東方魂探録   作:アイレス

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第89話

「・・・うーん・・・・マジかー・・・」

 

気が抜けた、呆れたような影陽の声が響く

敵を前にしながらもそんな言葉しか出てこない

周りのメンツは何が起こっているのかさっぱりだろう

 

 

消えたと思っていた魔理沙の魂が体から抜け出してきた

 

 

単純なことだが

なんとまあ・・・師匠が師匠なら弟子も弟子か

なんて無茶苦茶だ

神の消し去ろうとする圧力に耐え、自分の体から抜け出してきた弟子

自分にとって相性が悪い、そもそもただの悪霊なら、近づくだけで存在そのものが消えかねない

なのにあの悪霊は弟子のために、根源に近い世界から来た格上の神に触れ、弟子を助け出した

称賛に値する

 

それにしても・・・なぜ、魔理沙の魂がまだ、残っていたのだろう?

女神の慈悲か?

気まぐれか?

うっかりか?

まあ、どれでもよい

 

どうせなら、慈悲ということにでもしておこう

一応あれでも、地母神の原点でもある

まあ、悪魔の原点でもあるのだが・・・

 

 

 

・・・・・・・いや・・・違うか・・・

 

 

 

目的があって消さなかっただけか

 

 

 

 

 

魅魔が若干、ふらつきながらも全員のもとへ全速で飛んできた

相手は、魔理沙の魂が抜けてから動きを止めていた

 

その顔は、焦りか、恐怖か、それとも絶望か

 

 

「魅魔!?無茶をして!」

 

「紫かい?・・・いやぁ・・・妙なものを見られちまったね・・・自分でもびっくりだ」

 

「紫、怪我した奴と疲弊した者を永遠亭に送れ、今が最後のチャンスだぞ」

 

「・・・どういうこと?」

 

「魔理沙の魂が抜けた今、あの体に制限がなくなった、つまり、これからが本気だ、そして、己の命を懸けて攻撃してくるだろう」

 

淡々と語る言葉は信じられないことばかりだ

魔理沙の魂がストッパーになっていた?

これからが本気?

ふざけないでほしい

今まででさえかなりの被害があるのに、これ以上の強さになるというのか

 

 

「天魔も下がりなさい、危険だろう。霊夢も紫も逃げていいぞ、アレの相手は私がする」

 

手をヒラヒラ振りながら影陽はのたまう

 

確かに相手に出来るのは影陽と・・・月の賢者ぐらいだろう

だが、別の心配があった

 

「聞いていいかしら?影陽?」

 

霊夢が声をかける

幸い未だに彼女は動かない

 

「どうぞ?手早くな」

 

「魔理沙をどうするつもり」

 

「消す」

 

ただ一言だ

 

「幸い魂はあるんだ、短い期間でも亡霊として会話でもして送り出せばいい、あの体はもうダメだろうしな」

 

スラスラと心のない言葉が影陽の口から流れ出る

正しいこと、なのかもしれない

肉体を失った魂、それは死者と変わらない

幽々子はこの世に、あの桜のもとに己の肉体が存在する

例外中の例外なのだ

 

 

「そんな・・・魔理沙は・・・!魔理沙は巻き込まれただけじゃない!」

 

「神のやることは基本、理不尽だぞ?特に外国なんかは」

 

「・・・本当にどうしようもないの?」

 

霊夢に目を向ける

いつものキツイ目ではなく

縋りつくような、目であった

 

 

「・・・・紫、永琳と最低限の治療用具を戦闘が終わったと同時にここに連れてこい、後、そこで魔理沙の魂がどこにも行かぬよう、魅魔と霊夢を守ってろ」

 

 

めんどくさそうな感じで、他の者を逃がし、永遠亭に幽香を運んだ紫の方も見ずに言う。

 

紫はうなずくと同時に、魔理沙の魂を抱えた魅魔と霊夢を連れて、その場から一気に逃げた

 

紫のいた場所に光線が突き刺さる

 

「・・・やはり、魔理沙の魂をストッパーにしていたな?いや違うな、魂のすべてがその体に入らぬようにしていただけか、元の世界に帰れるように」

 

「・・・・もう、戻れなくなってしまいましたけれどね・・・!」

 

「ふっ、学ばない女神だなイシュタル、冥界に攻め込んだ時、罠にはめられ、姉に殺されたのになぁ?」

 

顔をゆがめ、顔を恥辱で赤く染める

 

その顔を見ていた霊夢は気が付いた

魔理沙の体の異変に

 

始めは見間違いかと思った

だが、顔を赤く染めたまま影陽に突っ込んで乱戦になった時にそれは明確になった

 

影陽の身長は190センチに近い、魔理沙の身長は130あたりだ

だいたい影陽の頭あたりに、頭があるはずだ

だが、今は胸に近いあたりに魔理沙の頭がある

そして、おなかやスカートで隠れていた膝があらわとなっていた

明らかに成長している

身体が成長し、顔つきも変わっていた

 

「はあ・・・そうだった・・・お前はいくつもの女神の原点的な存在だったな・・・さっさと終わりにした方がよさそうだ」

 

そう言うといつものようにいくつもの刀や剣、槍を展開させる

しかし、いつも使っているようなものではなく、禍々しい雰囲気を漂わせる、見ているだけで震えが止まらなくなるような代物ばかりだ

 

「な・・・なんで貴方がそんなものを・・・ま・・まさか!?」

 

「消えろ」

 

イシュタル、そう呼ばれた者は、その射線から逃れようとした

今の状態では、あれをどうにかできる物も呼び出すことはできない

いまだに、この体を自分の物にできていないからだ

そして、アレは、自分でもあたればただじゃすまない物ばかりだと理解できたから

 

しかし、逃げることはかなわなかった

 

 

「な!?なに!?なによ!これ!?」

 

地面に置かれた直径一メートル以上ある注連縄が行く手を阻む

 

注連縄は、不浄な者を出入りさせない物であると同時に

神を封印する為の物でもある

 

女神イシュタルを原点とする者に悪魔アスタロト(ギリシャ語ではディアボロス)が存在する

この女神は、すべての始まりの世界に近い世界からやってきた

大本の世界で語り継がれたもの、それによって彼女は縛られる

それが、自ら派生したものであっても

女神でありながら悪魔、神という神聖なモノであると同時に悪魔という不浄なモノ

注連縄が阻むのは当然とも言えた

 

そして・・・

 

 

「がはっ!?」

 

立ち止まった背中にその武器たちが突き立った

中には刺されないものもあったが、半分以上は貫通し、これ以上生きることは出来ない傷を負わせた

魔理沙の体が崩れ落ち、注連縄をその血で染め、地面を濡らす

その体から輝くモノがゆっくりと立ち上る

 

あの武器たちによって魂にまで傷を負いもはや逃げることもかなわぬ、その魂は

影陽に手によって切り刻まれた

そして影陽は切り刻み、もはや女神の意識をなくした神性を持つ無垢な魂を魔理沙の体の中に放り込んだ

 

背後から霊夢や紫、魅魔、そして、永琳が荷物を抱え走ってくる

そしてそのまま、治療を行いつつ、永遠亭に向かった

 

 

さて、後は魔理沙次第だな

あと魂を取り込み自分の物にできるか・・・

まあ、考えても仕方ないか

 

手術室に運び込まれは魔理沙を見送りつつ影陽は自分の部屋に戻った


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