ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに瑠璃溝隠を発見》


第38話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか38

 

お姉ちゃん、これは間に合いましたね。レフィーヤさんに一緒にこっそり渡した簡易障壁護符がまだ発動していないのです。艦娘の常時障壁を応用した簡易障壁護符は応急修理女神・応急修理要員が艦娘を安全に修復するために開発された一回限りの障壁で、高い耐久性を発揮するのです。殆どの攻撃は受け止めきれ、受け止められない攻撃も1回だけは必ず防ぐ優れものなのです。

 

自動発動なので残体力で受けきれない危機か耐久残量60パーセントが迫ると発動準備に入るのですが、準備だけで発動まではしなかったのはお姉ちゃんが間に合ったからだと思うのです。直接見られないのでもしかするとお姉ちゃんじゃ無くてアマゾネス姉妹のどちらかかもしれませんが多分お姉ちゃんなのです。

 

「艤装完全展開、最大戦速。」

 

とりあえず今いるところから新たに出てくる気配はないのでお姉ちゃんたちの方の応援に向かうことにします。結構ギリギリというか下手したらお姉ちゃんの剣折れてるかもですし、なにかほかに問題があるかもしれないのでできる限り急いで合流したいで、すね……。あれ?

 

「レフィーヤさん?」

 

「「いなづま!」」

 

ああああ、やってしまいました。基準耐久度が駆逐艦のままだったのです。

単体で使うときはダメージが基準値の60パーセント以下で自動発動、応急修理時は0パーセント以下で自動発動ですが、駆逐艦基準をレベル3魔導師に換算すると瀕死時に発動準備、そこから攻撃を検知して発動と大変ギリギリになってしまうのです。まさかこんなところで致命的なミスをするとは何が起こるかわからないというか何というか。

 

今のところギルド職員が介抱してくださっているみたいなので引き継いで治療に当たりつつお姉ちゃんを援護ってもう剣折れてるんですね。はい、滅茶苦茶なのです。あの感じ、ゴブニュさんに怒られるとかそんなこと考えていそうですよね。

 

「お姉ちゃん、これ!」

 

「え、いなづま?は、はい。」

 

艤装から取り出した二つ目の武器をお姉ちゃんに向け、投げる。途中はたき落とされそうになるも、お姉ちゃんの風はその程度ではゆらがず見事にキャッチしました。

 

ゴブニュ・ファミリアに依頼した2つめの武器は多分お姉ちゃんにしか見せたことがないのです。まあ、武器は違いますがお姉ちゃんでも使いこなせるであろうほどよいリーチの武器なので多少はしのげるでしょう。多分無いよりはましなのです。

 

「手当引き継ぐのです。包帯とかもあるので。」

 

「は、はい。わかりました。お願いします。」

 

「ぁ……はぁ。ゲボッ。」

 

もうお姉ちゃんから目を離しレフィーヤさんの方へ駆け寄る。ひどい傷。取り合えず内臓のダメージ確認と傷の消毒をできる限り丁寧に迅速に。艦娘と違って常時障壁が守ってくれているわけではないので見た目も中身も相当ボロボロになっているようです。腹部の傷は、正直直視したくないですね、見ますけど。骨もいくつか折れている様です。あ、ティオナさんとティオネさんはお姉ちゃんが風を使ったタイミングで解放されたので放置します。特に目立った負傷はなさそうですし。

 

「これが槍。リーチが長い。」

 

「アイズ~、こいつら魔力に反応してるみたい。」

 

「わかった、ちょっと引き離す。」

 

初めて使うと思われるの長槍を手足の延長のように操るお姉ちゃんは8体もの同種のモンスターを引き受け押し込まれることも無く、どちらかというと若干優勢まであるのです。

 

でも、決められない。多分どの一撃も決定打にはなってない。多分この後も。

数の利を生かして庇い合うモンスターに急所を隠されている。だから一向に数は減らず耐久戦の様相を見せる。当然地脈の乱れから力を得ているモンスター側にもリミットがあるが生身の人間に比べればずっと長い。つまりそうなる。

 

「一撃で消し飛ばす火力があれば……」

 

