で?」
メタトンの回りくどい言い方に思わず苛立ち、次を促す。
『そして君のソウルを手に入れたアズゴア王は人間を殲滅する』
メタトンがそう言った瞬間孤児院の皆の顔が浮かんだ。その優しい幻想を今は振り払って、上から降ってきた箱を避けていく。フリスクを見ると、器用に携帯を使って箱を破壊していた。今のところは大丈夫そうかと判断し、メタトンを見据える。
*Mettaton.
フリスクがまた『MERCY』を押して、ターンを回した。
『けれどもし僕が君のソウルを手にしたなら、人類の滅亡を止められる! 僕なら人類を破滅から救うことが出来る!』
「はっ、抜かせ!! 私達が帰れなきゃ意味ねーんだよ!」
フリスクよりも近くに居たからか、私に向かって駒のように回転する箱を持ったメタトンの腕が振り回される。超スピードで動くエレベーターの重力に引っ張られながらも何とかブンブン振り回される腕をフリスクから遠ざかるように誘導しながら避けていく。
*Mettaton.
『MERCY』を押す。ターンが回った。
『君のソウルの力でこの結界を通り抜け……ずっと夢見てたスターになるんだ!!』
そう自分の夢を語るメタトンに、今のお前はスターじゃないのかよと言いそうになる。喉まで出かかったそれを抑え、余計な事は今は言うべきではないと判断する。
『何百、何千……いや! 何百万もの人間が僕を見てくれる!』
それはどうかなぁ、とメタトンの言い分に内心反論する。
メタトンの夢はエンターテイナー魂が籠ってて格好いいものだとは思うけれど、現実的な話をすれば得体の知れないロボットが突然スター業界に殴り込みしてきて受け入れられるのかも分からないし、第一、人間のソウルを奪った時点で殺人を犯していることになる。人間のスターでさえ大スキャンダルになるのに、ロボットが受け入れられるとでも思っているんだろうか。客観的に見ても見積もりが甘いな、と思う。
まだ振り回される腕を避けていくと、唐突にメタトンが至近距離で爆弾らしきものを投げ付けてくる。ぎょっとして避けようとしても間に合わないかと思ったその瞬間、エネルギー弾が飛んできて爆弾を狙い撃った。爆風を避けてから弾が飛んできた方向を見ると、フリスクが携帯を此方に向けて構えていた。フリスクに笑顔を向けてから、またメタトンに向き直る。
*Mettaton.
フリスクがまた『MERCY』を押し、ターンを回す。
『目映い煌めき! 華々しい世界を僕は遂に手にいれる! 多少の人間が死ななきゃいけないからってそれがどうかしたかい? ショービジネスとはそういうものさ!』
「……そんな風に考えてる時点で無理に決まってんだろ」
「な……!?」
そうボソッと呟く。するとこの距離だからかやはりメタトンにも聞こえていたようで、さっきとは段違いの早さで拳が振るわれる。それを取り出したナイフで受け流し、避け続けていく。
プルルルル………
そんな中、フリスクの携帯の着信音が鳴り響いた。
「…………」
フリスクが直ぐ様電話に出て、私に目配せしてくる。十中八九時間を稼いでくれということだろうと見当をつけたその目配せを受け、私はメタトンに向き直り、笑顔を作る。
「『ショービジネス』? ははは、ばっかじゃねーの。自分の所為で人間が死ぬのがそんな風に考えてる時点でもうスターになる資格は無いんだよ、君」
私がフリスクが電話していることに気付かれないようにそう挑発すれば、メタトンは動きをピタリと止める。
「……何だって」
「おいおい、当たり前だろう? 現実的に考えろよ、君達モンスターで言えば、人間殺しはモンスター殺しと一緒なんだぜ? そんなのが分からないほどガキじゃないよなぁ、君」
夢を否定され、怒気を孕んだ声で聞き返してくるメタトンに、完全に私に気がいくように更に煽る。
「只でさえ人間は『同族殺し』ということに敏感なんだ。絶対に許されない罪として考えている。裁判もあるし、刑務所もあるが、刑務所から出た後に後ろ指を指されるようになるなんてざらにある。
……そんな中、人間を殺して奪ったソウルを持った君が現れたとしよう。どうなるかは想像がつくだろうに。それとも目を逸らしているだけかい? あははは、考えがあっまいなぁ」
ニヤリと笑みを浮かべ、煽る。すると、メタトンから向けられる殺意が色濃くなって向けられる。かかった、と思うと同時に、フリスクが携帯を耳から離した。
*
そのアナウンスが脳内を流れ、私は口角を吊り上げた。『ACT』を押したフリスクが真っ直ぐメタトンを見据え、パクパクと口を動かす。
*
『え? 鏡だって?』
フリスクの作戦に引っ掛かったメタトンはピタリと動きを止め、後ろを見せないようにしながらフリスクに向き直る。
『グランドフィナーレに向けて身だしなみを整えないとね!』
そう言ってメタトンは、くるりと後ろに振り返る。ゲームだった時通り、メタトンの背後には、大きいスイッチが見えた。
『うーん……見当たらないな……何処にあるんだろう……?』
そう言ってキョロキョロと鏡を探すメタトンにフリスクはすかさず近付き、スイッチを切り換えた。
カチッ
という音が、しんと水を打ったように静かになった空間に響いた。
『ねぇ。』
ビタッと動きを停止したメタトンが、冷たい声を出す。
『僕のスイッチに。触ったね?』
メタトンはそれだけ発言すると、此方を向いて頭を抱える。顔代わりのパネルが白黒に点滅し出し、次第に点滅のスピードを早めていく。そして、次の瞬間、目の前が光で真っ白になった。
「うわっ……?!」
「!!」
咄嗟に目を腕で覆い、何とか目が瞑れるのを防ぐ。そんな中、
Oh……yes
という、メタトンの声が響いた。
ガコン、という音を立てて、動いていたエレベーターが止まる。光が収まってから覆っていた腕を退け、フリスクに駆け寄って安否を確認する。
「大丈夫!?」
「ぼくは平気! それよりも……」
フリスクが目線を動かした先を、私も続いて見る。すると、そこには、演出であろう土煙の向こうに、スポットライトに照らされる人型の陰が見えた。
『おやおや。僕のスイッチに触れたのならそれを意味するのはただひとつ。よほど僕の新しい体の初公演が見たかったんだね。』
カツカツとヒールを床につけて鳴る音に混じり、先程とは変わらない、メタトンの電子音のような声がする。
『全く、無礼だなぁ……でも幸い、僕も長い間これを披露するときを待ちわびていたんだ』
人間であるならばグラマラスな方にカテゴリーされるであろう体が、動作を確認するように艶めかしく動かされる。
『だから……お礼に素敵なご褒美をあげるよ』
そう言って、ヒールの音を響かせながら、姿を変えたメタトンが近付いてくる。
『君の人生の最後の瞬間を……』
そして、次の瞬間、パッと辺りが明るくなり、その姿を余すことなく晒した。
『最高に美しく飾ってあげよう!!!』
白黒の世界で、メタトン―――メタトンEXがそう声高々に宣言し、改めて戦闘が開始された。
その瞬間、
『………あれ……僕は、誰に楽しんでもらいたかったんだっけ……?』
目的を見失い、夢の行き着く先を見失ってしまった彼の悲しみに打ち拉がれる姿を幻視した。