ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに瑠璃溝隠を発見》


第39話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのはまちがっているのだろうか39

 

「もう直ってる」

 

「すごいのです。ガネーシャ・ファミリア式人海戦術でしょうか。」

 

昨日のモンスター脱走騒動で所々破壊されていたオラリオの街はギルド職員とガネーシャ・ファミリアの団員の尽力によって表だったところの修復は概ね完了しているようで昨日の破壊の跡をぱっと見で見つけることは出来ないくらいだったのです。

 

「人海戦術?」

 

「あー、人数の多さを生かして頑張ること、でしょうか。第一級冒険者数人よりも第二級冒険者数十人、それよりもレベル1を数千人みたいな感じで。」

 

「ふむ、ガネーシャ・ファミリアは団員の数が多いから?」

 

「なのです」

 

人海戦術は主に陸軍のドクトリンで畑違いなのでうまく伝わったか不安なのですが、大丈夫そうなのでそういうことにしておきます。

 

「うーん、あ。」

 

「どうしたのです?」

 

急に立ち止まったお姉ちゃんはあたりを見渡し軽く上を向いた。

物思いにふけるようなこの表情は、なんというかわずかな陰りがお姉ちゃんの容姿を引き立てているというか。語彙力不足なのです。そんな表情をさせている罪作りな人は一体誰なんでしょうか。

 

「ここで、ここであの子がシルバーバックを……。」

 

「え、ベルさんですか?」

 

「うん、昨日ね。」

 

珍しく立ち止まった剣姫の脳裏にはミノタウロスをやっと倒してレベル2になった彼が貧弱とも言える装備でシルバーバックに立ち向かっている姿が描き出されていた。

赤い目と白い肌、華奢で割れ物であるグラスよりもずっと繊細で壊れやすいものに見える彼も冒険者の端くれで、いや、むしろ本質的に冒険者そのものであった。

そしてその姿にアイズ・ヴァレンシュタインの幼き頃、何も無くなってただ強くならないといけない気持ちだけが形作っていた真っ白な自分、それが駆けていく姿と重なった。

 

「あの子は、何を思ってダンジョンに潜るんだろう。」

 

「なのです?」

 

「ん……なんでもないよ。」

 

「……変なお姉ちゃん。ベルさんのこと気になってるのです?」

 

私は、電は、今のお姉ちゃん(アイズさん)しか知らないから、かつてどんなことがあって何のためにダンジョンに挑み続けるのか知らないから、ずっと頑張ってきたお姉ちゃんの殆どの時間は私とは無縁で、それで私にとっては少し不安で。

もしベルさんがお姉ちゃんの過去の時間と重なるような生き様を見せてくれるのであれば、より強くよりまっすぐに進む姿をそのまま写してくれるなら、私はお姉ちゃんの過去の頑張りを追体験できるかもしれない。

 

そんな重要な存在とお姉ちゃんの関係でも、やっぱり直球に恋する乙女風味を醸し出してくると茶化したくなると言うのが人情(艦情?)なのです。

 

「ん?気にはなってるけど、どうしたの?」

 

「あ、いえ何でも無いのです。」

 

はぁ、薄々気づいては居ましたがお姉ちゃんに色恋沙汰は禁句というか、全然通じなくてこっちが恥ずかしくなってくるのです。そんな素面でぽかんとしないでください。なんか電が変みたいじゃないですか。

 

「でも、なんかいまの気持ちは気になってる、に収まらない気もする。いなづまはこれ、わかる?」

 

そこから自分で気づいて軌道修正することまでは想定外なのです。なんでさっきのガバガバ恋愛無縁ムーブから恋せよ乙女に軌道修正できたのか訳がわからないのですが。ああ、もう。お姉ちゃんにペース乱されまくりでこっちはもうどうしたら良いかわからないのです。

 

「多分、それは、」

 

「おう、アイズにいなづまやないか。こんなところでどうしたんか。」

 

ここに救世主かお邪魔かわからない我らが主神、ロキさん登場なのです。遮られて中断しましたがこれがどう影響するか、言わなかった方が良いのか押してでも伝えるべきか?一瞬考えましたが自分が言っちゃうとその気分になってそうなってしまう気がするので、ベル少年の今後の頑張りでお姉ちゃんを振り向かせてくださいと言うことで、はい。まあ、すぐに認めるかは不明ですが、何様ですが。

 

お姉ちゃんはロキさんに反応して乙女モード解除されてるので多分気づかれては居ないと思うのです、多分。こういうときに気づかれると強烈につつき回してくること間違いなしでやっかいなのが主神のあまり良くないところでしょうか。まあ、ノリの良さと表裏一体なところもあるので一概に悪いとも言えないのが憎めないポイントというのはあるのです。

 

「町、結構直ってるねって話してた。」

 

「せやなぁ。何故か(・・・)フレイヤんところの団員も手伝ってたみたいやけど、ずいぶんと綺麗になるもんやなぁ。」

 

「何故でしょうね、まあ、綺麗になっていればそれ以上言うことはないのです。」

 

「うん、そうだね。」

 

「むぅ、ほんまつれないなぁ。また二人連れてフレイヤ冷やかしたろうと思ったのに。」

 

神々の話に非干渉の方針を決めた私とお姉ちゃんですが、ロキさんははしごを外された様な感じだったようで口をとがらせる。フレイヤさんを冷やかすのです?

 

「冷やかすの?」

 

「せや、うちの子らがこんな頑張ったのに原因の自分はどうなんやってな。」

 

「お姉ちゃんは頑張り屋さんですからね。今回も頑張ってたのです。」

 

「ちょ、そんな。私はやるべきことをやっただけで……。」

 

フレイヤさんよりも先にお姉ちゃんをつついていきたい気持ちがオーバーフローしたので、褒めちぎっていきたいのです。もう、さっきの乙女モードよりも顔真っ赤なのです。はぁ、可愛い。

 

「そこやで。あれを当たり前なんて言えるアイズはやっぱりええ子やな。」

 

「その実力と謙虚さは冒険者の鑑、理想の姿勢なのです。容姿端麗で中身も実力も伴うなんてお姉ちゃん最高なのです。」

 

「そ、それならいなづまだって私よりも小さいときにレベル5相当の実力をつけて薬とかいろいろすごくて、でもこんなにお姉ちゃんのこと気に掛けてくれて優しくて、もふもふで可愛いから、ね?」

 

は、はわわ。反撃が。もう顔が熱くなってきたことを感じ、循環するようにごちゃごちゃの気持ちと顔の熱さが襲ってくる。お姉ちゃんも今こんな気持ちなのです?それなら少し、いやとてもうれしいのです。

 

「お姉ちゃんは男女問わず人気があるじゃ無いですか。これはーーー」

 

人通りの少ない町中とはいえ、ここから1時間以上もお互いを褒めちぎりつつロキさんに茶々を入れられたので、気づいたらちょっとしたギャラリーが出来てて、二人でさらに顔を真っ赤に染めたのは別の話。




投稿遅れてしまいました。とりあえず来週はちゃんと土曜日中に投稿できるようにします。よろしくお願いしますね。

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