ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに百合の花を挿入》


第19話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか19

 

「どちら様なのです?」

 

予想よりもずっと冷たい音色に名状しがたい恐怖を感じる。面識はあったはず。それでも何かを警戒されているのは……。ああ、今ここにいることはイレギュラーだ。本来の日程なら2日後だった帰還が早まっていることは地上には伝わっていないからか。

 

「ティオナ、だけど。」

 

「おい、名前位は覚えられるだろ、いなづま。」

 

「……ふぅ。二人とも本人のようなので安心したのです。えっと、遠征はもうちょっと時間がかかるはずなのですが何かありましたか?」

 

なにを基準に本人かどうかを判断しているのか興味があった二人だが本題に入ったので気を引き締める。

 

「あれだ、未確認のモンスターに遭遇した。イレギュラーってやつだ。」

 

「私たちと50階層のセーフポイントにあったキャンプがどっちも攻撃を受けて、怪我人とか武器の損傷で遠征を中止したんだよ。私の専用装備(オーダーメイド)も溶けちゃって。」

 

武器が溶けた。そんな異常事態を聞かされても、いなづまは驚きはすれど冷静さは失わない。

 

「溶けたのです?」

 

「溶解液ってやつだ。武器もそうだが盾も溶けちまうからまともに戦えたのは、オレとアイズとフィン、あと……あのレベル3の魔導士の……。」

 

「レフィーヤさんですか?」

 

いなづまは採集で広がっていた道具類を片付けながら会話を続けている。ティオナはなんとなくいなづまの意識がアイズに向いていることに気づくが、特に問題があるわけでもなさそうで、また気付かないベートを見るのもまた一興かと思い直す。

 

「そいつだ。遠征のはじめの方はダメダメだったが最後で挽回したって感じだった。」

 

「なんとか形になったなら、良かったのです。あと、団長(フィン)さんはどんな感じでしたか?」

 

「団長は……幹部なのに前に出過ぎる剣姫にダンジョンで何故か料理勝負をする上位女性冒険者、極めつけはイレギュラーのモンスターと胃薬が手放せなくなっちゃって……。」

 

「はわわ……、団長さんって大変なのです……。ね、剣姫さん(お姉ちゃん)。」

 

突然私たちの後ろの方に視線を飛ばすいなづま。それにつられてティオナとベートも後ろを振り向く。いなづまの目が向けられた先には、やや離れている場所に焦り顔のアイズが物陰から顔だけ出してこちらを伺っている様子が見えた。

 

「……えっとね、ね?」

 

視線の応酬に耐えかねたのかとうとうこちらの方にきたアイズにいなづまが言葉をかける。

 

「勝手に出てきたりとかしてないですよね?」

 

「うん、フィンに言ってから来た。近くにいたら分かるから、ね?」

 

この義姉妹、最早エスパーなのではと考えるティオナに対してベートはまぐれか何かだと思っているようで微妙におもしろくない顔をする。

 

「あと、無茶も程々にして下さいね。帰ったらゆっくり休まないとだめなのです。」

 

「うん、わかった。」

 

「うん、うん?」

 

自然と手をつないだ二人にティオナは何か大事なことを流したような気がしたがもはや今更というか何というか。

 

「とりあえず本隊の方に戻るぞ。いなづまは合流するんだろ?」

 

「なのです。」

 

ご機嫌なアイズ()いなづま()アマゾネス(自由人)、そして実力至上主義の残念狼(苦労狼人)という類い希なカオスがここに形成されていた。

 

ーーーー

 

アイズが"いなづま……!"といって迫ってきて、先行するベート・ティオナのところへ行くことを許可してから10分。

 

休み休みとはいえ弱くないモンスターといつもより整わない装備といまいち高くない士気で対応することは大変なことだ。哨戒としてベートとティオナが前方の敵は倒してくれているものの左右と後方はティオネ・ガレスそして僕がある程度倒さなければ無事の帰還は難しい。

 

……本当はアイズを前に出したくはなかったんだけど、いなづまが近くにいることは"分かる"から、あわよくばつれてきて欲しかったのだ。

 

幹部にしか知られていないが普段からたくさんの食料と回復薬を持ち歩く"歩くキャンプ地"のようなこともしているいなづま。僕は今日もそうであればと願いつつ、アイズが居れば合流してくれる気がするといった非常に煩雑な期待にかけつつそのときを待つ。

 

「団長さん!」

 

「レベル5が合流するというから一旦戻ってきた。」

 

「ああ、了解した。とりあえず一緒に行動してくれ。時にいなづま、あれはあるかい?」

 

「あれ……あぁ、備品ならいつも通り、いや……試製品ですけど回復薬(バケツ)が多めにあるのです。」

 

アイズ以外のレベル5は頭上にはてなを浮かべる。アイズ(お姉ちゃん)はちゃんと理解したみたいなので、さすおねと言っておこう。

 

「それは好都合だ。リヴェリアに聞いて配ってきてくれ。」

 

「……なのです。」

 

名残惜しそうにアイズから手を離すと頷いたいなづまはここからフラットには見渡せない場所のリヴェリアに向かって最短距離で移動する。やっぱり見えているのだろう。

 

「……フィン、"ばけつ"ってあのバケツだよね……?」

 

「あぁ、彼女のは最高級回復薬(エリクサー)で満たされてるけどね。」

 

そう言いながらロキ・ファミリア団長 フィン・ディムナは、いなづまの居た場所に1つ残された緑色の"回復"バケツを手に取り中の液体を踊らせた。




2時間遅れです。書き溜めがないのでちょくちょく遅れるのが大変申し訳ないのです。

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