ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに百合の花を挿入》


第11話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか11

 

あの後いなづまを抱きしめて姉妹愛(?)を確かめた私たちは手をつないでゴブニュ・ファミリアの本拠地【三鎚の鍛冶場(みつちのかじば)】へと向かう。

いつもお世話になっている鍛冶屋さんで主神のゴブニュがデスペレートを打ってくれたので覚えている。そういえばティオナやティオネの武器もこのファミリアの製作だったよね。

 

私は序でにデスペレートを診て貰う予定なんだけど、いなづまの場合、武器の製作はどうなるんだろうか。一応ロキからゴブニュへの手紙?を預かってるからロキには考えがあるみたいだけど。とりあえず工房のところにいなづまを置いてゴブニュの部屋に行く。

 

「ダンジョンにずっと潜っていた、訳ではなさそうだな。何時もより切れ味も落ちてないから錆びとりだけしておこう。……ん?」

 

「ロキから渡すようにいわれて……。」

 

手を止めたゴブニュに封筒に入ったロキの手紙を手渡す。ゴブニュはトリックスターを思わせる封蝋をみてなんとも言えない表情を見せるがすぐもとの表情に戻ってた。

 

「新入団員の武器か。 新入と言うわりには随分と要求が高いのだな。アイズ、君はこの新入団員とは面識があるのか?」

 

いなづまのことだろう。フィンとの戦いの中である程度武器の内容に当たりをつけていたのは間違いないけどどんな内容なのだろうか。

 

「……昨日一日、一緒に居ました。雰囲気は冒険者らしくはないけど、強いです。」

 

昨日の濃い一日を思い出す。いなづまと出会ったときーよく考えたらあの階層で私が一時とはいえ裁ききれない強さと数のモンスターに囲まれたのは何かあったのかもしれないがーいなづまの強さと可憐さとが正常な判断を奪っていたのかもしれない。

 

「強い、というのは新入団員のなかでか?」

 

ああ、そうだった。いなづまは世間的には最大派閥の一角のありふれた新入団員でしかない。私の感想と実際に伝わった意味の差は神でないと気づかない。

 

「いいえ。一冒険者として、です。」

 

「そうか、わかった。この件については引き受けるとロキに伝えておいてくれ。」

 

「はい、あと……その新入団員はいま工房にいますけど、会いますか?」

 

ーーーー

 

ゴブニュ・ファミリアの工房は私にとって因縁のある匂いと空気で満たされている。

 

艦娘にとって機関室の鼓動は母親の心臓の鼓動。燃料を燃やし鉄の音を匂いを満たしながら熱を生み出すそれは、見た目の無骨さに反して繊細な制御を必要とする。

工房の炉も温度や圧力の違いはあれ似たようなものだ。打ち付けられる金属が上げる音色が過剰に過去を思い出させる。

 

「良い場所なのです……。」

 

「どうした嬢ちゃん。君は付き添いかい?」

 

タオルを頭に捻り巻いて指揮を執っていた"親方"と呼ばれていた男の人が私に気付いて声を掛けてくる。

 

「えっと、武器を依頼するのにアイズお姉ちゃんを待ってるのです。」

 

「嬢ちゃんは、冒険者か。」

 

親方さんにとっては、それは意外だったらしい。確かに冒険者は一日見ていた中で常在戦場に近い空気感の人が多い。私を含め駆逐艦は在戦場を意識しているものの総合的な問題から戦闘意識のオンオフがはっきりしている傾向にある。特に駆逐艦はリロードが早いのもあって安全地帯で変に気を張るとふとした拍子に艤装が出て誤射の危険が上がるのだ。

 

「なのです。今の武器は、あ……この錨、なのですが。」

 

さっと錨を出す。本来の近接武器は改造魚雷だけど雷お姉ちゃんに止められたままなので錨で良いかな。魚雷の方が突きには向いているのですが錨は攻撃範囲と迎撃、受け流し……鎖付きなら遠距離と魚雷に比べて幅広く運用できるのがメリットなのです。

 

「い、錨か。持ってみてもいいかい?」

 

錨を親方さんに渡す。あれ……思ったよりも持ってる感じ重そうなのですがそこまでなのです?いくらか見て振って満足したのか錨が返ってくる。

 

「はい、ありがとね。確かに冒険者なんだなぁ……。」

 

見た目に厳つさに対照的な穏やかな表情に少しだけいつかの代の機関室長を思い出す。やっぱり良いところなのです。

 

「いなづま」

 

「あ、アイズお姉ちゃん。」

 

アイズお姉ちゃんがドアから顔を出す。ちょこっと顔を出す感じ、お姉ちゃんらしからぬ幼さを演出していて妹的にポイント高いのです。

 

「ちょっとこっち来て。」

 

「親方さん、ありがとうございます。失礼しますね。」

 

親方さんに頭を下げお姉ちゃんの手招きに導かれる。その先にはファミリアの主、主神の部屋。何事もなかったかのように握ったアイズお姉ちゃんの柔らかい手。

 

その部屋には身長こそ高くないものの存在感・風格は神の一柱として確かな老年の男性がいた。その神こそがゴブニュであった。

 

「お主がいなづまか。」

 

「はい、ロキ・ファミリアの新入団員いなづまと申します。よろしくお願いしますね。」

 

表情が変わらないまま目を合わせた私とゴブニュは長く感じる数瞬の間に最低限の信用を確保する。神同士なら人同士以上に目をそらさない事が重要だ。

 

「"ゴブニュ・ファミリア"に武器の製作をお願いできますか?」

 

「よし、引き受けよう。気に入った。どのような武器が良いんだ?」

 

無事ゴブニュの課題を突破した私は新たな武器の入手に一歩進めたのだ。




ゴブニュ・ファミリアの様子がよく分からない2017。

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