東方魂探録   作:アイレス

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今日は、もう一話は投稿するかも


第3話

分からない、分からない。

私は崖から落ちた、そして死んだはずだ。なぜ生きている?

 

・・・なぜ?

 

なぜ私は戦っている?

なぜ戦える?

見たことも無い化け物どもとなぜ互角に戦える・・・。

 

もう訳が分からない。

 

義妹を見つけたいだけなのに、会いたいだけなのに

 

なぜ私はこんなところにいる。

 

死んでしまえばすぐ会えるのに。

 

会えるはずなのに

 

 

体が死ぬことを許さない。

 

戦場で培った体術が技術が感覚が勝手に体を突き動かす。

 

太刀と小太刀が相手の首を切り落とし蹴りで敵を吹き飛ばす。

 

 

・・・なんで蹴りで首が吹っ飛ぶんだ・・・・?

 

狼のような化け物にニンゲンのような形をした化け物・・・

 

もう、目に入った化け物を次から次に屠っていく。

 

ただただ機械のごとく

 

その作業は速くなりこそすれ、遅くなることは無い。

 

端から見れば風が化け物を切り裂き吹き飛ばしているようにも見えるかもしれない。

 

それほどまでに圧倒的だった。

 

 

 

「・・・終わったか・・・・?」

 

そう呟いたとき、周りの木々や草花は月明かりに照らされ赤黒く光っていた。

 

辺り一面にいや見渡す限り一面に化け物どもの死体があった。

 

「見た目は違っても流れる血は同じ紅色か。まあ、そんなこと、今更か・・・」

 

太刀と小太刀を鋭く振り、血を払う。それだけでふた振りの刀に付いた血はすべて落ちた。

 

まるで水で流したのかと思うほどに汚れは付いていなかった。

 

 

「ふむ・・・さすが家宝なんて言われてきただけあっていい刀だな・・・」

 

 

刀身を眺めた後、ゆっくりと鞘に戻し、また周りを見る。

 

「こいつら・・・食えるかな?」

 

生きている奴がいたら即座に逃げるだろう、そもそもかなりグロテスクな奴である。そいつを食おうと思う奴の頭を疑うだろう。

だが、周りには彼しかいない。そして彼はいろいろと壊れた存在だった。

 

 

首が切れていた1匹の化け物を木につるし、火をおこす。

その手つきはものすごく慣れた手つきだ。

だが彼にとっては不思議でしか無かった。

 

「こんな作業、1回ぐらいしかしていないはずなんだがな・・・」

 

 

まるで自分ではない人の記憶・・・いや経験自体が流れこんできて自分ではないかのようだ。

だが、自分の意識ははっきりしている。それは確かだ。

まあ、この考え自体が別の人の記憶であったのならば考えだったのならば自分の意識は飛んでいることになるが。

 

血を抜いた化け物の皮をはぎ肉を削ぎ取る。

なんでこんな作業を楽々とこなしているのか本当にわからなくなってくる。

 

そぎ落した肉を火にかけていると、多数の気配がことらにやってくるのが分かった。

 

当たり前だこんな夜中に火を起こしたら遠くまでよく見える。

だが、今度は化け物ではなく、人間らしい。

化け物の発していた雰囲気とは全然違う。

ただ、かなり警戒しているようだが。

 

・・・・ただ何もせず伺うことにした。

腹が減っていた、からではあるが。

 

ほどよい焼き加減になった奴を食べてみるとそれなりにうまかった。

ただ、調味料がほしいと思いはしたが。

MREよりはましだと考えながら黙々と食べる。

 

すると周りをぐるりと包囲していたもの達から一人の男がぬけてこちらにやって来るのが分かった。

自分より大柄でがっちりとしたいかにも武人という雰囲気だ。

正面から堂々と鎧を鳴らしながら近づいてくる。

自分から2~3メートルまで近づいてきたときに声をかけた。

 

「私に何か用か?」

 

顔を上げずにそう尋ねる。

できることなら話さず立ち去りたかったが気づくのが遅れたのだ、仕方ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく、ついてない・・・

大柄な男が軽くため息をつきながらそう心の中で思う。

 

「お疲れですか?隊長殿?」

 

隊の副隊長が心配し声をかける。

 

「まあ、な・・・なんでこんな季節外れにあの妖怪どもは攻めてきやがるんだ。」

 

「時季外れですもんねぇ、今回は。」

 

「上の連中も大慌てだった。」

 

「まあ、そうでしょうねあれだけの穢れた妖怪がこっちに来てたら。うちの町のあたりに住んでいる妖怪みたいにおとなしく過ごしているなら別にいいんですがねぇ・・。で?何体ぐらい来てるんです?いつもみたく100前後ですか?」

 

「・・・・・千だ。」

 

「はい?」

 

「2千だ。」

 

「・・・・いつもの20倍じゃないですか!それを私たちだけで殲滅せよって・・・・」

 

「今回ばかりはなぁ・・・・」

 

二人とも黙る。

本当に間が悪いほかの部隊は別の場所の鎮圧に向かっており動けるのはこの部隊しかいなかった、殲滅など不可能なことは察していた。

 