「……火力、あれば……アイズさんを、みんなを助けられますか?」

 

「レフィーヤさん?」

 

さっきまで荒い呼吸とともに静かに目を閉じていたレフィーヤさんが、ふと私が漏らした一言に反応する。火力、レフィーヤさんの最大の武器。高火力魔導系ではレベルを飛び越えて最高クラスに位置するそれはレベル6でエルフ王族のリヴェリア・リヨス・アールヴその人を上回るほどに達している。

 

「……仲間で有れますか?」

 

「30秒、いや10秒待ってください。一撃くらいは撃てるまで治療しましょう。死ぬほど痛いですけど、良いですか?」

 

レフィーヤさんに一度死ぬくらいの覚悟が有るならば、前にすすむ覚悟があるならば。

 

「おねがいします。」

 

高濃度回復液、経験豊富な(いくつもの死体を築いてきた)私でもなければこんな使い方できないでしょうね。傷の回復速度が速すぎて本当に死ぬほど痛いのですが。傷口に適量掛ける。これだけですがかけ過ぎると死にますので、もしやるときは専門家の指導の下で行ってくださいね。や、無理してやらなくても良いのですが。

 

「ぅ、あぁ。……はぁはぁ。たいしたこと、無いじゃないですか。

 

ーウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい

 

 

「強情ですね。」

 

私が返事する頃にはすでに立ち上がり、魔法円が展開されていたのです。さすがなのです。初手はエルフ・リング。リヴェリアさんの魔法を使うつもりなのでしょうが、今回はここが問題なのです。

 

話は変わりますが、一般に魔法の魔力放出タイミングは大きく分けて2回有ります。

一つは事前収束。魔法発動前に高濃度の魔力だまりを発生させて高精度と高火力を両立できる高等技術です。ただエルフの魔法にこの工程はありません。

もう一つが魔法発動時です。準備を終えて発動準備が完了したときに魔力を解放しそれを制御下に置きます。

 

エルフの魔法は前述のように発動直前にのみ魔力が解放されるので隠密性が高いです。これが強みでもあります。しかしエルフ・リングだけは例外です。エルフ・リングの詠唱が終わった直後から召喚する魔法に使用される全魔力が露出し容易に魔法が検知されてしまいます。普通なら事前収束する魔法も有るのでエルフの魔法では無いと誤認してくれる可能性もあり不利有利はあまりないですが、今回の相手だと有ることが起こります。それは……。

 

「大丈夫、詠唱を続けて。」

 

「私たちもいるよっ。」

 

「なのです。」

 

レフィーヤ目がけて一斉にモンスターが襲いかかって来ることなのです。

動けるのは慣れない武器を片手に携えた第一級冒険者ら。

 

ー閉ざされる光、凍てつく大地。

 

守る対象はかすっただけでも倒れてしまいそうな瀕死のエルフ。

 

ー吹雪け、三度の厳冬

 

守るべき時間はやたら長い王族の魔法の詠唱時間+αという厳しい条件。

 

ー我が名はアールヴ

 

そして、その先には……時をも凍てつかせる王族の攻撃魔法が、ここに怪物どもを巻き込んだ氷の花を咲かせる。

 

【ウィン・フィンブルヴェトル】

 

オラリオ最強の魔導師が小さきエルフに指導した高火力の一角。最強襲名の筆頭候補にふさわしい最強の魔法。

 

「や、やりました。」

 

お姉ちゃんが駆け寄り倒れかけたレフィーヤさんを受け止める。

 

「助けてくれて、ありがとう。」

 

「はい……それで、あの。」

 

「なに?」

 

全くピンときていない抜けた表情のお姉ちゃんは相変わらずとして、レフィーヤさんはまるで思い人をデートに誘うかのような表情で続ける。

 

「アイズさん、今度は私もダンジョンにご一緒しても良いですか。」

 

「うん、そうしよっか。」

 

「あたしも~、あたしとティオネも一緒に行くぅ。」

 

この後主神も合流して難なくモンスターの残りを討伐したが、レフィーヤはしばらくの運動禁止、ダンジョン禁止を余儀なくされみんなでダンジョンに潜るのはしばらく先の話である。




にゃーん

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