ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

48 / 63
《ここに地下迷宮の息吹》


第48話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか48

 

「どうしたのだ?」

 

封鎖された街の入り口で、突然殺されると叫んだ獣人の少女が現れて面々が呆気にとられる中、最初に少女に言葉を投げかけたのはロキ・ファミリアのママ リヴェリア・リヨス・アールヴだった。

 

「あの、冒険者が、あれが、あの。」

 

「落ち着くんだ、ほら、吸って、吐いて。」

 

「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~、はいっ。」

 

「っ!?(あの人かな、さっきの……)

 

気づいたら街の外へ出てきたその少女はリヴェリアに介抱されながらもゆっくりと真実を紡ごうとする。番犬代わりにベートを携えたリヴェリアは警備員に割り込む隙を与えさせずに話を進めていく。ベートは一瞬、警備員の肩越しに一つの影を見た。少女の背後、未だに状況が読めていない警備の冒険者のさらに向こう側。さっきまで人一人として居なかった筈の緩衝の空間に、一人の()が立っている。その存在感にその周囲や背後は陽炎のように揺らめいて見えた。状況の変化が早すぎる。

 

(あれはなんだ……)(雰囲気がそこらの冒険者)(と全然違う。)

 

「……それでさっき、冒険者が、あの受け渡しをした人が、殺されてて、私も……殺されちゃうんじゃないかって。」

 

……殺される?荷物の受け渡し?地上まで?そんなこぼれ落ちたような荷物の本質からかけ離れていくような情報だけが彼女 "ルルネ・ルーイ" からあふれてくる。まだ繋がらないバラバラの断片で一つ一つが離れてもはや無関係かのように聞こえる。

ギルドを介さない闇の依頼である故直接会っているはずの依頼人は妙に良い金払いに容姿の分からない格好だという。怪しい要素がこんなにあっても引き受けざるを得ない冒険者がいるという事実もロキ・ファミリアの一行には重くのしかかってくるが、今はそんなことを考えている場合ではない。このやりとりをしている間も()は近づいてきている。これだけの上級冒険者が集まっている場所で、何故か()()()()()()()と戦う予感を持っていた。

 

()の、全身を黒い布と鎧が覆っている格好や整備されながらも過去の痕跡を残す背中の大鉈はそれだけの風格を持っていた。まるで場の雰囲気を支配されているようであったし、それに気づける余裕がある人が少なかったこともあるかもしれない。それでも何もかもがおかしく、何もかもが滅茶苦茶だった。ただ一人違和感(それ)に気づける者がいるとすれば……。

 

「……それで、抜け出そうと?」

 

「うん…」

 

「ってことは今お前がいま"例のぶつ"を持ってるんだな?」

 

「失礼します。ルルネ・ルーイさん、ちょっとこっちへ来てください。今は鞄の中は見ないので。」

 

「え、ちょっと、えぇ?」

 

アイズの背に隠れじっと動静を見守っていたいなづまが飛び出し、ルルネと立ち位置を入れ替える。

"失礼します"の時点でルルネの目の前に立ち、言い終わるときには既にいなづまが街の境界線の内側に、ルルネは街の境界線の外側にいた。当事者のルルネも主に尋問に当たっていたベートとリヴェリアもいなづまの突然の行動に呆気にとられる。ただそのなかで、アイズは"何かが起こる"ことだけは認識できた。

 

(にげて)……。」

 

「え?って、ああ地面がっ?」

 

その瞬間目の前でいなづまとその奥に見える()が地面の隆起によって姿を消した。足場を失いよろめく警備員冒険者をベートがどつきながらもこちら側のけが人はゼロ。入り口は失われてしまったが、入り口付近の左右は一部が崩壊している為、なんとか中に突入することは出来るだろう。そう見立てて一行は既にがれきと化した街の外壁を移動し始める。

 

「え、街が燃えてる!」

 

「……今から街に突入する。リヴェリア、できる限り大きな魔法で引き寄せてくれ。ティオナとティオネは町の方へ、アイズとベートは……ルルネとこの場を離れて。取り敢えず君はここにいてくれ。」

 

「こいつらは、この前の?でも今回はちゃんとした武器(ウルガ)があるからね。負けないよっ」

 

「急ぐわよティオナ。」

 

「え、え?」

 

いなづまの小さすぎる声を聞き逃さなかったアイズは思わず疑問の声を漏らす。見覚えのあるー最近地上で暴れているのを見たばかりの細長い植物系ーモンスターに真っ先に気づいたフィンは団員に指示を飛ばす。魔導師組であるリヴェリアとレフィーヤは驚きはすれども冷静に、アマゾネス姉妹はいつも通りにそれぞれなすべき事を遂行する。巻き込まれた冒険者は混乱していたが、ここが一番の安全地帯なのはフィンやリヴェリアという上位者(レベル6)が証明しているような物なので直ぐに落ち着きを取り戻す。

 

「……どうしよう。」

 

「とにかく地上に出るぞ。お前、負ぶってやるから乗れ。団長命令だから乗せてやるが次はない。」

 

問題はルルネとアイズ、ベートの3人だった。相変わらず状況に追いつけずぼけっとしているルルネといなづまが気になって仕方ないアイズ、"弱い"冒険者に手を煩わされることが嫌いだと公言してはばからないベート。フィンは何を期待してこの3人で行動させることにしたのか、その意図を真っ先にくみ取ったのはベート・ローガだった。

 

「アイズも、ってどうしたんだ。」

 

「……ベート、私が時間を稼ぐから、その子を連れてって。ベートの足なら1日足らずでつくよね?」

 

「指示を無視してここに残るのか?」

 

ベートは恐れ縮こまる少女を背中に乗せて、一点を見つめて動かないアイズの背中に視線を注ぐ。なんで自分が想いを寄せている彼女の背中はこんなにも寂しげで、辛そうで、()()()()()。やはり(無用な身内)で剣姫は弱くなってしまったのではないか?ふとそんな気持ちがよぎったが、それは違うと邪念を頭から振り払う。

 

「多分(いなづま)だけじゃ、あの存在(なにか)は抑えられないから。いそいで。」

 

覚悟を決めるようにデスペレートに風をまとわせる剣姫に俺はこれ以上何を言えるだろうか。ただ一つだけ、一つだけ気になってしまったことがある。ほんの少しの違和感を。

 

「分かった。俺一人で連れて行く。だがよ、アイズ。お前には何が見えてるんだ?」

 

「え、あ……、これは、うん、後で話すから。ごめん。目覚めよ(テンペスト)『エアリアル』、無事で、ね……。」

 

妙に湿っぽい返事とともにエアリアルを付与されたベートは最速で地面を蹴り出す。背中で震える少女を振り落とさないように。同僚から託された信頼(届け物)を壊さないように。自分の苦手分野だと自負して久しい"人を守ること"を、その意味を深くかみしめるように。オオカミは駆ける。荒れる神への反逆者達のるつぼを、絶対的な孤独と絶望に彩られた最高の狂気(しあわせ)の胃の中を。襲いかかるモンスターをなぎ、前に進む。それがベート・ローガの出来る、想い人への最大限の手助けだと信じて。




投稿遅刻奴になってしまいましたが直前の日曜日分です。前回の日曜日に投稿する予定だった分は閑話なので今週の平日に投稿します。よろしくお願いしますね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。