ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか 作:もんもんぐたーど
ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか9
「……。」
見知らぬ少女をお姫様だっこしていたと噂される気になるあの子の所へ行ったら見知らぬ少女のお守りを任された。その少女もダンジョンに潜る冒険者にしては無防備でらしくない。探索系ファミリアであるロキ・ファミリアに入る理由は謎だ。
何で俺がこんなお子様のお守りをしなきゃなんねぇんだ。医務室にいる以上何らかの事情があるんだろうが全く状況が読めねぇ。外傷なりなんなり原因が分かるもんがありゃましだがそんなのもないし、事情ぐらい説明していけよ……。
「んにゅ……。」
目の前の少女から目をそらし背中を向けて医務室の担当を目で探す。ちらっと視界に入る机上に置かれた"ただいま外出中"のプレート。そして背後に人が動く気配。
直感に従い振り返ると寝ぼけまなこの少女と目が合った。
「……おはようございます?」
「もう夕方だぞ?」
寝ているときの様子から考え得る"警戒心の低い少女"がそのまま目の前で動き始めるようだった。もっとも動き始めたと言ってもベッドから出てはいないが。
何がおはようございます?だ。そんなんじゃダンジョンに潜っても頭から食われておしまいだぞ?ゴブリンにすら瞬殺されそうな緩い感じ、日和ってるようにしか思えねぇが。
「……あれ?思ったよりも早いのです。1時間ですか……ってあれれ。
「俺はベート・ローガだ。俺のレベルは知ってるか?」
折角だと目の前の新人にオラリオにいたなら分かる簡単な質問を吹っかける。まさかレベル5の名前も知らないなんてことはないだろう。
「……えっと、レベル5くらいでしょうか。4ではないですよね?」
ん?なんで4ではないことを確認するんだ。まるで知っていたんじゃなくて今ひねり出したみたいな…。もしかして。
「ああ、レベル5だ。お前、最近ここに来たのか?」
「……今日、オラリオに来たのです。」
今日来てここにいるって事は……。あぁ、主神≪ロキ≫か。あの中身が親父の。
「ならロキには会ってるんだな?かわいいから採用みたいなこと言われなかったか?」
「主神ロキですよね?……言われてないと思うのです。"君、ウチのファミリアに入ってくれへんか?"とは言われたのです。」
あぁ、ロキから手を出したのか。それで近くにアイズがいて任されたと。アイズも大変だな。自分の成長に陰りが出て不安になってるところに忙しい要因が舞い込んできて。
「ロキは中身変態親父だから気をつけろよ。んで、お前はなんのためにここに来たんだ?そして何で寝てたんだ。」
「……目的、ですか。……。」
この話題は地雷だったらしくさっきまでの明るい様子は鳴りを潜め、視線を漂わせた後なんともいえない表情で黙ってしまう。何度か口を開こうとするも開ききる前に再び口を閉じる。
「秘密は誰にでもあるから、言えないなら構わねぇがうちのファミリアと団員を害することだけはすんじゃねえぞ。迷いをダンジョンに持ち込むような雑魚は早々と死ぬからな。」
ちょっときつめの口調で話題を打ち切る。何かあってすぐにこっちに来ると心の整理が付かないままダンジョンに潜る奴が必ず出てくるからな。
「はいっ。……ベートさんって優しいんですね。」
"優しい"今まで弄ってくるロキ位にしか言われたことのない言葉にいつも通り顔が少し熱くなるのを感じる。さっきとは種類の違う笑顔をこちらに向けてくるこの少女は何者なのか。
「別に優しくなんかねえよ。雑魚が実力を顧みずにダンジョンに突っ込んでいくのが見るに堪えないだけだ。」
これは本心だ。べ、別に心配してるわけじゃねえ。いきった雑魚を見るといらいらするだけだ。
「ふふっ、アイズお姉ちゃんがベートさんに任せた理由が分かる気がするのです。」
「……ん?」
"アイズお姉ちゃん"だぁ?アイズに妹がいるなんて話は聞いたことがねえ。となると自称妹って奴か。
「……なのです?」
俺の表情に反応したのか少し首をかしげる。こういう所に鋭いのはアイズに似ているような気がする。アイズとの違いは冒険者としての存在感が有るかどうかだろう。
「あ、あの……別に寝たふりとかをしてたわけじゃないのです。アイズお姉ちゃんの気が残っててベートさんが居たのでアイズお姉ちゃんが私のことをベートさんに任せて用事に行ったのかなぁって思っただけなのです。あと、寝てた理由は多分団長さんとの手合わせで最後に気絶してしまったから……なのです。」
んん?なんか誤解されてないか?
まあ、言われてみれば寝ていたはずのこいつがアイズとのやりとりを知ってるはずがないので不自然なのは当然だ。あと、"団長さんとの手合わせ"ってなんだ。
うちのファミリアの団長と言えばフィン・ディムナだ。ただ団長はレベル6。正面から当たってまともに手合わせが成立する実力があるのは同じレベル6のガレスやリヴェリア、低くてもレベル5だろう。
フィンは
「手合わせ、か。団長は剣も扱える槍使いだからな。どれくらい持った?」
「ふむふむ……団長さんは
ここでベートはさっきからイマイチ会話がかみ合わないと感じていた事をはっきり自覚する。何か大事な情報が抜け落ちているか間違っているような……自分は、目の前の少女を過小評価していないかと。フィンと自分、フィンとアイズ、フィンとアマゾネス姉妹……その模擬戦のうちどれだけ10分を超えて続いた試合があったか思い出す。
戦場において戦力評価は生命線になる。その戦力評価を自分が見誤った可能性に思い当たる。
「ほう、なかなかやるじゃねえか。俺と模擬戦やらねぇか?」
「今は身体が痛いのでちょっと……後で、後でやりましょうね。それよりアイズお姉ちゃんはどこに居るのでしょうか……。行き先を聞いてませんか?」
おっと、狼人の血が騒いだみてぇだ。目の前の少女はどんなに強い可能性があってもさっきまで意識がなかったことを思いだす。流石に病み上がりの人に無茶ぶりをするほど外道じゃない。
「団長の部屋にいるって言ってたぜ。折角だから連れてってやるよ。」
「ありがとうございます。……やっぱりベートさんは優しいですね。」
ベッドから出て医務室の机の上に書き置きを残しながら彼女は可愛く笑う。また言われたがもう答えないことにする。やりとりを続けてドツボにはまるのは経験してるからな。
「……置いてくぞ。」
「はいっ。」
医務室を出る準備が整ったのを見届けて入り口に向く。別に心配してるわけじゃねえからな。わざわざ送るのはホームで迷われてるのは迷惑なだけだからな。
第一章完結です。
幹部の会議?そんなものは知りません。