ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに瑠璃溝隠を発見》


第28話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのはまちがっているのだろうか28

 

「アイズーーーーっ!レフィーヤ達も来たし打ち上げ行こー!」

 

「お姉ちゃん……!」

 

ティオナの声がした方から飛び込んできた影を受け止める。茶色の頭はふわふわもふもふで、薄く朱の挿したほっぺはもちもちで、吐息はくすぐったい。私より一回り小さな手がギュッと引き寄せてきて、簡単には振り解けない力があって、それでその……、いい。

 

「行こっか。」

 

「なのです。」

 

この瞬間だけはこの世界に私とお姉ちゃんの二人しか居ないようだった。思わず飛び込んだお姉ちゃんの胸の中はとっても暖かくて確かに生きていて、お姉ちゃんにとって今日一日がとてもいい日だった事が伝わってくる。私とお姉ちゃんが出来る限りの面積でくっついている間に一緒にいなかった時間が共有される。離れている間の一抹の寂しさもそれを上回る見えない糸のような信頼と安心も。

 

「ほらぁ、急ぐよ!さっきからレフィーヤのお腹が待ちきれない~ってグーグー鳴きっぱなしだしさ。」

 

「ちょっ、ティオナさん何言ってるんですかぁ~。」

 

今の私達の距離は-3セルチ。ぎゅっと手をつなぐ。あんまり他の人を待たせるのもよくないので離れることの最後の抵抗としてお姉ちゃんの手を占有することにしたのです。ベートさんに分けてあげるつもりはないです。今回の打ち上げで酔ってやらかさなければ半径1メドル位には入れてあげます。万が一にもないと思うので余談ですがだめなら木に吊すので覚悟を決めておいてください。

 

ーーーー

 

「……。」

 

「ベート、何やらかしたか分かってますか?」

 

「えっと、あの?」

 

「あ、あ……。」

 

目の前には木に逆さまに吊されたレベル5の狼人(ウェアウルフ)と混乱している白髪の男の子ー低レベル冒険者、気持ちの整理が付かず口を開け閉めするお姉ちゃんがいて、当然のように混沌を生んでいるのです。なんか男の子に向き合って口ごもっているお姉ちゃん、なんか告白しあぐねている女学生にしか見えないので正直白髪の男の子には場所変わってほしいのですが、だめですよね……。今宵の宴そのものは無事終わりましたが、私達の宴はこれからなのです。

 

「いなづま、これはいったい。」

 

「まだわからないのですか。私は宴で何したか聞いてるのです。」

 

「……全く覚えてない。」

 

「はぁ。えっとですね、

 

酔った勢いであなたとお姉ちゃんが助けた冒険者の事をバカにしお姉ちゃんを傷つけた上、求婚して拒まれました。その場には助けられた冒険者君もいて彼にも伝わり、彼が危うく無銭飲食しかけたのであなたは私によって木に吊されました。

 

以上なのです。」

 

「……マジか。」

 

「大マジです。とりあえずお姉ちゃんの用件が済むまでは吊されておいてください。あとベートさんが生きているのはお姉ちゃんが止めたからなのです。良かったですね。」

 

「……あぁ、わかった。」

 

話している間にも脱力していき、徐々に色が抜けていきとうとう真っ白になったベートさん(レベル5)から目をそらし、お姉ちゃんの方を向く。

 

「……だから、強くなって。ダンジョンは強くなれる場所だから。」

 

「は、はい!」

 

あ、まだ言わないんですね。お姉ちゃんが"壊れる"前になんとか事態を収束させたのでどこまで自分だけの英雄(今朝見た夢)に踏み込むか判断しあぐねていたのですが、流石に見ず知らずの男の子には重荷を背負わせないようですね。

 

「……短剣?」

 

「ん、どうしたの?」

 

冒険者君の腰に装備された短剣に気付く。余りにも貧弱で、お金を掛けられなかったことが分かる。整備も行き届いていない。さすがにこれでダンジョンの中を戦うのは厳しいのです。

 

「何かお詫びしなきゃいけないとおもうのですが、武器の整備とかどうでしょうか?」

 

私は小声で話しかけたがお姉ちゃんは気にしない。お姉ちゃんだから、仕方ないのです。

 

「あぁ、それは一応考えてあって、稽古付けてあげようかなって。」

 

おうふ。予想を超えてきたっ?!まさかそこまで考えているとは……。それにしても"幸運"なのです。もちろん運も冒険者の素質のうちの一つなので将来が期待できますね。……あとはラッキースケベさえ発動しなければ。

 

「え、稽古付けてくれるんですか?」

 

「ベル君がよければ。」

 

「やったっ。」

 

なんかさっき嫉妬まがいの視線を送ってしまったことを反省する程度には可愛らしいですね。なんかピョコピョコしてて、何でしょうかね。まあ、取りあえずお姉ちゃんからはこれと言うことになるのです。

 

「ベルさん、あの。……お姉ちゃんが稽古をつけるんですし、武器はちゃんとしたものを用意できるんですよね?」

 

「あっ……。その……。」

 

「いなづま?」

 

ああ、アイズお姉ちゃんの咎めるような目。御馳走様なのです。もちろん只意地悪しているわけじゃないのです。当然お姉ちゃんの英雄になる可能性のある魂なのは分かるのです。お姉ちゃんセンサー。なので大切に扱いますがお姉ちゃんを取られるのはちょっと癪なので少し意地悪いなづまなのです。

 

「後でちゃんと武器を買いに行きましょう。私持ちでいいのですよ。べ、べつにベルさんの為では無いのです。お姉ちゃんの為なのです。」

 

「え、あ、ありがとうございます。でも、」

 

ベルさんが断ろうとしたタイミングで背中に回って抱きついてくるお姉ちゃん。やぁ、くすぐったい。ねぇ、もう。

 

「よしよし。」

 

「にゃぁ、はぅわわわ。」

 

頭を撫でてきたと思ったら、耳に甘ったるい息を吹きかけてきたり、首筋をすっと舐めてきたりと滅茶苦茶なお姉ちゃんに、慌てる冒険者君(ベルさん)、意識が遠のく私。

 

「どどどどうしたんですか?」

 

「妹を可愛がってるだけだよ?」

 

「ええええ!?」

 

もう、ちょっとだけ休んでもいいですよね?

 

この後暫くベートさんは放置されました。当然なのです。


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