ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに瑠璃溝隠を発見》


第26話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか26

 

「……800万までは出しましょう。」

 

これだと900万までは……行かないですね。困りました……。このままでは現金で1000万ヴァリス確保するのは難しいでしょう。冒険者依頼(クエスト)の方も慈善事業張りの低利益な万能薬(エリクサー)で支払われているとはいえ、実際問題としては利益分を引けば安めなので流石に1000万ヴァリスを割り込むのはロキ・ファミリアとしては"なし"なのです。

 

散々市場への影響を心配しておきながら言うのもあれですが、あくまで相手を生かさず殺さず、今回の負担をほかのファミリアにふっかけられないギリギリまでお金を出させることが重要なのです。

 

「今までに出てきた皮膜の質とこの品質の差を考えたら別にこれくらい高くない筈よ。1400万」

 

一気にその場の圧が高まりアマゾネスの力の一端が解き放たれる。これは相手が女性だったことも影響してそうなのです。恋する乙女の暴走なのは分かるのですが……。

 

「私達は団長から『金を奪ってこい』とそう一任されているのよ。半端な額で取引するつもりは毛頭無いわ。」

 

「ちょっと、ティオネ。」

 

「流石にそこまでは言われてないですよ……。」

 

「……?」

 

「はわわ……。」

 

姉の暴走をマイルドに抑止しようとするアマゾネス妹 ティオナさん。万能薬(エリクサー)をティオナさんに預けたことで肩の荷が下り冷静になった魔導師 レフィーヤさん。フィンさんとのやりとりを丁寧に思い出して事実を確認しようとし首をかしげるお姉ちゃんかわいい、アイズお姉ちゃん。そしてすべてをスルーし交渉を続けようとするアマゾネスの駄目姉ちゃん(おねえちゃん)

 

「850万、これ以上は……。」

 

ティオネさんとの距離感からわかりますが、アミッドさんと付き合い長いのですね?ティオネさん達が大きく妥協させるには強敵ですが、まあ今の私には余り関係ない事なのです。フィンさんに一任されているので。

 

普通何らかの役職を貰う事は新入団員、おろか一般の団員にとって荷が重いーあり得ない処遇です。でも鎮守府の運営、資源の管理というファミリアの経営にも似た経験がある(いなづま)は役職を貰う事は別にあり得ないと言うほどではなかった、それだけなのです。

 

「今回や……ん、なぃ?」

 

人の背後から肩を軽くトントンとたたき、そのまま肩に手を置いて人差し指を伸ばすとどうなるかは、ご存じですよね?

 

「ちょっと、交渉代わって貰っても良いのです?」

 

正解は振り向いたあの子のほっぺに人差し指がぷにと当たりしゃべることを中断させられる、なのです。身長差があるので気合(魔法)で滞空時間を長くして居ますが大体同じような結果になると思われるのです。

 

響お姉ちゃんによくやられていましたが、私からやり返せたことはないのです。後ろに立つと振り向いてくるので距離すら詰められないのです……どうしてだったのでしょうか。

 

「う、うん?」

 

サクッと頷かせてカドモスの皮膜を回収すると、暴れ出す前にティオナさんにティオネさんを預けアミッドさんの前に立つ。

 

「失礼しました。交渉を代わりました、アミッドさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんが……。」

 

流石に交渉事には慣れてると見受けられるアミッドさんでも少しは動揺してくれているようです。

 

「あ、ごめんなさい。申しおくれました、いなづまと申します。

 

今後の取引について、ディアンケヒト・ファミリア、ミアハ・ファミリア他4のファミリアについての全権を団長から委任されましたので今後ともよろしくお願いします。」

 

魔導師(レフィーヤさん)アマゾネス姉妹(ティオネさんとティオナさん)、アミッドさんがあっけにとられる中、アイズお姉ちゃんだけは"あーそういうことね完全に理解した(わかってない)"感をだして動じていない。お姉ちゃんがこういうことに強いのか他のレベル5(ひと)が弱いのか分かりませんが、そんないつもよりちょっと表に自信の出ている表情もとっても好きなのです。

 

ーミアハ・ファミリア

 

"ミアハ・ファミリアに行くのですよね?その時に一番売れている薬1つと一番安い回復薬を3つほど買ってきて欲しいのです。"

 

「ったく。なんなんだ。」

 

用事を終えてミアハ・ファミリアに向かう俺の脳内にいなづまの声が残りこびり付いたように離れない。

そもそも何でいなづまはディアンケヒト・ファミリアに行ったんだ。ミアハ・ファミリアに用事があるならフィンについて行ってその後俺と合流すれば良いじゃねえか。

 

「お、お客さんだ、珍しいね。いらっしゃい。」

 

「お薬のご入り用ですか……?」

 

主神と子供、どちらも腑抜けた面を曝しているミアハ・ファミリアだが、どうも団長はディアンケヒト・ファミリアでは引き受けられない依頼をこのファミリアに依頼したいらしい。それも前金として2000万ヴァリスに金額の書かれていない小切手までつけてな。

 

ロキ・ファミリア(うち)の団長からの"依頼書"と前金、小切手が入ってる。それと別で、"一番売れている薬一つと一番安い回復薬三つ"が欲しい。」

 

「へぇ、ロキ・ファミリアからご指名か。」

 

優男(神)が蝋で封された手紙を受け取りつぶやく。女の方は手紙の受け渡しが終わったタイミングで話しかけてきた。

 

「一番売れている薬、ですか。薬とは……」

 

「何でも良い。種類は問わない。」

 

「分かりました。」

 

疑念の色を隠せていないが弱小ファミリアにはこんな注文も文句を言わずに引き受けなきゃやってられない厳しさがある。力だけじゃねぇ、立場の弱さが苦境につながる。見てらんねぇよな……。

 

忙しく動き回る女と黙り込んだ優男(神)を横目に"自分しか助けられない弱い自分に"心の中で唾を吐いた。


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