ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに地下迷宮の息吹》


第56話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか56

 

ギルドという特別な立場の組織とは言え、職員全員が勝手に内部に侵入していく(ひまじん)をまともに相手できる訳ではない。

むしろギルド職員はそういった自分勝手な輩については冒険者でも無い限り総じて無力であり、必然的に傍若無人で煙に巻く事を大得意としているロキのような存在を抑えて主神のところにたどり着かせまいとする力は、非常に弱かった。

 

今回も気弱な受付嬢がロキの生け贄になり、あっさり祭壇に続く道へと到着する。

 

「か、神ロキ!ここはウラノスの祭壇に続く神聖な道っ。お引き取りください。」

 

ただ、こういった状況の例外として同族から嫌われながらも働き続ける勤勉な中年エルフ-もっとも同族から嫌われている理由はギルドのトップであるという立場に対して、保身のための本人の豪遊にも見える対外的な接待と外見の醜さであるという説が有力である-のロイマンが挙げられる。たとえその心根が保身だったとしてもギルドとしてなすべき役割を果たしているのは疑いようがない事実であるし、エルフ以外に関しては壊滅的に人望がないと言うこともない。

 

「そう堅いこと言わんといて。ただウラノスに聞きたいことがあるだけや。」

 

まあそれでもロキの前ではかわいい子豚ちゃん程度の役割しか果たさない。本当に足止め程度だと分かっているし、いいように手玉にとられる事が分かっている故に神に対して最低限粗相を働かないことだけがロイマンの考えるべきことだった。

 

『ロイマン、通せ。』

 

「……はい。」

 

ここでロキはあっさり通されたことを意外に思う。最悪というか現実的な選択肢として今日中にウラノスに会うことを諦めるというものがあった。それほどウラノスに会うと言うことは難易度が高いことなのだがここまで来てしまえばウラノスも無下に追い払うわけに行かなかったのかもしれない。あとは自分の行動が掴まれているか。

 

まあ神同士の意図の探りあいは神と子供(ひと)とのそれとは一線を画する。()()()わからないからだ。当然電のように双方の性質を兼ね備えるが故に読み合いが発生することもあるが例外中の例外だ。

 

あの子は常に読めるわけではないというややこしさがウチといなづまの間で無意識的な表層意識の読み合い(視線バトル)を発生させるのであって、いわば常時思考ダダ漏れの子供達とは別の領域の話になってくるっていうだけなんやけど。

 

「よぉ、ご無沙汰やな。」

 

祈祷の座で不動の老神がロキに視線を注ぐ。神威無しにこの存在感。まさしくオラリオを影から支える御柱そのものであった。

 

「フィリア祭では散々だったんやね。各所から叩かれとるようやけど大丈夫なんか?」

 

「ギルドの運営はロイマン達に一任している。私の関知するところではない。」

 

「それじゃ、率直に聞くで。()()()()()()()()()()()の引いとんのはギルドか?」

 

「それは違う。」

 

"それは"と範囲を限定しながら言い切ったと言うことはギルド本体は少なくとも関与していない。なおかつそれを把握した上で何らかの調査を行っていると言うことだろう。誰かの目線が気になるがその()()はこちらに殺気を向けるわけでもなくただ様子を見ているだけに過ぎないようなので完全に無視。下手に接触すればウラノスと本気の腹の探り合いが始まってしまう。いやこちら側(ウチとディオニュソスの協力関係)としては本気で探らなければならなくなったという感じか?

 

「え、あれ?」

 

「……は?」

 

「……む。」

 

軽い存在感が一瞬のうちに表れ視線を感じた方向を塞いだことに気づきウチがそっちを向いてみると確かにギルド前で別行動になっていたはずのある少女がいた。

 

「あれれ、どういうことなのです?」

 

「いや、それはこっちの台詞やで。ついてきてたんか?」

 

はぐれの船舶神卸系付喪神少女こと電は突然の守護体制でロキのそばに転移した現状について主神と周辺の神一柱、あと何かに説明しなければならなくなってしまった。現状を確認するためにくるりと見回すと、何故こんなことが起きたかを推測できそうな素材が視界に入る。納得がいくと同時に妖精判定のある種の信頼性を思い出し、少し気落ちする。

 

「いえ、"かばう"が誤判定で発動しちゃったっぽいですね。"かばう"成功で電が"無"を被弾したのです。」

 

どういうことかというと、特定の判定を妖精さんが下すとき、別の妖精さんが対応するエフェクトを発生させる。今回の場合は妖精さんが残すかばう判定のエフェクトの残光と自身のステータス上の変化の貫通ダメージの可視化が発生していたので気づいたと言うことなのですが、まあ通じないですよね。

 

「うん、わからん。スキルの誤爆ってことでいいんか?」

 

「大体そんな感じなのです。」

 

ちらちらとウラノスの方を見る電に絶妙な少女らしさを見いだしたロキは慣れた手つきで自身の前方に電を抱え込む。

 

「その(しょうじょ)は冒険者か。」

 

「かわいいやろ。」

 

意外なことに影のような監視者を除けば全員が神の特殊な空間にもかかわらず心理戦は立ち消えになる。ロキはその誘導に全く乗るつもりもなく、理由はどうであれ助けに来てくれる愛おしい眷属(こども)をほかの神に自慢する程度のことしか考えていない。当然抱えられた電が処理落ちしていたとしても関係ないし、どこかでお姉ちゃん(アイズ)がニュータイプばりの直感を発揮していてもまた関係ないことである。

 

「否定は出来ない。」

 

ウラノスはその威厳を保ったままだが自身の眷属とも言えるギルド職員らに思いをはせていた。ギルド職員は美形が多い。それは男女問わずだ。眷属を自慢したいロキの気持ちは十分に理解できたしキャラ崩壊の危機さえなければそこら中で自慢して回っていただろう。やはり体裁という問題は決して無視できるようなものではないのだ。

 

「まあええわ。うちからは以上や。電、帰ろっか。」

 

「……なのです。」

 

「……。」

 

この後神ウラノスからロイマンにダイエットのミッションが秘密裏に下されたが、きっと今回のこととは無関係であろう。そうに違いない。




更新遅すぎ問題が発生しているので明日も投稿します。

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