「いつもの説明がなかったのもそれが原因ですか。」

 

 

「・・・・すまん。」

 

「いえ、生きて帰ればいいだけの話です。」

 

「そうだな・・・・副隊長今回は迷いの森で戦うことになる、深入りせず出てきたところを叩く、危なくなったらすぐ逃げられるよう全員に言い含めておけ。」

 

「了解です。」

 

あの気前のよい副隊長ともお別れかもしれないな。

そんな思いがこみ上げる。

部下だけでも生きて返さねば。そのためならこの命惜しくはない。

そう意気込んでいた。

 

 

 

「なんっ・・・だっ・・・!??これは!!?」

 

部隊全員が驚愕に包まれている、誰も声も出さない。

 

目の前には・・・・惨劇が広がっていた。

 

 

首を腹を、斬られ、吹き飛ばされた様々な妖怪の死骸がある一線上から放射状に迷いの森まで続いている。

つまり最初から作戦は失敗していた。

しかし・・・

 

「誰が・・・こんなことを・・・・」

 

「分からん。だが・・・気配を探れば・・・・」

 

地に手をつけ残った気配を探る。

 

「・・・・なっ!!?」

 

思わず驚愕して手を離してしまった。

 

「隊長!?」

 

並大抵のことには動じない隊長が驚いたことに全員が驚く。

 

「なんだ・・・なんなんだこれは!!」

 

「本当にどうなされたのですか!私たちにも説明をしてください!」

 

副隊長の言葉でようやく冷静さを取り戻せた、しかし、声はいまだに震えている。

 

「・・・わけのわからない力を感じた・・・複数の力が混ざっている・・・」

 

「「?」」

 

全員首をかしげる。これだけ死んでいれば混ざるのではないのか?そういう表情だ。

 

「われらが使う力は霊力や神力で妖怪どもが使うのは妖力だ、これらはわかるな?」

 

うなずく

 

「ここに残っていたのは妖力であり神力であり霊力でもある、いや逆かもしれんが。」

 

「判別がつかないほど混ざっていた・・・そういうことですか・・・・?」

 

こくり、とうなずくしかない。

全員がざわめく当たり前だ、妖力も神力も霊力も似た存在ではあるが使える種族が決まっている、さらにあまりに強い力はほかの力を打ち消して無効化してしまう。

それに戦いでぶつかり合って混ざるとしてもごくごくわずかだ。

大量の力が判別がつかないほど混ざることなどあり得ないのだ。

 

「まさか新たな力・・・ですか・・・?」

 

「いや、それはない、それぞれが混ざっているだけでもとよりある力だ。しかし・・・」

 

「しかし・・・?まだ何かあるんですか・・・?」

 

「これをやったのがたった一人ということだ。」

 

「「!?」」

 

「この力の主はどうやら森の中にまで行ったようだ。・・・もしかするとまだいるかもしれん・・・どのような奴かは知らんが・・・我々は助けられたも同然だ、探さぬわけにもいくまいて。だが警戒だけはしておけよ。」

 

 

全員が顔を強張らせつつもうなずく。

こんな数が攻めてきていたら絶対に自分たちでは食い止められなかった。

その点は感謝できる、だがその群れをたった一人で壊滅させた。

今はそちらのほうが脅威だ。どんなことでもいい情報を持ち帰らねばならない。

全員そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

森にいたのは漆黒の長い髪を一つにまとめた、いや、髪の色はわからない、その時見たときは黒だったはずなのに次見た瞬間には別の色になっている。

不思議な人だった。

いや青年なのかすら分からない

体格も背は高いががっしりとはしておらずあまりにも中性的な人物だ。

 

訳の分からない肉を焼きながら炎を見ている姿はどこか美しくもあり、恐ろしい

目線は炎を向いているのに、隙がない下手に動くと何かが飛んできそうで動けない。

隊長は一人正面からゆっくり進んでいく。

 

「私に何か用か?」

 

向こうから話しかけてきた。

 

声も中性的でよく分からないがたぶん男だろう。

それにしてもよく分からない服装をしている。

何で出来ているのか分からない漆黒の服。

見るからに業物の刀

身分もはっきりしない

だが、どことなく高い地位にいたような不思議なオーラがにじみ出ていた。

 

「お前はいったい何者だ?」

 

隊長が落ち着いた口調で問いかける。

 

「・・・さあな・・・私にも分からない、私が何者なのか、いや、自分が何者なのか自分が分からなくなる、自分が・・・自分で・・わからな・・・」

 

声がだんだん小さくなっていき、ゆっくり前のめりに倒れる。

隊長がとっさに焚火を蹴り飛ばし支えに入る。

意識は飛んでいるらしい隊長に完全に体を預けている。

 

「おい!担架持って来い!街に戻るぞ!急げ!」

 

「連れて帰るんですか!?」

 

「ここに、おいていくわけにもいかんだろ!仮にも命の恩人だぞ!」

 

「しかし・・・」

 

「俺の責任で連れて行く!それでかまわんだろ!」

 

「了解しました! おい!急げ!」

 

本当に何者なのだろう・・・?


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