次の部屋は、確かダミー戦だったか。記憶を探って私はそう思案する。
「モンスターたちは人間を見つけると、襲ってくることもあるわ。その時のために準備しておかなくちゃね。でも心配しないで!やり方は簡単よ」
ビンゴ。
ダミーにはウォーターフォールで登場するマッドダミーのいとこさんが憑依している。……つまり、彼(彼女?)も一応モンスターに入るんじゃないか、と私は考えている。
だから、彼を殺すことは、Gルートに入る一歩目になる可能性があるという事にこの世界に来てから気づいた。
「モンスターに遭遇すると戦闘が始まるの。戦闘が始まったら仲良くお話すればいいのよ」
……そういえば、ここはゲームじゃなくてリアルなんだけども、戦闘ってどうなっているのだろうか。白黒になるのかな?ソウルはどんな風になるんだ?
ふと疑問が過った私は、フリスクに小声で話しかける。
「さっきモンスターに襲われたって言ってたけど、どんな風に戦ったの?」
「え?えーっとね、なんか急に周りが白黒になって、ぼくのここ辺りに真っ赤なハート……『ソウル』っていうやつが出てきたよ。ソウルっていうのはね、自分の心や体の変化を現しているんだって。」
ここ辺り、と言った時、フリスクは心臓がある辺りを指した。なるほど、大方予想通りなのね。
………つか待って、今フリスク『ソウル』って言った?
「……ソウル?魂じゃなくて、ソウル?」
「? うん、そうだよ?」
「……そっか、ありがとう」
……Undertaleには二つのバージョンがある。
一つは本家の英語版。でも、日本では有志の人達が非公式の日本語強化パッチをつくっていたから、ここでは非公式日本語版としよう。
二つ目は私がこの世界に来る少し前に発売された公式日本語版。
この二つはやっぱりというか、少しセリフが違ったりする。例えば結構騒がれてたサンズの一人称とかね。
……で、さっきフリスクが言ってた『ソウル』という呼び方は非公式日本語版の呼び方。つまり、この世界は非公式日本語版(もしくは英語版)の世界という事になる。
「お話は終わったかしら?」
「あ、はい、ごめんなさい」
トリエルさんが呼び掛ける声で思考を一時停止させる。
しまった、説明中断させちゃってたか。
「いいのよ、知らない事は聞いたほうがいいものね」
でも次は説明が終わってからにしてね、とにっこり笑って許してくれた。
「はい、分かりました」
「説明を続けるわね。時間を稼いでくれたら、私が仲裁するわ。このダミーで練習してみましょうか。」
いや、トリエルさん、あれ(Froggit初遭遇イべ)は仲裁するっていうより睨み付けるもしくは威圧してるというのでは……
内心でツッコミを入れつつ私はフリスクとともにダミーの前に立つ。
その瞬間、風景が白黒に切り替わった。
切り替わった瞬間、そう頭の中でアナウンスが流れた。
……なるほど、戦闘が始まると流れるようになってるのか。…そういえば、MERCYボタンとかはどうなっているんだろう?
そう思ってフリスクのほうをちらりと見ると、4つのボタンがフリスクの前にあった。
『FIGHT』、『ACT』、『ITEM』、『MERCY』。
ゲームでよく見慣れたあの4つが。
私はイラつきを少し覚えた。
あの子をあの子の意思に関係なく動かす『Player』に。
その『Player』側に居た自分に。
「フリスク、
イラつきを隠して彼女に話しかけた。
急に話しかけた事に少し驚きながら、でも確かに彼女は了承の意思を示した。